5話 魔物化解呪へ
一晩経っても戻ってこない。いくらなんでも遅すぎる。
そう思ったミディリシェルは、ゼノン捜索を開始する事にした。誰にも言わずに、一人で。
「まずは、どこにいるのかなの。大体の居場所を割り出さないとだめなの」
ミディリシェルは、連絡魔法具を取り出して、ゼノンに連絡をした。だが、ゼノンの連絡魔法具には繋がらない。
「……みゅぅ。こうなったら、必殺のいちじょぉほぉなの」
ミディリシェルが、ゼノンの魔法具にこっそり取り付けておいた機能。ミディリシェルの連絡魔法具に、ゼノンの位置が見れるというもの。
ミディリシェルは、それを駆使して、ゼノンの居場所を割り当てた。
「ふみゅ。分かったの。近くのゲートに転移魔法を使って……ふみゅみゅ。念のため、フォルに、お外出るって連絡をしておくの」
ミディリシェルは、フォルにメッセージを送った。
「みゅ。捜索隊しゅっこぉなのー」
ミディリシェルは、そう言って、転移魔法を使った。
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転移ゲート。これがあれば、簡単に転移魔法で位置を決められる優れもの。ミディリシェルも、このゲートがあれば、安心して転移魔法を使う事ができる。
「エクリシェにも設置して欲しいの」
転移ゲートは、ミディリシェルは作る事ができない。フィルなら作れるが、今は忙しい。
「捜索開始」
ミディリシェルは、魔原書リプセグに呼びかけた。
「リプセグ。ゼロがいる場所を案内して。エレだと迷子だから」
ミディリシェルの言葉に反応して、ミディリシェルの目の前に、光の文字が浮かぶ。
【案内。任されました】
「ふみゅ。よろしくなの」
ミディリシェルは、魔原書リプセグの案内を頼りに、ゼノンがいるらしき場所まで向かった。
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ゼノンの反応があった場所。そこには、巨大な扉があった。
「ふみゃぁ。ここなのかな」
ミディリシェルが扉に触れると、扉は勝手に開いた。
「みゅ。入って良いのかも」
扉の中は、草原が広がっている。ミディリシェルは、扉の中へ、足を踏み入れた。
「……みゅ、なんだか、懐かしい気がするの」
ミディリシェルが中に入ると、小さな魔物が、ミディリシェルの元へ集まってきた。
「ぴゅぅん。とっても可愛いなの……みゅ?これ、エレがゼロに渡した浄化石なの。ネックレスにしてる」
魔物が持っているはずのないもの。ゼノンのためにと渡した浄化石。それを、この魔物は持っていた。
ミディリシェルは、浄化石を持っている魔物を、手の上に乗せた。
「みゅぅ。可愛いの」
魔物は、ミディリシェルに懐いている。
「エレ」
「みゅ?フォル?どうして」
背後から声が聞こえて振り返ると、フォルがいた。
「君が心配だったから。早くここから出るよ」
「待って。ゼロ探すの。いないの」
「その子じゃないの?ルーとにぃ様らしき魔物も発見済み」
フォルの頭を見ると、魔物が二匹乗っている。その二匹が、ルーツエングとイールグだろう。
「ゼロは、君のそれがあったから、完全には取り込まれなかったんだろう」
「他のみんなは」
「それは後。良いから早くここから出るよ」
ミディリシェルは、フォルの連れられて、扉の中から出た。
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エクリシェ下層、フォルの部屋。扉から出ると、フォルが転移魔法を使い、この部屋へ転移した。
「みゅぅ」
「ごめん。なんの説明もなしに」
「ちゃんと説明するの」
「……やっぱ、覚えてないか。僕は別の理由でだったけど、君は、自分で封じたんだろうね」
「みゅ?なんの事なの?」
ミディリシェルは、魔物を机の上に置いて、フォルを見つめる。
「……あそこは、君らに縁のある場所だ。ノーズとヴィジェ。覚えてない?」
「やだ……」
