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星月の蝶  作者: 碧猫
3章 呪いの聖女
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9話 ロスト王国


 ゼノンは、ルーツエングと共に、ロスト王国へと赴いていた。


 一面が氷色。常人がそこへ入れば、一瞬で凍りつく温度。それが、全氷の地ロスト王国。


 その国の王宮も、氷模様だ。溶けない氷の玉座は今、誰も座っていない。子の玉座は、今となってはただの飾りだ。

 かつては、この玉座に座る者がいたが、本来のロスト王国は、今のこの光景だ。


 王族達が、和気藹々と楽しんでいる。笑顔の絶えない王国。


 ゼノンは、その光景を、微笑ましく見ていた。


 この光景を見るためだけに、その願いを受け継ぐ場所として、ここロスト王国は築かれた。その願いが、唯一叶った場所。


 ゼノンの、夢が詰まった、思い出の場所。


「ルナはこの前ぶり。みんなは、久しぶりだな」


「そうですわね。わざわざここまできてなにかあったのです?」


「ああ。外界がかなり厄介な事になっててな。それで、協力して欲しいんだ。エルグにぃ、説明頼める?」


「ああ」


 ゼノンは、ルーツエングに、呪いの聖女に関する事と、今起きている事を、ロストの王族達に説明してもらった。


      **********


 ルーツエングが説明し終わると、ゼノンがルーヴェレナに花を渡した。


 ルーヴェレナは、ゼノンから花を受け取ると、他のロストの王族に渡した。


「月輪、やっといてくださいな」


「ルナ姫は、どうなされるおつもりか?」


「わたくしは、ゼノンに協力いたしますわ。そちらの方が、面白そうですもの」


 ルーヴェレナが、ゼノンを見て、笑みを浮かべた。


「……元凶姫」と、ゼノンが呟いたのは、聞こえていなかっただろう。


「エルグにぃ、良い?ルナは、戦力的には、かなり助かる。扱いにくいけど。元凶姫だけど、血狂姫だけど」


 ゼノンは、ルーヴェレナの事を、戦力的には認めている。だが、それとこれは話が別だという問題点がある。

 その問題点が、ゼノンが勝手につけた二つの渾名、元凶姫と血狂姫に起因している。


 だが、今は戦力が必要だ。ゼノンは、ルーツエングに、決定権を委ねた。


「……ルナ、くれぐれも暴走だけはしないように」


「気をつけはいたしますわ。了承はできませんが」


「……気をつけさえしてくれるなら良い」


 ルーツエングも、戦力が欲しいというのは変わらないのだろう。ルーヴェレナの曖昧な答えだけで、了承した。


「そうでしたわ。ゼノン、一つだけ、付き合って欲しい事がありますの。少々、面倒な魔物が出てきていまして。わたくしだけで行こうとは思っておりましたが、手伝ってはくれませんか?」


「ああ。俺もこの国に籍を置いているんだ。当然、手伝わせてもらう。その代わりって事じゃねぇが、エレの籍をこっちに移しておいて良いか?」


 ミディリシェルは現在、リブイン王国に籍を置いている。エクリシェは、籍を置く事はできない。代わりのどこかが必要になる。


 それを、ゼノンは、ロストにと考えていた。


 以前、ミディリシェルがエクリシェへいると言った後に、どこに籍を置くのかは話し合っていた。そこで、アスティディアとロストとローシャリナ、リューヴロが候補地として上がった。


