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星月の蝶  作者: 碧猫
3章 呪いの聖女
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3話 二つの魔法石


「だとしたら、なんでそんな事」


 ゼノンがそう思うのが当然なのだろう。だが、ミディリシェルは、その理由に気がついていた。


「……ゼロ、全部エレが勝手に言っている事だと思えば良いの。ゼロとゼムの呪いは、エレに解かせる事が大前提。エレとゼロが、呪いの聖女の事を調べると知っている人のヒントだよ」


「……どんだけ昔だと思ってんだ?今、それを調べるなんて」


「……このお話もうおしまい。エレ、フォルに会いに行くから」


 ミディリシェルは、そう言って、転移魔法を使った。


      **********


 ミディリシェルが転移した先、それは、宣言通り、フォルのいる場所。


「ふみゅぅ、フォルらぶなのー」


 突然、ミディリシェルが来て、さぞかし驚いた事だろう。


 ミディリシェルは、転移魔法を一人で使えないはずなのだから。


「エレ⁉︎どうして、ここに来れたの?」


「ちょっとした裏技なの。それより、調べ物は順調に進んでる?」


「全然。セイにぃ様から、呪いの聖女と呼ばれる前は、愛の聖女と呼ばれていたと聞いたけど。それとこれの何が関係あるんだって感じだよ。正直手詰まり」


「……みゅ。じゃあ、エレをなでるの。そうしたら、お話相手になるの」


「良いよ。僕も、一休みついでに、エレの頭を撫でたいって思っていたから」


 フォルが、そう言って、ミディリシェルの頭を撫でた。


 ミディリシェルは、満足すると、ここへ来た目的とも言える話を始めた。


「ふみゅ。呪いの事、分かったの」


「なんだった?」


「邪魔変魔法。ゼロが、知らなくて、説明大変だったの」


「……あれか」


「みゅ。それで、あの時はまだ一緒にいたよね。あの時、ゼロとゼムが、二人同時に一つの種を植えられているの。邪魔変魔法の」


「うん。そうだったね。でも、あそこで起きたのは不完全だったよね?ゼロとゼムは違ったけど。それもあって、二人の解呪に成功できたんじゃなかった?」


 ミディリシェルは、こくりと頷いた。


「そうなの。だから、それは別の人。多分、呪いの聖女の元凶。理由は分からないけど、これなら、フォルのお仕事的にも、ピュオねぇ達の望みを叶えられるんじゃないの?洗脳やそれに近い何かが確認された場合は、処分の審議を行われる。ってフォルが前に教えてくれたの」


