4話 邪魔変魔法
ミディリシェルは、目を覚ますと、フィルに会いに行った。
フィルは、ミディリシェルの送った、魔法具製作を行っていた。
「……みゅ。お邪魔かもしれない。帰るの」
「ここにいて良い。なんの話がある?」
「邪魔変魔法への対処法なの。不完全な状態の魔法にかかって、治す方法が知りたいの。でも、エレ一人じゃ分かんなくて」
「……おれの持っている知識での推測で良いなら」
「ふみゅ」
「過去の状態へ戻す。過去視の応用法で。それか、エレとフォル以外はできない方法なら、あるかもしれない。解呪の花。術者からの束縛があれば効かないと前に言っていたから、その束縛を無くせば。どちらにしても、時間制限はつく」
「ふみゅ。でも、今回分の被害であれば、どうにかできるんじゃないの?」
大体、五十年から百年程だろう。年数で言うのであれば。
「……百五十年。そのあたりが限界だと思う」
「……それより前は、助けられない?」
「恐らく。諦めきれないというなら、方法を探す協力はする」
「……せめて、次は良い場所でって祈るの。エレは、きっとそれ以外できないから。お邪魔になっちゃうから、そろそろお部屋戻るの。そろそろ、ゼムが来ていそうなの」
ミディリシェルは、そう言って、自室へ戻った。
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ミディリシェルが部屋へ戻ると、ゼムレーグが、ミディリシェルを探していた。
「みゃ?おかしな行動してるの……ほっとこ」
ミディリシェルは、黙って、部屋から出ようとする。
「あっ、いた!」
「みゅ。おかしな行動してるの。ほっとこなの」
「エレを探していただけでおかしな行動って。朝食、持ってきた。一緒に食べようよ?」
「みゅ。その後、エレと遊ぶの。それで、エレをなでるの。それが、エレのお世話なの」
「オレなら、なんでも聞いてくれるとか思って言ってない?ゼロとフォルにも同じ事言ってる?」
「言わずにするのがゼロとフォルなの。すごいでしょ」
ミディリシェルは、得意げに、そう言った。
「……それより、こんな朝早くから何してたの?エレが朝早くから起きてる事自体珍しいのに、動いているのは気になる」
「むみゅ⁉︎意地悪なの⁉︎ゼムが意地悪なの⁉︎機嫌悪いかもなの⁉︎むんにゃ!むんにゃ!」
「今のどこが意地悪なのか聞いたら教えてくれるとかってある?」
「エレが起きてるの珍しいとか言ったの。意地悪なの」
ミディリシェルは、椅子に座りながら、そう言った。
朝食のパンを手に持ち、匂いを嗅ぐ。ほんのりと甘い匂いがする。感触は、相変わらず柔らかい。だが、今日は少し硬めだ。
スープにつける。スープを吸って、パンが柔らかくなる。
「ふんみゅぅ。ゼムはエレのお世話係ににんめぇするのー。これは、ごほぉび級なのぉ」
「世話係は、丁重にお断りいたします。その褒め言葉だけありがたく頂戴します」
「やっぱりちょっと意地悪なの。意地悪だから、エレが魔法教えちゃうの。エレは、やさきびなの」
「やさきび?そんな言葉あった?」
「優しくて厳しいの。でも、分かりやすいの。ふみゃ⁉︎……ふぇ」
パンにスープを吸わせながら食べていると、パンより先に、スープが無くなった。ミディリシェルは、スープの入っていた器を、悲しげな表情で見つめている。
「そのままでも美味しいから、試してみて」
「……ふみゃ。美味しいの。ゼムは、呪いの聖女さんの噂とか知ってるの?」
「聞いた事ないと思う。オレは、ロストにいる事が多いから、噂とかに疎くて」
ロスト王国は、氷の国とも呼ばれる程、極寒地帯。外から人が来る事は無く、国内にいれば、国外の情報は入ってこない。
ゼムレーグが、何も知らなくても、仕方がない事だろう。
「ふみゃ。お片付けエレもお手伝いするの」
「ありがとう。ついでに、掃除とかも手伝ってもらえるとか、そういう喜んじゃう嬉しいお知らせは」
「あるの。暇だから、お手伝いするの」
ミディリシェルは、今日一日、掃除や料理の手伝いをして過ごした。
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夜になり、ゼムレーグが、自室へ戻る。ミディリシェルは、一人で、魔法具の設計図を考えていた。ゼノンがまだ帰ってこない。それを待っていた。
「……遅いの。ゼロ帰ってこない。遅いの……はっ⁉︎エレに内緒で、みんなで、お泊まり会をしているのかも」
ミディリシェルは、帰りの遅いゼノンを待つ事はできず、眠る事にした。
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朝から買い物に出かけたゼノンは、欲しいものを買い終わり、昼食を摂っていた。
「人が少ないな」
「うん。いつもはもっといるんだけど。どうしたんだろう」
「突然行方不明になっているらしい。さっき聞いてきた」
「エルグにぃ、仕事早いな……行方不明。エルグにぃは、何が原因だと思うんだ?」
ゼノン達が買い物に赴いた場所。そこは、普段なら毎日のように賑わっている場所だ。だが、今日は静かだった。
昼時だというのに、店にも客が少ない。席の半分も埋まっていない。
その異常事態を、ルーツエングがどう判断するのか。それで、ゼノン達の行動も決まるだろう。
「……まだ、何とは断定できない。だが、禁止指定魔法が使われている可能性が高い。調べてみる必要はあるだろう」
「なら、ミディに帰りが遅くなるってメッセージ送っておくか」
