4話 マグマの中
マグマの中に、鳥型の魔物がいる。エンジェリアは、鳥型の魔物が上に逃げないよう、結界魔法で出口を塞いだ。
「エレの大事な連絡魔法具を返してもらうの」
「コレノ事カ。コレハオイサマガ手ニ入レタ宝。ワタサナイ」
「ふぇ⁉︎喋ったの⁉︎」
どうやら、知能のある魔物のようだ。
魔物は大きく分けて二種類いる。人の感情が生み出した破壊の化身のような魔物。もう一つは、自然と生まれた魔物。
後者は、知能のある動物のようなものだ。
前者の魔物は、討伐対象になるが、後者の魔物は、討伐対象ではない。
「討伐、するの?」
「しないの。知能あるならエレのペットなの。エレがペットにしてやるの。ここに来る前も言っていたけど」
「誰ガペットダ。オイサマハ、誰ニモ付キ従ワンイ」
鳥型の魔物が、羽をバタつかせる。すると、突風が吹き荒れた。
「風なの。エレにお任せなの」
エンジェリアは、そう言って、収納魔法から、魔法杖を取り出した。
「エレのペットなのー!」
地面を蹴り、魔法杖で、鳥型の魔物を殴る。魔法主体で、力はないが、それを補うように、直前で強化魔法で腕力強化を行った。
魔法杖が直撃した鳥型の魔物は、目を回して、地面に落ちた。
「観念しろなの」
「エレ、悪役みたいになってるよ」
「……ぷにゅぅ?エレはー、可愛いー、生き物なの」
「今更可愛こぶっても遅いだろ」
「エレは可愛いよ?」
フォルだけは、エンジェリアの可愛さに盲信している。エンジェリアは、フォルにだけ、頭を撫でさせた。
「コンナ小娘ニ」
「エレはエレなの。小娘違うの。エンジェリアなの」
「エンジェリア?マ、マサカ、アノ噂ノ愛姫……フンギャァァァ!」
まるで信じたくないかのように、突然叫び出した。エンジェリアは、叫んでいる鳥型の魔物の側へ向かい、「エレなの」と言いながら、頭を撫でた。
愛姫は、今のエンジェリアとはかけ離れている噂が数々とある。その噂の愛姫を好んでいたのなら、実物を見て信じたくないと思うのだろう。
だが、エンジェリアは、現実を叩き込むかのように「愛姫なの」と何度も言った。鳥型の魔物が、現実を見るまで。
「信ジナイ。オイハ信ジナイゾ!」
鳥型の魔物を中心に突風が吹き荒れる。エンジェリアは、突風に巻き込まれ、吹き飛ばされた。
「大丈夫か?」
「ふにゅ。ありがとなの」
氷の中。エンジェリアは、ゼーシェリオンの魔法に助けられた。
「愛姫様、これも役目と思って」
「ふにゅ」
「僕の愛姫なのに、アヴィとイヴィにだけ……」
フォルが、不貞腐れている。
イールグに説明した時の事だろう。その時、エンジェリアは、愛姫としての姿を見せた。そこにアヴィとイヴィも同席していた。あと、ゼムレーグも。フォルの中では、ゼムレーグは、嫉妬対象ではないようだ。
「……やれと言われてできるものでもないの」
「……僕の愛姫」
「……私は、みんなのものです。愛姫ですから。ですが、フォルとフィルは特別です。婚約者を特別視しないなんてできませんよ」
エンジェリアは、にっこりと微笑んでそう言った。どこか儚く、幼さを感じさせる微笑みだ。
これが愛姫。噂に違わない愛姫の姿だ。
「ア、アア、愛姫様」
「ええ。そうですよ。あなたの名前を聞いてもよろしいですか?」
「名ハアリマセヌ。愛姫様ニ付ケテ貰イタイ所存デス」
突風が止まり。鳥型の魔物は、頭を垂れる。
鳥型の魔物は、愛姫を求めていたようだ。偶然か運命か。連絡魔法具を奪った相手が愛姫だとは思っていなかっただろう。そして、エンジェリアが、本当に愛姫だとは、これを見るまで微塵も信じていなかっただろう。
エンジェリアは、右手を顎に当て、首を傾げる。
「ふにゅーぅ……鳥……飛んでる……マグマ……マグドリ……マグドリ?マグドリはどうでしょうか?」
「愛姫様ガクレルノデアレバ。マグドリ……今日カラ、ソウ名乗リマス」
「ええ。ところで、マグドリ。私の連絡魔法具と彼女の写真を返していただけませんか?あれは大事なものなんです」
「ハイ。返シマス」
マグドリから、エンジェリアの連絡魔法具と、ローシェジェラの写真を返してもらった。
ローシェジェラは、全て揃っているか確認している。
「揃ってる」
「どうして、盗みなんて行っていたのですか?」
「親分ヘノ献上物ニスルタメデス」
「親分?」
「コノ辺ヲ取リ仕切ル、魔物デス。凶悪デ、極悪非道ナ魔物デス」
