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星月の蝶  作者: 碧猫
1章 星の選ぶ始まりの未来
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6話 天才ミディ?


 ミディリシェルが泣いて、魔力が不安定になり、発作が出た。それで、散歩が中止となり、翌朝、フォルに、再び散歩の誘いをもらい、庭園に来た。


 発作は、一日中フォルに看病されて、今は安定している。


 看病されている間、暇だったミディリシェルは、フォルから、ミディリシェルの知らないゼノン達との関係について、少しだけ教わった。


 手入れされている、色とりどりの花々が、庭園に入ると出迎える。中には、特殊な環境以外では育たない、かなり貴重な花まで見られる。偶然ではなく、咲くように環境を調整してあるようだ。


「ここ、きれいなの……ふみゃ⁉︎ゼノンいる」


 花々を見ていると、花の手入れをしているゼノンを見つけた。


 ミディリシェルは、ゼノンの元へ走った。


「走ると危ねぇだろ」


 ゼノンが、走ってくるミディリシェルに気づいて、手を止めて、ミディリシェルの方に顔を向けた。


 ミディリシェルは、ゼノンと目が合い、立ち止まった。


「……フォル、ゼノンが、ミディを、いじめるの」


「いじめてねぇだろ」


 ミディリシェルは、フォルの側へ行くと、腕に抱きついた。


 呆れた表情をしているゼノンを見て、「ふふん」と、勝ち誇った表情で、鼻を鳴らした。


「ミディ、おにぃちゃんには、優しくするものだって教えたでしょ」


「は?」

 

 ミディリシェルが、昨日聞いた話。ミディリシェルとゼノンは、血のつながりはないが、書面上は兄妹という事になっている。

 そして、兄には、優しく、可愛くして、おねだりをする事。それも、フォルに教わった。


 ミディリシェルは、ゼノンの側へてこてこと向かう。


 ゼノンは、フォルの言葉を聞いて、口を開けて、ぽかんと呆けている。


 ミディリシェルは、そんな事はお構いなく、ゼノンの腕に抱きついた。


「……なでなで、するの」


 フォルに教わった、おねだり術。ゼノンは、これに弱いという情報付きで。


 ミディリシェルは、瞳をうるうるとさせて、ゼノンを見てそう言った。


 だが、ゼノンが、ミディリシェルに見向きもしない。


 ミディリシェルは、ぷぅっと頬を膨らませた。


「言ってなかった?君とミディは、書面上ではあるけど、兄妹だよ」


「聞いてねぇよ」


 ミディリシェルは、ゼノンが知っているかどうかは教わっていない。どうやら、ゼノンは、今日初めて知ったようだ。


 ミディリシェルも、それを聞いたすぐは衝撃的で、言葉が出なかった。

 だが、甘えたいミディリシェルに、そんな事は関係ない。


「……なでなで」


 衝撃的事実に、信じられないのだろう。フォルを見て止まっているゼノンに、ミディリシェルは、不機嫌に、撫でる事を要求する。


「ああ、悪い。撫でて欲しいんだったよな?」


 ようやく見てくれた。

 ゼノンが、ミディリシェルの頭を優しく撫でる。


 ゼノンに頭を撫でてもらい、ミディリシェルは「ふにゅん」と、上機嫌で言った。


「それにしても、すごいきれいなの。みんな、すごい大事にされているんだって分かるの」


 簡単に見ただけだが、ここに咲いている花々は、どれも枯れていない。それに、雑草も見当たらない。全て、ゼノンが手入れを怠っていない証拠だろう。


「ホウシェリにエギベド……調合に使うものも多いの」


 ミディリシェルは、咲いている花々を見ながら、そう言った。


 ミディリシェルは、花に関しては、詳しい方だ。調合に使う花に関しては、かなり詳しく、ぱっと見ただけで気づいた。


「趣味なんだ。まだ、勉強中なんだが……ミディ……ミディリシェル・エレノーズ・エンシェルト……ミレシェト……まさか、お前って」


「みゅ」


 ミレシェト。それは、調合師を目指すのであれば、誰でも耳にする名だ。


 調合界の天才姫。調合の神に並ぶ調合師。不可能を可能にした、常識を凌駕する姫。渾名は数多く存在する。その全てが、ミレシェトという調合師を讃えるものだ。


 最も有名な渾名は、神秘の調合姫。かつて、数々の調合レシピを残した、ジョグ・レグラ・ビレンッド。その、調合師が記す、解読不可能のレシピの一つを解読した事から、そう呼ばれるようになった。