「無理に思い出せなんて言わない。でも、そのまま続けるよ。あそこは、その二人の御巫候補と、君らが過ごした場所」
「……エレ、そんな場所知らない」
「ごめん。もうやめる。だから、そんな泣きそうな顔しないで?」
「……みゅぅ。ぎゅぅ」
ミディリシェルは、フォルに抱きついた。頬擦りをして、匂いまで嗅いでいる。
「ぎゅぅんのぎゅぅん」
「……エレ、あそこには行かない方が」
「行くの。フォルが側にいるから行くの。エレはフォルの側にいるの。ぎゅぅってしてるの」
「でも……」
「とりあえず行くの。その後どうするか考えるの」
「……分かった。エレなら、すきすきらぶらぶで大丈夫とか言いそう」
「そうなの。だから」
「でも、今すぐに行くのは無しだよ。こっちの事情っていうのもあるけど、君はこの状態で行くつもり?各地の情報見てみな」
ミディリシェルは、フォルに言われて、連絡魔法具を手に取った。連絡魔法具に、ミディリシェル達のためにと、神殿やロスト等の協力のもと作られた、メッセージ版がある。そこに、各地で入手した情報が書かれている。
ミディリシェルは、それを開き、現在の各地の状況を確認した。
どこも、内容は変わらない。突然の行方不明者増加と、敵意の無い魔物の大量発生。魔物は、突然、どこかへ消えてしまう。
「みゅぅ。これは、大変な事になってるの」
「そう。大変な事になっているから、今すぐに行くなんてできない。先に、そっちの混乱をどうにかできるようにしておかないと。魔物の一部は、あそこにいる。でも、多くは、その国に残っている」
「それを解呪魔法使って……みゅ?」
「解呪魔法が効果無い。それに、そんな事していてもイタチごっこになるだけ」
「じゃあ……みゅぅん」
ミディリシェルは、自分で答えを出そうと、ベッドに座り、枕を抱きしめて、思考体制へ入った。
「……みゅぅん」
「御巫候補は、魔法が効かない。その大前提が崩されている。でも、全員がかかっているわけじゃないんだ。無事な人達と協力する」
「ふぇ?でもでも、その人達がかかったら」
「そこは、対策を考えてあるよ。浄化石は、あの魔法には有効な手段だ」
「うん。でもだめだった」
邪魔変魔法は、浄化魔法に弱い。ミディリシェルが覚えていた事だ。だが、ゼノンに浄化石を渡したが、邪魔変魔法にかかって魔物化している。
それが示すのは、同じであり別物の魔法。ミディリシェルの知識では、補う事ができそうにない、未知の魔法。
未知の魔法を目の前に、なす術無く、見ている事しかできない。などという事はない。それをフィルが示した。
「これを使う」
「ふにゃ?」
白色の、大量の花びらのある花。
「解呪の花。それに、エレの願いの魔法を重ねれば、効果があるはずだ」
「エレもできる?」
「効果が違うと思う。でも、覚えれば、おんなじような事ができるんじゃないかな」
「ふみゅ。エレ、いっぱい、お願いするね」
ミディリシェルは、花に祈りを捧げた。
「試してみるか。ちょうど実験体になりそうなのが」
「変な言い方だめなの」
「試してないから、実験でしょ」
「……みゅ。なら、このゼロらしき可愛いのを捧げるの」
ゼノン、ルーツエング、イールグといる中で、ミディリシェルは、迷わず、ゼノンを差し出した。
「了解」
フォルが、花を魔物化しているゼノンの頭上で振った。
「ふぇ⁉︎も、戻ったの。花粉をかけてとか、ふにゅふにゅなの」
「えっ?あれ花粉じゃなくて、魔力」
「ちっちゃい事気にしないの」
「……エレ?可愛い」
「元に戻った第一声がエレなの。ふみゅぅ」
ミディリシェルは、元に戻ったゼノンに抱きついた。
「遅かったから、みゅぅんってなってたんだよ。エレ、みゅぅんってなってたの」
「悪い。心配かけて」
「そう思うなら、エレをにゃむっとして。って言いたいけど、いそいそだからむりなの」
「……そう、だな」
「みゅ?何かあったの?エレに言わないと怒るの。おかえり遅かったんだから、包み隠さず話さないとだめ」
「……魔物化のすぐ後、呪いの聖女を見た。思い出せないが、どこかで会った事がある。それに、俺を見て、見つけたって」
