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星月の蝶  作者: 碧猫
3章 呪いの聖女
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プロローグ 目的のために


 エレは、彼女を救ったようだ。


 僕も、彼女が救われる事には、良かったと思う。


 あれは、いつだったか。もう思い出す事もできない。僕の忌まわしい記憶だ。


 僕は、本家の当主だった。勝手にそう選ばれた。それに逆らう事なんてできなかった。


 当主として、神獣のためにと動いていた。それで良いと思っていた。それで、少しでも、神獣達が生きやすくなるのなら、僕は喜んで、当主としての役割を果たそう。


 その頃の僕は、そう思っていた。神獣としての生き方に満足していた。


 それが変わったのは、いつだったか。騒がしい夜だという事は覚えている。


「外が騒がしい」


 何かあったかもしれないと、心配で外へ出た。そこで、僕は、神獣の本当の姿を目にした。


 僕を当主と慕う神獣達。それは全てまやかしだ。


 全て嘘で埋め尽くされていた。この場所も、全て。


 絶望した。悲しかった。苦しかった。


 それでも、逃げるしか無いと、必死で逃げた。


 僕を狙う神獣達から。


 どれだけ逃げたんだろう。どれだけ経ったんだろう。何も分からない。自分が狙われた理由すら。


 僕は、自分で言うのもあれだけど、しっかりみんなを纏めていた。当主として、神獣達を纏める主として、役目を果たしていた。恨まれる事なんてしていない。


 何もかも分からないまま、時間だけは過ぎていく。


 何年も経って、ようやく落ち着いた。僕ら神獣からしてみれば、短い時間。だけど、今の僕には、途方もなく長い時間だった。


 自分が狙われる理由は、自分で確かめたい。だから、僕は、神獣達の場所へ戻った。顔が見えないようにして。


 幸い、神獣は、顔を見せない事は普通で、不自然な事では無い。


「どうだった?」


「見つかりません」


「我々の情報を持っているんだ!見つかりませんで済むと思っているのか!」


「申し訳ありません。それにしても、本当に哀れですね。利用されるだけ利用されて捨てられるとは」


「黄金鳥としての役目を果たせなかった自業自得だ。全ての種の頂点に立つという自覚が全く持ってなっとらんかった」


 ただそれだけで。


 他にも色々と調べて知った。神獣のシステムというものを。


 神獣に稀に生まれる黄金鳥は、時期王となる人物。全ての王は、神獣のためを第一とする。全ての種の頂点に立つ者としての独裁。自分達のためだけの世界を作る。

 その理念に相応しく無いと判断すれば即裏切り者と処する。


 他にも色々と。今の神獣は狂っているんだ。歪んでいるんだ。


「いたぞ!」


「追え!」


 見つかった。逃げきれない。


 背後から飛んできた矢が、足に刺さる。ご丁寧に回復魔法を阻害してある。


 僕が足を止めると、魔法と矢が、大量に襲った。


 あんなにも、想って、良くしようとしていたのに、こんな仕打ちだ。どれだけ時が経とうと、絶対に復讐する。そう誓った。


 僕と同じく、裏切り者とされた神獣達のためにも。


 この時、この光景で、僕は神獣達への想いを捨てた。


「大丈夫?」


 無数の矢と魔法を前に、僕の前に現れたのは、黄金蝶。黄金鳥だというのは、後で気づいた。


 全員が敵だと思っていた中で、その黄金鳥は、当然のように僕を守った。


 しかも、癒し魔法。これは、神獣の中でも、ほとんど使えない貴重魔法。


「誰だ貴様は!」


「……君らと話す事なんてない。走れる?」


「う、うん」


 僕を助けてくれた黄金鳥は、僕の手を握って走った。


      **********


 どこまで走っただろうか。追っては来ていない。


「大丈夫?ここなら神獣は来ないから安心して」


 その黄金鳥は、黄金鳥とは思えないほど優しかった。神獣とは思えないほど優しかった。


 見ず知らずの僕を助けて、家に招き入れてくれた。


「はじめまちておねぇちゃん、エレは、エレでちゅ……エンジェリアでちゅ。言えたの!」


「はじめまちておねぇちゃん。ゼロは、ゼロでちゅ……ゼーシェリオンでちゅ。言えたの!」


 子供だ。神獣ではなさそう。年は、三歳くらいかな。


