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星月の蝶  作者: 碧猫
4章 契約
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8話 お姫様エレ


 エクリシェへ帰り、みんなで女子会を開く予定だったが、エンジェリアだけは、参加しなかった。


 エンジェリアは、ゼーシェリオンと一緒に、フォルの部屋を訪れていた。


「一緒にいたいの。だめ?」


「女子会は?楽しみにしていたでしょ?」


「うん。でも、エレはフォルと一緒にいたかったから。それに、お話もあったの。ロジェの言っていた事。フォル、機密文書を確かめに行くんでしょ?エレ達も行きたい。邪魔はしないから」


 行くとすれば今日。女子会の裏で、男子陣も集まって何かしている。行ったとしても誰も気づかないだろう。


 エンジェリアとゼーシェリオンは、二人で話し合い、その予想を立て、急いでフォルの部屋を訪れた。


「……一緒に行く事はできない」


「一緒にいたいの」


「ごめん。君を守るためにも、一緒にはいけないんだ。って言っても納得できないよね。絶対に側から離れないで。何があっても、僕を信じて。その二つを守ってくれるなら連れていく」


 エンジェリアとゼーシェリオンが引かないと知っているからだろう。フォルは、条件付きで許可した。


 エンジェリアとゼーシェリオンは、手を繋いで、喜びを分かち合った。


「それと、これに着替えて。こっそりじゃなくて、堂々と行くから。ちゃんとお姫様らしくして」


「ふぇ……良いけど、一人で着れないの」


「手伝うよ。ゼロは、自分で着れるでしょ?」


「なぁ、俺男」


 フォルが渡した服は二着ともドレス。ゼーシェリオンは、フォルから渡されたドレスをじっと見つめている。

 エンジェリアが見ると、これを着るのかと言いたげな表情をしていた。


「俺、男」


「うん。知ってるよ?でも、ゼロって女の子として認識されているんだ。だから、これが正装」


「なわけねぇだろ」


「ゼロ、わがまま言わないの。エレが着せてあげるから」


「……自分で着る」


 エンジェリアには着せてもらいたくなかったのだろう。エンジェリアが、真面目に言ったら、ゼーシェリオンは、嫌々ではあるが、自分でドレスに着替え始めた。


 エンジェリアは、自分で着る事ができず、フォルに手伝ってもらって着替える。


「エレ、可愛い」


「ふにゅ。髪のやってくれるの?今日はどんな感じにしてくれるの?」


「上げようかなって。いつもよりも大人っぽい印象を」


「持っていた方が良い?」


「持ったエレを見たい。ちなみに、このドレスも、こうなる事を見越して用意はしていたけど、それ以上に、僕が見たかったから」


 エンジェリアは、開いているクローゼットを見る。その中には、女性物も服。


 サイズは、エンジェリアにぴったりなサイズのようだ。


 この中の服は全て、エンジェリアに着せるために用意しているのだろう。


 ――ふにゅ?


 フォルに着替えをしてもらいながら、エンジェリアは、そこまで考えて、ある疑問を抱いた。


 フォルがここへ帰ってきてから、かなり経っている。だが、一度もその服を着た事がない。なぜ、用意しているのに、一度も着させていないのか。


「ふにゅぅ?」


「どうしたの?」


「あのお洋服はなぁに?どうして、エレのサイズなのに、ここに置いてあるの?しかも、エレは見覚えないの」


 エンジェリアは、クローゼットを見て、その疑問をフォルに投げかけた。


「だって、普通に着せていたら、みんなに見られるじゃん」


 当然のようにフォルは、そう答えた。


「ふにゅ?」


「僕と二人っきりの場所とか、二人でデートするとか、二人で部屋で寛ぐとか。そういう時間に着てもらわないと」


 そう言われても、エンジェリアには理解できない。エンジェリアは、ゼーシェリオンなら理解できるかもしれないと、ゼーシェリオンを見た。だが、ゼーシェリオンは、エンジェリアから目を逸らした。


