11話 復讐
エンジェリアとゼーシェリオンが食べ終わると、突然、辺りが暗くなった。
ゼーシェリオンは、暗くとも、明るい場所と同等に見えるのだが、エンジェリアは、そんな目を持っていない。
エンジェリアは、隣にいるゼーシェリオンに抱きついた。
「暗いのやだ」
「お前、暗いのがきらいだったな。大丈夫だ。側にいてやるから」
「……ふにゅ」
エンジェリアは、ゼーシェリオンに抱きついたまま、周りの声を聞いた。
まだ、誰も状況を把握できていないようだ。その中に一人、既に状況を把握できている人物がいた。
「ゼロ、エレを部屋に連れていって」
フォルが、エンジェリアとゼーシェリオンの元へ駆け寄る。
「何が起こったんだ?」
「恐らく、外部からの広範囲魔法による攻撃だろう。結界が壊れている。ここにいると危険だから、すぐに」
「……光がないなら、作れば良いの」
エンジェリアは、フォルの話は聞かず、結界魔法と光魔法を同時に使った。
エンジェリアの魔法で、神獣の聖地に光が戻った。
「ふにゅ?おかしいの」
「ああ。ヨージェアナが光を提供していたはずなのに」
「あの見た目でか……それなら、二人とも、僕と一緒にいて」
「何が起こってるの?」
「さっき聞いたんだけど、子供が攫われているらしいんだ。だから、エレとゼロは安全と思ったけど、ヨージェアナが攫われるくらいだ。君らも攫われる可能性がある」
フォルも変わらないのだが、エンジェリアとゼーシェリオンは、ヨージェアナよりも外見が若干幼い。
エンジェリア達も攫われる可能性は、十分にある。その状態で二人だけにしたくはないのだろう。
「でも、エレ達、一緒だとフォルの邪魔になっちゃうかも」
「ならないよ。君らはそんな事気にしなくて良いから側にいて」
「……フォル、エレは一人でいるの。攫われないようにするより、攫われて場所を特定する方が良い気がする」
エンジェリア達が攫われる可能性があるのであれば、わざと攫われて、他の攫われている人々を助ける。
エンジェリアはそのためにフォルから離れようとした。
「待って。君一人にそんな危険な事させられない」
「でも、誰かがやらないと」
「うん。そうだね。ゼロ、フィルに連絡とって一緒に調べといて。エレは一緒にいてくれるよね?」
「ふにゅ。一緒にいるの」
エンジェリアが、こくりと頷くと、フォルが笑顔を見せた。
「ありがと。君がいてくれると、安心するんだ」
「ふにゅぅぅぅ⁉︎」
エンジェリアは、顔を真っ赤にして「反則なの」と小声で言った。
「ずるい」
「調べる方もやらないとなんだ。頼んだよ、ゼロ」
「がんばる」
「エレ、人のいないとこに行くよ。その方が攫われやすいから」
「みゅ」
ゼーシェリオンに、資料の確認の方は任せて、エンジェリアとフォルは、人のいない奥の方へ向かった。
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薄暗い牢の中。エンジェリアとフォルは、攫われて、ここへ連れ込まれた。手は拘束されている。
「あんな魔法を使うなんてね。あれは知ってないと対処できないよ」
「知ってても眠くなったの。今はすっきりだけど」
「僕も、どうせ何もしないんだからって寝てたよ。魔法車移動だったけど、揺れが少なかったからゆっくり寝れたよ」
魔法耐性、防御無視の睡眠魔法。エンジェリアとフォルは、その魔法にかかり、眠っている間に、ここへ連れ込まれた。
わざと引っかかってはいるが、その効果は非常に高かった。
牢の格子には、魔法が効かない特殊な細工をしてある。中は、魔法が使えなくされている。
「ここまでやられてると、脱出も難しいかな」
「ふにゅ」
「随分と余裕そうだな。状況を理解していないのか」
異様な雰囲気に顔を隠している。攫っている犯人は、神獣のようだ。
「どうして、神獣さんがこんな事してるの」
「復讐だ」
「あるのしない罪を着せられて裏切り者にされた人が集まって、神獣に復讐する組織を作ったってとこか」
「あそこの人達は関係ないのに、どうして、あそこの人達まで、攫うの?関係ない子供をどうして、きゃぅ」
顔を隠した男の拳が、エンジェリアの頬を殴打する。
エンジェリアは、後方へ倒れる。
「貴様のようなガキが一番罪深い!ガキが関係ないからと言って、あの場所で育って繰り返すんだ!そうなる前に、まずはガキを潰す事が、我らの復讐の初段階だ!」
「仮にその主張が正しいとして、神獣以外を攫う事は違うんじゃないの」
「奴らと一緒にいる時点で同罪だ!」
