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星月の蝶  作者: 碧猫
3章 呪いの聖女
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19話 管理者の拠点襲撃


 ミディリシェル達が管理者の拠点へ着くと、いつもと違っていた。


 綺麗な廊下が、荒らされている。赤い液体がぽつぽつと落ちている。


 これは、誰が見ても分かるような異常事態だ。


 ミディリシェルは、音魔法を使い、広範囲の音を聞いた。戦闘音は聞こえない。足跡も聞こえない。


 全てが終わった後のような状態だ。


「書庫にネージェ達がいるはずだ」


 フォルが走って記憶の書庫へ向かう。ミディリシェルとフィルは、その後を追った。


      **********


 記憶の書庫。そこは通常であれば、静かで温かみのある光に包まれている。見渡す限り、この世界が生まれてからの本が綺麗に並べられて置かれている。


 だが、その本が散らばっている。


 真っ赤な液体の上に、三人の少年少女達が倒れている。


「フォル、エレが癒し魔法使うの」


「……ありがと」


 ミディリシェルは、癒し魔法を使い、少年少女達の傷を癒した。


 傷が治るが、起き上がらない。


「ジュリンとジュリアが心配だ。そっちを見に行こう」


「うん」


「エレ、こっちの方が早いから」


「ふみゃ」


 ミディリシェルは、フォルに抱き上げられた。お姫様抱っこをしてもらう。


 ジュリンとジュリアこと、ディグジェとディシェアがいるのは、地下の階段を降りた先。その階段を降りるのに、ミディリシェルがいれば遅くなるだろう。今は一刻も早く行きたいという事で、フィルがミディリシェルをお姫様抱っこで連れて行ってくれるようだ。


