3話 奪われた連絡魔法具
灼熱世界。エンジェリアとゼーシェリオンには、今すぐにでも帰りたい場所だ。
だが、帰る事はできない。流れる汗を拭い、必死に足を前に出す。
「真っ赤なのー」
「魔法使えば?」
「魔法使っているけど、暑すぎるの」
「アディと変わりたいですね」
「ゼロ、ちゃんと水飲むなよ。いくらでもあるから」
「フォル、水ちょうだい」
「うん」
フォルが、ピュオから水筒を受け取り、水を入れる。水は、自然にエンジェリアとフィルが作っていた、水魔法具だ。安全で甘塩っぱい美味しい水がいくらでも出す事のできる魔法具だ。
これがあるため、灼熱世界でも、水不足に陥る事はない。
「あっ⁉︎嘘だろ。これ高かったんだぞ」
「ぷしゅっ。連絡魔法具壊れてるの」
いくら高級だとしても、市販の連絡魔法具では、この気温に耐えられないだろう。ゼーシェリオンの連絡魔法具が壊れた。
それを見たフォル達は、自分の連絡魔法具を確認した。
「わたしも壊れてる」
「わたしもだ」
「私も壊れてます」
「ふっふっふ、エレのは壊れてないの。見よ。この素晴らしい魔法……ふにゃ⁉︎ふぇぇぇん‼︎」
あらゆる場所に耐えられるようにと考えられていた、エンジェリア特性連絡魔法具だが、これは想像していなかった。
壊れていないと見せびらかした時、偶然鳥型の魔物が通りかかり、エンジェリアの連絡魔法具だけを盗んで去っていった。
それだけならまだ良い。何の恨みがあるのか。その鳥型の魔物は、エンジェリアの連絡魔法具を、マグマの中に落とした。
いくら丈夫で壊れないとはいえ、マグマの中に落ちたものを取り行く事はできない。
「ふぇぇぇぇん!」
大事な連絡魔法具を、三年半の汗と涙と努力の塊の、自慢の連絡魔法具を失ってしまったエンジェリアは、その場で止まり、大泣きをした。
誰も、何も言わない。というより、何も言えないのだろう。目の前でこの光景を見てしまったからには。
「こっちに……」
「案外早い再会だね」
何かを追って、ローシェジェラが、走ってきた。
「鳥の魔物を見てない?あれに大事なものを奪われた」
「奇遇だね。僕らもその鳥の魔物に被害受けたよ」
「エレの三年半ー」
「……大事なものって通行証でも奪われたの?」
「……」
鳥型の魔物が戻ってくる。
エンジェリアの頭上に、ある写真を落とした。大泣きしているエンジェリアに変わり、フォルが、その写真を手に取る。
「……これって」
「それは」
「ロジェ、やっぱ止めよう。こんな事は。こんな事で、全部捨てないで。大事なものは、絶対に消えないから。もう、絶対に消える事なんてないから」
「……」
「それにさ、復讐って言うなら、君が考えている事なんて生温いと思わない?やるなら徹底的に。誰一人として逃さずに、生地獄を味わってもらわないと」
フォルは、写真をローシェジェラに渡しながら、満面の笑みを浮かべてそう言った。
「ここまで色々と助けてもらったんだ。だから、巻き込んで。手伝わせて。復讐って言うのは、反対だけど。最後には、ロジェが笑えるようにさせて」
「けど、他のみんなは、笑えないのに僕だけ」
「なら、その資料を手に入れて、全員が笑えるようにすれば良い」
「そんなの、不可能だ。それができるなら、それは」
「神獣の全権限を持つ王だけ」
フォルがそう言うと、ローシェジェラが、こくりと頷いた。
フォルは、ローシェジェラにだけには伝えて良いと判断したのだろう。ローシェジェラの時代だけ使われていた、ある言語を使った。
「 」
「それは、ほんとかい?」
「うん。エレ、ゼロ、僕が何言ったか分かるだろ?ほんとかどうか答えてくれ」
「ほんとだ」
「ふぇぇぇぇん!エレの三年半ー」
ゼーシェリオンは答えたが、エンジェリアは聞いていない。だが、ゼーシェリオン一人の回答でも十分だろう。
「……分かった。信じるよ。ところで、あれ何が起きたのか聞いて良いかな?」
「ふぇぇぇぇん!」
「ロジェ、その前に、連絡魔法具使える?」
「壊れている。この気温に耐える連絡魔法具なんてないだろう」
「僕とエレのは使えるんだ……エレのも使えたんだ。エレが、僕のために作ってくれたから」
「それは貴重だね……使えた?被害に遭ったのって、エレの連絡魔法具かい?」
「正解。エレが見せびらかしたら、偶然奪われて、偶然マグマにドボン」
フォルが説明すると、ローシェジェラは、なんとも言えない表情を見せた。そして、黙ってエンジェリアの頭を撫でる。
「……三年半」
「僕も手伝うから、また作ろう」
「ふにゅぅ」
エンジェリアは、ローシェジェラに頭を撫でてもらい、泣き止んだ。
「愛姫様、連絡魔法具を取って来ました」
「ふぇ⁉︎」
「風魔法で浮かせたら、取れました」
