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星月の蝶  作者: 碧猫
3章 呪いの聖女
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22話 ノーズとヴィジェ


 昔の記憶。真っ白い部屋の中。倒れて意識の無い人々。


「どうしてこんな事をしたの!欲のままに、人を害する魔法を使うのは悪い事って教えたはずだよ!」


「……ノーズおねぇちゃんも、ヴィジェおにぃちゃんも、エレ達を疑うんだね……エレ達は……」


 ミディリシェルとゼノンと対立するのは、呪いの聖女が探していた、御巫候補、ノーズとヴィジェ。


 二人は、ここへ駆けつけてきて、これを全て、ミディリシェルとゼノンが、望んでやったと思っているようだ。


 ミディリシェルとゼノンは、眠らされて、ここへ連れてこられた。

 目が覚めると、既にこの状況だった。


 望んでやったどころか、何もしてはいない。


「信じたかった。けど、これが全てを物語っている」


「本当に、エレ達は何もしてない!どうして、ここだけを見て、エレ達を信じてくれないの!エレがばけものだから?だから……」


 ミディリシェルは、そう言って、泣き出した。


 ミディリシェルの言葉には嘘など一つもない。その行動も、当然嘘ではない。


 だが


「世界様が言っていたよ。エレがこれを全部やったって。その行動も言動も全て嘘だったって」


「全てを見る世界様が仰る事だ。良い加減、その嘘を辞めたらどうなんだ」


 と、ミディリシェルの言葉を信じない。


 世界の声を聞ける御巫候補にとって、世界の声を絶対とするのは、良くある事だ。それが、今の御巫として在るべき姿と言えるだろう。


 世界が嘘を吐かない。そんな事は無いと、ミディリシェルとゼノンは良く知っている。


 ノーズとヴィジェから、軽蔑の目を向けらる。


「なんで、エレの話は聞かずにそうなるんだよ!世界が嘘を吐いていて、エレが本当の事を言っていると思わねぇのかよ!」


「世界様は、全てに公平で正直な存在。世界様は、真実だけを伝え、嘘を伝えるわけはない」


 この回。転生して、ミディリシェルとゼノンは、幼い頃からずっと、ノーズとヴィジェといた。二人を、家族のように接していた。そう思っていた。


 これからも、そうであると思っていた。


 話し合えば信じてくれる。そう信じていた。


「世界は、そんなに都合良く出来てねぇよ。そんな事で、俺の大事なエレに手を出すなら、俺がエレを守る。誰が相手でも」


「そう。それが、決めた事なら仕方ない」


「世界様にゼロだけでも助けて貰えるように頼もうと思っていたのに……」


 ゼノンの意思に、ノーズとヴィジェが、残念そうに言う。


 信じていた相手に裏切られた。信じてなど貰えず、たまに話す世界を盲信的に信じている。


 少しでも、自分を想っていれば、話を聞いて、考えてくれるのではないか。


 初めから、どうでも良かったのではないか。


 一度考えてしまえば、終わる事のない思考。


 それは、ミディリシェルが持ってはいけない感情だ。


「やだ。もう、もう誰もいらないの」


 聖星のとは言われているが、ミディリシェルのこれは、ジェルドの兵器としての力。愛姫としての力。


 精神状態が不安定になり、持ってはいけない感情が芽生え、暴走する手前まできていた。


「エレ、だめ」


「いらないの」


「エレ、俺がずっとエレを信じるから。エレといるから。だから、落ち着いてくれ」


「……ぷみゅ」


 この回、ミディリシェルとゼノンの記憶は、半分程しかなかった。前世界の事など、ジェルドの事は何も覚えていない。

 しかも、昔から、かなり精神的に不安定だった。


 そんなミディリシェルを支えていたゼノンとフォル。この回のミディリシェルが絶対とするのは、その二人の言葉だけだ。


 ミディリシェルは、ゼノンが信じると言う。その言葉を信じた。


「今までありがと。ノーズおねぇちゃんとヴィジェおにぃちゃんの事は好きだった。それに、何もされてないし、エレも本気で望んでるわけじゃない。だから何もしない。けど、エレを傷つける相手ともう一緒にはいない。それと、もう、俺らと関わらないでくれ。さようなら」


