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星月の蝶  作者: 碧猫
1章 星の選ぶ始まりの未来
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3話 きっかけ


 動揺を見せたのは一瞬だけ。これだけであれば、知らないと誤魔化す事はできたのだろう。


 だが、相手が管理者という事を知ってしまい、しかも、仕事関連という事を聞かされた以上、ミディリシェルの中から誤魔化すという選択肢は消えた。


「心当たりなら、なくは、ないの。でも、それを聞いてどうするの?じゃなくて、それを教えたら、あの国をどうするの?」


「……申し訳ないけど、具体的にどうするかは答えられない。ただ、君が教えたとしても、教えなかったとしても、結果は変わらないよ。君の保護の件も含めてね」


「保護?」


 ミディリシェルは、何かの聞き間違いではないかと思い、聞き返した。


「うん。あの国から君を保護するようにと。こういうのも僕の仕事なんだ」


 ミディリシェルが復元してきた本は、古く、知られていないような事が書かれていた。


 その中には、管理者という言葉も出てきた。

 管理者の仕事についても、具体的ではないが書かれていた。


 ミディリシェルは、その本の知識で、管理者の仕事については、多少知っている。だが、保護などという仕事は書かれていなかった。むしろ、その逆のような事ばかりが書かれていた。


 ミディリシェルが、それを知らないだけかもしれない。その可能性もあるが、フォルのその話が本当であるという証拠などどこにもない。


 言葉巧みにミディリシェルの警戒心を解くために言っている嘘という可能性も十分にある。


 ミディリシェルは、解けかけていた警戒心を復活させ、フォルから離れようと、ごろごろとベッドの隅へ移動した。


「言葉だけじゃ信用ならないかもしれないけど、この話は全部嘘じゃないよ。君の保護に、あの国に対する処罰。それが、今回、僕が主様に命じられた仕事の内容」


「なんで、ミディ……私を保護するの?私を保護する事で、その主様って人とか、管理者さんに何か利があるの?」


「あるよ。その組織としてもそうだけど、僕個人としても。君を保護する事に利はある。と言っても、今の君じゃ、理解できないのかな」


 理解できない。まさにその通りだ。


 人は、転生を繰り返している。だが、生まれながらにしてその記憶を持っているというのは、稀な事。


 ミディリシェルも例外ではなく、記憶を全て失い、転生するのがほとんどだ。


 何かのきっかけで戻る事はあるが、ミディリシェルは、その経験がない。


 フォルの言葉は、恐らくは転生前のミディリシェルが関係している。


 今のミディリシェルでは、理解しようがない事なのだろう。


「……分かんないよ。私は、あなた達の事なんて知らないの。管理者達の事も。どうして、私を保護すると利があるのか。私が、管理者達にとって、どんな価値があるのかなんて、全然知らないの。転生前の記憶なんてない。私を、前の私と同じにしないで。期待しないで。利になるなんて思わないで」


