20話 合流
ミディリシェルを寝かせて、オルベア達の到着の知らせをルノから貰った後、フィルにミディリシェルを任せて、フォルは一人で会議室へ向かった。
会議室には既に管理者全員がいる。オルベア達も。
「エレは?」
「寝てる。昨晩、リューヴロで宴やったんだって。それに参加して眠いみたい」
「酒は?」
「ゼムとルーが一緒だったから大丈夫だとは思うけど。このくらいちゃんと保護者してくれれば良いのに」
「俺たちにとって、エレは、罪の証であり、大事な妹。本当は、本家でずっと面倒見ておきたいくらいだよなぁ」
「そうだな。せめて、もっと、頻繁に来て欲しいが」
「最近は忙しくて会いに行けないからな。ついでに、今日は休みだと。仕事関係無い」
ミディリシェルは、神獣達が本来であれば、保護しなければならない存在だ。オルベア達は、その理由以外にも、ミディリシェルを大事に思っているのだが、ミディリシェルに抱く想いに、その部分も少なからず入っている。
だからこそ、余計に、外へ出したく無い、面倒を見ておきたいというのは、フォルも同じだ。だが、多くの神獣は、そうでは無い。
その罪を、全てミディリシェルに押し付けている。
それが原因で、ミディリシェルを本家には置いて置けなくなっているのが現状だ。
それで、中々会えないミディリシェルの近況を、集まった機会に知りたいのだろう。できれば会いたいとすら思っているのだろう。
ミディリシェルが、眠いと言って寝ていて、今は会わせる事などできないのだが。
ミディリシェルを想ってくれている事に、内心感謝しながら、フォルは、会話に出てきた、別の事について触れた。
「ギュレーヴォ様、セイリション様、もしかして僕、幻聴でも聞いた?ルノ達にも聞きたいんだけど、誰か、オルベア様が、今日は休みって言っていたの聞こえた?仕事関係無いって。あっ、もしかして、やすみって何か別の意味で、しごとかんけいないっていうのも、神獣達の間でそういうのが流行ってるの?」
神獣は常に、自らの役割を全うしなくてはならない。特に、オルベア達のような重役は。それに、休みの概念は存在しない。
それを知っているフォルであれば、疑問に思わずにはいられない言葉だった。
その疑問を、素直に尋ねると、「言ってた」という声は聞こえるが、「言ってない」という声は聞こえない。これは幻聴では無いようだ。
だが、フォルの疑問はそれだけでは無い。その疑問の前提の部分から疑問があった。
「そもそも、休みって言葉知ってたの?」
「それは知っているに決まってるだろう」
「ククッ、オル兄上は、休みという言葉を知らないと弟に思われる」
「ギュー、笑うなら、オルベアがいないところだ」
「休み……そうだ!今日から、暫く、管理者のみんなには休みを与えるよ。ナティージェに頼んでおくから、存分に癒しのひと時と、僕らでいうとこの最低限の護身を学ぶと良い。こっちの事は、セイにぃ様……もう良いかこっちで。とギューにぃ様に任せて良いかな?それと、仕事関係無いなら、オルにぃ、呪いの聖女の事、協力して」
フォルの考える対策としては、結界の強化と侵入事の対策となる魔法機械の配置。これは、ミディリシェルとフィルに頼むのが一番良いだろう。管理者達に関しては、神獣相手でも身を守れるよう、ナティージェから護身術を学ぶ。
それまでの間は、セイリションとギュレーヴォ。フォルの義兄達に任せる。
「フォルいないと寝れないのー」
「あっ、可愛い乱入きた」
「フォルぎゅぅ」
ミディリシェルが、突然会議室に入って来て、フォルに抱きついた。
「エレ、セイにぃ様とギューにぃ様はこっちに残るから、今のうちに可愛いとこ見せておくさ」
「みゅ。セイにぃ、ギューにぃ。可愛いエレなの」
ミディリシェルは、セイリションとギュレーヴォの方へ頭を撫でてもらいに行った。
「みんなは、さっきの話で良いかな?それと、オルにぃ様、エレにこっそり甘いもの渡さないでくれる?」
「気のせいだ」
オルベアが、こっそりミディリシェルの手にお菓子を置いていたのが見えた。魔力吸収量に影響が無いお菓子だ。
「そろそろ戻らないと、ゼロが拗ねるかもなの。オルにぃ、今日は頑張って、エレが転移魔法使うの」
「君が使うと、どこに行くか分からないからだめ。そういうわけだから、みんなよろしく。フィル、転移魔法よろしく」
「自分でやれば?」
「エレがやるの」
「……おれがやる」
ミディリシェルにはやらせたく無い。それは、フィルも同じだったようだ。ミディリシェルが、転移魔法を使うのを立候補した途端、そう言い、転移魔法を使った。
