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星月の蝶  作者: 碧猫
3章 呪いの聖女
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21話 昔のような


 翌日、ミディリシェル達は、再び、呪いの聖女のいる世界を訪れた。


 緑の自然豊かな世界に、小さな魔物達が、遊んでいる。


 呪いの聖女は、見当たらない。


「にゃぅ。にゃぅにゃぅ。ないの。いないの」


「あの洞窟の中でしょ」


「ふみゅ」


 目の前に、地下洞窟がある。


 小さな魔物も、良く見ていると、その中から出入りしているようだ。


 この小さな魔物が帰るのを辿っていくと、もしかすれば、呪いの聖女がいる場所へ辿り着けるかもしれない。

 ミディリシェルは、小さな魔物をじっと見つめて、帰るのを待つ。


「……」


「エレ?」


「……」


「どうしたの?」


「帰らないの⁉︎」


「うん。もしかして、魔物について行こうとしてた?ついて行っても多分、見つからないと思うよ?」


 フォルが、呆れた表情で、そう言う。それを聞いたミディリシェルは、「ふみゃ⁉︎」と声を出して、驚きのポーズを取った。


 魔物について行っても見つからない。それ以外に、呪いの聖女を探す方法を考えるが、何も思い浮かばない。


 ミディリシェルは、「うーん」と唸り、両手を顎に当て、悩んでいる。


「洞窟入って探せば良いだろ。洞窟って事は分かってんだから」


「……ふみゅ。洞窟に入るの。オルにぃ、ゼロ連れていくの」


「ああ」


 ミディリシェルは、フォルの手を握り、洞窟の方へ向かって歩いた。


「ふみゅ?全然進んでない気がするの」


「そうだね」


「ふみゅ」


 歩けど歩けど、洞窟へ近づかない。距離が変わらない。


 ミディリシェルは、不思議と思いながらも、歩いている。


 だが、歩いているだけでは何も変わらないのだろう。距離は変わっていない。


「みゅぅ?」


「これ、魔法だろ」


「うん」


「空間系の魔法だ……解呪魔法で解けるが、また直ぐに再生するようにできてる」


「……エレ、お得意のあれで。空間系の魔法を維持、再生するようにできているだろうから、塗り替えられる程の魔法で上塗り戦法」


「ふみゅ。フォル天才なの」


 ミディリシェルは、一度フォルに抱きついてから、収納魔法から魔法杖を取り出そうとした。


「あっ、エレ、これ返すよ。転生前に預かっていたの。ゼロにも」


「みゅ?ふみゅ。ありがと」


 見た目は可愛らしく収納しやすいステッキ。


 ミディリシェルは、かつて、太腿に、レッグストラップを付けて、収納していた。そのレッグストラップも、フォルから渡された。


 ミディリシェルは、左足の太腿にレッグストラップを付ける。ゼノンは、右足だ。


「僕も一応こっちでやっとくか」


「収納魔法だと、何かあったら困るの」


「うん」


 フォルも、ミディリシェルと同じ左足だ。


 ミディリシェルはステッキを手に、魔法を使う。


「ふみゅ。世界の再構築なの。歌の世界で再構築なの。メロディーズワールドなのー」


 ミディリシェルは、メロディーズワールドを使い、空間魔法を上乗せした。


 歩き出すと、今度は、洞窟に近づいている。


「ふみゅぅ。成功なの」


「流石だ。音魔法と創造魔法と空間魔法を重ねた特殊魔法。一人でも、ここまでの精度になっていたとは。その成長を側で見たかった気もするが、今日見れた事に感謝しよう」


「ふみゅ。じゃあ、なでなでするの」


 ミディリシェルが、歩きながら、妹のように思っているミディリシェルの成長に感激するオルベアに、頭を撫でるように要求する。

 オルベアが、ミディリシェルの隣に来て、頭を撫でた。


「洞窟まで近いの。もう直ぐなの」


「うん」


「洞窟って暗くてじめじめしていると思うの。だから、エレの髪が重くなっちゃうの。対策を考えろなの」


「その髪飾りがあるから大丈夫だよ」


「そういえばそうだったの」


 ミディリシェルがフォルから貰った、羽根の髪飾り。記憶の戻った今のミディリシェルなら、この髪飾りが何か分かる。


 感情シリーズ。そう呼ばれている特殊なアクセサリーが存在している。その一つが、この羽根の髪飾り。感情に合わせ、様々な動きを見せる。


 感情シリーズは、その感情の動きを見せる以外にもそれぞれ、いくつか効果がある。


 この羽根の髪飾りの効果の一つに、髪を羽根のように軽くするというものがある。これで、ジメジメ湿気での、重い髪にも悩まされる事がない。


「これで洞窟の中安全なの。中に入るの」


「それだけで安全なわけはないんだけど」


「髪問題だけでなんで安全だと思えるんだよ」


 ミディリシェルは、ゼノンとフォルの言葉を無視して、足軽に洞窟へ入った。


      **********


 洞窟の中は、人が手入れしたような痕跡がある。