「元凶が分かればの話だけどね。君は、その元凶まで?」


 ミディリシェルは、ふるふると首を横に振った。


「嘘つかなくて良い。というか、君のその反応で、僕も分かったよ」


 フォルが、そう言って、天井を見た。


「ほんと、ここって闇が深い……ギュシェルとギュゼルは、神獣のシステムに組み込まれてはいない、か。それだからって、僕やにぃ様にどうしろって言うんだか」


「分かんないの。それに、これは全部、エレの考えている事なの」


「エレ、気を遣わなくて良いよ。大丈夫だから。あぁ、でも、呪いの聖女の正体くらいは知りたかったかな?」


 フォルが、笑顔でそう言った。

 ミディリシェルに気を遣わせないように、こうして笑顔を見せているのだろう。


 ミディリシェルは、その笑顔に応えて、ぷぅっと頬を膨らませた。


「意地悪なの。意地悪発動なの。エレだって、分かんない事いっぱいなの。エレは何も知らないの」


「ごめんごめん。つい、エレのその可愛い顔を見ると意地悪したくなって」


「許すの。エレ、ゼロ置いてきたから帰る」


「うん。僕は、もう少しだけ調べるよ。明後日には帰るから。待っててくれる?」


「みゅ。また何かあれば教えるの。フォル、エレ、心配になるから、無理しないでね?」


「うん。ありがと」


 ミディリシェルは、そう言って、転移魔法を使った。


      **********


「これで、五十七回目なの……ふみゃぁ⁉︎着いたー!」


 転移魔法を使う事、五十七回。ミディリシェルは、五十七回目の転移魔法で、ようやく、エクリシェへ戻ってこれた。


「おかえり。エレいないから拗ねてた」


「ただいま。エレはもっと早く帰ってくるつもりだったの。一時間も、転移魔法で時間を費やすなんて思ってなかったの」


「逆にすげぇな」


 ゼノンが、呆れを通り越して、感心している。


 ミディリシェルは、転移魔法の使いすぎで、疲れて、ゼノンに抱きついた。


「エレは、ねむねむなの。転移魔法を頑張ったの」


「フォルに何話してきたんだ?」


「……一時間半くらい前にしてたお話。直接会った方が早いって思ったの。あと、ゼロじゃ、話進まなくてやになったの」


「悪かったな。それで、ゼムと俺に呪いをかけたのって誰なんだ?」


「……クロ。多分、きっと、ていうか、そうとしか考えられない」


「理由、聞いて良いか?」


「みゅ。気づいたのに否定しなかったって事は、クロならできるって分かっていたの。それまでは、エレも、信じようとしてはなかったの」


 フォルが気づいた時、使えないと知っていれば、否定しただろう。使えない可能性が少しでもあれば、言っていたはずだ。だが、何も否定しなかった。何も言わなかった。


 それは、ローシェジェラは使えると知っていたのだろう。


「……ヒントつってたよな?なら、クロは、俺らに呪いの聖女の事を、どうして欲しいんだろうな?」


「そこまでは分かんないの。それより、疲れたから、お部屋で休みたいの。お話するなら、お部屋でするの」


「そうだな。つぅか、エレの知識で、本、要らなかったな」


「みゅ?エレは読んだけど?」


「……部屋戻るか」


ミディリシェルとゼノンは、中層の、ミディリシェルの部屋へ戻った。


      **********


 部屋へ着くと、ミディリシェルは、ベッドに上で寝転んだ。


「エレ、そういえば、明日みんなで、買い物行くんだが、エレはどうする?」


「ちゅかれたのー。エレはお留守番ー」


「分かった。ゼムに面倒見るようにって頼んどく」


「エレからお願いしておくから良いの」


 ミディリシェルは、そう言って、連絡魔法具を取り出した。


 ゼムレーグに、メッセージを送る。そのついでに、フィルに、設計図の写真データを送っておいた。ミディリシェルが以前に描いていて、ここへ置きっぱなしにしていたものだ。


「これで良いの。これはきっと役に立つと思うから」


「なんの魔法具なんだ?」


「エレの魔法の補助をしてくれる魔法具。エレは、共有を使ったとしても、頑張って、五回くらい前の過去までしか視る事ができない。それを、もっと昔まで視られるようにしてくれる魔法具」


 説明の時には、リーミュナやピュオも知っていた事であったため、省かれていたが、聖星の御巫の素質の中には、未来視と過去視のどちらかが備わっている。ミディリシェルは、その両方を使う事ができる。


 だが、過去視には、遡れる限度があった。それは、人それぞれだが、処理能力で決まる。


 ミディリシェルは、一人では、前回ですら遡れないだろう。遡れて、せいぜい、十年前くらいだ。だが、その魔法具があれば、ミディリシェル一人でも、七回前くらいまで遡れる。共有を使えば、更に増えるだろう。


「これが、どう必要になってくるんだ?」


「呪いの聖女さんは、誰かを探していたの。その誰かを見つけてあげられるかもしれないの」


「そのための魔法具か。何日くらいかかりそうなんだろうな。何かあれば、すぐにでも入用になるかもしれないが」


「おにぃちゃんは天才なの。とってもすごいの。だから……こんなに難しそうな魔法具でも、三日あれば完成すると思うの」


 ミディリシェルのフィルへ向ける魔法具に関する信頼は大きく、フィルはその信頼を裏切った事がない。ミディリシェルが、三日と言っていれば、本当に三日で終わらせてくれるだろう。


「だから、ゼロはその間に、買い物楽しめば良いの。エレ置いて、エレがみゃんみゃん鳴いているの無視して、ゼロは一人で楽しむの」


「楽しめつぅんなら、行きづらくすんな。それに、もし本当に、エレが鳴いていれば、帰ってくるに決まってんだろ」


「ゼロは忠実なエレの下僕でちゅ。だから、魔法石を、安いので良いので買ってこいというのでちゅ」


「下僕じゃねぇよ。魔法石買うのは良いが、安いので良いのか?高くても、質が良いの買ってくる事もできるが」


 ミディリシェルは、こくりと頷いた。


「使い方が違うの。今回魔法石を必要としているのは、魔法具のためじゃないの。魔法石を使って、浄化石を作る。少しでも、邪魔変魔法の対抗になるように」


「御巫なら、かかんねぇって」


「ゼロとゼムの事忘れたの?かかんないのは不完全だったから。クロのように、ちゃんと使えるようにさえなれば、かけられるの。なんなら、今からエレがかけてあげても良いの」


