5話 天界の天族
ミディリシェル達は、天族の里へ転移した。
白を主色とした街並み。空色がアクセントとなっている。
「ふわふわ飴ー」
「却下だ」
「むぅ。まだ欲しいって言ってないの。みゅぅ。エレ、ミュニアに会ってくるから」
ミディリシェルは、そう言って、一人で宮殿の方へ向かった。
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ミディリシェルにとっては、懐かしの場所。かつては、ここで、王としての役割を果たしていた。思い入れのある場所だ。
現在は、王の存在は、長らく不在となっている。ミディリシェル以降、誰も王には選ばれていない。
「ミディ様!」
「ふぇ?久しぶりなの。ミュニア。元気にしてた?にゃむぅってしてた?」
露草色の癖毛が目立つ髪に飾りの羽根。現在、天族を纏めるヨジェドの義妹ミュニア。
ミュニアが、笑顔でミディリシェルの元へ、走ってくる。
「はい。今日は、遊びに来てくださったのですか?」
「ううん。ヨジェドに頼があってきたの。アディグアも久しぶりだね」
ミュニアの隣にいる青年アディグア。彼は、ミュニアの夫であり、魔族の一種、悪魔の王族だ。
「お久しぶりです。エンシェルト陛下」
「今は違うよ。宝剣が選んだって言うなら、そうかもだけど」
「お兄ちゃんになんの用なんですか?」
「ふみゅ。外の国で、行方不明者がいっぱいなの。その行方不明者が、魔物化しているかもしれないから、協力を頼みたくて」
「ヨジェドは多忙なため、その役目」
「よぉ、姫様。久しぶりに、お見えになられて、まぁた、甘いものを買おうとしていたとか?」
ミディリシェルの目的の人物。ヨジェドが、書類の束を手に、目が笑っていない笑顔をミディリシェルに向けた。
「ぴぇぇぇ⁉︎なんで知ってるの⁉︎違うの!未遂なの!勉強とお説教一時間コースはご勘弁なのー!」
天族の王として、この国を治めていた頃の事。ヨジェドは、ミディリシェルの教育係件補佐だった。
ミディリシェルは、その頃にされたスパルタ教育が、長らく経った今でも、トラウマとなっている。
「今は、それどころではないんでしょう。話は聞き及んでます。ケルグと共に、姫様に協力いたしましょう」
「私達も協力します」
「ありがと。けーきにもよろしく伝えておいて。ミディがここに長くいる事はできないから」
「姫様、我々からの願いを聞いて頂けないでしょうか?姫様に、解決して頂きたい事がございます」
「みゅ?なぁに?」
「……ふわふわ飴に使われる砂糖花を取りに行って頂けないでしょうか?それと、人里の様子を見て頂きたく」
「……」
「我々が、貴方様にした事は、消える事はありません。ですが、それで、ここに住む民まで、嫌いになって欲しくないと……都合の良い話だとは理解しております」
「ヨジェド、ミディは、きらいになんてなってないよ?ただ、ミディ、ここに長くいると、あまあまさんが貰えないから。種族総出でミディのあまあまさんじじょぉ監視されるから」
天族の王は、かつて、裏切り者として処される事となった。その罪は、冤罪。一部の天族達の罠。
だが、ミディリシェルは、その事で、天族を嫌う事は無かった。今、この場にいる事が、何よりもの証拠だろう。
「それも、一種の愛というものです」
「ふにゅ。分かってはいるの。だから、ふわふわ飴、一袋で」
「二袋、彼の分も持っていってください。それと、謝罪を、お伝え頂ければ」
「それは要らないの。ふわふわ飴は受け取るの。ゼロも分かってるよ。ミディは、ゼロがなんて言ってたか知らないけど、ヨジェドなら、分かるんじゃないかな?ゼロが、どうしてあんな選択をしたのか」
「……」
「ミディは、砂糖花探してくるねー。あっ、このお花を振って出る花粉で、解決なの」
ミディリシェルは、ミュニアに、解呪の花を三輪渡した。そして、宮殿を出た。
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宮殿を出たミディリシェルは、イールグとゼムレーグと合流した。
宮殿での事を、二人に説明した。
「って事で、砂糖花の採取と、ついでに、原初の樹のところへ寄っていくの。原初の樹の力があれば、ここを守る事ができるから」
「原初の樹の結界か。良く考えたな」
「エレは、原初の樹と深い関わりがあるから、そういう事には詳しいの。何かあった時は、必ず頼るようにって言われてる」
――リプセグ、エレクジーレス。二人も、エレに力を貸してくれる?