ゼノンは、連絡魔法具を取り出した。ミディリシェルに、メッセージを送ろうとするが、起動しない。
「……ノヴェにぃ、魔法具使えない」
「えっ?故障した?見せて?」
ゼノンは、持っていた連絡魔法具を、ノーヴェイズに渡した。
「……故障してないみたい。俺ので確かめてみる」
ノーヴェイズが、自分の連絡魔法具を取り出して起動する。
「……できない。みんなは?」
ルーツエング達も、連絡魔法具を取り出して、起動しようとするが、起動する事は無かった。
「……魔法具の暴走?だが、それにしては……」
「ノヴェ、何か分からないか?」
「ごめん。ミディなら分かるかもしれないけど、俺には故障していないって事しか。魔法機械はどう?誰か持ってない?」
「俺が持ってる」
ルーツエングが、小型の魔法機械を取り出した。
「……付かない」
「あっ⁉︎ミディから、本を貰っていたから、そこに何か」
ノーヴェイズが、ミディリシェルから貰ったという本を取り出した。本を開くと、魔法具の故障について書かれている。
「突然起動しなくなった時……もあるんだな。あいつ、どこまで想定してんだ?」
「魔法具が使えなくなるありとあらゆる障害や故障をメモしたのをまとめた。って言っていたから、ミディが確認した事なんだと思う。ミディは、魔法具の耐久性とかも調べているらしいから。えっと……」
ミディリシェルが書いたからだろう。字は、読めるか読めないかの中間。ゼノンは、ミディリシェルの文字を見慣れていて、すぐに読めたが、ノーヴェイズは、苦戦しているようだ。
「魔法具が突然起動しなくなる時に考えられる原因を可愛く解説なの。って部分で良いか?」
「うん」
「ゼノンくん、読めるの?」
「いつも読んでたからな。エルグにぃとルーにぃも読めるだろ?」
「ああ。かなり詳しく書かれている」
ミディリシェルは、ノーヴェイズが状況と照らし合わせて、判別しやすいようにと、できるだけ詳しく書いてくれたのだろう。
ゼノンは、今の状況に一番近い部分を探した。
「……これが近いな」
【全ての魔法具が突然起動しなくなった時。それは、呪いの仕業なのぉって事はないの。呪いは、原因があるんだから。
考えられる原因は、外部的問題と内部的問題で両方あるから、頑張って見分けるの。がんばれー。
内部的問題は、魔法石が魔力を吸収しなくなるの。外部の問題でっていう可能性が高いけど、魔法石は、魔法具の中にあるから、内部的問題なの。
吸収しなくなる原因は、吸収できない魔力だからが、一番可能性高いの。
外部的問題は、いくつかあるの。
悪い人が、魔法具を暴走させて、正しく起動できなくなる。
外に異様な魔力が存在する。ごく稀にだけど、起動しなくなるの。
誰かが、故意的に、魔法具を使えなくしている。
見分け方もあるの。
悪い人が魔法具を暴走させていたら、起動しないの。でも、僅かに痕跡を残していると思うから、それを視ればいいの。起動ボタンを押すと、僅かにノイズが走るとか、そんな感じで、おかしな点があるはずだから。
異様な魔力が存在するのは、その周囲にその魔力の発生源があるはずなの。例えば、突然人がいっぱいいなくなった場所にいるとか、一部の禁止魔法が使われた痕跡があるとか。その辺は、ミディよりも、エルグにぃ達が詳しいから聞けば良いの。
魔力を視るのは、がんばるの。
異様な魔力を吸収した魔法石は、浄化するか交換するの。
誰かが、故意的に、魔法具を使えなくしているのは、ちょっと難しいの。でも、そうだとしたら、近くにワルワルセンサー作動するの。だから、それで見分けるの】
「……とりあえず、魔法石交換してみるか?さっき、大量に買ったから」
ミディリシェルには悪いと思うが、魔法石を、入れ替える。
「……付かない」
「ここにあるなら、どの魔法石も変わらないだろう」
「……他の確かめ方。エルグにぃ、禁止指定魔法の痕跡とか分かるのか?」
「……この近辺に、痕跡らしきものはあった。だが、その魔法がなんなのかまでは分からない」
ミディリシェルの書き方だと、禁止指定魔法の中でも、限られている。禁止指定魔法の痕跡があったからといって、そうでない方が多いだろう。
「暴走は違うと思う。ノイズとかは無かったから」
「故意的も。この辺りには、それらしき悪意が感じられない」
「ああ。俺も、アゼグにぃと同意見」
「なら、禁止指定魔法か、魔法石が原因か。もし、魔法石が原因であれば、取り外して、魔力を吸収しているか確認すれば良い。この中だと、禁止指定魔法がだろう」
「調べたのか?」
「さっき、ゼノンがやっている時に」
「俺も見ていた。魔力が吸収されているのを」
消去法で残されたのは、禁止指定魔法の使用。
「なんの魔法が使われたかが問題か」
「ミディから聞いた、邪魔変魔法。エルグ、あの魔法は、可能性としてどうか分かるか?」
「別の魔法だろう。もし、それがそうであれば、前の時に使えなくなっていた」
「……わたしの魔法具、あの時使えてた」
「なら」
「……誰か見てる。恐らく、神獣だろう」
ルーツエングが、声を潜めて、そう言った。
「何もしてこないという事は、監視か」
「そうとしか考えられない。だが」
それは、突然の出来事だった。誰も気づく事なく、それが起こった。
突然、身体が、小さくなる。小型の魔物に、変化する。
「みゅぴゅん」
「……やっと、見つけた」
ゼノンが、魔物化して、意識が途切れる前に見た光景。それは、ピュオの話にあった、呪いの聖女の笑った姿だった。