「もう少し詳しく教えてもらえますか?」
**********
知能があるからこそだろう。魔物達の間で、上下関係ができているようだ。
マグドリの言う親分が、この辺の知能がある魔物を取り仕切っているらしい。その親分に、定期的に献上物を渡さなくてはならない。献上物を持ってこなければ、親分に何されるか分からない。
献上物を持ってこれなかった魔物は、戻ってこない事もあれば、傷だらけで戻ってきた事もある。
そして、重要なのが、その親分が従っている数だ。その数、数百匹。
少数だが、親分を慕って、付き従っている魔物にいるが、多くが、親分に反感を抱いている。だが、誰も逆らわない。
その理由は簡単だ。その数百匹が協力して、纏めてかかっても相手にならない。親分はそれ程強い魔物のようだ。
強いだけではない。身体も大きいようだ。十メートルはあるらしい。
「……ありがとうございます。その魔物がどこにいるか知っていますか?」
「ハイ。コノ山ヲ進ンダ先デス」
「愛姫様、危険です」
「放っておけと言うんですか?」
「まさか。一夜休んでから行こうと言うだけですよ。私も、そんな横暴政治をする魔物に会ってみたいので」
「それもそうですね。この中から出て、一晩休みましょう」
ここでは常に防御魔法と結界魔法をかけていなければならない。これでは休まらないだろう。
「浮遊魔法使えないなら、どうやって出れば良いの?」
「オイノ背ニ乗ッテクダサイ。上ヘオ連レシマス」
「ありがと」
エンジェリア達は、マグドリの背に乗り、マグマの上へ連れて行ってもらった。
**********
エンジェリア達は、マグマの上に上がり、安全な場所まで向かった。
「ふにゅぅ。念のためベッドを持ってきておいて良かったの」
エンジェリア特性の魔法具。どこでもベッド。野宿をしたとしても、ベッドで寝れる優れものだ。しかも、質には特に拘っており、極上の寝心地を味わえる。
エンジェリアは、小型の四角い魔法具を、地面に置いた。起動すると、クイーンサイズのベッドになった。ゼーシェリオンとフォルと一緒に寝れるようにと、この大きさだ。
「ゼロとフォルも一緒にねむねむできるの。もう一つあるから、三人で使って良いの」
エンジェリアは、もう一つ魔法具を起動させて、クイーンサイズのベッドを出した。
「ここで一晩過ごして、明日、魔物さんにお仕置きしに行くの」
「ああ。俺、クッキー持ってきてる。エレ、食べる?」
「ふにゅ。エレは、スープの素を持ってきたの。お湯を入れるだけで、スープができるの」
「僕、保存用のパン持ってる。スープにつければ柔らかくなって美味しいと思う」
「わたし、お弁当持ってきてる。三つくらい余分に作っておいたから、人数分あるよ」
「私は、紅茶を持ってきています。どこでも優雅にと持ち歩いているんです」
「僕は、果物を持ってる。ピュオには、僕おすすめのこれをあげる」
「ありがとう。わたしも、一番得意な具材のお弁当をあげる」
「ありがとう」
ピュオとローシェジェラは、短時間で更に仲良くなっている。今までは、エンジェリアとゼーシェリオンとフォル主義で、三人を優先していたが、ピュオに一番気に入っている果物を渡していた。
フォルは、それを微笑ましく見ている。
「みんなで分け合うの。でも紅茶要らない」
「俺が淹れようか?」
「それは良いですね。ゼロの淹れる紅茶は好きです」
「それならエレも欲しいの」
エンジェリアは、紅茶は苦手だが、ゼーシェリオンの淹れる紅茶だけは好きだ。ゼーシェリオンが淹れるならと、エンジェリアも紅茶を貰った。
「……もんだいは……ふにゅ。フォル、お水頂戴。この中入れて」
「うん」
エンジェリアは、鍋にスープの素を入れ、フォルに水を入れてもらう。
その鍋を、マグマの方へ持って行こうとした。
「なにやってんだ?」
「マグマで沸かすの」
「水なくなるだろ」
「……」
「普通に、魔法で沸かせれば良いでしょ」
フォルが、焚き火を作った。エンジェリアは、そこでお湯を沸かした。
「……」
「エレ、沸騰してる」
「まだなの」
「まだじゃねぇよ!溢れてからが沸騰じゃねぇから」
「……」
全員で、できた食料を分け合う。
「ふにゅぅ。ぽかぁなの。みんなでこうしている時間が好きなの」
「うん。そうだね」
食事を済ませて、明日の経路を確認し、エンジェリア達は翌日に備えて眠った。