2話 目的を果たす者と止める者
海の中に転移したエンジェリア達。
エンジェリアは、フォルに抱きつき、沈まずに済んだ。
――なぁ、これって会話できなくね?
――そうなの。フォルって抜けてるよね?
――ああ。とりあえず、俺らは、共通で会話しよう。それならできるからな。
――ふにゅ。そうするの。何か、会話以外に伝える手段があれば良いんだけど。
――知ってればやってんだが、知らねぇからな。
エンジェリアとゼーシェリオンは、共有で会話をしつつ、周りを見渡す。
海の中でしか見る事ができない景色。エンジェリアとゼーシェリオンは、その景色に目を奪われていた。
――きれいなの。神秘なの。
――ああ。そうだな。
――ところで、どこへ行くのかな?分かんないの。
――あそこじゃねぇのか?
目の前に、結界に囲まれた王国が広がっている。どうやら、フォルは、そこへ向かっているようだ。
エンジェリアは、自分で泳がなくて良い分、景色を楽しむ事ができる。泳いでいる魚と、上から差し込む光。それが織りなす神秘的な景色をじっくりと見る事ができる。
――そういえば、エレって水きらいだったよな?
――ふにゅ。でも、こうやっていると怖くないの。ここは明るいから怖くないの。
――この世界は、海底でも光があるからな。光魚とかいるらしい。
光魚。見たいが、この辺にはいなさそうだ。エンジェリアは、むすっと、不機嫌になるが、フォルに頬を突かれて、直ぐに機嫌が直った。
――ふにゅ。フォルかららぶを贈られたの。
――エレ、そこ変われ。
――変わったら、泳げないの。沈むの。
――じゃあ、俺が連れてくから、フォルから離れて俺の方来い。
――だから、それができれば泳げれるの。みゅ?
――笑わせないでよ。
――ふにゅ。フォル、そういえば、フォルって、思考共有に似た事できるの。ずっと、聞いていたでしょ。
――うん。面白かったよ。それと、光魚なら、結界の中にいると思うよ。入ったら見てみな。
エンジェリアとゼーシェリオンの共有に、フォルが入ってきた。
今は、辺りを見回しても見つからない光魚。それが、人が住んでいる結界の中にいる。見るのが楽しみで仕方がない。
――ふにゃ。海の中って海流で泳ぐの難しいって思ってたの。水圧とかもあるの。
――ここの海は泳ぎやすいよ。少し泳いでみる?
――やなの。泳げないの。だから、フォルに抱きついているの。
――抱きついてなくても、リードがあるから大丈夫だよ。
――なぁ、このリードって、距離とかってあるのか?
――うん。あるよ。じゃないと、こういう時に不便だから。それがどうかしたの?
――……
――……
フォルは、問題点に気づいていないようだ。エンジェリアとゼーシェリオンは、それを言わずに黙った。
――そろそろ着く。
――ふにゅ。中が楽しみなの。
**********
結界内へ辿り着くと、浮遊感こそあるが、水中のような感じはしない。これなら、エンジェリアもフォルに抱きついていなくて大丈夫そうだ。
それに、結界の外では喋る事ができなかったが、ここではできる。
「ふにゅ。やっと着いたの……ふにゃ⁉︎光ってる。灯り入らずなの」
「綺麗だよね」
「ふにゅ」
七色に光る魚。エンジェリアの目の前を泳ぐ。
「可愛いの。きれいなの」
エンジェリアが、目を輝かせて見ていると、光魚がエンジェリアに集まってくる。
「ふぇ?」
エンジェリアを覆い隠す程、光魚が集まっている。
「……」
「ふぇ」
「愛姫様は、本当に好かれやすいですね」
「エレ、大丈夫」
「光魚……害はないかな」
「……」
フォルが、魚の餌をばら撒く。光魚は、餌を求めてエンジェリアから離れた。
「ふにゅぅ。びっくりしたの」
「フォル、クロはどこにいるのか分かってんのか?」
「通行証を探していると思うよ。海の宝石。それが、通行証を交換するのに必要なんだ」
「ふにゅ。探しに行くの」
「うん。こっちだよ」
エンジェリア達は、海の宝石探しに向かった。
**********
海の宝石。水に触れると青く輝く宝石。
エンジェリアは、その宝石を五つ手に入れた。
どこに来るか分からないため、分かれて探していると、偶然にも、その宝石が大量にある場所を当て、魔法具に活用するため、いくつか取っておく事にした。
海の宝石は見つかったが、ローシェジェラは見つからない。
もうここを去ったのかもしれない。そう一度は思ったが、今は通行証の発行の時間外。
エンジェリアは、一緒に行動しているフォルと、もう少しここで待ってみようと言う事となった。
「ふにゅ。お水の中とは思えないの。とってもきれいで、にゃむにゃむなのはなのだけど、普通に歩けるの。泳がなくて良いの」
エンジェリアは、海の宝石を見ながら、この場所に対しての評価を述べた。
「そうだね……エレ、来た」
エンジェリアとフォルが待っていると、ローシェジェラが、ここを訪れた。
ローシェジェラは、海の宝石を探している。
「ロジェ」
「……先回りされていたか」