 その話し合いはまだ解決していない。だが、ゼノンは、勝手に話を進めようとしている。


「……ゼノン」


「別に良いだろ。俺とミディはセットだ」


「……分かった。口出ししない」


 ルーツエングが許可を出せば、フォル以外は反論しないだろう。フォルだけは可能性があるが、これに関しては何も口出ししないだろう。


 ゼノンは、小さくガッツポーズをとった。


「魔物はどこにいるんだ?」


「……原初の樹の付近ですわ」


「だから俺に頼むんだな。お前一人じゃ、暴走した時に原初の樹が巻き添えを喰らう」


「ええ。原初の樹は、わたくしも大事にしておりますわ。何より、あの子の大切なものを傷つけたくなんてありません」


「そうだな。それには同意だ。あの付近だとかなり寒いが、その格好で行くつもりか?」


「それはあなたもでしょう。心配不要ですわ。わたくしも、あの極寒地帯は慣れてますから」


「それもそうだな。そもそも、あそこに行くのに、厚着しても意味ねぇし。じゃあ、月輪、魔物化の件は宜しくな」


 ゼノンは、そう言って、ルーツエングとルーヴェレナと共に、ロスト王国領土の最極寒地帯へと向かった。


      **********


 一面真っ白なのは変わりない。ここは、吹雪で常に視界が奪われる。それは、人里の方では起こり得ない事だ。


 視界が悪い中、ゼノンは、原初の樹へと向かって、迷わずに歩いている。

 ロストの王族は、必ず覚えなければならない。原初の樹までの道のりを。


 どれだけ視界が悪くとも、迷わずに行けるように。


「にしても、今日はいつもよりも吹雪が強いな……原初の樹に何かあったのか?」


「分かりませんわ。ですが、用心しておいた方がよろしいでしょう」


「だな。エルグにぃ、いざって時は頼るかも。ロスト(ここ)では、やりにくいかもだけど」


「大丈夫だ。俺達は、どんな場所でも対処できるよう訓練されている」


「ありがとな。ラーグも。あいつがこっそりつけてくれたんだろ?」


 茶色い猫の縫いぐるみが、突然現れた。聖獣ラーグ。ミディリシェルと契約を交わしている聖獣の一匹だ。


 ミディリシェルが、離れる際にこっそりゼノンの側に忍ばせていたのだろう。ゼノンが気づいたのは、ここへ来た後の事で、いつという正確な時間は分かっていない。


 だが、ミディリシェルなら、いつ忍ばせるか。そのくらいは、想像ができた。


「ヴィーと負けた」


「ああ、あいつに付くのが誰かの勝負もしてたんだな。あいつの能力的に、ラーグかヴィーのどちらかはいてくれれば助かるだろうから。二人一緒が一番だとは思うがな」


「それは当然」


「けど、そんな不服そうにすんなって。俺に付けてくれてあいつが安心する。それは、あいつがラーグを信頼しているからじゃねぇのか?じゃなきゃ、あいつは選ばねぇよ」


 ラーグは、本当はミディリシェルの側にいたかったのだろう。ミディリシェルの力になりたかったのだろう。だが、ミディリシェル本人が、恐らく選んでいる。ラーグとヴィー、どちらにするかと悩んで。


 ミディリシェルを良く知る、ゼノンからしてみれば、それはゼノンを守ってくれるという信頼の証。


 ゼノンは、出てきたラーグに対して、笑顔でそう言った。


「……彼女は、私を許して、信頼している?」


「当然だろ。俺らは、あいつがあれ以上傷つく前に諦めろって止めたんだ。あいつを遠ざけようとしたんだ。それでも、自分が絶対に助けるって、だから許すも何も、怒ってすらいねぇんだよ。あっ、原初の樹が見えてきた」