 だが、調合の姫ミレシェトは、表舞台には立たない。


 ミディリシェルは、「すごいの。なでなでなの」と、上目遣いで、ゼノンに何度も言った。


「撫でる前に、質問に答えろ」


「答えたの。すごいの」


「すごいのって、当てたのがか?」


 ゼノンが、そう問うと、ミディリシェルは、ふるふると首を横に振った。


「ミディが」


 ミディリシェルは、胸を張って、そう言った。


「……そうだな」


「だから、なでて」


「ああ」


 ようやく、ゼノンが、頭を撫でてくれる。ミディリシェルは、にこにこと、頭を撫でてもらい、喜んだ。


 撫でてくれているゼノンを見ると、複雑そうな表情をしている。


「……そんなに意外?ミディが、有名魔法具技師の相方の設計師であり、調合師であるって事」


「それはそうだろ……ミディって、もしかして、とんでもない天才、なのか?」


 純粋に疑問に思ったのだろう。ゼノンの、問いに、ミディリシェルは、ぷぃっと顔を逸らした。

 そして、何も言わずに、ゼノンから離れる。


「……」


 ゼノンの目は、ミディリシェルから見て、若干期待されている。その期待を裏切る解答が、ミディリシェルにはできない。


「ゼノン、ここに来た時から、この子がずっと翻訳魔法使っているのって、何でだと思う?」


 ミディリシェルが、ゼノンから顔を逸らして、黙っていると、フォルが助け舟を出した。


「練習?だとしたら、止めた方が良いんじゃねぇのか?ミディの魔力疾患って、魔力吸収の多さからきてるんだろ?そうだとすれば、魔力を使っていると、発作が起こりやすくなるんじゃねぇのか?魔力を放出すれば、その分吸収量も上がるんだ」


「……ミディ、止めて良いよ」


「みゅ」


 ミディリシェルは、リブイン王国にいた時から、ずっと翻訳魔法を使っている。


 翻訳魔法は、自分が設定した言語への変換。喋る言葉も、見る文字も使えるが、ここへ来る前までは、ミディリシェルは喋る方しか使えなかった。


「ミディ、なの。よろよろなの」


 現代の人々には、伝わらないだろう。翻訳魔法を解いたミディリシェルの言葉は、そのまま相手に伝わる。その言語は、古代に使われていた公用語、チティグ語。

 現代使われる公用語、ホヴィウ語は、使えない。


「……チティグ語か?何で、そんな言葉」


「……みゅ」


 ゼノンがホヴィウ語で言う。ミディリシェルは、翻訳魔法無しでは、ホヴィウ語の聞き取りができない。


 何を言っているの理解できず、ミディリシェルは、きょとんと首を傾げた。


「何で知っているんだ。だって」


 理解できていないミディリシェルに、フォルが、チティグ語で、翻訳してくれた。


「ミディ、これ以外の言語知らない。話せない。ミディがいた場所は、これが、普通だったの。これしか使ってないの。聞き取るのもむりなの」


 現代の言語を使わず、古代の言語を使う。それは珍しいが、存在しないわけではない。ミディリシェルの生まれ育った場所は、チティグ語を使っていた。


「……これは、必要だな」


「ここにいる間は、みんな知ってるから問題ないとは思うけどね」


 ゼノンとフォルは、ミディリシェルの言葉を聞き取り、理解しているようだ。二人での会話では、ホヴィウ語を使っているが、ゼノンも使えるだろう。それなら、ここにいる間は、翻訳魔法の必要性は無い。


 ミディリシェルは、翻訳魔法をかけ直そうとしたが、止めた。


「……ミディ、綺麗な花でも見ながら、勉強しねぇか?どこまで理解しているか。一応、兄らしいから、しっかりと確認しておかねぇと」


 ゼノンが、チティグ語で、そう言った。


 ミディリシェルは、理解して、一度、こくりと頷いた。肯定するという意思表示ではなく


「……ミディミディ魔法、勉強回避術。にげにげさんなのーーー!逃げる勝ちなのー!」


 ミディリシェルは、そう言って、迷路のように入り組んでいる庭園を、走って逃げた。


 だが、ここはゼノンの庭。初めてここへ来るミディリシェルは、勝ちようがない。呆気なくゼノンに捕まってしまう。


「今日は、お前がどこまで理解できるか試すだけだ。逃げんな」


「勉強きらいなのー」


「……クッキーやるから」


「……ふみゅ……頑張るの」


 薬を飲んだ時に食べた味。あの甘味は、ミディリシェルを虜にしてしまった。

 

 ミディリシェルは、クッキーの誘惑に負けた。


 クッキーのため、仕方なく、勉強をする事にした。


 ミディリシェルは、大人しく、ゼノンの後をついて行く。


「良く、ここで勉強するんだ」


「お茶じゃないの?」


「ああ。ここだと、静かで集中できるからな。勉強に最適なんだ」


 白と空色の机と椅子。緑の地面と一緒に見ると、それは花のようだ。


 綺麗な花々を愛でながら、巨大な花に座る。そんな感覚だろう。


「こだわりを感じるの」


「こだわったからな」


 ミディリシェルは、椅子を引いて座った。これも高級品ならではだろう。外で使う椅子にしては、ふんわりした座り心地だ。


「ふみゅ。お外のお椅子さんなのに、座り心地良いの。お外のだと、もっと硬いと思ってたの」


「だろ。集中しやすいようにって、座り心地が良いのにしたんだ。これなら、長時間集中できるからな」


「ふみゅ、ミディ、これならお勉強、頑張れそうなの。頑張っても良いかなって思うの」


「そうか。なら、今回は、俺が出す問題に答えてくれ。初めのうちは簡単にして、当たれば、少しずつ難しくする。勉強嫌いなら、初めは、得意なのが良いよな?調合学からにするか」