「遠慮する。それを浄化石が役に立つのか?悪い、その魔法について初めて聞いて」


「分かってるよ。だから、こうしてめんどうだけど説明するの。浄化石を持っていれば、多少は抑えられるの。それと、これも」


 ミディリシェルは、そう言って、ゼノンの頬に口付けをした。


「ほんの少しだけど、呪いの耐性がついたと思うの。エレのお守り。明日、魔法石いっぱい買ってきてね?」


「ああ。ありがとな。エレが要らないって思うくらい買ってきてやる」


「思わせたら褒めてあげるの。ゼロ大好きって言ってあげるの。欲しいの何かあげるの。エレがあげられるものなら」


「なら、久々にエレ特性栄養ドリンクが欲しい」


「……在庫あるから、あげられるの。楽しみに待ってるね。エレは、明日から、なんとなく大忙しの予感がするから、今日はねむねむなの。起こさないでね」


「帰ってきても寝てたら、起こすからな?」


「一度起きてからまた寝ている可能性もあるの。ずっと寝ていたなんて可能性は低いの。だから起こしちゃだめなの」


 ミディリシェルは、そう言って、ルーツエングから貰った縫いぐるみを抱きしめた。


「この縫いぐるみって、エレを自動追尾でもしているかなぁ。毎回あるの。不思議さん」


「それって……エレ、それ、多分縫いぐるみじゃ」


「しゃぁー!エレがエルグにぃに貰った縫いぐるみなの!あげないの!」


「いらねぇよ。俺、自分の部屋戻るから」


「みゅ。おやすみなの」


 ミディリシェルがそう言うと、ゼノンが、部屋を出た。


「……今ある魔法石は二つ。ゼロは確定で、あとは誰にしよう……ヴィー様」


 ミディリシェルが呼ぶと、ヴィーが縫いぐるみの姿で現れた。


「なんじゃ?」


「ヴィー様なら、誰選ぶ?リミュねぇは、未来視を持っているから、危険回避できるかも。ピュオねぇは、過去視があるから、エレのと合わせたら、遡れる時間が増えると思う。アゼグにぃがいれば、罠の回避ができるかも。ノヴェにぃなら、魔法具の製作を手伝ってもらえる。急遽欲しくなった時とか。ルーにぃは、戦力。それに、頭良いから色々分かるかも。エルグにぃは、主様としての知識がいっぱい」


「……姫は何を重視したいんじゃ?」


「分かんないよ。フォルとおにぃちゃんは、そもそもそんな呪いにかからないから、二人は何かあった時にいてくれる。ティアとエルとリミアは、後方支援に回ってくれる。月夜は、情報収集得意なの。ルノは、管理者のお仕事で帰っちゃったの。レイと一緒にお仕事していると思う。ルナは、色々と……ふみゅなの」


「そうじゃな。総合的に見れば、主様はどうじゃ?」


「みゅぅ……でも……悩むの……戦力だけで考えれば、ルーにぃが、良いと思うの。そもそも、エルグにぃは、自分でどうにかする術を持っている気がするの。ルーにぃにしよっと。ルーにぃは、おにぃちゃんって感じだから、頼るになるの」


 ミディリシェルは、そう言って、魔法石に、浄化魔法と、防御魔法をかけた。


「これで……ふみゅ?何か忘れている気がするの……ほっとこ」


「思い出そうとせんか?」


「忘れてるなら、きっとどぉでも良い事なの」


「……姫、その忘れている事というのは、万が一呪いにかかれば、元に戻せないという事ではなかろうな?」


「……みゅ」


 ミディリシェルは、ポンっと手を叩いた。


「そうだったの⁉︎忘れてたの!……ヴィー様」


「方法を考えて無かったのか?」


「みゅぅ……分かんないの。エレが、頑張って……みゅ?エレが……みゅぅ……生命魔法……にゃぅ……おにぃちゃんに相談したい。明日、相談するの。今日はねむねむだから。おやすみ」


 ミディリシェルは、そう言って、瞼を閉じた。


 目覚めた時には、既に、日が変わっていた。

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