ミディリシェルは、心の中で、二樹の原初の樹へ問いかけた。その問いの答えは返ってくるはずがない。そのはずだったが
『私の力は常に姫と共に』
『我が力は常に我が子と共に』
どこからか、そう聞こえてきた。それは、二樹の返事なのだろう。
「……ありがと。早く行かないと、夜になっちゃう。ゼム、魔物さんいたらお願いなの」
「えっ⁉︎」
「エレも一緒にがんばるから」
「それなら……ちょっとだけ」
「ふみゅ。ルーにぃ、歩き?魔法?歩き遠いよ?歩きたくないよ?エレは歩くのやだよ?」
「徒歩だ。こんな距離に転移魔法を使うわけがないだろう」
「むぅん。がんばるの」
ミディリシェルは、嫌々、砂糖花採取のために、歩き出した。
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ヨジェドからの頼み事を全て終わらせて、ミディリシェル達は、天界にある原初の樹の場所へ向かった。
原初の樹は、基本的に人の住む場所からは離れた地にある。
人の手が加わらない、神秘的な場所。
その場所へ入るのは、原初の樹に許可を貰った人物のみ。
「そういえば、宝剣ってどこにあるんだろう。ミディリシェルとして、在り方だけは知っておきたいのに」
「天界の宝剣ミディリシェルだよね。エレ以外は扱えないから、悪用はされてないと思うから、今すぐ知る必要って」
「保険。何かあった時のために。ルーにぃ、なんか知ってる?」
「ジェルドの兵器の一部だったか。前にフォルから聞いた話であれば。その剣に関する情報は入って来ていない。ゼノンとリーガの方に関しても」
かつて、天族、魔族、精霊が三大種族と呼ばれていた頃、三種の地へ降り立った三本の宝剣。
宝剣ミディリシェルは、この天界のどこかにある。ミディリシェルは、それを感じ取ってはいるが、その場所までは分からない。
『ようこそおいでくださいました。ジェルドの姫君。兄殿下と黄金蝶の子』
「ふみゅ。久しぶりなの。イェリウィヴァ」
原初の樹イェリウィヴァ。天界に遥か昔から存在する大樹。
「こっちでは、ヨジェドとけーきと来たのが最後だったっけ?二人とも、エレが気軽にイェリウィヴァと言葉を交わしていて、とっても驚いていたの。面白かったの」
『それが普通の対応でしょう。全ての種にとって我々はそういう存在です。姫君にとっては、違うのでしょうが。エレクジーレス様の加護が以前よりも強まっております。かのお方は、何か仰っておられましたか?』
「エレを大事に想ってくれていたの。リプセグもエレクジーレスも、エレに力を貸してくれるって」
『わたくしも、姫君に喜んで力を貸しましょう。この力は、常に姫君と共にありましょう』
「みゅ。ありがと。それなら、一時的で良いから、天界の結界をお願いできる?天族以外は入ってこれないように」
『任されましょう』
天族以外を拒む大結界。これは、原初の樹だからこそできる芸当だろう。
「エレ、宝剣の在り方を聞かなくて良いのか?原初の樹であれば知っているのではないか?」
原初の樹は、常にその世界を見守っている。天界にあるのであれば、イェリウィヴァは知っているだろう。
ミディリシェルは、イールグに言われて、驚きのポーズをとった。
『宝剣ですか。それでしたら、わたくしの根がある洞窟にて、お預かりしております。いつか、姫君がここへ戻って来た時のためにと』
「ぷみゅ、ゼム、魔法の練習の時間なの。原初の樹の根がある洞窟といえば、危険地帯で有名だから。宝剣探しの冒険なの」
「えー」
『宝剣は、誰の手にも届かぬよう、洞窟の最深部。その付近に、わたくしの根から生まれた子に守らせております。姫君が、宝剣を手にするだけのものを再び持ち合わせていらっしゃるか。それを見極めるために』
「みゅ。ゼムとルーにぃとがんばって行ってくるの」
『では、入り口を開きましょう。どうか、お気をつけください』
イェリウィヴァが、洞窟の入り口を開けた。
洞窟の入り口は、転移ゲートになっている。
『言い忘れておりましたが、ここは最新部へと続く道が三手に別れております。ですので、お三方、別れて進んでいただきます』
「……武器は創造魔法でどうにかすれば良いの」
ミディリシェルは、現在武器を一つも持っていない。前に、暇な時間に収納魔法の中の整理をして、全ての武器を出していた。
「……オレも行かないと?」
「当然なの。大丈夫だよ。ゼムは、がんばればできる子だから」
「……」
「エレが今度がんばったからって、お菓子作ってあげるの」
「……頑張ります」
「ふみゅ。イェリウィヴァ、三手に分かれるのは分かったの。その道って、危険度変化はあるの?」
『ええ。ついでに、転移はこちらで行いますので、選ぶ事も可能です。上中下でお選びください。危険度が一番高い上は、危険度が高い代わりに、頭を使うような事は少ないです。下は、かなり頭を使うでしょう』
誰がどこへ行くのか。ミディリシェル達は、それを話し合った。
「エレは、危険でも大丈夫なの」
「オレは……げ……中が良い」
「ゼムが下が良いって。下で決まりなの。ルーにぃはどうするの?」
「俺はどっちでも良いが、上だとエレは心配になるからな。俺が上へ行く」
「みゅぅ。エレだって大丈夫なのに。でも、ルーにぃが心配しなくて良いならそれで良いの。ちょっとくらい頭使うのは、エレの勘でどうにかするの」
話し合いはすぐに終わった。ミディリシェルが中、ゼムレーグが下、イールグが上。三人とも、納得して決める事ができた。
『では、お気をつけて。根の子の試練に』
「やっぱりそういう事なの。最新部の合流地点前で、宝剣を……ルーにぃ達やらせる意味あるの?」
『行けば分かりますよ。なぜ、三手に分けているのかという理由についても』
「ふみゅ。転移ゲート潜るの久しぶりなの。ゼム、手、繋いで行こ。これ潜るの苦手だから」
「うん」
「ルーにぃも」
「良かろう」
ミディリシェル達は、三人で手を繋いで、転移ゲートを潜った。
『では、頼みますよ。トヴレンゼオ、アウィティリメナ』
『ここへ来たのは、ジェルドの兄殿下とあの方のご友人か。フフフ、ハッハッハ。あのジェルド坊がどれだけ成長したか見れるとは』
『はしたないではないでしょうか。あたくしめは、あの方のご友人ですか。どのような方か、楽しみでなりません』
『姫君、どうか、奥まで辿り着いてくださいね?』