6話 世界の崩壊の原因
転移魔法で別れたゼーシェリオンの転移先は、氷に覆われた場所。
マグマのゼーシェリオンは、宝剣ゼノンと良く似た剣を創造魔法で作った。
マグマのゼーシェリオンは、氷魔法でゼーシェリオンの足元を凍らせる。ゼーシェリオンは、足元の氷を、破壊魔法で壊した。
ゼーシェリオンが、氷を破壊している間に、マグマのゼーシェリオンが、創造魔法で創った短剣をゼーシェリオンに投げる。
ゼーシェリオンは、短剣を氷魔法で凍らせ、マグマのゼーシェリオンを凍らせようとしたが、マグマの熱で氷が溶ける。
マグマのゼーシェリオンは、氷魔法で創った氷柱と雷魔法で創った、雷の弾をゼーシェリオンに向けて放った。
ゼーシェリオンは、氷魔法を使い、壁を創り防いだ。
マグマのゼーシェリオンが、雷魔法を使い、ゼーシェリオンの頭上に雷を落とす。ゼーシェリオンは、それを防御魔法で防いだ。
ゼーシェリオンは、聖月の秘術の一つを使う。氷の結界を創り、結界内の時を凍らせる。
時を凍らせると、マグマのゼーシェリオンは、動かなくなった。
「なぜ気づいた」
「タイミングが良すぎたからな。まるで、初めからそう設計されていたかのような動きだ。それに、エレから聞いた事がある。時間で動く魔法具の話を」
マグマの正体は、魔法具によるもの。時間通りに動くよう設計されている。時が止まれば、その指示が来なくなる。
ゼーシェリオンは、昔からエンジェリアと魔法具の話を良くしていた。その時に、この魔法具の話を聞いていて、気づく事ができた。
「それより、なんで俺らを襲ったんだ?」
「覚えてないか?自らの罪を。世界を崩壊させた事を」
「そんな事した事ない、とは言えねぇが、直接手を下した事はねぇよ」
「直接手を下している。覚えてないのか?」
「そんな記憶ねぇよ」
「そうか。さようなら」
そう言って、マグマのゼーシェリオンは消えた。
ゼーシェリオンは、あるはずのない記憶の話に疑問を持ちつつ、転移魔法で元の場所へ戻った。
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イヴィが転移した先は、風が吹き荒れる場所。
マグマのイヴィは、敵意がないと言うかのように、両手を上げた。
「何の真似ですか」
「私は、争いが嫌いです。と言うより、話せば分かると言うのに、話し合わずに争う意味などありません。そうだとは思いませんか?」
マグマのイヴィは、友好的なようだ。イヴィは、こくりと頷いて、マグマのイヴィの言葉に肯定した。
「話が通じる相手で助かりました。世界を崩壊させた相手とは思えませんね。やはり、何か理由があったのでしょう」
「崩壊?どういう事ですか?そんな記憶はありません」
「そうですか。ですが、覚えていなかったとしても、事実は事実です。その事を覚えておいてください」
「分かりました。覚えておきます」
「ありがとうございます。では、さようなら」
マグマのイヴィは、そう言って消えた。
イヴィは、マグマのイヴィに祈りを捧げた後、転移魔法を使った。
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フォルが転移した先は、枯れた植物のある場所。植物だけでない、周囲にある全てのものが枯れている。
――崩壊の書に載っていた。まるで、あの世界のようだ。
崩壊の書の記述の中でも印象に残っている記述。その世界とここが似ているを通り越して、同じにしか見えない。
「敵わない事を知っている。敵対するつもりはない。この世界をどう思う」
「……あそこに似てる」
もう一つ、この世界に似ている場所を知っている。それが、現在のギュリエン。
「そう。その通りだよ。他は認めなかったみたいだけど、一度実際にやったのだから、認めるしかないんじゃない?」
「……ここは、ほんとにある場所?それとも再現した場所?崩壊の書に書かれている世界はもう存在しない世界。なのにここはまだあるなんて考えられない」
「そこまで気づくなんて。再現しただけだよ。本物の世界はもう存在していない。その理由も分かってんじゃないの?」
崩壊の書に載っている内容だ。それを持っていれば誰でも知る事のできる事。だが、フォルが知っているのは、そんな理由ではない。
記憶になくとも、理解できている。知っている。それが、フォルとフィルの役目に繋がる事だからだ。
「……君は、 の逸話を知ってる?選ばれれば最後。逃れる事なんてできない役目」
「僕は君から創られた。その事も当然知っている。 だからこそ、君らはこの事実を知ってしまっている。他のジェルドと違って。それには同情するよ」
「……」
「今の世界は狂っている。歪んでいる。気をつけて。その歪みは、あの子を排除しようとしている。誰かの意思が強く出ている。あの子の排除は、最悪の結果を招くだけ。あの子をなんとしても守らないといけないんだ。あの子は、なんとしてでも、自分を守っていないといけないんだ。酷だよ。あんな小さな子には」