「やめろって言っても、聞かないよね」
「当然だよ。僕は、自分の目的のためだけに今までやってきたんだ。なのに、道半ばで止めるわけないだろう」
「……どうして、復讐なんて考えるようになったか、聞いても良い?」
「……そんなのを聞いて何になるか知らないけど、隠す理由はないか。僕は、本家の元当主だった。けど、全部利用されていたんだ。必要とされなくなれば裏切り者として処分される。こんなの歪んでいるだろう。それを正すためだ。それに、これまでに僕と同じような目にあったみんなの無念を晴らすため」
ローシェジェラは、淡々とそう言った。その理由以外にも、神獣に深い恨みもあるようだ。それが、言葉の端々から漏れ出ている。
エンジェリアは、不安を隠すように、隣にいるフォルの手を握った。
「それで良いの?誰かのためなんて、結局はただの独りよがりなんだ。そんな理由で、迷いながらも、この先へ進んで良いの?」
「……」
「そんなの、関係ないだろう。目的のものは手に入った。僕は次の場所へ行くよ」
「好きにすれば良いよ。必ず止めるから。どんな理由があったとしても、一度守ると契約をしたんだ。その契約が切れたとしても、何も生まない無謀な事なんてさせない。そんな理由で進む君を見捨てなんてしない」
フォルの瞳が、黄金へ変わる。そこには、ローシェジェラを想うが故の、覚悟が宿っている。
――エレの大好きがいっぱいのフォルなの。優しくて、強くて……ずっと、らぶなの。あの時の事気にしなくなっているの。らぶなの。
「それが君なんだね。僕は何があっても目的を果たす。そのために全てを捨てたんだから。さようなら、エレ、フォル」
ローシェジェラは、そう言って、転移魔法を使った。
「フォル、次に行く場所ってどこか知ってる?」
「うん……次の場所は少し危険だから気をつけて。みんなと合流してから行こう」
「ふにゅ。フォル、お土産買ってないの」
「今それ言う?また今度来た時に買えばいいでしょ」
「ふにゅ。エレは、ゼロに連絡するの」
「うん。よろしく」
エンジェリアは、連絡魔法具を取り出し、ゼーシェリオンにメッセージを送った。
【ゼロ、エレに土産を買ってくるの。あまあまみやげを買ってくるの。分かったなら返事なの。それと、集合なの。土産をこっそり買ってから集合なの】
メッセージを送って、やりきったと、満足する。それがフォルに疑いを向けられる事になるとは知らずに。
「エレ、なんて送ったの?」
「ふにゃ⁉︎」
まだ、余計な事を送ったかとは聞かれていなかったが、エンジェリアは、驚きのポーズをとった。それが、余計にフォルに疑われる事となった。
「土産買ってこいとか送ってないよね?」
「し、知らないよ。エレ、な、何も知らないよ?き、きのう……気のせいじゃないの?」
「明日お菓子無し」
「ふぇ⁉︎ふにゅぅ」
フォルの容赦無い一言に、エンジェリアは、肩を落とした。
そうこうしていると、イヴィとゼーシェリオンが到着した。ゼーシェリオンの手には、土産袋が
「ふにゃぁぁ⁉︎か、隠すの!まだバレてないの!だから隠すの!隠さないとお菓子無しになるの!」
「えっ⁉︎か、隠す」
フォルの目の前で、エンジェリアは、ゼーシェリオンに、土産袋を隠させた。しかも、その隠し方は、収納魔法にしまうのではなく、背に隠す。
これで隠せた。バレてないと、エンジェリアは、ほっと胸を撫で下ろした。
「エレ、目の前でそれやっていて気づかれないと思ってる?」
「ふにゃ⁉︎」
「愛姫様、流石にそれじゃ無いかと。秒でバレます」
「エレをいじめるなー!」
「ゼロすき」
ゼーシェリオンだけは、エンジェリアの味方だ。お菓子を一緒に食べるのが楽しみだから。ゼーシェリオンに庇われて、エンジェリアは、愛情たっぷりにゼーシェリオンに抱きついた。そして、ゼーシェリオンの胸に顔をすりすりと擦り寄せる。
エンジェリアにとっての一番の愛情表現だ。
「……土産ナンテ知ラナイ。エレの明日のお菓子何にしようかなぁ」
「……ふにゅ」
「エレの大好きなお菓子を用意しようかなぁ」
「フォルすき」
「えっ⁉︎」
エンジェリアは、ゼーシェリオンから離れ、フォルの側へ向かった。
フォルに抱きつき、一番の愛情表現をする。フォルの胸に顔をすりすりと擦り寄せる。
「またやってる」
「お待たせ。遠かったから、遅くなった」
「気にしなくて良いよ。どっかの誰かみたいに土産に時間を費やしてないんだ」
「……ゼロはエレのためにお土産探ししたの」
「うん。それより、次の世界に行きたいから」
「ふにゅ。説明良いから次の世界行くの。着いた後に説明なの」
「そうだね。その方が良さそう。でも、その前にこれを」
フォルが、全員分の服と帽子を渡す。
「着替えるの?」
「うん。水着の上から着れば良いよ」
「みゅ」
エンジェリア達は、水着の上から服を着た。
「帽子も被ってね。次行く場所は必須だから」
「ふにゅ」
帽子を被ると、フォルが、転移魔法を使った。次の場所は、濡れた髪が即乾く、灼熱世界だ。