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星月の蝶  作者: 碧猫
3章 呪いの聖女
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15話 植物達の森へ


 エリクルフィアへ向かった、フォルとフィルは、宿を探す事なく、死の森付近で、野宿した。


「安全な場所がここくらいって何なんだろうね」


「ここはそういう場所だろう。もう慣れた」


「野宿も?」


「それはいつもの事」


 フォルとフィルにとっては、野宿は良くある事。仕事の都合で野宿する事もあれば、遊びに行って、野宿になる事もある。


 野宿とは縁があるのだろうかと思う程に、遠出をする度に野宿という時まであった。


 そんな二人だからこそ、いついかなる時も野宿に備え、収納魔法の中に、必要なものを用意してある。


 今回も、突然の野宿にはなるが、ものには困っていない。


「フォル、ドクグリクッキー食べる?」


「うん。フィル、チョコ食べる?」


「貰う」


 持っているものを仲良く分け合う。だが、それは、フォルとフィルだからこそできる事だろう。


 ドクグリクッキーも、フォルが渡したチョコレートも、どちらも、食べるものを選ぶ。


 ドクグリクッキーは、珍味。チョコレートは、激苦な上に、僅かに辛い。少なくとも、ミディリシェルとゼノンに渡せば、食べないだろう。


 フォルとフィルは、木陰に座り、ドクグリクッキーとチョコレートを食べる。


「前のより美味しいね。買う場所変えた?」


「分かるんだな。これも、前のより辛味が増している」


「うん。そうなんだ。製造法を変えたらしくて。因みに、日持ちも更にするようになったよ」


 魔物の足音が聞こえる中、二人で楽しく話している。魔物の事など、一切気にしていない。


「そろそろ寝ようか。明日も早いから」


「うん」


 フォルとフィルは、二人で手を繋いで仲良く眠った。だが、近くに魔物がいる。寝てくれる訳はない。

 朝になるまで、何度も、魔物に邪魔されて起こされていた。そのおかげで、フォルとフィルの睡眠時間は、一時間にも満たない。


      **********


 翌日、ミディリシェルとゼノンの方で色々あり、こっちの活動は夕刻となった。


 フォルとフィルは、来たついでに、死の森の奥にある、原初の樹リプセグに会いに向かっていた。


 原初の樹リプセグは、魔原書リプセグという魔法具から、長らくミディリシェルに力を貸している。フォルが以前進めていた計画についても、色々と協力して貰った、恩のある樹だ。


 そのリプセグがある場所である死の森は、一度入れば、生きて出てこれない。そんな、噂から、死の森と呼ばれるようになった。


 だが、その名のような見るからに危険地帯というわけでは無く、植物達が自立している、植物のための森だ。危険な雰囲気は無い。


 この森に歓迎されていればの話だが……


 フォルとフィルは、この森に歓迎されている。森は、二人を受け入れ、攻撃してはこない。


「フォルしゃまー」


「フィルしゃまー」


「みんな、久しぶりだね。リプセグへの道を開いてくれる?」


 他の場所でもそうだっただろう。原初の樹は、閉ざされた場所。道が開かれない限りは、辿り着くことができない。その道を開くのが誰なのか、それはそれぞれだ。

 原初の樹リプセグへの道は、ここにいる自我を持つ植物達が開く。


「それと、さっきはありがと。君らが、リプセグの力の一部を使って、僕をあの場所へ送ってくれたんだろ?」


「はいですー。どうでしたかー?元気でしたー?」


「可愛かったよ」


「そのお話、リプセグ様に聞かせてくださーい。道を開きましたー」


「ありがと」


「ありがとう」


 フォルとフィルは、癖になっているのか、自然と手を繋ぎ、開かれた道の奥へと向かった。


      **********


 緑の道を進んだ先にあるのは、一樹の樹。大きな葉を着るその樹こそが、魔原書リプセグの元。原初の樹リプセグ。


 ある回、ミディリシェル達はエリクルフィアの地へいた時がある。その時、ミディリシェル達を、快く迎え入れたのが、リプセグと植物達だ。

 ゼノンとフォルに関しては、ミディリシェルがいたからこそというところはあるのだが、リプセグがいなければ、ここで暮らす事などできなかっただろう。


 その時の件も、それ以外でも、恩人ならぬ、恩樹と言えるだろう。


 静寂が続く中、ひゅぅっと心地良い風が吹いた。


『お久しぶりでございます。フォル、フィル』


「うん。久しぶり。まだ、そうやって呼んでくれるんだね。嬉しいよ」


「久しぶり。おれも、そう呼ばれる方が嬉しい」


 多くの原初の樹は、フォルとフィルを呼ぶ時は、別の呼び方を使う。だが、リプセグは、その呼び方を使わず、今でもずっと、そう呼んでいる。それが、二人にとって、気楽で、ありがたい事だ。