なんと、イヴィが、マグマの中から、連絡魔法具を救出してくれた。
エンジェリアは、泣きながらイヴィに抱きつき、「すきすき」と言って、頬擦りをした。
暫くすると、エンジェリアは、イヴィから連絡魔法具を受け取り、動作確認をする。マグマの中に落ちたが、動作は正常。どこも壊れていない。
「貴方がローシェジェラ様ですね。お初のお目にかかります。私は、イヴィと申します。こちら、お近づきの印です。以後お見知り置きを」
「あ、ありがと。よろしくお願いします」
「ねえ、わたしもロジェって呼んでも良い?何かしたい事ある?」
「うん。良いよピュオ。また、服選びをしたい」
「それはお断りなの。黄金蝶チームの名誉のためにもやめた方が良いの」
エンジェリアは、きっぱりと断る。前回と同じ轍を踏ませないようにという配慮だ。
「今度はロジェの服を選ぶのはどうかな?服ないでしょ?」
「うん」
「それと、女子会なの」
「僕、性別って概念」
「見た目が女の子だから参加ありだよ。女の子じゃなくても、知りたいから参加あり」
「ピュオを連れてきて良かった」
「ふにゅ。ピュオねぇって、すごいぐいぐい行くタイプなの。このくらいの方がロジェが逃げなくて良いの」
ピュオは、ローシェジェラに気軽に話しかけている。ローシェジェラも、楽しそうにそれに応えている。
エンジェリアは、イヴィが取り戻してくれた連絡魔法具を大事に抱いていた。
すると、またまた鳥型の魔物が
またエンジェリアの連絡魔法具を奪おうとする。だが、今度こそ渡さない。そんな強い意志のもと、エンジェリアは、連絡魔法具を離さない。
「ふぇ⁉︎」
連絡魔法具を離さないでいると、エンジェリアの身体が浮いた。鳥型の魔物は、二メートルがある。エンジェリア一人くらい持ち上げられる力があるのだろう。
エンジェリアは、それでも連絡魔法具を離さない。
「エレ、離して」
「やなの!」
「このままだとマグマの中に連れてかれる!あの鳥の魔物は、マグマが巣なんだ!」
「ふぇ……ふぇ……や、やなの」
「エレ、高いのきらいじゃないの?」
「……」
エンジェリアは、手を離した。落下するエンジェリアを、フォルが受け止める。
「ふぇ」
「あの鳥の魔物、愛姫様の連絡魔法具に執着しているようですね。どうしますか?」
「僕の写真もいくつも奪われたままだ。取り戻す」
「写真は、マグマの中じゃ」
「水でもマグマでも大丈夫な素材で出来てるから取り戻せる」
「ふにゅ。さんせぇなの。あの鳥さんをペットにするの。エレに逆らえなくしてやるの」
「エレが怒った」
鳥型の魔物に奪われたものを取り返すため、エンジェリアは、鳥型の魔物を追いかける。
「ふきゃ⁉︎」
エンジェリアは、少し走って転んだ。
「あの鳥魔物速いね。魔法だと避けられるかも」
「俺の氷魔法……すぐに溶けるな。流石にこれは」
「結界魔法で閉じ込めるのはどうかな?」
「ピュオねぇ天才」
「でも、それやったら、外からの攻撃が通らないと思う」
「ふにゅ。それはそうなの。それに、いくらなんでも、エレの連絡魔法具に攻撃が当たったら……ぴぇぇぇん」
エンジェリアは、想像しただけで大泣きし出した。
「マグマに落ちた後にするか。浮遊魔法使えるのは、ピュオ以外全員……ピュオがサポートに回って」
「フォル、残念なお知らせがあるの。これ見て」
エンジェリアは、ぴょんぴょんと跳ねる。その背には、龍の羽根が生えている。だが、その羽根が機能しない。
「……詰んでない?」
「ふにゅ。詰みなの」
「マグマに入るしかないのでは?」
「……ふにゅ。やだけど入るの。魔法でどうにか入れるから……ふにゃ⁉︎そう言えば、前にふざけて作った魔法具が役立つと思うの。対炎の魔法具」
エンジェリアは、指輪型の魔法具を収納魔法から人数分出し、配った。
「これで、マグマの中で直接対決なの。上に出れないように塞いでいくの。ふっふっふ、エレの連絡魔法具を奪ったんだから、何があっても逃さないの」
「そうだね。僕の秘蔵の写真を奪った罪は償ってもらおう」
「ロジェ、その写真僕にも見せて」
「奪い返してくれれば。いくらでも見せてあげる」
「まぁ、奪い返さないと無いからね。エレ、がんばれ」
「みゅ?何を?」
「あの山登るんでしょ?マグマに入るなら」
「……ふぇ⁉︎」
エンジェリアは、少し間を空けて、驚きのポーズを取る。見えているマグマのある場所は、山の上。浮遊魔法が使えないとなれば、かなり歩かないといけないだろう。
「……ゼロ、おんぶ。もしくは抱っこ」
「両方却下だ。鳥魔物、巣に戻ったから行こうぜ」
「ふにゅ。やだけど……エレの連絡魔法具のためなの!」
エンジェリア達は、大事なものを取り戻すため、山を登った。
役一時間かけて。登った先にあるマグマの中へ飛び込んだ。