1話 ローシェジェラの行方
4章から、ミディリシェルをエンジェリア。ゼノンをゼーシェリオンと表記します。
呪いの聖女の件が片付き、管理者の拠点の方も、ある程度は復旧が終わった。
エンジェリア達に、ようやく休みがやってきた。
今まで、女子三人だけだったが、今日から数日間、離れていた何人かが休みという事で、現在、エクリシェ内には、女子五人足され、八人。
これだけ数がいるのだからと、リーミュナとピュオから、女子会の提案があった。そして現在、エンジェリアの部屋で女子会中。
扉の前には、男子禁制と書いた紙を貼ってある。
「エレ、今日のために、お菓子用意したの。頑張って、クッキー作ったの。ほとんどゼロにやってもらったけど」
「わたしは、ケーキ用意してみた」
「私は、ジュースを持ってきたよ。アゼグに、お菓子作ろうとしたら止められて」
「あたぃは、お酒。リミェラさんとか、ナティーさんは飲めるでしょうから」
「あたしもお酒。神殿で、儀式とかに使うワイン。美味しいらしいけど、飲んだ事ないから、味の保証はしかねるけど」
「わたしは、果物を。それに、果実酒も」
「ワッチは、野菜スティックを持ってきました。自家製の」
「わたくしは氷菓子を用意しましたわ」
全員で用意したものを出し合う。
「コップ用意するね」
「うん」
エンジェリアは、コップと皿を用意する。ついでに、紅茶を飲みたい人用に、紅茶の茶葉とかも置いておく。
エンジェリアは、淹れるのが上手くないため、淹れるのは自主性だ。
「女子会ってどんなお話するの?」
「どんなのだろう?誰かやった事ある?」
リーミュナの疑問に、全員ふるふると首を横に振る。女子会をやろうと言い準備までしたが、全員初体験。誰か知っていると思っていたのだろう。どうすれば良いか、誰も考えてくれなかった。
「ふみゅ……きっと、お楽しみなの。だから、女子が喜ぶような事をすれば良いんだと思うの。エレは、お色気を知りたいの」
「それどこで使うんだい?」
「フォルにお色気作戦なの。きっとできるの。エレらぶになるの」
「御巫候補として選ばれた時点で、相手に気がある確定だから、気にしなくて良いんじゃないかい?」
「ふみゅ……ふにゅ……そういう考えもあるの。でも、気にするの」
エンジェリア達がわいわいと話していると、突然、トントンと扉を叩く音が聞こえた。
現在エクリシェにいる女子は全員この部屋にいる。女子ではない事は間違いないだろう。
となれば、エンジェリア達の取る行動は一つだ。
「現在は女子会中なの」
「愛姫様、少しだけ話があります。フォルから頼まれていた事で、愛姫様にも念の為お伝えしようと」
外にいるのはイヴィのようだ。フォルから頼まれた事というのは、ローシェジェラの事だろう。
しかも、女子会だから声をかけるなと事前に言っているにも関わらず、わざわざ声をかけてきたという事は、よほど緊急性のある話。
「ふみゅ、入れてあげるの」
エンジェリアは、扉を開き、イヴィを招き入れた。
「何か分かったの?」
「はい。ローシェジェラ嬢の居場所を特定致しました。その件で、急ぎでお伝えした方が良いと思いまして」
「ふみゅ、どこなの?」
「それは、現在も移動中と考えれば、今どこにいるのかというのは答えられません。ですが、神獣達の本拠地がある場所へ向かっているようです。恐らく、最短ルートで」
神獣達の本拠地。そこへ行けば、連れ戻す事は困難になるだろう。できれば、それよりも前に見つけ出したい。
「最短ルートがどこかも分かるの?」
「はい。すでに調査済みです」
「ふにゅ……ピュオねぇとリミェラねぇ連れてくの」
「私も」
「女子会を調べる人員も必要だと思うの。それと、一人追加だから、その準備人員も必要なの」
エンジェリアは、帰ってきたら女子会する気満々だ。ついでに、ローシェジェラを連れ戻し、女子会に参加させる気でいる。そのための準備人員まで用意して。
「任せて。ちゃんと女子会っぽくしていくから」
「ふにゅ。エレのお部屋を好きにして良いの。お部屋も女子会っぽくするの。可愛らしく彩るの」
「お菓子だけだったけど、普通の料理とかも欲しいかも」
「ふにゅ。一日ここにいるつもりで用意するのが良いと思うの……って事は、寝る場所も必要なの。ふにゃ⁉︎」
「布団持ってくれば寝れるよ。私、準備しとく」
「ワッチも手伝う」
女子会の方も滞りなく進められるよう、動きやすい服に着替えながら、話し合う。
エンジェリアが着替えていると、イヴィは、どこかへ行っていた。
「ふにゅ。魔法具も念のため持ってくの。魔法具……ふにゃ⁉︎なんか、こう、きれいな感じに、きらきらさせるのが良いと思うの」
「光魔法具を用意しておきますわ」
「ふにゅ。お願いなの」
エンジェリアが着替え終わると、イヴィが戻ってきた。
「フォルのところ行ってくるの」