「主様がどう思っているかまでは分からない。でも、少なくとも僕は、君に転生前と同じなんて求めてないよ。記憶だって、なくて良いんだよ。ない方が望ましいよ」


「望ましい?どうして?記憶にある状態の私が欲しいんじゃないの?」


 フォルの返答に、ミディリシェルは目を見開いた。


 こういう話であれば、記憶にある状態で欲しいだろう。記憶がなくて欲しいというのは理解できない。


「この辺は、今は分からなくても、そのうち分かる時が来ると思う。続きはまた明日。今日はもう遅いんだから、ゆっくりお休み」


「い……ふみゅ」


 ――……っ、今、なんて言おうとしたの⁉︎なんで、こんな事


 一緒にいたいからいや。喉まで出かかったその言葉。


 なぜそんな事を言おうとしたのか。それは、自分の事のはずなのに、理解ができなかった。


 ミディリシェルは、戸惑う自分を落ち着かせようと、瞼を閉じ、両手をそっと胸に当てた。


「……記憶がなくても、魔力循環の方法は知っているんだ。それ、どこで知ったの?」


 ミディリシェルが落ち着こうとやった行動、それは、魔力循環の方法。


「……」


「それに話したくない?」


「……寝る前に落ち着かないといつもこれをやっているの。本に載っていたのを見て、それで覚えた」


 ミディリシェルは、そう言うと、くるっと身体を半回転し、フォルに背を向けて、ゆっくりと瞼を閉じた。


 想像以上に疲れていたのだろう。瞼を閉じると、直ぐに眠りについた。


      **********


 翌朝、ミディリシェルが目を覚ますと、一人だった。部屋をきょろきょろと見回すが、誰もいない。


 昨晩は、フォルが隣で寝ていたのだが、先に起きて部屋を出たのだろう。


 一人の朝など何度も体験してきた。だというのに、寂しく感じる。


 ミディリシェルは、ぷぅっと頬を膨らませた。


「……むにゅ……むぅ……ふぇ?……みゅにゃ?」


 ミディリシェルは、なぜ寂しく思うのか。一人が嫌と感じるのか。フォルがいないのが嫌なのか。それが分からず、一人で戸惑っていた。


「おはよ」


 ゼノンが、朝食を手に部屋を訪れた。ミディリシェルが見た事のない、見るからに柔らかそうなパンと、美味しそうな見栄えのスープ。


「……しゃぁ」


 ミディリシェルは、部屋を訪れたゼノンに、問答無用で威嚇した。


「猫かよ」


「……おはよ。帰してくれる気になったの?」


「……あそこはそんなに良い場所なのか?早く帰りたくなるくらい」


「しゃぁ!」


 ゼノンの問いに、ミディリシェルは、膝を曲げて、枕をぎゅっと抱きしめた。そして、威嚇する。


「匂いに惑わされないの」


「少なくとも、そこで惑わそうとはしてねぇよ。一度も惑わそうとは思った事ねぇけど。つぅか、匂いだけは良かったんだな」


「……」


 ミディリシェルは、頬をほんのり赤めて、何も言わずにこくりと頷いた。


 現在、ゼノンの匂いは、二番目に好きな匂いだ。


「……えっと、朝飯持ってきたから……また、昨日みたく食べさせれば良いのか?」


「……べぇ」


 ゼノンの問いに、ミディリシェルは、べぇっと舌を出した。


「なんでそんなに敵意丸出しなんだよ。勘違いで昨日のあんな態度をとっていた事については、本当に悪いと思っているけど、そろそろ機嫌なおしてくれたって良いだろ」


「……なんで、なんでそんなに優しくしようとするの!昨日、優しくしないでって言ったの!」


 枕を抱きしめる手に力が入る。ミディリシェルは、今にも泣きそうな表情で、ゼノンを見てそう言った。


「どこに理由なんて必要あるのか?まあ、強いて言うなら、お前の事を見ていて、ほっとけねぇし、世話してやりたいって思ったから?」


「……訳分かんない。おかしな人なの」


 そう言ったミディリシェルの枕を抱きしめる手の力が少しだけ抜けた。ミディリシェルは、良く分からないという目で、ゼノンをじっと見つめた。


「こういう事言う相手には会った事ねぇのか?」


 ミディリシェルは、こくりと頷いたあと、言葉を紡いだ。


「ないの。ゼノンだけがおかしなだけなの……おかしなゼノンなの」


「そうか……やっぱ複雑だな」


「なにが?」


「俺、生まれつき、他人の感情が色や模様で視る事ができるんだ。今のミディは、いろんな感情が複雑に絡めあっている。ここがそんなにいやなのか?それとも」


「ミディはあそこにいて幸せなの‼︎あそこが、あそこだけがミディの居場所なの‼︎」


 ゼノンが、ミディリシェルの触れられたくない部分に触れる。


 ミディリシェルは、瞳に涙を溜めて、そう叫んだ。


「……」


「むにゅ⁉︎」


 ゼノンが突然、ミディリシェルの口の中に、スープに浸ったパンをひとかけら入れた。


「(もぐもぐ)……スープが染み込んでいて、とっても美味しいの……じゃなくて、ミディは」


「その話はもう良い。お前が嫌がるなら、今はこれ以上それに触れないようにする。色々と思う事はあるだろうけど、今は療養だと思って、あの国の事は一旦忘れて休め」


「……そんなの、できないの」


 ミディリシェルは、俯いてそう言った。


「忘れるのは難しいよな。なら、ほんの少しで良い。お前がいやがってる、優しさつぅもんを受け入れてみろ。そうすれば、少しは何か変わるだろう。それに、そのくらいならできるだろ?」