 ゼノンがミディリシェルを抱き上げ、転移魔法を使った。


      **********


 その日から、何日経ったかは分からない。


 世界の魔力の動きがおかしい事に気づいたミディリシェルとゼノンは、その原因を調査する事にした。


 具体的に言うと、この世界に魔力があり得ない程増えている。


 その魔力の動きを観察し、この世界の神殿を訪れていた。


「ここにあるはずなんだが」


「ないの」


 他の世界の魔力を吸収する何か。それが、ここのどこかにあるはずだ。


 だが、それが隅々まで探しているが、見つからない。


「早く見つけねぇと、この世界に悪影響が出る」


「ふみゅ。早く見つけるの。でもないの。不思議なの」


「何言ってんだ?」


 ミディリシェルは、興味本位で、適当に壁を触りまくった。


 ぺたぺたと壁を触りまくっていると、ミディリシェルは、偶然見つけてしまった。


 隠し扉というものを。


 隠し扉が動き、暗い道が続いている。


「ふみゅ。偶然なの」


「そうだな」


「……みゅ」


 ミディリシェルは、早く行きたいと、ゼノンの手を握った。


「暗いから転ないように気をつけろよ」


「エレは、気をつけても転ぶの」


「それでも、気をつけねぇのと気をつけるのじゃ違うだろ」


「ふみゅ。じゃあ、気をつけて転ぶの」


「……」


 ミディリシェルは、転びやすい。何もないところでも転ぶ事がある。暗い場所であれば、その確率が上がる。


 ミディリシェルは、得意げに「転ぶの」と、もう一度言った。


「神殿に隠し扉。冒険の予感なの」


「冒険じゃねぇだろ」


 ミディリシェルとゼノンは、隠し扉の先へと、歩く。


 歩いていると、魔力が、どんどん増えているのが視える。この先に、魔力を吸収する何かがあるのだろう。


「ふみゅ、魔力が多いの」


「ああ。そうだな」


      **********


 隠し通路の奥まで進むと、巨大な扉が閉まっている。

 扉には、氷と蛇が描かれている。


 この模様は、見覚えがあった。


「氷と蛇だから、氷神蛇だよね?信仰心が高いとか聞いた事あるけど、何を信仰しているの?」


「俺が知るわけねぇだろ」


 神獣の中の一種。氷神蛇。一つのものへの信仰心が非常に高く、常に集団行動をとっている。

 氷の蛇だが、氷魔法が得意という事ではない。氷を纏う蛇が真の姿だからというだけだ。得意ではないどころか、氷神蛇の殆どが氷魔法は使えない。


「これどうやって開けるの?ゼロ、開けて」


「フォルから貰ってる、黄金蝶の証のペンダントと本家の証のペンダントをかざせば開く。こういう扉の奥は、信仰するものがあるとか、何かの研究をしているとか。安全上の理由で、同種の証がねぇと入れねぇらしい。この二つは別だが」


「ふみゅ。ゼロ詳しいの」


「お前も聞いてただろ」


 ミディリシェルとゼノンは、フォルから貰ったペンダントを、扉にかざした。


 グウィィンと、扉がゆっくりと開く。


 扉の奥には、巨大な魔法陣がある。これが、魔力吸収の原因だろう。


「エレ、帰るぞ」


「でも」


「これ以上いる必要ねぇだろ」


 理由は分からない。ノーズとヴィジェもここにいる。


 関わりたくないからと、ゼノンがミディリシェルを連れ帰ろうとすると、突然、部屋が真っ白くなった。置かれていた、信仰道具らし像なども無くなっている。


 そして、時限式の魔法のカウントダウンが始まった。


 カウントダウンに気づいたミディリシェルは、ノーズとヴィジェを助け出そうとするが、ゼノンに腕を掴んで止められた。


「助けないと」


「助けようとしたら巻き込まれるだろ」


 入り口にいたミディリシェルとゼノンとは違い、ノーズとヴィジェは、魔法陣の上、部屋の中央より奥にいる。このままでは、魔法にかかるだろう。


「エレ一人なら、二人を助けられるよ。全部、エレのせいなんだから、エレが、助けないと」


「そんな事、させられるわけねぇだろ。俺らにとって、エレが一番優先なんだ。それに、あんな事言われたのに……助けたとしてもまた」


「だったら、助けた後に関わんなければ良いの!助けて、ばいばいすれば良いの!」


 どんな事があろうと、ミディリシェルは、ノーズとヴィジェを見捨てる事ができない。


 だが、ゼノンは、ミディリシェルの腕を離さない。


「どうして離してくれないの!」


「あれは、時間の流れを極端に遅くする魔法だ!お前なら、二人を助けられるかもしれねぇが、それをしたら、間違いなく、お前が巻き込まれるんだよ!そんな事、させられるわけねぇだろ!」


「でも」


「少し落ち着け。エレが望むなら、助ける事はできないが、最後の声を聞ける」


「声を聞けたからって助けないと」


「エレ、俺の側からいなくなる気?」


「……声、聞く」


 ゼノンは、本当なら使いたくない手段まで使ってミディリシェルを止めている。


 それを理解したミディリシェルは、ゼノンの提案に乗った。


 納得はしていない。それでも、ゼノンの側から離れる事はできない。いなくなる事はできない。それが、この回のミディリシェルとゼノンの関係だから。


 ミディリシェルとゼノンは、扉の外へ避難し、ノーズとヴィジェの最後の言葉を聞いた。


 その言葉に、ミディリシェルは、泣き、ゼノンは、ノーズとヴィジェがミディリシェルにした事を許した。

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