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星月の蝶  作者: 碧猫
3章 呪いの聖女
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17話 龍族の国


 イールグ達と合流をしたミディリシェル達は、ジェルドの遺産を受け取り、転移魔法で次の目的地リューヴロ王国へと向かった。


 龍族の国リューヴロ王国。転移ゲートの隣は、足場の悪い岩の上だ。


 この辺りは、見渡す限り岩、岩と、人が歩くのに適した場所では無い。だが、それはここだけの話では無い。


 リューヴロ王国全体が、このような、人が歩くのには適さない地だ。


 龍族達は、飛びながら移動するため、歩く必要など無い。そうで無くとも、龍族というのは身体能力が高い種。

 この程度の足場の悪さで根を上げる者などいないだろう。


「ぷみゅぅ、ちゅかれたのー」


 まだ、転移魔法で来ただけなのだが、もう既にミディリシェルは疲れたと言い、歩くのを拒否している。


 ミディリシェルも飛ぶ事はできるのだが、高所恐怖症な上に、羽根を維持する事が苦手だ。そんな状態で羽根で飛べるわけもなく、誰かに抱っこして貰う方が賢明だ。と、ミディリシェルは、考えている。


「ちゅかれたのー」


「頑張れ」


「アディ、駄目ですよ。彼女には、婚約者がいるのですから」


「わぁってる」


「そうだな。婚約者がいるのなら駄目だ」


 同行メンバーが誰一人としてミディリシェルを甘やかさない。ミディリシェルは、その事に気づき、ぷぅっと頬を膨らませた。

 そして、すたすたと、一人で王都へと向かった。


「ぷぃーだ。優しく無いゼム達なんて知らないもーん」


「婚約者がいるという理由はまともでは?」


「むぅー、愛姫疲れさせてほっとくんだー」


「狡賢さを覚えつつありますね」


「駆け引きのつもりか」


「……」


「ゼム、駄目だからなぁ」


「わ、分かってる」


 ミディリシェルの言葉に、ゼムレーグが落ちそうだが、アディに止められている。


「もう良いもん。帰ってフォルにらぶしてもらうもん。それで良いもん。すたすた」


 ミディリシェルは、抱っこして貰うのを完全に諦めた。


 リューヴロ王国の王都は、目印がある。それは、宙に浮く巨大な王宮だ。


 その目印があれば、ミディリシェルも迷う事はない。その目印を見ながら進んでいく。


      **********


 途中で原初の樹に呼ばれ、ゼノンのところへ行ったが、順調に進んで行ったミディリシェル達は、夕刻には、王都へと着いた。


 王都は高低差が際立っているが、発展していないわけでは無い。それなりに発展している。大通りは道の整備がされて、歩きやすくなっている。


 だが、それはこの国全体から見て比較的だ。


 他の場所と比べてしまえば、かなり歩きづらい。


「ふみゅぅ。今日は、どこで休むの?野宿やだよ。フォルとおにぃちゃんは野宿だったらしいけど、エレはやだよ」


 ミディリシェルは、できれば、屋内で休みたい。だが、ここもアスティディアと同じ、否、それ以上に観光客などこない場所だ。


 観光客向けの施設など一切ない。


「エレ、あっちでご飯にしない?昼食べてないから、夜は早めに」


「ゼム、魔物料理に興味津々なの。可愛いの」


 ゼムレーグが、ミディリシェルの服の袖を引っ張り、レストランへ行こうとしている。


 野菜や果物が満足に育つ環境では無いため、魔物料理というものが一般的とされている。


 自らの手で魔物を狩り、その魔物の血肉を喰らう。一部の(特に戦闘種族が多い)種族では、そうして、食を賄っている。


 リューヴロ王国は、その魔物料理の有名地。他とは違う料理とかもお目にかかる事だろう。


 ゼムレーグは、目を輝かせている。これを断る事など、ミディリシェルにはできなかった。


「ふにゅ。みんなもそこで良い?」


「俺はどこでも良い」