「いってらっしゃい」
「気をつけてくださいね」
エンジェリア達は、部屋を出て、隣のフォルの部屋へ向かった。
**********
フォルの部屋を訪れると、拗ねているゼーシェリオンまでいる。エンジェリアの部屋に入れずに拗ねたのだろう。
「フォル、エレが来たの」
「……ちら」
「ゼロ、エレが来たの」
「エレー」
エンジェリアが来た報告をすると、ゼーシェリオンが、エンジェリアに抱きついた。
「フォル」
「うん。ごめん、書類片付けていた。これで全部」
「今日休みって」
「書類の片付けは仕事に入らないよ」
フォルが、当然のようにそう答える。
「お仕事のしすぎで、休日とお仕事の見分けができてないの」
「書類仕事くらい休みだと思っているんじゃねぇか?」
「私なんて、アディの面倒も仕事と思ってますよ。仕事と思えなくなれば、洗脳です」
「うん。仕事と休日が分からなくなるのは、洗脳かも」
エンジェリア達は、こそこそとフォルに聞こえる声で話す。
「このくらい仕事のうちに入らないと思うよ?」
「だよね。僕らからしてみれば、これは休暇にやる事だ」
「真っ黒なの。闇しかないの。それより、クロのお話」
「うん。今どこにいるかは、予想がつく。今すぐに行きたいとこだけど、その前に泳げないと危ない」
フォルが、エンジェリアを見て言う。それもそうだろう。この中で泳げないのは、エンジェリアただ一人。
エンジェリアは、「ぷにゅぅ」と言いながら、ゼーシェリオンの影に隠れた。
「人魚の尾があれば良いんだけど、前に襲撃受けて、破れたんだ」
「ふにゅ。水を凍らせれば泳がなくて良いの」
「今から行くのって水中だよ?水中の世界だよ?分かってる?」
エンジェリアは、ふるふると首を横に振った。
理解していないのではなく、理解する気がない。エンジェリアに泳がす以外の方法を考えなくてはならないだろう。
エンジェリアは、考える気はない。
「エレと手を繋いでいたらどうにかなるかな」
「フォル、その、水着が欲しいけどあるかな?」
「うん。いくつか用意してあるから、選んで。サイズは大丈夫だと思う。行きつけ店に頼んでおいたから」
フォルが、ベッドの上に水着を並べる。
ミディリシェルの水着だけは、なぜか全体的に子供っぽいものばかりだ。ただ一つ、子供っぽくない水着がある。
「……フォル、エレの水着がおかしいの」
「フォル、なんで俺の水着の中に女もん混じってるんだ?」
「フォル、ただの布が混じってますよ」
ジェルド組には嫌がらせだろうか。それとも、全員同じ数の候補を用意してあるため、候補減らしだろうか。
明らかに選ばないようなものが混じっている。
だが、それを言及しても、フォルは、何も言わずに笑顔でいるだけだ。
「……これしかないの」
「俺も」
「私のです」
エンジェリア達は、選択肢が無く、一番まともな水着を選ぶしかなかった。
ピュオとリミェラは、どれにしようか悩んでいる。
「フォル、これにこっちの魔法効果を移植って」
「できるよ」
「エレ、これとこれどっちが似合うと思う?」
「ノヴェにぃに聞けば良いの」
「こっちにしようかな」
全員水着を選び、その場で着替える。イヴィは、顔を真っ赤にしながらも、扉が開けられず、諦めて着替えていた。
「これであとは行くだけだね。水の中でも呼吸できるように魔法具用意してあるからこれをつけて」
フォルが、水中で呼吸できるようにと、魔法具を配る。ブレスレッド型で、つけているだけで効果があるようだ。
「エレ、僕がつけてあげる」
「ふぇ?エレ、さっきつけたよ?」
フォルが、エンジェリアの左手首に青いブレスレッドをつけた。そのブレスレッドと同じものをフォルが、自分の右手首につけていた。
「これで迷子の心配もないね。ついでに、泳げなくても、大丈夫」
「ふぇ?」
「エレ、この魔法具リード代わりのとか言ってフォルが作ってたやつだ」
エンジェリアは、少し目を離すと迷子になる。それを数えられない程繰り返している。それを防止するために作っていたのだろう。
「ゼロもつける?」
「俺は迷子にならないからいらない。つぅかこれ」
「ん?」
「……フォルって意外と……なんでもない」
「……みゅ?これって……気にしない事にするの」
ゼーシェリオンが何かを言おうとしているのを見て、エンジェリアも、ある問題点に気づいた。このリードをつける事で起きるかもしれない問題点。
だが、フォルが何も言ってこないため、それを気にしない事にした。きっと対策済みだろうと。
「リミェラはこれを持っといて。通行証」
「これいくらしたんだい?」
「にぃ様に貰ったから知らない。欲しいって言ったらくれた」
「すごいね。キミの兄は」
「必要なものは渡したから転移魔法を使うよ」
「ふにゅ」
フォルが、転移魔法を使った。転移先は海の中。予め準備をしておかなければ、一発アウトだっただろう。