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転移魔法を使い、ミディリシェル達は、エクリシェへ戻った。
エクリシェへ戻った途端、ゼノンが、ミディリシェルに抱きついた。普段は、そこまでする事が無いのだが、顔を擦り寄せている。
「ふみゅ?今日はゼロが甘えっ子なの。可愛いの」
「ゼロ、花はちゃんと渡せた?」
「撫でたら答える」
「みゅ」
ミディリシェルが、フォルの代わりにゼノンの頭を撫でる。
「渡した。だから褒める」
「ふみゅふみゅ。えらいえらいなの。すきすきなの」
「呪いの聖女の事で話たかったけど、できそうに無いね。オルにぃ様、エルグにぃ様、三人で話そう」
「ふぇ⁉︎やなのー!ゼロぽぃするから、エレも一緒に行くのー」
「俺も一緒に行くからぽぃはだめなのー」
ミディリシェルとゼノンが、フォルに抱きついた。
「ちゃんと話聞く?」
「聞く」
「聞く」
「フォル、こっちに話を聞けそうに無い二人がいる」
「気にしなくて良いの。ただの二日酔いなの。エレ達みんな、お酒飲んで無いのに不思議」
ミディリシェルが、そう言って、両手を顎に当てた。不思議と言いたげな瞳をフォルに向けている。
宴ってこういうものなのとでも聞きたいのだろう。
フォルは、にこにこといつも以上に笑って
「ゼロ、ゼムとルーと水遊びしよっか」
と、言った。
「みゅぅ?」
「びしょ濡れなれなれー。びしょ濡れろー」
ゼノンが、楽しそうにゼムレーグとイールグに、水魔法を使い、水を大量にかけた。
びしょ濡れになった、ゼムレーグとイールグを見て、フォルは、声に出さずに笑っている。
「酔い覚めた?エレをベッドに連れてってくれなかったの反省した?エレはねむねむちゃんとできなかったの。だから、反省しろなの」
ミディリシェルは、ゼムレーグとイールグに近づいて、じぃっと見つめて、そう言った。
それには、普段のミディリシェルでは考えられない圧を、感じさせられる。言い訳など受け付けないという。
ゼムレーグとイールグは、ミディリシェルから、視線を逸らした。
「いつになったら話できるの?」
「ふみゅ⁉︎おとなしくするの」
ミディリシェルは、ピタッと、動きを止めた。
「ようやくできる。呪いの聖女の事なんだけど、まず、初めに言っておきたい事が。僕とエレとゼロとオルにぃだけでなんとかするから、ここにいて。フィルは、結界魔法具の強化を行なって欲しいんだ」
管理者の拠点の事があった。ここも安全とは限らない。
ここには、管理者の拠点以上に機密情報が置かれている。もし、神獣達の狙いに、機密情報の入手があるのであれば、ここが狙われてもおかしくは無い。
ただの機密情報であればまだ良いが、ここには、ミディリシェル達、御巫候補の安全に関わるようなものまである。
それを守るため、ここに残しておきたい。
できれば多い方が良い。という事で、呪いの聖女の件に関しての人員を最低限にする事にした。
「それと、呪いの聖女の正体だけど、黄金蝶で確定で良いんだよね?オルにぃ様」
「ああ。聖星の御巫候補ノーズと、聖月の御巫候補ヴィジェを選んだ、黄金蝶リミェラ」
「神獣の意向がどうであれ、僕は、救いたいと思ってる。彼女は、自分の意思で呪っているわけじゃ無いと思うんだ。だから、許せとまでは言わないけど、ちゃんと、話を聞いて欲しい。話して欲しい」
「そんなの当然だろう。話を聞いて、自分でやった責任として、自分がその事実を受け入れるまで、何度でもぶつかってやる」
「……うん。そうだね。ありがと」
「おにぃちゃん、魔法具ってできてる?」
「できてる」
ミディリシェルが、フィルから、魔法具を受け取った。前に頼んでいた、過去視を使う時、遡れる範囲を増やす魔法具だ。
「ありがと。これで、どうにかできると思うの。がんばるの。あした」
「そうだね。明日にしよう。エレが眠いと、魔法を失敗するかもしれないから」
「みゅ」
ミディリシェルは、フォルがいない事に気づき起きているため、満足に寝てはいないのだろう。まだ寝足りないはずだ。
「ゼロ、一緒にねむねむするの。フォルも」
「うん」
「ああ」
「そういうわけだから、ここの事はよろしくね。それと、エルグにぃ様は、僕の仕事もよろしく。にぃ様が見ないといけないのしか残ってないから」
「ふみゅ⁉︎そういえば、調合免許の更新が」
「しといたから大丈夫だよ」
「みゅ。ありがとなの」
フォルは、ミディリシェルとゼノンを連れて、エクリシェ中層の自室へ戻った。