「魔物料理ですか。面白そうですね」


「俺ぁ、エレ姫の料理以外だったらなんだって良いぜぇ」


「ふみゅ。アディには、暇になったら、エレが頑張って作った料理食べさせるの。強制なの。ゼム、いこ」


「うん」


 ゼムレーグが、嬉しそうに頷く。それを見ているだけで、ミディリシェルは、自然と笑顔になれた。


      **********


 昼食を済ませ、ミディリシェル達は、王宮へと向かった。


 上に行けば行くほど歩きづらくなる。休む場所も無く、疲れた足だと余計にそう思うのだろう。


「もうちゅかれたー」


「後少しだ」


「エレ、おんぶする?」


「ゼム、甘やかすんではありません」


「そうだぜぇ、甘やかしていれば、いつまで経とうと、体力がつきやしねぇんだからよぉ」


 疲れてもう歩きたく無いミディリシェルに、ゼムレーグは優しく手を差し伸べてくれた。だが、アディとイヴィがゼムレーグを止める。


 後少しと言うが、まだ、一時間くらいはかかりそうな道のりだ。ミディリシェルには、全然少しには見えない。


 ゼムレーグなら、アディとイヴィの静止を振り切って、おんぶでも良いからしてくれるのでは。そう思い、ゼムレーグを見るが、目を逸らされた。


「きゃぁぁー‼︎」


「危険魔物が出たぞー!」


「陛下に連絡して、全員避難だ!」


 下の方からだ。悲鳴に続き、そんな言葉が聞こえてきた。


 ここで危険魔物と言われるのは、ただの魔物では無い。その名の通り危険なのだ。

 ここの戦闘種族から見ても。


「こっちに避難だ!」


「子供がいるわ!前へ連れてってちょうだい!」


「こっちにも子供がいるぞ!」


 普通の種であれば、パニックになり、一目散に逃げるだろう。だが、ここの国民は、パニックになってはいない。

 声を掛け合い、全員が安全に避難できるよう、協力している。


 足の遅い子供を、大人達がバケツリレーのように運び、大人達は、子供を探しながら避難している。誰一人として犠牲を出さないための配慮なのだろう。


「ふきゃん」


 ミディリシェルは、急いで下へ降りようとしたが、急ぎすぎ、転げ落ちた。


「嬢ちゃん、大丈夫か?ここは危ねぇから早く向こうに」


「ぷみゅぅ。大丈夫なの。おにぃさんこそ、避難して。その怪我治すから」


 転げ落ちるミディリシェルを、手で止めてくれた青年。その青年は足を怪我していた。


 ミディリシェルは、癒し魔法を使い、青年の足を治す。


「おぉ、嬢ちゃんは、回復魔法師だったか。なら尚更」


「エレは大丈夫なの。ありがと、おにぃさん」


 ミディリシェルは立ち上がり、青年へ笑顔を見せた。そして、魔物の方へと走る。


「ヴィー様、出てこれる?」


「当然じゃ」


「みんなは、避難の方をしてくれているから、手伝って」


 言葉は交わしていない。だが、ミディリシェルが、下へ転げ落ちた時に、誰も動かなかった。その後に、別の場所へ向かった足音が聞こえた。


 それで、イールグ達が、非難の方を優先でやろうとしている事に気がついた。


「ヴォォォォォ」


「耳キーンなの」


 魔物の高い雄叫びは、まだ距離があるミディリシェルの耳に入り、耳鳴りがしだした。


 ミディリシェルは、瞳に涙を溜めて、耳を両手で塞いだ。


「ヴォォォォォ」


「……魔物料理でみんな大喜び……浄化魔法で平和さん……」


 ここで浄化魔法を使うという手もあるのだが、そうしてしまえば、食糧にはならない。ここでは、魔物を食糧にしなければならない程、食料が無い。


 ミディリシェルは、二択を迫られている。雄叫びを我慢して、浄化魔法を使わない討伐方法を取るか、浄化魔法をここで使い、浄化してしまうか。


 ミディリシェル的には、後者を取った方が楽だ。だが、ここの国民達のために、あの優しい青年のためにも、食糧難にさせたくは無い。


「頑張るのー」


「……姫、鎖で口塞ぐという手段は思いつかんのか?」


「はっ⁉︎そ、そんな手が⁉︎」


