表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星月の蝶  作者: 碧猫
4章 契約
70/104

9話 神獣の聖地


 見渡す限り緑一色。自然豊かな場所。奥には、机と椅子が置いてある。更に奥には、屋敷が建っている。


 エンジェリアとゼーシェリオンは、お淑やかな佇まいを心がけて、フォルについていく。


「これはこれは、お久しゅぅございます。黄金鳥様」


「ああ、久しぶりだ。君とゆっくり話をしたいんだけど、良いかな?」


「では、あちらの席でお待ちください。お茶の準備をして参ります」


 顔を隠した男が、屋敷の方へ向かっていく。


 エンジェリア達は、目の前にある椅子に座った。


「エレ、紅茶きらい」


「エレ、お姫様らしく。砂糖大量に入れて良いから」


「ふにゅ」


「フォル、ドレス重い」


「エレもなんだから我慢するの」


「そうだよ。エレも重いのを我慢しているんだから、我慢して。じゃないと、エレまで重いのやとか言いだすから。それと言動にも気をつけて」


 エンジェリアは、座る姿勢だけは、お淑やかで品があると見える姿勢で、フォルも言う事がないのだろう。だが、言動はいつもと同じ。お姫様らしくしてという事を守っていない。


 エンジェリアとゼーシェリオンからすれば、誰もいない時なら良いと思うのだが、フォルはそうではないようだ。


 ここでは、いつどこで誰が見ているのか分からないと思っているのだろう。実際、ここへ来てから、視線や監視用の魔法具があるのを確認している。


「お待たせしました」


「ありがと。ここは昔と変わらないね。表では綺麗で過ごしやすい場所だ」


「そうですね。その通りでございます。して、話というのはなんでしょうか?」


「ここで裏切り者が出たという資料が見たいんだ。もし、そこに不正があれば、実行犯には、それ相応の罰を受けてもらう」


「他でもない、貴方様の頼みです。用意して参ります」


 そう言って、顔を隠した男は、また、屋敷の方へ向かっていった。


「意外と早いの」


「考えたね。お姫様らしくするのがいやだから、前世界の言語で話すとは」


「それが一番だと思ったの」


 エンジェリアは、現在の世界では使われていない、前世界の忘れられた言語を使う。これなら、何を言っているかは、ゼーシェリオンとフォル以外分からないため、言動まで気を使う必要がない。


「でも、なんでこんなに簡単に持ってきてくれるの?いくらフォルの事を知っているとは言っても、不思議なの」


「関わってないからだよ。ここは基本的に、外の方は無干渉。ただ、この場所を守るため。それが、ここの人達だ。でも、その資料を持ち出す事は禁止だから、ここで調べるために、何日も滞在しないとなんだ。それに、僕の場合、たまには、参加しないといけないだろうから」


「ここで行われてる集まりの事か?俺らはその間、資料を調べていれば良いか?」


 ここでは、定期的に集会が開かれる。その内容まではエンジェリアとゼーシェリオンは知らないが、フォルは、その参加権を持っているという事だけは知っている。


「何言ってんの?君らも参加するに決まってんじゃん。こんなとこで離れるつもりはないよ。いくら無干渉とは言っても、何が起こるかなんて分かんないんだ」


「エレは、人いっぱいは苦手なの。人いっぱい怖いの。ぴぇーなの」


「大丈夫だよ。僕がずっと側にいてあげるから」


「……ふにゅ」


「俺、この格好でそんな人が多い場所いたくない」


「……そういえば、この前偶然超高級人工血液を手に入れたんだけど、ゼムにあげようかな?」


「行きます。行かせてください」


 ゼーシェリオンは、毎日一缶人工血液を飲まなければ貧血になる。だが、普段買っている人工血液は、非常に不味いらしく、自分から飲もうとしない。

 それは、安いものを買っているからだ。値段が高くなれば、味も変わる。超高級人工血液ともなれば、至高のエンジェリア程ではないにしろ、美味なのは間違い無いだろう。


 ――……ゼロ、いつもエレの血と魔力食べてるんだから、超高級以上のものなのに、それで良いのかな?もしかして、その事理解してない?