エンジェリアの話だろう。エンジェリアは、愛姫は、他のジェルドとは異なる。それは、ジェルドであれば、誰でも知っている事だ。
愛ジェルドだけは、一人では使いものにならない能力を持ち、普段は、その能力の一部を使っているだけにすぎない。
他のジェルドとは、普段使う事のできる能力的にかなり劣っている。
その愛姫であるエンジェリアは、現在確認されている殆どの世界から嫌われている。
今回の転生後、エンジェリアは、フィルと一緒にいるはずだった。だが、フィルという護衛と引き離すかのように、あの事件が起きた。エンジェリアが、リブイン王国の国王に拾われるきっかけを作った事件。
それから、エンジェリアは、フォルですら認識できない状況に置かれていた。いくら計画の事があろうと、もっと早くに保護する予定だった。
この世界が始まって以降、エンジェリアは、そういう事にばかり遭遇している。それこそ、エンジェリアが世界から嫌われているという証明にもなっているのだろう。
だが、その原因に関しては、いまだに何も掴めていない。
「……」
「あの子は不安定なんだ。守ってあげて」
「うん。ありがと」
「じゃあね。ずっとここから見ているよ。氷のジェルドの子の願いが叶う事を祈って。それが、結果的に世界を崩壊させない事に繋がるから」
マグマのフォルは、そう言って笑顔を見せて消えた。
――世界を崩壊させたのは、ジェルド……記憶の無い僕らには、分からない事だらけだけど、いつかは、知らないといけないんだよね……あの子が存在する意味も
フォルは、枯れた花々を見つめた。
枯れた花々に触れると、花は風に乗って散った。
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戻ってきたエンジェリアは、ベッドの上で、みんなの帰りを待っていた。エンジェリアの次に来たのはゼーシェリオン。
エンジェリアは、ゼーシェリオンがベッドの上に来ようとするのを「しゃぁー!」と威嚇して阻止する。
「どうかしたのか?」
「エレは今悲しんでるの!理解不能なの!ふにゃふにゃしてるの!だから、ここには誰も入れないの」
「……世界を崩壊させたとかって話か?」
「ふぇ」
「エレが悩んでるなら、話聞く」
「……ここ良いの」
エンジェリアは、ゼーシェリオンを、隣に座らせた。
「エレは、みんなを使って世界を崩壊させたんだって。そんな事ないの……あるわけないの……そう思うのに、否定したいのに……なんでか、そうだって知ってるの」
エンジェリアは、ぽたぽたと涙を溢して、そう言った。
「あるわけねぇだろ。俺らが本当に世界を崩壊させた事があったとしても、それは、俺らがやった事なんだ。誰にも頼まれてなんてない。だから、お前はなんの責任に負う必要ねぇよ」
「でも」
「ねぇんだ。だから、そんなふうに泣くな。泣いてると、水大量に飲ませるぞ」
「ゼロが脅してくるの。怖いの」
「脅してねぇよ。こんな暑さで泣いてれば水飲ませるに決まってんだろ」
「……やなの」
大量に水を飲まされるよりは、泣き止む方が良い。エンジェリアは、目を擦って、泣き止んだ。
「泣き止んだの」
「ああ。そうだな。泣き止んだご褒美だ」
「ふにゅ⁉︎クッキーなの」
エンジェリアは、ゼーシェリオンからクッキーを貰った。
「エレは何も気にしなくて良い。崩壊の書に書いてあっただろ?そこにエレ……愛姫が何か関与していたか?」
「してなかったの。でも、どっちにしろ、ゼロ達が」
「知らないといけないとは思うが、そんなに気にする必要ねぇだろ」
「……ねぇ、ゼロ。お願い。昔みたいに、夢を教えて」
「恥ずかしいな。けど、エレがそれで笑ってくれるなら。俺の夢は、何かに怯える事なく、誰もが笑っていられる世界。そんな世界を作りたいんだ」
ゼーシェリオンは、少し恥ずかしそうに、その夢を語った。エンジェリアは、それを聞いて、笑顔で
「やっぱり、それを聞くと安心するの。ゼロは変わんないの。エレの大好きな人なの。エレに、目的を与えてくれた、王子様」
と言った。
「……にゃ」
「良い感じの空気のところ申し訳ありません」
「こっち来て座るの。ゼロがお悩み相談してくれるから」
「してねぇよ。エレ限定だ。まあ、どうしてもって言うなら」
「ツンデレになってやらない事もないけどだって」
「だから、そんな事言ってねぇだろ」
「ハハ、何やら悩んでいたようですが、いつも通りで安心しました」
エンジェリアが悩んでいた話を聞いていたのだろう。イヴィは、笑ってそう言った。
「フォルこないの……嫉妬作戦」
「そこでそんな言葉覚えてきた。けど良い案だな」
「やめてください。それやると被害が凄まじいです」
「ふにゅ。それもそうなの。じゃあ、おとなしくしてる」
エンジェリア達は、ベッドの上に座って、フォルが来るのを待った。