 エンジェリアは、ゼーシェリオンに、近くにあった枕を投げる。


 ゼーシェリオンは、氷魔法で壁を作り、枕を防いでいた。


「……むぅ」


「エレ、今度、一人でここに来て。ここにある服を着せてあげる」


 フォルの趣味。エンジェリアの好みとはかけ離れている。だが、フォルが着て欲しいのであれば、断るという選択肢はない。


 エンジェリアは、こくりと頷いた。


「エレ、終わったよ。あとは髪だけだから」


「ふにゅ」


 ドレスを着て、残りは髪を結うだけ。エンジェリアは、横目で、ゼーシェリオンがどうなっているのか見てみた。


 エンジェリアが見ると、ゼーシェリオンは、もう着替えを終えている。


 ――むにゅぅ。


 自分よりも似合っているのではと思い、エンジェリアは、ゼーシェリオンを見て、ぷぅっと頰を膨らませた。


「エレ、大人しくして」


「ぴぇ」


「可愛くしたいから。大人しくしていて」


「ぷにゅ」


 エンジェリアは、髪を結うまで、できるだけ動かずに、大人しくしていた。


      **********


 エンジェリアとゼーシェリオンの準備が終わった。


「あとはこれもつけておいて」


「お揃いのブローチなの」


「魔法具だよ。前に作っておいたんだ。万が一逸れた時のために。これには特殊な魔法を詰めているから、どこにいるか分かるんだ」


 エンジェリアとゼーシェリオンは、フォルの話を聞かず、二人で向き合って、両手を繋いで喜んでいる。


「ふにゅふにゅ」


「聞いた聞いた?」


「聞いたの。聞いたの。お揃いなの」


「お揃い嬉しい」


「お揃いらぶらぶ」


 お揃いという言葉に喜びながら、ぴょんぴょんと跳ねる。


「ねぇ、話聞いて」


「ふにゅふにゅ」


「話……」


「ぷにゅぷにゅ」


 エンジェリアとゼーシェリオンは、二人だけの世界で、フォルの話は耳に入ってこない。


「……エレ、ゼロ。話聞けって言ってるの聞こえてないの?」


「ぷ、ぷにゅぅ⁉︎き、聞いてるの」


「お、俺も聞いてる」


 喜んでいると、突然、悪寒を感じた。フォルの方を見ると、そこからどう見ても怒っている。

 エンジェリアとゼーシェリオンは、焦って、フォルの話を真剣に聞いていると分かるような体制をとる。


「それなら良いんだ」


 フォルは、そう言って、笑顔を見せた。


「ぴぇ」


「これは、特殊な魔法で、二人がどこにいるか分かるんだ。君らも、分かるように教えたいけど、時間がないから。エレだったら、自分で覚えてくれそうなんだけど」


 エンジェリアは、魔力に敏感で、この魔法具に込められている特殊な魔法も、覚えさえすれば、すぐに見分ける事ができる。


 エンジェリアは、試しに、どんな魔法か視てみた。


「ふにゅ。ぴにゃでぷにゅでふにゃなの。覚えたの」


「うん。まぁ、覚えたとこで君の場合、見つける事ができないから、どちらにせよ、僕が探さないとだけど」


「ふにゅ。その通りなの」


「逸れない事が一番だけどね。ゼロ、地図覚えられる?」


 フォルは、ゼーシェリオンに、地図を渡した。エンジェリアは、何か頼まれないのかと、うるうるとした瞳でフォルを見つめる。


「……エレは、とりあえず、お辞儀をちゃんとできるようになろうか。それと、一通り、最低限の社交マナーも学んで」


「ふぇ?機密文書見に行くだけなのに?」


「堂々とって言ったでしょ。何日か滞在すると思うから。その時に、お姫様求められてもすぐにできるようにして。それと、普通に社交マナーくらい学んで」


「社交マナーを学ぶのはお断りだけど、お辞儀くらいは頑張るの」


「……もう、それで良いよ。それだけでも、ちゃんとしてれば。君にこういうのを学ばそうとしても、やらないのはいつもの事だから」


 エンジェリアが嫌いな勉強は、社交マナーもだ。


「やらせろよ。愛姫がこんなのだって、みんな驚いてんだから」


「ふにゅ。みんな驚いておけば良いの。エレは、エレのままなの。愛姫はそういうもの」


 エンジェリアは、胸を張って、自慢げにそう言った。ゼーシェリオンは、呆れているが、何も言わない。


「エレ、お辞儀してみて」


「そのくらいは……ふにゅ?これ引っ掛けなのー!ふぇ?でも、必要なのかも?ふぇ?でも、でも……分かんないのー」


 エンジェリアは、「ぷにゅぷにゅ」と言いながら、挙動不審になっている。


「愛姫と同等かそれ以上の身分なんて、女装ゼロと神獣の王くらいしかいないよ。だから、エレが頭を下げる必要性なんてどこにもないんだ。気づいたと思って褒めようとしたのに」


 現在、定められている種族身分表では、神獣とジェルドが同等。その中でも、愛姫は特別だ。


 ジェルドを束ねる存在として、愛姫だけは、特別身分が高い。それに並ぶのは、ある代の神獣の王と、ゼーシェリオン(女装)だけだ。


「ぷにゅ」


「何を言われても堂々と。気軽に頭を下げない。常に自分が高身分だという事を意識しておいて」


「できるか心配なの」


「大丈夫。僕が一緒にいてあげるから」


「ふにゅ。フォルを見てがんばるの。それに、ゼロも見てがんばるの」


「そうだな。なぜかこれだと俺まで、エレ達に並ぶ身分だからな」


「ふにゅ。二人を見ながら頑張るから、エレをちゃんと見ておくの。失敗した時に即サポートできるように」


「失敗しないようにしなよ。これで準備はできたから行くよ」


 フォルは、転移魔法を使った。行き先は、神獣達が拠点とする場所。その中でも、ある程度の身分が無ければ入る事ができない場所だ。

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