 ミディリシェルは、「ふんみゅん」と言いながら、にこにこと笑って、壁を触りまくる。


 洞窟といえば、罠。罠といえば、洞窟。


 少なくとも、ミディリシェルの中では、そうなっている。


 そして、罠といえば、最も有名なのが、壁を触っていたら、ボタンを押すというものだ。ミディリシェルの世界では。


「なぁ、何やってんだ?」


「罠なの」


「何が?」


「ゼロ、この場合は、何か罠があったじゃなくて、罠を探しているだと思うよ」


「わざと罠に嵌り、その回避法を学ぶ。その心意気、意欲、流石は、未来の妹だ」


 ミディリシェルが、楽しんで罠を探していると、オルベアが、感心している。


 神獣にとって、罠にかかる事への対処は必須事項だ。


 進んで、それをやろうとしている、ミディリシェルの意欲には、神獣として、感心するのだろう。


 ミディリシェルは、ににゃぁと不敵な笑みを浮かべた。

 それを見た、ゼノンも、ににゃぁと不敵な笑みを浮かべ、壁を触り始めた。


「ゼロ、ゼロ」


「ああ。外堀が大事って教えたの覚えてくれたんだな」


「ふみゅふみゅ。こういうのが大事なの」


 神獣にとって必須事項。オルベアが、感心している。


 それはつまり、神獣の文化や常識を学んでいるという証明になる。それを学んでいれば、神獣の番になるに相応しいと周りが認める。周りの感心を得る。

 そうすれば、フォルも認めざる得ない状況となる。


 というのが、ミディリシェルとゼノンの妄想だ。


 ミディリシェルとゼノンは、罠が無いか、念入りに探しながら、洞窟の中を進む。だが、罠は見つからない。


      **********


 だいぶ洞窟の中を進んだが、罠も呪いの聖女も見つからない。


 入り口付近は暗かったが、奥に来ると明るくなっている。


 見た目は普通の洞窟と変わりないが、異様な空気が漂っている。


 その空気が、呪いの聖女が近い事を感じさせている。


「ふみゅ。もう少しなの。そんな気がするの」


「そうだな」


「フォル、オルにぃ、どこまで手伝ってくれるの?」


「いくら仕事関係無くとはいえ、意向に逆らう事はできない。今はまだ」


「僕は、守るくらいなら。君らは、ギュゼルに入りたいらしいから。僕は、賛成では無いけど、本気なら、せめてこのくらいは、ね」


 フォルが、にっこりと笑って、そう言う。


 ミディリシェルとゼノンは、その言葉に、数秒目を見開くが、直ぐに、二人で喜んだ。


「エレ、エレ、フォルが、なんだか完全に吹っ切れてるのー」


「みゃ。吹っ切れてるのー」


「前のあれは無しだから、見習い試験からだよ。それに合格できれば、考えてはあげる」


「ふみゅ。ねぇ、フォルが、本当の昔のように戻ってきているのは、エレとしても嬉しい限りなの」


 ミディリシェルの知る、一番大好きだった頃のフォル。

 今のように、黄金蝶というものに縛られずにいられた。ミディリシェルとゼノンを、婚約者として見てくれていた。

 短い時間だったが、一番フォルに近かったのは、その頃だろう。


 ミディリシェルは、遠い昔に想いを馳せながら、フォルに、笑いかけた。


「そうなりたいんだけどね。何も気にせずに、君らと一緒にいたいよ」


「ふみゅ。でもでも、フォル、御巫に選ばれて結婚。なら今は恋人で良いと思うの。だから、一定の距離置こうとか無くて良いと思うの」


「恋人……そう、かもしれない。僕らにそういう概念って無かったから、候補は恋人なんて考えなかったよ。前も、婚約者で恋人なんて無かったから」


「そういえば、エルグにぃやルーにぃも恋人知らない気がするの。オルにぃも?」


「恋人……ああ!あの伝説か」


「エレ、オルにぃは、こういうのに疎いって次元じゃないんだ」


 ルーツエングとイールグは、御巫候補を恋人というより、友人のように接している部分がある。御巫になれば、結婚。それ以前はないのだろう。

 フォルも、御巫候補を恋人と認識してはいなかった。

 

 だが、オルベアは、それ以前の問題のようだ。

 恋人を伝説的存在か何かと認識している。


 ミディリシェルとゼノンは、互いに顔を見合わせ、頷いた。


 たとえ共有無しでも、言いたい事は伝わる。


 聞かなかった事にしよう。


 それが、互いの意思だ。


「ふみゅ、ここにいる気がするの」


 洞窟の中に、不自然な扉がある。


 恐らくは、その扉の奥に呪いの聖女がいるだろう。


 ミディリシェルは、扉に触れた。


「開けるの。良いの?」


「早く開けろよ」


「ふにゅ」


 ミディリシェルは、扉を開けた。


 扉の奥は、花畑が広がっている。


 その中央に、夕陽のような赤髪と琥珀色の瞳の女性が佇んでいた。


「ふみゅぅ、リミェラねぇなの」


「ああ」


 呪いの聖女が、ミディリシェルとゼノンを見て、口を開いた。


「やっと見つけた」

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