4話 紹介
ミディリシェルは、リブイン王国の事で、自分が知る事は、全てフォルに話した。
「えっと、君は、その、裏取引っていうのが、怪しいと思っているの?」
「違うの?」
ミディリシェルは、ある方法で、国王が裏取引をしている事を知った。それが、管理者の処罰対象となっているのだと考えた。
「……それも関係しているかもしれないけど、現時点ではなんとも。ミディ、詳しい話をする前に、紹介したい人がいるから良いかな?今後、君がどんな選択をしたとしても、必ず関わってくる相手なんだ」
「みゅ」
ミディリシェルは、こくりと頷いた。
「嫌かもしれないけど、少しだけ大人しくしていて」
フォルが、ミディリシェルを抱き上げる。このまま、目的地へ行くつもりなのだろう。
「楽なの」
ミディリシェルは、嫌がるどころか、喜んでいた。
「……先に言っておくけど、君がどんな選択をしたとしても、普段からこんな事はしないから。今回は、発作の後で、まだ、本調子では無いだろうから。君が自分から、部屋の外へ自由に出られるくらいに回復すれば、自分で歩いてもらうから」
「……聞きたくないの」
ミディリシェルは、両手で耳を塞いで、そう言った。
ミディリシェルは、暴れないという意味では、大人しくしていた。だが、口と顔は大人しくしてはいなかった。
「これは……らくー……歩くのは……やだー」と何度も、リズム良く、繰り返している。言うのに合わせて、表情まで変わっていた。
楽な方は、にこやかに、やだの方は、心底嫌そうな表情を繰り返した。
**********
広い机。幾つも並んでいる椅子。どちらも、見るからに高級そうだ。
真っ黒く、何も映し出されていない、魔法具。これは、高級で持つ人は少ない、映像視聴魔法具。その前には、見るからに柔らかそうなソファ。
――映像視聴魔法具。名前だけは聞いた事があるの。どこかで、映像記録の魔法具を使って撮られた映像を、特殊な方法で、映す魔法具なの。普及してない、超高級魔法具なの。
ミディリシェルの部屋の家具もそうだった。見るからに高級そうな家具。
「お金持ちさんなの」
「ほわぁ、この子が、あの……近くで見ると、可愛さが違う」
「この溢れ出る可愛さが堪らないよね。魔法具で、姿を変えていても出る可愛さ。もう、可愛さの化身と言っても過言じゃない」
ミディリシェルより、一、二歳年上だろう二人の少女が、ミディリシェルを興味津々に見て、近づいてくる。
「ふにゅ⁉︎むぎゅぅ」
ミディリシェルは、ぎゅぅっと、フォルに抱きついた。
フォルが苦笑いを浮かべながら、ミディリシェルを見て興奮している、二人の少女に、落ち着くよう促した。
ミディリシェルは、警戒しながら、二人の少女を、上から下まで、じっくりと見た。
子供っぽいミディリシェルとは違い、大人らしさがあり、背も、それなりにある。綺麗さの中に、可愛らしさもある。
「二人とも、ミディが警戒するからその辺にして。それと、この子は記憶がないから、あまり変な事教えないでよ」
「ごめんね、ミディちゃん。怖かった?」
「ごめんね、怖がらせるつもりじゃなくて、ミディを見て、あまりの可愛さで」
フォルに促されて、慌ててミディリシェルに謝罪する、二人の少女。
「巨乳敵なのーーー‼︎」
ミディリシェルは、自分の身長から見える景色に、視線を下げてに、そう叫んだ。
瞳に涙を溜めて、ミディリシェルがそう叫ぶと、暫く、誰も何も言わない。沈黙の時間が続いた。
「グス、当てつけなの。持つもの持っているからって、当てつけなの」
長いようで、短い沈黙。それを破ったのは、その原因である、ミディリシェルだった。
ミディリシェルは、泣きながら、そう言った。
「ミディちゃんはこれが可愛いよ」
「そうそう、これだからこそ可愛いってところあるよね」
「……ふにゅ」
転生前の、今は思い出せない記憶の影響だろう。ミディリシェルは、可愛いと言われて、泣き止んだ。
