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星月の蝶  作者: 碧猫
3章 呪いの聖女
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23話 呪いの聖女になる前


 かつて、ノーズとヴィジェを呪いの聖女から引き離したのは、ミディリシェルとゼノンだ。そして、その二人から、彼女への伝言を聞いているのも。


 ノーズとヴィジェが残した最後の言葉。その内容は、ミディリシェルとゼノンへの謝罪と彼女への伝言。


「やっと見つけた。ノーズとヴィジェを奪った、二人。絶対に許さない」


 真っ黒い闇魔法の弾丸が、ミディリシェル達へと降り注ぐ。


 ミディリシェルが防御魔法を使うが、普段の強度よりだいぶ劣っている。これでは、全て防ぐ事はできない。


「みゅ」


「落ち着いて、エレ」


 フォルが防御魔法を上乗せする。その上乗せで、ミディリシェルの普段の防御魔法の強度以上の強度となった。


「神獣が、なんで邪魔する!」


「ゼロ、氷魔法で落ち着かせるの」


「やってるけど効かねぇんだよ」


「許せない……」


 闇の炎が周囲を燃やす。闇の雲が、天井を覆い、闇の雪が降る。


 闇の雪に触れた部分の防御魔法が、腐ったように破られた。


「ふぇ」


「エレ、浄化魔法」


「ふみゅ」


 ミディリシェルは、フォルに言われるがまま、浄化魔法を広範囲に使った。闇魔法の影響を受けなくなるが、それ以外の効果は見られない。


「浄化魔法じゃだめか……あとは、あれとか」


「ふみゅ?ふにゅ」


 ミディリシェルは、フォルの考えに気づいた。


 呪いの聖女は、本人も呪われている。その認識で良いだろう。


 呪いの聖女を救うとなれば、その呪いを解かなければならない。だが、浄化魔法は効かない。


 それ以外にミディリシェルが思いつく方法は一つだけだ。


 生命魔法でも、できはするのだろう。だが、その呪いを解くだけの生命魔法をミディリシェルは使えない。


 だが、その代わり、ミディリシェルとゼノンには、ある切り札がある。ジェルドの兵器としての切り札が。


「フォル、防御魔法」


「任せて」


 ミディリシェルは、防御魔法を止め、ゼノンと顔を見合わせる。こくりと頷き、二人で向き合った。


 両手を繋ぎ、額を重ねる。


「星の音よ」


「月の華よ」


「清らかな音色を奏でろ」


「清らかな華を舞い散らせ」


 ミディリシェルとゼノンは、同時に演唱する。


 浄化の音色と華が、呪いの聖女を包み込む。その呪いを、浄化する。


 星の音と月の華。ミディリシェルとゼノンだけが使う、特殊な呪言。


 それが、ミディリシェルとゼノンの切り札だ。


「わ、たしは」


「……みゅ」


「エレ」


 呪いの聖女を救う。それを達成したが、ミディリシェルの表情に喜びはない。


「エレ、ゼロ、ノーズとヴィジェは」


「ふぇ、ごめんなさい」


「……エレ、俺から全部話す」


「でも……ふみゅ」


      **********


 ゼノンは、ノーズとヴィジェに何があったのか。リミェラがいない時に起きた事を全て話した。包み隠さず、嘘偽り無く。


「それで、リミェラに、御巫としていられなくてごめんって」


「ごめん。そんな事があったなんて。わたしからも、謝らせておくれ」


 そう言って、元呪いの聖女リミェラが、深々と頭を下げた。


「呪いの事も、全部、リミェラねぇのせいじゃないの。ノーズねぇとヴィジェにぃのせいじゃないの」


「……」


「ふにゃ、ふぇぇぇぇぇん!」


 ミディリシェルが突然泣き出すと、ゼノンが、ミディリシェルを抱きしめた。

 フォルが、側に来て、ミディリシェルの頭を撫でる。


「翻訳機、僕が慰めるから、仕事して」


「誰が翻訳機だ。お前も分かるだろ。リミェラねぇ、まだ、色々と受け入れられてねぇだろうが、過去に何があったか、覚えているなら教えて欲しい」


「それを言おうとするだけで、言えずに泣くってほんと可愛いよね。色々と溜め込んでいたのもあるんだろうけど」


「……ごめん、何も覚えてない」


「ふぇぇぇぇん!」


「エレが、過去を視れるから、視ても良いか?」


「かなり昔だけど、大丈夫?」


「魔法具用意してあるから大丈夫だ」


「なら、わたしの方から頼みたい。エレ、頼めるかい?」


 ミディリシェルは、泣きながら、こくこくと頷いた。


「……」


「エレ?どうかしたのか?」


 ミディリシェルは、泣きながら、ゼノンを見つめた。


 その手には、フィルから貰った魔法具が握られている。


「使い方分かんないんじゃない?」


「ぴぇ」


「……エレ、これ、持っていれば使えるよ?持つだけで使うのは使えないの?」


「……ぴぇ……できるの」


 ミディリシェルは、リミェラの側へ向かい、ぎゅぅっと抱きついた。


 そして、過去視を使った。


      **********


 自然のどかな、田舎の村。この世界のどこかにかつて存在した村なのだろう。


 そこで、リミェラは、ノーズと会っていた。


「ごめん、待った?」