 ゼーシェリオンの喜びっぷりに、エンジェリアは、疑問を抱いた。最近のゼーシェリオンは、エンジェリアの血を飲んでいる。エンジェリアが、暇があると必ずあげている。


 だから、人工血液で喜ぶとは思えなかった。


「……いつも、最高級品顔負けのもの飲んでんのにね」


「ふにゅ。不思議なの」


「そうだね。ほんとに不思議」


 エンジェリア達が、紅茶を飲みながら雑談していると、顔を隠した男が戻ってきた。手には、大量の資料を持っている。


「こちらが、全神獣の資料です」


「ありがと。助かるよ」


「こちらは、持ち出し禁止資料となっておりますので、読み終わるまでの間、こちらで滞在なさりますか?」


「ああ。室の用意を頼める?」


「もう出来ております。以前のまま、いつお帰りになられてもよろしいよう、残しておきました」


「助かるよ。エレ、ゼロ、部屋に行こっか」


「はい」


 エンジェリアは、ゆったりと、優雅さを意識して立ち上がった。上手く立ち上がれた。そう褒めて欲しい気持ちを抑え、柔らかく微笑んでいる。


「ところで、へい……黄金鳥様、明日の集会は参加なさりますか?」


「ああ、久々に参加しよう。この子らを一緒にいさせたいんだけど、問題ない?」


「問題ございません」


「そうか。なら、明日、いつもの場所に行こう。エレ、この先は暗いから、ゼロと手を繋いで行こうか。転ばないように」


「にゅ」


 エンジェリアは、ゼーシェリオンと手を繋ぎ、用意されている部屋まで向かった。


      **********


 部屋に着くと、早速、資料を読む。


「ふぇ、全然読めないの。名前とか書いてある気がするけど分かんない」


「ゼロに読んでもらって。それか、翻訳魔法使えば良いよ」


「その手があったの」


 エンジェリアは、翻訳魔法を使い、資料を読んだ。


 資料には、神獣の記録が書かれている。


「これってどうやって不正を見つけるの?」


「この記述は全て真実。だから、もし不当な理由で追放されていれば分かるんだ」


「みゅ。それが、お外では、不正なの。エレもできるの」


 エンジェリアは、不当な理由での追放と書かれている神獣の名前を、収納魔法からノートとペンを出し、メモを取った。


「こうやって見ていると、結構いるんだね」


 エンジェリアが見ている資料にも、まだ半分も終わっていないが、既に何人も書かれていた。それだけ、現在の神獣界は歪んでいたのだろう。


「……ロジェの名前もあるの。ちゃんと、役目を果たしていたのに、急に裏切られるなんて、酷すぎるの」


「うん。そうだね。裏切り者として処理したと書かれているのもある。みんな、何も悪気なんてないのに……」


「……あいつ、こんな事を隠してたなんて」


「みゅ?」


 エンジェリアが、ゼーシェリオンの見ている資料を覗くと、そこにはルーヴェレナの名前が書かれている。


【ルーヴェレナ・リウェンゼ・  


    家の 女

    家の  男と婚約後、その能力を見込まれ、幾度と戦地へ駆り出された。

 戦場での経験が、暴走壁を産んだ。

 婚約者に婚約破棄をされ、処分される直前、暴走し、国を半壊。

 放浪している中、氷の王子に拾われ、ロストの王族となった】


 エンジェリア達は、ルーヴェレナから、多少は聞いていたが、国としか聞いていない。神獣だというのは初耳だ。


 ゼーシェリオンは、ルーヴェレナの秘密を知り、拳を握りしめている。


「……ごめん」


「やっぱり、知ってたんだね」


「うん。散歩道、あれも初めから知っていてあそこに行かせたんだ。僕じゃ、どうにも出来なかったから。もしかしたら、君らならどうにかできるかもしれないって思って」


「……」


「黙っててごめん。言えば、気にすると思って」


「……ありがとな。出会わせてくれて」


 ゼーシェリオンは、他に何か言いたそうだが、全てを飲み込んで、その言葉を出したのだろう。


「……」


 エンジェリアは、連絡魔法具を取り出し、ルーヴェレナにメッセージを送った。


「ずっと黙っていた事、ルナと会えるように仕組んでいた事、怒らないの?」


「怒るわけねぇだろ」


「……」


「二人ともこれを見るの」


 エンジェリアは、ルーヴェレナからの返信をゼーシェリオンとフォルに見せた。


 そこには、楽しそうに女子会をしているルーヴェレナ達の姿が写っている。


「秘密にしてたのは、きっと事情があると思う。言いたくなかったんだと思う。でも、これが全てだと思うの。今、こうして笑っていられるのが全てだと思うの。だから、そんな情報なんてどうだって良いじゃん。そんな情報一つで、けーあく?な空気になっていたら、それこそ怒ってたの」


 写真の下には


 【隠してたのは、神獣として見られたくなかったからだけですわ。今、こうして、何者でもないわたくしと笑い合ってくれている人達がいますの。それで満足ですわ。それで、わたくしの可愛いエレを困らせないでくださる?】


 と、ルーヴェレナからメッセージが書かれていた。


「それも、そうだな」


「うん。夕飯前までに、今やってる一冊分くらいは終われるように、続き、やろうか」


「ああ」


 エンジェリアは、連絡魔法具をしまい、資料の確認に戻った。


「いっぱいなの。腕疲れた」


「がんばれ。もう少しだから」


「俺も腕疲れてきた」


「ドレス重い」


「分かる。ドレス重い」


 エンジェリアとゼーシェリオンが一休みしているうちんk、フォルが、自分の見ている一冊分確認し終えた。

 エンジェリアは、フォルに手伝ってもらいながら、夕食までに終わらせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