「何故主は、わしを召喚したんじゃ?」


「……知らないの。でも、それがあるならこうするの!」


 聖獣ヴィーの力を借り、ミディリシェルは、魔物の口を、鎖で閉じた。


 巻き付いた鎖を引きちぎろうとしているが、開ける力は弱いのだろう。鎖は微動だにしない。


「ふぅ、これでひと段落なの」


「姫の悪い癖は油断癖じゃ」


「みゃ?ふみゃ⁉︎」


 巨大な足の影がミディリシェルを覆い隠す。それは、巨大な魔物の足。


 鎖で口を閉じたのが、魔物の逆鱗に触れたのだろう。魔物は容赦無くミディリシェルを踏み潰そうとしていた。


「ふみゃ⁉︎」


 ミディリシェルは、咄嗟に防御魔法を使い、踏み潰されはしなかったが、魔物は、防御魔法の守りを破壊してでも踏み潰そうとしている。


「ふぇ、ふぇ、ふみゃ。こういう時は……にゃ?」


「本当に世話のかかる姫じゃ」


 ミディリシェルがテンパっていると、魔物が右に倒れた。


 何が起こったのかは、すぐに理解できた。この国の国王が、魔物を討伐して、ミディリシェルを助けたのだ。


「ふにゃぁ」


「エレちゃん、大丈夫?」


「攻撃を防いだ後の反撃法」


「魔法でどっかぁーんなの」


「おぅ、流石は俺の自慢の娘だ」


 白銀の髪が、星光に照らされ、輝いている。青色の瞳が、優しくミディリシェルを見る。右手で、わしゃわしゃと豪快にミディリシェルの頭を撫でる。

 この青年こそ、この国の国王リグジェンヴェルア。


 そして、その隣で、ミディリシェルを暖かい眼差しで見つめるのは、この国の王妃シェヴェーリオ。


 ミディリシェル達の目的の相手だ。


「ふみゅぅ。分かってはいるの」


「分かってるだけでも違う。分からないよりも一歩進んでいる。そうは思わないか?それに、あの鎖は見事だった。強度と言い、締め方と言い、文句のつけどころがない」


「……むにゅ」


「そうね。避難の誘導の方も、素晴らしかったわ。それに、この国を想ってくれるその心が、何よりも美しく、素晴らしい事よ。そこは感謝しているわ。でもね、危ないと思ったら、自分を守る事を優先してちょうだい。浄化してでも」


「ふみゅ。避難の方は、エレじゃなくてゼム達がやってくれたの。だから、そっちのお礼はゼム達に言って欲しいの」


 ミディリシェルは、魔物引き寄せ体質。下手に避難誘導なんかしていれば、逆に危険な目に遭わせてしまう。そのため、避難誘導は一切せずに、魔物の方へ来ていた。


 その避難誘導をしていた、イールグ達が、走って、ミディリシェルの方へ向かって来ていた。


「ふみゅ、お話あるけど、明日で良いの」


「おぅ、明日いくらでも聞こう。今日は、宴を楽しもう」


「みゅ。大物だから、きっとすごく盛り上がるの。エレもお料理作って出そうかな?」


 リューヴロ王国では、危険魔物と呼ばれている巨大な魔物が出た時は、その一部を使い、宴を開く。

 宴に水を刺す事などしたくない。

 ミディリシェルは、花の話は、明日に持ち越す事にした。


「みんなも、今日は宴楽しむの。それで、王宮の客間で寝てもらって、明日お話なの。野宿はやなの」


「……」


「この国の宴って、ふむっ⁉︎」


 ゼムレーグが何か言おうとしたが、イールグとアディが手で口を塞いだ。


 ミディリシェルは、この国で、何年か過ごしていた事はある。だが、宴が開かれる事は何度かあったのだが、一度も参加した事は無い。


 参加させて欲しいとリグジェンヴェルアに言った事が何度もあるが、決まって「子供には早い」と却下されていた。


 そのため、今日がミディリシェルがこの国で参加する初宴となる。


 宴で何が待ち受けているのか、そんな事は知る由もなかった。


 今のミディリシェルは、ただただ、初めての宴に心躍らせて、豊かな楽しい想像をしている。

 そして、寝るのは、王宮の極上ベッドだと、そこまで想像していた。

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