「……それは、できる、かも?……あーん」


 ゼノンの優しさを受け入れる努力という口実に、ミディリシェルは、昨晩と同じく、口を開けてゼノンに食べさせてもらう。


 ほんのりと甘味のあるパン。それに、クリーミーなスープが良く合う。今のミディリシェルが、知らなかった味だ。


「ご馳走様……美味しかったの」


 今度はフォルの優しさを受け入れる努力をしてみる。ミディリシェルは、机に置いてある薬の入った瓶を手に取った。


 勇気を出して口元まで持っていく。だが、それ以上は進まない。


「……むにゅぅ……にゅぅ……やっぱ、これは……むりなのー!」


「それは理由が違うだろ。無理はすんな。つぅか、昨日も思ったんだが、お前って苦いの大っ嫌いだろ」


「……それを好きな人がいるの?」


「いるらしいけど、俺は信じられない。甘いものの方が良いよな。苦いのは進んで口に入れない」


「分かるの。苦いもの反対派なの」


「ああ」


 ミディリシェルは、薬の入った瓶を机に置き、ゼノンと謎の友情が生まれた。


「薬なんて苦いのが当然なんだから飲んで欲しいんだけど」


 ミディリシェルが目を覚ました時にいなかったフォルが部屋を訪れた。


「ふにゃ⁉︎……だ、だってにがにがさんは敵なの」


「……君がこの子の警戒心をここまで解いたの?」


「俺だけじゃここまではならなかっただろ。お前が昨日の夜にミディと寝ていたのがきっかけになってんじゃねぇのか?俺に先に部屋に戻るように言っておきながら、一緒に寝てたんだろ?」


 ゼノンはそれを知らないと思っていた。ミディリシェルは、ぶるっと身体を震わせた。


 おどおどと挙動不審になり、枕を拾っては落とすを何度も繰り返す。


「……何あの可愛い生き物」


「可愛いよね。ずっと見ていたくなるよ」


「お前は仕事があるから、ずっと見ているのは無理だろ」


「うん。残念ながら。今日は比較暇な方だから、こうして見ていられるけど」


「へぇ、珍しいな。最近は忙しいって言ってたのに」


「あの子と一緒にいる時間を増やしたくて、事前にできる事はやっておいたんだ」


 ゼノンとフォルが会話をしているが、ミディリシェルの耳には入ってこない。ミディリシェルは、枕を拾って落とす行動を突然止めた。


 机に置いてある、薬の入った瓶を手に取り、勢い良く、一気に飲み干した。


「あいつ、テンパると面白いな」


「むにゅ⁉︎……むにゃんぐ……はじゃむにゃ」


「……は?」


 ボトンと、空になった瓶がベッドの上に落ちる。瓶はベッドの弾力で跳ねた。


 ミディリシェルは、両手で口を押さえ、バタバタと足を上下に振った。


「なぁ、あれって俺が前に飲んだ、不味くて苦い薬だよな?」


「ううん。君とこの子だと根本的な問題が違うから別の薬だよ。魔力吸収抑制と、自然と魔力を外に出せるようにする薬」


「違ったんだな。色は変わんねぇが、これってそんなに苦いのか?」


「苦い、かな?前に試しに飲んだ時は、普通に飲めたんだけど」


「……ふぎゃんむんにゃん⁉︎」


 口の中に居座り、更に増していく苦さ。飲んだ直後から収まる事なく、どんどんと苦さが増していく。

 その苦さに、ミディリシェルは、悶絶している。


「……あー、でも、飲んだ後は少し苦かったかもしれない」


「少し?……ミディ、クッキー食べる?」


「……」


 ミディリシェルは、黙って口を開けた。

 ゼノンが、ミディリシェルの口の中にクッキーを入れてくれる。


 苦さを忘れる甘いクッキーを


「(もぐもぐ)……あまあまさんなのぉ」


「そこまで苦くなかったと思うけど」


「味覚大丈夫か?味覚を良くする薬でも調べてやろうか?」


「ふにゅふにゅ」


 心配するゼノンの言葉に、ミディリシェルは、こくこくと頷いて同意した。


「……フォル、お口のにがにがさんが収まったからお話聞くの……ふみゃ⁉︎またにがにがさんがきたの⁉︎やっぱ聞かないの」


 ミディリシェルは、フォルが昨晩の話の続きをしにきたのだろうと思い、話を聞こうとしたが、収まったと思った苦味が再びきて、話を聞くどころではなくなった。


「もう一枚クッキー」


 ミディリシェルの口の中を襲う苦味に、救世主が入った。ゼノンが、ミディリシェルの口の中に、もう一枚クッキーを入れてくれる。


「(もぐもぐ)ふみゅぅ。これで落ち着いたの。これでお話お聞けるの。心当たりもちゃんと話すの」


 口の中の苦味が消えたミディリシェルは、落ちている枕をぎゅっと抱きしめた。


「ありがと、ミディ」


「感謝される事じゃないの。管理者様に協力をするという事は、当然の事。そんなうわ……本に書いてあったの」


「それは全部自分のためだよ。君のように、自分のためにならないのに話してくれるというのは珍しいよ」


「それなら、貰ったものを返すだけなの。いっぱい、いっぱい貰ったから」


 ミディリシェルが貰ったものは、この温もり。ゼノンとフォルがくれた優しさ。


 ミディリシェルにとっては、それが、話をするのに十分すぎる見返りだ。

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