『左様ですか。では、今後もそうお呼びします』


「ありがと。悪いけど、そろそろ本題に入りたいんだ」


『全部知っております。花の件も、お任せください。本土へは、行きたく無いでしょう』


「うん。行きたく無い。できれば行きたく無いからありがたいよ。あそこ行くのきらいだから。以前、色々と問題起こしたからね」


『あの子にその罪をなすりつけただけだろ。巧妙に隠していたみたいだが、これがその証拠だ。言い訳を並べてももう無駄だ。ギュゼルの統率として、ここで裁を執行してやろうか?』


 ここエリクルフィアに住む種族、エリクフィアでは、名持ちと名無しと分けられている。

 名持ちは絶対的な権力を持ち、名無しには何も与えられていない。


 ある回で、ミディリシェルは、名無しとして、名持ちの罪を全て被らせられそうになった。その時、フォルは、そう言って、その証拠を全て提示した。


 その時、かなり揉めており、これ以降、エリクルフィアに顔を出す事からは遠ざかっていった。


 フォルは、今回、花を渡す際に、脅そうとまで考えていたくらいだ。


「大変だったそうだな。それで、宝剣の方は」


『精霊の森にございます。彼女が、今もずっと守っております。行ってあげてください』


「うん。ありがと。この後に行ってみるよ」


『はい。よろしくお願いします。それと、こちらの対処もお願いできますか?最近、何やら物騒でして』


 リプセグの周囲を囲むように、魔物が大量にいる。


 本来であれば、原初の樹の周りは安全地帯のはずだが、今はそうで無いようだ。何が原因なのか、原初の樹を狙って、魔物が来ている。


 その原因を探る事も大事ではあるが、今は、魔物討伐の方が優先だろう。


 フォルとフィルは、収納魔法から剣を取り出した。


「サポートは任せる」


「了解」


 フォルは、剣を地面に突き刺した。


「今後の結界を強化する必要があるからね。そっちもやらせてもらう」


『感謝いたします』


「巡る命と巡る地脈、世の理を背に、孤高の結を結べ」


 特殊な結界魔法。原初の樹を魔物から守るため、魔物を原初の樹から遠ざけるため、その唱を唱えた。


 刺した剣を中心とし、結界が創られていく。


 その間に、現在ここにいる魔物を、フィルが倒していく。

 浄化魔法と消滅魔法を駆使し、百匹程いた魔物を、数秒で全滅させた。


「お疲れ様」


「そっちも」


「相変わらず早いね。まだ結界ができてないよ」


「普通なら一時間かかるところを、一分でやっているんだ。そっちの方が早いだろう」


 フォルとフィルは、笑いながら会話する。先程まで戦闘していたとは思えないほのぼのさだ。

 二人にとっては、大量の魔物討伐など日常。それで、表情が曇る事など無い。疲れる事も、この程度では無い。


 フォルは、フィルと会話しながらも、結界の構成を怠らない。


 一分で結界の大半を作り終え、最後の結界の強度を極限まで高める作業を行っている。

 通常であれば、ここまでで、二時間半はかかるだろう。


「もうそろそろ終わるかな。あの子程じゃ無いけど、これである程度は大丈夫だと思うよ」


「おれは、加護を少しだけ与えるくらいしかできないから、それで」


『感謝いたします。本当に規格外ですね』


「これでも、神獣だから……終わったよ。今度は星のお姫様も連れてくる」


「月の王子達も」


『ええ、楽しみにしております』


 風が僅かに強くなる。これは、リプセグの感情なのだろう。

 ミディリシェルとゼノンとの再会を心待ちにする。その感情が風となって吹いているのだろう。


 原初の樹は、自然との親和性が高い。その親和性の高さから、こうして、感情が自然の中に現れる。


「フィル、疲れてない?野宿だったから」


「慣れてるから疲れてない」


「じゃあ、休まずにいくか。早くあの子らに会いたい。君は?」


「会いたい。おれ達の婚約者に」


「うん。そういえば、何か魔法具を頼まれていたんだって?どんな魔法具なの?」


 離れていたというのにどこでその情報を入手したかは、フォルの秘密だが、ミディリシェルが、フィルに魔法具の製作を頼んでいた事を知っている。


 フォルは、にこにこと笑いながら、フィルに聞いた。


「処理能力を上げる魔法具だ。過去を視るのに使うらしい。連絡にはそれ以外書かれていないから、詳しい事は」


「そっか。あの子、助けようとしてくれてたんだ……フィル、協力してくれる?呪いの聖女救出を。その後の事も含めて」


「当然だ。いつも言っている。その後、何があろうとも、付き合う」


「うん。そうだね。僕も、君と一緒だよ。何をしようとしていても、一緒だ。一緒に付き合う。どんな結末を迎えても。僕は、君の家族だから」


 フォルが、本当の家族と呼べるのはフィル一人。今も昔も、それは変わらない。


 フォルは、無邪気な笑顔をフィルに見せた。


「おれも、フォルだけだ」


「うん。リプセグ、あの子の事、よろしく」


 そう言って、フォルとフィルは、転移魔法で、精霊の森へ向かった。二人でぎゅっと手を繋いで。

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