「キミを待つ時間は楽しいから、気にしなくて良いよ」


 リミェラは、遅れてきたノーズに、笑顔でそう言った。


 その後、雑談を数分し、本題へと入った。


「それで、あの三人の様子はどお?」


「最近は落ち着いてっと。ここ最近は発作を起こして無いっと」


「それなら安心だ。ちゃんと薬は飲んでる?忘れてない?特にエレは、苦いから嫌だとか言ってない?」


 リミェラは、ミディリシェル達の事を、一緒にいる時間が短くとも、良く見ていた。


 ミディリシェルが、甘いものが好きで、苦いのは嫌いだからと、苦いものは全て拒み、遠ざける事。

 ゼノンが、それに乗っかり、ミディリシェルに隠れて、遠ざける事。

 フォルが、ミディリシェルとゼノン以外の同年代相手に、仲良くなろうとしない事。


 ノーズとヴィジェに会いに、家へ来た時は、必ず、ミディリシェル達に相手をし、これ以外にも、趣味や苦手な事なども、知っている。


 だからこそ、ミディリシェルがやりそうな事も想像がついた。


「言っとったけん、フォルが毎度、無理やり飲ませてるっけん」


「そうなんだ。それは、良かったと言って良いかな。エレ本人には悪いけど」


 リミェラは、苦笑いをしながら、そう言った。それに、ノーズが、くすりと笑い


「エレちゃんが聞いたら、しゃぁーしゃぁー、言いそう」


 と、笑顔で返した。

 

「そうだね。ノーズ、本当にありがとう。弟達を面倒見てくれて」


「感謝すんのはこっちけん。あの子達は、毎日、手伝ってくれっと、助かってるけん」


「そうなんだ。また時間があれば、そっちに行くよ。今日はこれから仕事あるから、また」


「うん」


 仕事の合間に来ていたリミェラは、話だけして帰った。


      **********


 それから、ノーズとヴィジェに会う機会が無く、ようやく暇になり、二人の家へ向かった。だが、そこに二人の姿はない。それどころか、ミディリシェル達もいない。


 もぬけの殻の家の中、机には書き置きがある。


【世界様が大変な事になっているから、行ってくる】


 どこへ行ったかなど書いていない。手がかりとなるものはない。


 リミェラは、どこへ行ったか分からないノーズとヴィジェを探しに、家を飛び出した。


      **********


 何日も探したが、見つからない。二人がどこに行ったか知っている者に会う事もない。


 それだけではない。世界が、変わってしまった。以前のような優しい世界ではない。以前は、魔物などほとんど見かけない平和な世界だったが、今は、魔物がウロウロと徘徊している。


「御巫候補であり、現在最も御巫へ近いとされる、外面だけは良い御巫候補」


 どこからか、女性の声が聞こえる。


「御子候補への、そう言った言動は処罰対象だ」


「良くそんな事が言える。聖星の御巫候補には好き放題言っているくせに、他の御巫候補への発言は考えろ?そんな事が普通となっているなんて、狂ってるね」


「そんな事は……わたしは止めて」


「止めたつもりになって良い気になっていただけだ。本当に止めていたのは、あの子に親身になっていたのは、フォルと先代当主。それに、あの分家の次男坊だけだ」


 声の主は怒っているのだろう。その怒りは、神獣であるのであれば、理解できる。


「ああ。この世界の邪を受け止める器に選ばれてしまったか。増えすぎた魔力が、変異した先の邪の魔力。同じ神獣のよしみだ。それが膨れない事を願っているよ」


 世界の異変というのはこれの事だ。増えすぎた魔力は、変異の道を辿った。


 その魔力は邪となり、依代を探していた。その依代に偶然、リミェラが選ばれた。


 邪の魔力は、世界と繋がっている。この世界は、ミディリシェルを排除しようとしている。その悪意のような意思は、リミェラに、ある嘘を教えた。


 その嘘は、ミディリシェルとゼノンが、ノーズとヴィジェを隠した。


 その嘘が、リミェラを呪いの聖女へと変動させた。ノーズとヴィジェを探し、ミディリシェルとゼノンへ復讐する事だけが目的の、世界の道具となった。


「……エレ、君は、どうする?どうか、後悔ない道を選べる事を祈るよ」


      **********


 リミェラの過去。そこに隠されていたのは、呪いの聖女となった理由だけでなかった。


 声の主。ミディリシェルは、一人だけ心当たりがある。その心当たりで間違いないだろう。


「……フォル、いつもみたいに視て。フォルは、視ないとだと思うから」


「うん」


 ミディリシェルは、フォルの方へ向かい、額を重ねる。


 過去視で視た内容を、フォルに視せた。


「……これって」


「間違いないと思う。どうして、こんなところにいたのかなんて分かんないけど」


「君は、何をしていたと思う?」


「何かの目的のためにいた。でも、リミェラねぇの事は、助けようとしていたと思うの。あの言葉は、エレ達への怨みを減らすためだったと思うの」


「……うん。きっとそうだよね……ロジェ」


 フォルは、遠いどこかを見つめて、その愛称を呼んだ。


 リミェラに声をかけた主は、ローシェジェラ。目的は不明だが、間違いはない。

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