「ミディ、ソファと椅子どっちが良い?」
どちらかに座らせてくれるという事だろう。ミディリシェルは、椅子とソファを交互に見た。
「椅子なの。ずっと気になってるから」
「分かった」
フォルが、ミディリシェルを椅子に降ろす。
ミディリシェルは、椅子の座り心地を、気持ち良く堪能した。
「ふにゃふにゃ」
ミディリシェルの知る、あの狭い部屋の椅子とは違い、高級感のある座り心地。
「それだと、潰れるだろ」
「……ふかふか……しゃぁ」
気持ち良く堪能していた時に、その感想でゼノンにつっこまれ、ミディリシェルは、ゼノンを見て威嚇した。
「さっきはごめんね。当てつけとかじゃなくて、本当に可愛すぎて。わたしは、ピュオ。ピュオ・リリシア・キュリフィー。こっちは」
「リーミュナ・アニシェフ・リシェシミール。これからよろしくね、ミディちゃん」
落ち着きを取り戻した、二人の少女。リーミュナとピュオが、友好的な笑顔を、ミディリシェルに見せた。
ミディリシェルの見立てでは、リーミュナは十八歳、ピュオは、十七歳。確実に、ミディリシェルより年上だ。
「アゼグもミディちゃんに挨拶」
「ノヴェもよ」
部屋にいた、二人の少年に、リーミュナとピュオは、声をかけた。
「アゼグ・シークナス・ロストだ。フォル、これ触るの」
「駄目だよ。だから、さっきから見ないようにしてるの?」
アゼグと名乗った少年は、若干、ゼノンと似ている。青みがかった黒髪。その特徴から、そう見えるだけなのだろうか。
ゼノンは、先端が銀髪だが。
お触り厳禁に頭を抱えるアゼグを、ミディリシェルは、じっと見つめた。
「こうして直接会うのは初めましてかな。俺はノーヴェイズ・コンゼッグ・シェルド」
ノーヴェイズと名乗った少年は、爽やかな笑顔を浮かべて、そう言った。
金髪に天色の瞳。それに、ノーヴェイズという名。
間違いなく、本人だ。そう気づいたミディリシェルは、椅子から身を乗り出した。
「魔法具設計師なの!すごい有名な!」
ノーヴェイズ・コンゼッグ・シェルド。その名が書かれた、魔法具設計図。それは、他の有名名魔法具設計師と比べれば、数は劣っている。
だが、その設計図の有名度は、比べ物にならない程高い。
代表作のみならず、他の作品、一つ一つが、高く評価されている。
魔法具設計師を目指すのであれば、誰でも知っている、超有名人だ。
「きみほど有名ではないんだけど」
「……もしかして知ってるの?ミディの設計図見た事あるの?」
「参考にさせてもらってる」
「ミディもなの。今度いっぱいお話したいの」
ミディリシェルは、リブイン王国で、本の復元をするようになる前、ある人物と、魔法具を作っていた。
ミディリシェルが、魔法具の設計を手掛けて、ある人物が、その設計図を元に、魔法具を作る。
そうして、作られた魔法具は、幾つも世に出していた。
その設計図のほとんどは、世に出ていないが、安くで普及する用に作られた設計図が、幾つか世に出ている。
「……ミミルル。世界最高峰の魔法具技師と設計師。あいつの相方って」
「今頃気づいたの?」
ミディリシェルは、ある人物と共同で魔法具を製作するの時に、互いの名から取って、ミミルルという活動名を使っていた。
ゼノンの、一言に、ミディリシェルは反応した。
「知ってるの?」
ミディリシェルは、魔法具の共同製作をしていたある人物とは、五歳以降会っていない。どこにいるかすら、知らなかった。
「ああ。今はここにいないが、ここの住人だ」
「ふにゅ、会いたいの」
「そのうち帰ってくるだろ。ミディがここにいるって決めてくれたら会えるかもしれねぇな」
「むにゅぅ」
ミディリシェルは、ぷぅっと頬を膨らませた。会いたいには会いたいが、それで、ここにいるとはならない。
「アゼグ、主様は?」
「知らない」
「ノヴェは知ってる?イールグもいないけど」
「今朝、買い物に出かけるとか言っていたからもう少しで帰ってくると思う。待ってる?」