「ただ、良心で協力していただけで同罪にはならないんじゃないの」
「黙れ!どんな理由があろうと、手を貸すだけで同罪だ!」
顔を隠した男の拳が、フォルの腹部に入る。
「かはっ」
「魔力を使う器官に強い衝撃を受ければ、魔法は使えなくなる。神獣、貴様らがした事を、何もできずに見ているんだな!」
そう言って、顔を隠した男が、倒れているエンジェリアに近づく。
「その子に触れるな」
フォルの瞳が黄金へ変わる。
――いくら意識がないとはいっても、抑えないとなのに……
顔を隠した男が蹴落とされる程の殺気が溢れ出る。エンジェリアは、殺気や魔力に人一倍敏感だ。エンジェリアが怖がらないようにと、エンジェリアの前では出さないようにしている。
――何があっても抑えられるようにって一緒に行くのを許可したのに、失敗だったな。拘束するだけ。それ以上はやらないようにしないと
「貴様に何か言う資格はない!貴様は、何もできないまま、黙って見ているだけだ!」
「……ヴィー、拘束しろ」
「了解した」
夕暮れのような髪をした男が現れた。男は、顔を隠した男を、鎖で拘束した。
「なぜ魔法が使える!」
「貴様に教える理由がない。フォル、姫の方は任せられるか?」
「うん。癒し魔法なら使える」
夕暮れ髪の男が、フォルの拘束を外す。
フォルは、エンジェリアに癒し魔法を使った。
「この前は、何も知らずに済まなかった。あんなに、姫のために考えていたと知らなくて」
「僕の方こそごめん。何も言えなくて。それと、ありがと。ヴィー、君が呼びかけに応じてくれなかったら、この世界から生命が消えていたよ」
魔力と感情の切り離しは、神獣は幼い頃に習得する。だが、強い感情は、魔力に大きな影響を与える。切り離しを習得していた要しても、そうなる事は珍しくもない。
もし、夕暮れ髪の男、ヴィーが呼びかけに応じず、エンジェリアを守るため、フォルが魔法を使っていたとすれば、ギュリエンの二の舞になっただろう。
「お互い様か。それよりフォル、自分にも癒し魔法を」
「気にしなくて良いよ。慣れてるから。それに、あんまり魔法使わない方が良いからね。ヴィー、他のみんなも助けに行きたいけど、協力してくれる?」
「……いくらでも協力しよう」
フォルは、エンジェリアをお姫様抱っこし、攫われた人々の救出へ向かった。
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「これで全員かな……」
「フォルが悪いわけではない。馬鹿な真似はやめろ。ギューもそう言うだろう」
全員救出している間か、救出に向かう前か。それは分からないが、ヴィーはフォルの嘘に気付いていたようだ。
「黄金蝶は常に非常でなければならない。本当に優しいな。それができないフォルは」
「甘いだけだよ。だから、切り捨てる事ができないんだ」
「みゅ?フォル」
「お目覚めみたいだね。僕のお姫様」
目を覚ましたエンジェリアは、笑顔を作るフォルを見て、ぷぅっと頬を膨らませた。
「フォルがこんな事に責任感じる必要ないの。フォルは、悪くないの」
エンジェリアは、フォルの作り笑顔に気づいたのだろう。それだけで、フォルが感じていたものまで気づいたのだろう。
フォルは、エンジェリアを地面に降ろし、抱きしめた。
――癒し魔法を使わないから、全部は気づいてないと思うけど、そこまで気づくなんて。自然に笑えなかった。たったそれだけで……
「帰ったら、調べるのだめなの。エレ達が調べて、フォルはエレにお世話されてるの」
「えっ」
「エレ、気づいてるから。だから、エレ怒ってるの」
「……ごめん」
「みゅ。帰ろ。みんな無事だったんだから。ここの人達は任せて」
「……うん。そう、だね」
突然、意識が遠のいた。エンジェリアの心配する声が聞こえてくる。だが、返事をする事はできない。
――ここ最近、何も考えずに使ってたからか。また、前みたいにエレに心配かけるなんて……
**********
フォルは今ではそういう事が無かったが、昔は良くあった。元々、身体が弱い。それに、身体が耐えられない程の強い力。
「やっぱり、あの時使いすぎていたのかも……ヴィー、エレがフォルを運ぶのはどうすれば良いと思う?」
「諦める。俺が責任持って運ぼう」
「……みゅ」
エンジェリアは、ヴィーにフォルを預けた。
「転移魔法で帰るの」
エンジェリアは、そう言って、転移魔法を使った。フォルに対する想いが奇跡を呼んだのか、ただの偶然なのか。エンジェリアは、転移魔法を一発で成功させた。