「ふみゅ。いそいそで行くの」


「ああ」


 結界を張り、ミディリシェル達は、急いで、地下まで向かった。


      **********


 前回にミディリシェルとゼノンがフォルを探すために来た場所。そこで、ディグジェとディシェアが倒れている。


「フィル、様」


「ごめん、もっと早く来れなくて。今治す」


 フォルが癒し魔法を使い、ディグジェとディシェアの傷を癒した。


 ディグジェとディシェアは、起き上がると、何が起こったのか、説明してくれた。


      **********


「私達が知っている範囲ですが」


「ありがと。助かったよ」


 ディグジェとディシェアの説明によると、襲われたのは、昨日。

 ここには結界が張られており、外部からの侵入は不可能に近いが、不可能ではない。


 神獣のような、古代から存在する種族であれば尚更。


 他は知らないが、ディグジェとディシェアは、エリクフィアに襲われたと証言している。


 だが、エリクフィアでは、この結界を突破する事ができるとは考え難い。


 管理者は、神獣との関係がほぼ無い。ここで、その話題を出す事は誰もしない。


「少し休んだら、会議室に来て。ゆっくりで良いよ。ネージェ達が、書庫にいるからついでに呼んでおいて。エレ、執務室へ行こう」


「ふみゅ、エレ、まだこれでいないと?」


「上りもあるから」


「そうだよ。階段上りきるまでは我慢して」


「ふみゅぅ。上ってもこのままで良いの。ずっとこのままで良いの」


 ミディリシェルは、話している間もフィルにお姫様抱っこされていた。


 できればこのまま、降りたくは無い。ずっとフィルにお姫様抱っこされていたい。歩くのはやだ。それが、ミディリシェルの本心だ。


 だが、そんなに優しい事は無い。


「階段を上ったらすぐ降ろす」


 フィルが、そう言って、階段を上り始めた。ミディリシェルは「やーだーやーだー」と言っていたが、それを、フィルが効いてくれる事など無かった。


      **********


 階段を上り、ミディリシェルは、宣言通り、お姫様抱っこから降ろされた。


 不機嫌に、頬をぷぅっと膨らませて抗議をするが、フィルだけでなく、フォルまで無視している。


「エレ、手、繋いであげるよ」


「ぷみゅぅ。ぷみゅぷみゅ」


 フォルが、手を繋ぐと言うだけで、ミディリシェルの機嫌は直った。というより、さっきまでの機嫌が悪かった理由を忘れたと言った方が正しい。


 ミディリシェルは、喜んで、フォルと手を繋ぐ。


「執務室はここだ」


 扉など無い、見た目はただの壁。その前で、フォルが立ち止まった。


「ぷみゅ。ぷきゃん!ぷみゅぅ」


 ミディリシェルは、フォルから手を離して、走って壁に激突した。


 泣きながらフォルに抱きつき、フォルの胸にすりすりと顔を擦り寄せる。

 フォルは、困ったように笑いながら、ミディリシェルの頭を撫でた。


「エレ、可愛いけど、後にして。後で満足するまで……側にいてはあげるから。撫で撫でも」


 すりすりは一番の愛情表現。ミディリシェルの自論だ。


 このまますりすりしても良いと言ってくれれば、ゼノンの言う既成事実というものになるのにと、フォルの腕に猫パンチを繰り出した。


「ぎりぎり回避で、愛情度下がる」


「エレがこの程度で」


「……みゅぅ。エレの愛情度は、下がりました」


 ミディリシェルは、本読みでそう言った。だが、それは無視され、フォルが、右手で壁に触れた。


「魔力に反応して開くって前に教えた気がするんだけど」


「ゼロだったら、きらいって言ってたのに」


 フォル相手では、甘くなるミディリシェルは、ゼノンと同様の扱いをフォルにはできない。


 ゼノンが同じ事を言えば、間違いなく、間髪入れずに「ゼロきらい」と、膨れっ面で言っていたのだが。


「エレ、中入るよ」


「ふみゅ」


      **********


 ミディリシェル達が中に入ると、ここには三人いた。

 

「フォル……その」


「謝らなくて良い。それより、何があったか聞かせて。今後の対策を考えないとだから」


「ふみゅ。その前に、怪我治すの」


「うん。そうだね」


 他の管理者達よりかは軽傷だが、それでも、かなり酷い怪我をしている。


 フォルが、癒し魔法を使い、三人の傷を治す。


「エクーは、ここにいるだろうと思ったけど、ルノとレイがいるなんて珍しいね」


 エクランダ帝国の先代皇帝であるエクルーカム。フォルの従兄のルノ。それに、管理者としてルノの相方を長年勤めている、レイン。


 エクルーカムが、ここへいるのは、フォルが何か頼んでいたのだろう。だが、ルノとレインには、何も頼んでいず、自主的にここへ来ていたようだ。



「ここで結界の誤作動を調べられるから。誤作動なんてしてなかった」


「ルノやエクーから聞いていた、神獣って名乗る人達が突然ここへ来て、自分達の身を守るので手一杯で、他のみんなは……」


「大丈夫。みんな無事だ。それにしても、襲撃を受けたとか言ってる割には、ここは綺麗だけど?」


 ここだけは、何故か、多少家具が壊れているだけで、他の被害は見られない。他の場所よりかは、だいぶマシだ。


「大事なものとかあるから」


「身の危険感じてんなら、そんな事ほっといて、自分の身を守る事だけに専念しろ。いくら、神獣と、それと同等に近い実力を持っているとしても、それを最優先にしろ。前から、そう言っているはずだ」


「ぷみゅぷみゅ。お怪我するのはやなの。エレが怒るの。次はエレ怒るの。だからだめなの」


「だってさ。理由は違えど、君らにとっても大事な姫君を怒らせる気?」


 ミディリシェルが、腰に手を置いて言うと、フォルが、援護した。


 ミディリシェルは、エクルーカムにとっては、失った記憶の一部と自らの正体を思い出させてくれた恩人。


 レインにとっては、管理者になるきっかけとなり、居場所が無かったところを、ゼノンに、ロストとして迎え入れるように進言している。


 ルノは、ギュリエンの双子姫の片割れであるミディリシェルの世話係として、何年もの間働いていた。そこを守っていた一人がミディリシェルという事もあり、恩があると、昔言っていた。


 だからこそ、ミディリシェルが怒るというのであれば、頷く事しかできなかったのだろう。


「ふみゅ。でもでも、それがあったとしても、室内戦闘が慣れてない感すごい気がするの。エクーとか、ひっろい玉座の間で玉座に座って召喚魔法とか使うだけだったから、こういうのは慣れてないって感じあるの」


「ルノもレイも、外での魔物討伐が殆どで慣れてない感がある」


「うん。二人の言う通りだ。そこも慣らしておかないとだね……ルノ、オルにぃ様……オルベア様達に連絡取れる?ここに来てもらうように」


「多分……今の時間なら大丈夫だと思う」


「ぷみゅ。今は、早朝なの。あっちは。そんな気がするの。フォル、確認よろしくなの」


 神獣達のいる世界は、時間の流れが異なる。神獣である、ルノの連絡魔法具には、その時間を調べられる。

 ルノが連絡魔法具を見ている間に、ミディリシェルは、フォルに、特製時間表示魔法具を渡していた。


 ミディリシェル特製時間表示魔法具。それは、現在確認されている、妨害を受けていない全ての場所の時間を見る事ができる、ミディリシェルが設計制作をした魔法具だ。


 その性能は凄まじく、どれだけ距離が離れていようと、最長三秒で、一秒の誤差も無い正確な時間を表示する。


「うん。朝だね。まぁ、時間なんて関係無しに連絡して良いと思うけど」


「ふみゅ?フォル、エレ寝たいの」


「ああ、そうだった。僕が使ってる部屋で寝よっか。ルノ、オルベア様達の到着次第、会議室集合。今後の事について話し合おう」


「おにぃちゃんも一緒にねむねむするの。どぉせ、きのぉもろくにゃねかたちてにゃいんでちょ……ふぁぁぁ」


 硬い地面で、寝心地が悪く、中々寝付けなかったミディリシェルは、盛大に欠伸をした。

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