「ミディが部屋に戻りたいかもだからまた後で」
フォルが、ミディリシェルを部屋へ帰そうとしている。だが、ミディリシェルは、この椅子から離れたくなかった。
「ミディ、ここいるの。この椅子さんもっと堪能するの」
ミディリシェルは、椅子に座っているのが楽しい。ここから離れたくないという意思表示に、手足を上下に振った。
「可愛い生き物が増えているな」
「フォル、また、報告」
「こっちにきてから済ませば良いでしょ」
フォルが、どこにいるか、話していた相手だろう。二人の青年が、部屋を訪れた。
「むにゅ。ミディリシェルなの。可愛い生き物なの」
ミディリシェルは、可愛い生き物というのを否定しない。これも、転生前の影響だろう。記憶が無くとも、消えないものはあるのだろう。
「そういえば、記憶がないのだったな。俺はイールグ・ギュリン・ジェリンドだ」
「ルーツエング・レルグ・ヴァリジェーシル。フォル、ミディにどこまで説明した?」
「ほとんど説明してないよ。主様がいてくれた方が説明が楽だから」
二人の青年、ルーツエングとイーグル。ミディリシェルは、二人をじっと見つめた。
「……みゅ?」
「俺らも改めて。ゼノン・ヴィレジェーナ・ロスト。これからよろしくな、ミディ」
「フォル・リアス・ベレンジェア。よろしくね、僕の愛おしのお姫様」
「……みゅ?みゅぅ?」
ミディリシェルは、フォルとルーツエングを、交互に見る。両手を顎に当てて、首を傾げた。
フォルとイールグは、同じ種族というのは見て分かる。だが、フォルとルーツエングは、それ以上の何かを感じた。
「主様、詳しい話はどこでする?アゼグ達には聞かれない方が良いんじゃないの?不始末バレるから」
「そうだな。渡したいものもある。ミディの部屋に行こう」
「……ミディの部屋……お部屋」
あの狭い部屋は、使用人達は、監禁部屋や、作業部屋と呼んでいた。
ミディリシェルは、自分の部屋という言葉に、温もりを感じた。
ミディリシェルは、自分から立ち上がり、部屋を出ようとする。
「ミディ、抱っこ」
「ふみゅ」
「ここ、リビングなんだ。ミディも良く使うだろうから、ちゃんと覚えてね?」
「みゅ」
ミディリシェルは、フォルに抱き上げられて、リビングを出て、部屋へ戻った。
**********
部屋へ戻ったミディリシェルは、ルーツエングにお土産と言われて、白い猫のぬいぐるみをもらった。
ミディリシェルは、ベッドに座って、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。
「ぷにゅぷにゅ」
「気に入ってくれたなら、買った甲斐がある」
「みゅにゅ(くんくん)にゅにゅにゅ……にゅ?」
ミディリシェルは、ぬいぐるみに顔を埋めた。その匂いは、初めて会った時、あの散歩道での匂いに似ている。
ミディリシェルが倒れた時に、支えてくれた。あの時、僅かに香った匂い。
「ミディ、話しても大丈夫?聞ける?」
「みゅ」
「ミディ、君を拾ったリブイン王国、あの国からそこまで離れていない場所に、我々が所有する書塔がある。そこに、十年ほど前、何物かが侵入し本を盗んだ」
ぴくっと、ミディリシェルの髪留めが動いた。
ミディリシェルは、ぬいぐるみから顔を離し、ルーツエングを見た。
「……管理者、ううん。多分、そうなんだよね。そこに置いてあった、ある本にはこう書いてあったの。執行部隊ギュゼル。ギュリエンの地にて、彼らは世界を管理する。ギュシェルという組織。法で裁く事のできない者を見定める。そして、ギュゼルにて裁かれる。管理者という名が広まる前に呼ばれていた、貴方達の呼び名?」
「良く知っているな」
「興味があって覚えてたの」
ミディリシェルが、本の復元をしている時、偶然読んだ本。そこに、その内容が書かれていた。
それと管理者を繋げたのは、ミディリシェルの勘だが、あっていたようだ。
読んだ本の内容を言うと、ルーツエングが、ミディリシェルの頭を撫でた。