 薄らと、原初の樹の姿が見えてくる。


 魔物の姿も。


「魔物は、原初の樹に気づいてねぇな。ここまで離れてれば大丈夫だろ。ルナ、ラーグ、念のため、防御魔法をかけておいてくれ」


「了解しましたわ」


「エルグにぃ、多分、魔物にバレるから、一分だけ動きを止めて欲しい」


「分かった。好きなだけ止めよう」


 ルーツエングが、魔法で魔物の足止めをする。


 その間にゼノンは、魔物を掃討する準備をする。


 右手を上げ、調整を始めた。


 繊細で大胆。ミディリシェルはかつて、ゼノンの魔法をそう評価した。ゼノンの使おうとする魔法に、その評価が見て取れる。


「……」


 氷の粒子は大量で、細かい。必要以上の量があるだろう。


 上げている右手に、ひんやりとした感覚が伝わる。


 その氷の粒子は、魔物の内部へと入り、内部から凍らせた。


「掃討完了だ。ありがとな」


『わちも、礼を言わせて。わちの本体を守ってくれてありがとって』


「ピンドリーン、久々だな」


『ひさ。心待ちにしておった。あれを取り戻す前に、きてくれる事を』


「宝剣か。どこにあるのか知ってんのか?あの後、どこを探しても見つからねぇが」


『ローシャリナ。考えてみれば分かる』


 ローシャリナ王国。魔族のための国。そこはかつて、魔族の王が治める国があった。


 少し考えれば分かると言うのは、当然の事だろう。宝剣ゼノンは、魔族の王のためのものなのだから。


 持ち主がいなくなり、宝剣ゼノンは、持ち主が治めた地にて、再び会える事を待っているのだろう。


 ――フォルの頼みは、ジェルドの遺産の回収。エルグにぃには隠せつってたが……一緒にいる以上知られるだろ。


「……ピンドリーン、その」


『この国に。ここより先、弟殿下以外は』


「エルグにぃ、ルナ、ラーグも、悪いが待っててくれ」


『お茶でもしていれば、すぐよ』


「原初の樹と茶か。これは、貴重な経験だ」


「そうですわね。ゆっくり行ってきて良いですわよ。お茶会を楽しんでますので」


「ああ」


 ゼノンは、ルーツエングとルーヴェレナとは分かれて、原初の樹の奥へと進んだ。


 この先は、禁足地。誰一人として通る事が許されない。原初の樹のピンドリーンは、その監視役も務めている。その監視役直々にゼノンだけは許可を貰える。その理由は、ゼノン本人が知っている。


      **********


 ロスト王国としては、暖かい方だろう。視界は良好だ。


 ロスト特有の氷の地面ではなく、雪の地面。だが、この雪はただの雪ではない。雪の中に大量の魔力を帯びている。雪というよりも魔力の塊と言った方が良いだろう。


「……暇だな」


「なら話し相手になってやるでちゅ」


「きゅきゅか。今までどこ行ってたんだ?」


 ピンクと紫色の小龍きゅきゅ。りゅりゅがミディリシェルの眷属とするならば、きゅきゅはゼノンの眷属だ。


 きゅきゅはりゅりゅ同様、頭の上が好きなようだ。ゼノンの頭に乗る。


「姫を守れとか言っていたのは誰だと思っているんでちゅか」


「そうだったな。きゅきゅ、お前は今もゼノンと繋がりがあるのか?」


「当然だでちゅ。ゼロしゃま、いつになったらりゅりゅと会えるんだでちゅ?」


 きゅきゅはりゅりゅに好意を寄せている。りゅりゅの主であるミディリシェルにも同様に好意を寄せている。


 ゼノンがミディリシェルと離れているのは、きゅきゅとしても、不服なのだろう。


「きゅきゅ、お前はジェルドの遺産を回収するのにどう思ってるんだ?」


「当然だと思うんでちゅ。あれは危険性が高いものが多いでちゅから。フォルしゃまの事でちゅから、ここにある遺産が必要なものかもしれないでちゅが」


 フォルの思惑までは分からない。だが、悪いようには使わないだろう。


 ゼノンは、回収を頼む理由を気になりながらも、遺跡を探した。


「中々見つからねぇな。さっきから探してんのに」


「ジェルドの遺跡が簡単に見つかるわけないでちゅ」


「エレの野生の勘が欲しい」


 探せど探せど、建物の痕跡が見つからない。


「つぅか、なんでジェルドの遺跡がこんな場所にあるんだろうな?終焉の種なのに」


「知るかでちゅ。かのお方にでも聞いてみるでちゅ」


「投げやり。ん?あれって、そうなんじゃねぇのか?」


 歩いていると、建物の痕跡が見つかった。ここに建物の痕跡があるという事は、ジェルドの遺跡で確定で良いだろう。


 ここには、それ以外の建物はあるはずないのだから。


「やっと見つけた。次は遺産だな。一つだけって聞いたが」


「手伝わないでちゅから。自分一人で探せでちゅ」


「……エレだったら喜んで手伝ってやるくせに」


「姫は特別でちゅ」


「……エレが褒めてくれるかもしれねぇな。手伝ったら」


 ゼノンがそう言うと、きゅきゅが頭から離れた。ミディリシェルに褒められたい一心なのだろう。ジェルドの遺産の捜索を手伝い始めた。


 ゼノンも、ジェルドの遺産を探す。


「……見つかんない。そっちは?」


「みちゅからないでちゅ」


「……使うか」


 聖月の秘術は、もの探しができるものもある。ゼノンは、それを使った。


 それを扱うのはかなり困難だ。氷の粒子を使うという事は変わりないが、その氷の粒子の感覚で探す。


 かなりの集中力と、繊細さを要する。探し物に気づくためと、氷の粒子の大きさが大きければ、隅々まで探す事ができないからだ。


「……」


「……」


「見つけた。多分これだろうな」


 ゼノンは、ジェルドの遺産と思われるものを見つけた。魔力の塊の中から。


 形は三角。特徴としては、中心に宝石が埋め込まれている。


「とりあえず、持って帰るか」


「はいでちゅ」


 ゼノンは、ジェルドの遺産を持って、来た道を戻った。その時、僅かにジェルドの遺産に埋め込まれている宝石が光っていた。

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