 それから、ゼノンに、幾つも問題を出題された。ミディリシェルは、調合学と魔法学だけは全問正解できた。

 だが、それ以外に関しては、簡単な初めの問題から、全て答えられなかった。


「後は、種族学と歴史だけだな」


「どっちも苦手なの。もう頑張ったの。やなの」


 正解できていた序盤は、ミディリシェルは上機嫌で答えていた。調子に乗ってもいた。

 だが、得意な時間が終わり、正解できなくなる。不正解が続いていくと、ミディリシェルの機嫌はどんどん沈んでいった。


 残り二教科となった現在、ミディリシェルのやる気は、すでに存在していない。机に突っ伏していた。


「……魔法学と調合学においてだけ言えば、本当に天才だな」


「それ以外、全部苦手なの」


「あれ?ミディって、確か歌」


 フォルが、何かを思い出したかのように、そう言った。


「……知らないの。音外しまくって得意っていうのはなんて知らないの」


「誰に言われたの?」


「おにぃちゃん」


 リブイン王国で暮らす以前、ミディリシェルが、魔法具設計師として活動していた時の事。その時に、一緒に活動していた人物。その人を、ミディリシェルは、兄のように慕っていた。


 彼といた時に、ミディリシェルは、何度か歌を披露した事がある。その時に、悪気は無いのだが、彼はそう言っていた。


「そんなに酷いのか?」


「久々に聞きたいから歌って?」


「俺も聞いてみたい」


「……分かったの」


 ミディリシェルは、ゼノンってフォルに頼まれて、渋々と立ち上がった。


 ミディリシェルが、魔法具技師である彼と一緒に歌った曲。それを、ここで披露した。


      **********


「音は外しているが、ずっと聞きたくなる歌声だな」


「綺麗だよね。ミディの歌声」


「ああ」


 音を外しまくる歌が、ゼノンとフォルには好評だ。


「みゅぅ、なんだか、恥ずかしいの。もう歌わないの」


 ミディリシェルは、ほんのり頬を赤らめて、そう言った。


「定期的に聞きたいんだが、だめか?」


「だめなの」


 ゼノンが相手だろうと、そこは譲らなかった。


「疲れた」


「部屋に戻ろっか。ゼノンはどうする?」


「一緒に行く」


「……ミディ、もうちょっとここにいたい」


「また連れてくるよ。だから、今日のところは戻ろう」


 ミディリシェルは、名残惜しさを感じながらも、こくりと頷いた。


      **********


 部屋に戻り、ミディリシェルは、ルーツエングから貰った縫いぐるみを抱きしめて、ソファの上に寝転んだ。

 ここのソファの方が、あの硬いソファより良い寝心地だ。


「このソファ、ふかぁなの。ふかするの」


 あまりの気持ち良さに、ミディリシェルは、そう呟いた。

 

「ミディって、卵産めるのか?」


「ミディが卵産むんじゃなくて、ミディが卵の中にいるんじゃない?」


 その呟きを聞き逃さなかった、ゼノンとフォルが、面白そうに、そう話していた。


「……ふかふかするの」


「それは良かったけど、君がここにいるって事は、内装とか家具とかも変えるかもだよ?部屋の変わるかな。もっと良い寝心地を提供できるんだけど。ここのソファで寝るのはできないかも」


「ふみゅ?お部屋変わるの?覚えられないかも」


「慣れてきてからだから大丈夫だよ。それより、自然に言っているけど、ここ気に入ったの?ここにいるって否定しないくらい」


「ふみゅ⁉︎」


 ミディリシェルは、寝転んだまま、ぴょんっと跳ねた。


「どうすればそうなるんだ?」


「ち、違うの!ミディ、あの国の事がどうなったとしても、ここにいるって事は決めてないの!婚約者さん、ないないってなったあと、あそこから連れ出してくれたフォルにふにゅふにゅしようなんて思ってないの!それで、フォルにふにゅんと見てもらおうなんて思ってないの!ゼノンに甘えて、あまあま暮らそうなんて、思ってないの!」


 ミディリシェルは、慌てて、縫いぐるみで顔を隠して、早口でそう言った。


「……そんな事考えてたんだな」


「……ミディには悪いけど、僕は、そういうのに興味無いんだ。仕事上の立場もあるし」


「ふにゃ⁉︎ふにゃぁ」


 フォルに振られて、ミディリシェルは、瞳に涙を溜めた。


「そんな顔しないで。今は……そう言うしかないんだ」


 フォルが、申し訳なさそうに、そう言った。


 ミディリシェルは、少し悩んだが、諦めなくて良い事に気づき、「ふにゅふにゅ」と言いながら、縫いぐるみに、顔を埋めた。

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