「……やっぱり、そうとしか……とりあえず、こっちの二人も戻すよ。その後、花を量産する」
「ふみゅぅ、りょぉさん、がんばるの」
フォルが、ルーツエングとイールグも、解呪の花で元に戻した。
「みゅぅ。お花のりょぉさん」
「にぃ様、フィル呼んできて。ゼロは、ゼム」
「分かった」
「……エレ、ゼムってどこいるんだ?部屋いる?」
「……ぷしゅ……お部屋いるの」
「笑う事ねぇだろ。知らなかっただけで」
「早く行ってくるの。急ぎで。エレ寂しかったんだから」
「ああ。すぐ戻る」
「みゅ」
ゼノンとルーツエングが、フィルとゼムレーグを呼びに、部屋を出た。
「エレ、花」
「ふみゅ。お願いいっぱいするの」
「ルー、花の効果を増幅させられる?」
「任せろ」
フォルが花を創り、ミディリシェルが、花に祈る。イールグが、花の効果を増幅させる。それを、三十回程繰り返した。
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花の量産作業が終わった頃、ゼノンとルーツエングが、フィルとゼムレーグを連れて戻ってきた。
フォルが、一通りの説明を済ませると、どうするのかの話し合いが始まった。
「……みゅ。ローシャリナは、なんの情報もないの」
まずは、どこが無事なのかを知るため、ミディリシェル達は、メッセージ版を読んで、情報を集めている。
「リューヴロと、エクランダも無事みたいなの」
「エレ早くね?」
「ふみゅ?だって、こうすれば早いの。ここのニュースに出てる国名だけを見れるようにしてるから」
「それどうやってやるんだ?」
「エレとフォルの連絡魔法具しかできないの」
「うん。ついでに、出ていない国も見れる。エリクルフィア全域と天族達の国も無事みたい。それに、アスティディアとロスト。調べられるのだとこのくらいかな」
「みゅ。ローシャリナは、月鬼達がいると思うの。リューヴロは、リグ達。ロストは今はルナ達いるの。エリクルフィアには……アスティディアは、アディとイヴィがいるらしいの。今の天族をまとめているヨジェドって人は、シスコンだけどとても良い人なの」
「今はエクーは、管理者の箱庭内にいる。でも、エクランダに、弟子がいるらしい。単体行動は危険だから、二人一組でにする?三人のチームは、一つ多く行ってくるで」
フォルがそう言うと、ミディリシェルは、フォルとのペアを誰かに取られないよう、フォルの腕に抱きついた。
「……この子、僕以外はいやだって」
「なら、俺は主様を指定しよう」
「俺は」
「ゼロは、ゼムと一緒におにぃちゃんに面倒見て貰えば良いの。エレは、フォルと一緒が良いから」
「……全員の意見聞かなくて良いなら、ルーとエレとゼムで、アスティディアとリューヴロと天族の国。にぃ様とゼロで、ローシャリナとロストに行ってきて欲しいんだけど」
適任を考えて言っているのだろう。それに、口で反論をするのではなく、驚きのポーズをとって、フォルを見るミディリシェル。
「エレ、悪いとは思ってるんだ」
「全然思ってない人の顔なの」
「……僕のエレなら、お願いした事、なんでもやってくれるって思ったから。だめ?」
「良いの。エレ、フォルのお願い聞くの」
「じゃあ、 。お願いできる?ゼロにも伝えて。君らにしか頼めないから」
「みゅ。任されたの」
ミディリシェルは、ゼノンに、共有でフォルの頼みを伝えた。
「ゼム、行くの。天族の国まで転移魔法使えなの」
「エレが使えば?」
「あっ、ルーにも頼みある。ゼムに魔法慣らせといて」
「良いだろう。ゼム、ゲートなしで転移魔法を」
「それは難しいと思うの。ゼム、ゲートを頼りに、ゲートのお隣へ転移魔法使うの」
「うーん。隣なら、多分できると思うから良いけど」
「フィル、エリクルフィアとエクランダどっちから行く?」
「エクランダ」
「了解」
「エルグにぃ、先にロスト行きたい」
「分かった」
各チーム、先に行く場所を選び、転移魔法を使った。