「僕はフォル。よろしくね」


「う、うん。僕は、ローシェジェラ」


「フォル、魔法具できた」


「フィル、らぶなのー」


「らぶなのー」


 また黄金鳥だ。


「客人?」


「うん。神獣に襲われてたとこを助けてきた」


「……おれはフィル。その、あまり喋るのが得意じゃなくて」


「フィルは無愛想だけど良い人だよ。それと、エレとゼロは、魔法の失敗で子供化してるだけだから。ほんとは十六歳」


 魔法で精神まで幼児化する事があるとは。


 この時、僕は、数年ぶりに、心の余裕ができたと思う。自分の境遇の事以外に考えられた。


「落ち着くまで、ここにいて良いよ」


 僕は、その言葉に甘えて、ここで暮らす事になった。


 その暮らしは、前よりは不自由だった。けど、楽しかった。


 僕は、初めて、僕として生きられたと思う。


 そんなある日の事。


「神獣達から逃れる方法はあるよ」


 フォルから、その話を切り出された。僕は、その方法を聞いた。


 それは、眷属契約。


 利用してくださいと言っているようなもの。やるメリットよりデメリットの方が大きい。


 けど、僕はその話に乗った。フォルなら、大丈夫だと思って。


 フォルは、直ぐに眷属契約をしてくれた。新しい名前をくれた。クロって名前。単直で、もっと良い名前があったのではと思ったけど、フォルは気に入っている。フォルだけじゃない。エレ達も。


 僕は、クロとして、この日から生きる事になった。


 頼まれ事はある。けど、僕を尊重してくれる。


 普段は、自由にさせてくれる。不自由は感じさせない。


「エレ、お野菜取ったの」


 エレとゼロは、まだ子供化している。しかも、エレは、緑色の食べ物を全て野菜と勘違いしている。


 それを見て微笑ましく思う。


 僕は、神獣から解放されたんだ。


 けど、そんな中でも消えなかった。僕の中にある復讐心は。


      **********


 数えきれない時が経った今、僕は、ようやく目的を果たす事ができる。


 フォルの頼み事が終わり、契約は終了。僕が頼んで、そうしてもらった。


 フォルは、頼み事をやる前に契約を切ると言っていたけど、ある提案をして待ってもらった。


「ゲームをしようよ。僕を探し出すゲームを」


 僕は迷っている。オルベアの頼みも引き受けて、縁を作ったのも、僕の迷いからだ。


 この復讐心のまま、目的を果たして良いのか。本当にそれで満たされるのか。


 僕は迷っていた。分からなかった。今も、まだ迷ってる。


 それでも、僕はやらないとなんだ。他の裏切り者とされた神獣達のためにも。そう言い聞かせる。


 エレとゼロ、あの二人が笑っているとこへ混ざりたい。

 フォルとフィルと悪巧みをしたい。フィルの魔法具にもっと触れたい。


 フォルの笑顔を間近で見たい。


 迷いは膨らむ。膨らんで、僕を止めようとする。僕をあそこへ帰らせようとする。


 それでも、足を前に出す。もう戻る事のできないその場所へ、足を踏み入れる。その覚悟をする。


 それは奇跡。一つの魔法が起こした奇跡。


 僕の迷いが膨らむ奇跡。


 エレからの頼み。


 世界が壊れるのは望んでいない。だから、それを阻止できるのであれば、喜んで力を貸す。


 久々でもないのに、エレの声が懐かしく感じる。戻りたいと強く思う。


 ごめんと謝る。心の中で何度も何度も。


 ここは特殊な空間。誰にも見つけられない。


 ここで、万全の状態となるまで準備する。必ず成功させるように。


 失敗など許されないから。


 この空間からでは、神獣達の世界へはいけない。いくつか世界を経由しなければならない。その時に見つからないように、最適な世界を厳選する。できるだけ少ない世界の経由で済ませるように、いくつか案を考えて比べる。


 最短で、ここからだと、世界を十個経由しなければならない。これなら、見つかる可能性はかなり低いだろう。


 その世界は全て、神獣達が少ない世界だから、


 僕は、転移魔法を使って、最初の世界へと転移した。


 最初の世界は、水の多い世界。陸が非常に少なく、国は水の中にある。


 この世界で通行証を手に入れないといけない。それは、特殊な道具。僕はそれを探した。

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