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星月の蝶  作者: 碧猫
3章 呪いの聖女
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2話 呪いの正体


 振り向いた時の、正面から見た姿だけど、悪い人になんて見えなかった。とても優しそうで、どこか悲しそうな人。()()()の瞳は、そう感じさせた。


「……ち、がう。の……と、ゔぃ……じゃない」



 多分、探している人と、わたし達が違うと言いたかったんだと思う。でも、どうして、わたし達を()()()()のかは分からない。


 似ていたのかな?


 それなら、見間違えるだろうけど。


「どうして!どうして、どうして、どうして!どこにいるのよ!の……と、ゔぃ……は‼︎」


「あの、誰か探しているのでしたら、わたし達が、手伝いましょうか?」


「手伝う?あんた達が、あの二人を、どこかへやったんでしょ‼︎」


 わたし達は、その人と初めて会ったのに、そんな事言われる意味が理解できない。探している人に間違えて、その人達をどこかへ連れて行った人と間違えて。


 本当に、意味が分からなかったよ。


「許さない‼︎絶対に許さない‼︎あの二人の事、絶対に後悔させてやる‼︎あの二人をどこかへやった、あんた達にも、あの二人を見捨てた人々にも‼︎」


 これが、呪いを撒き散らしていた動機なんだと思う。その人は、それだけ言って、どこかへ消えてしまった。その後、呪いが蔓延した。


      **********


 ピュオの話。そこには、期待以上の情報があった。


 フォルが求めていた、呪いの聖女の外見。それを知れただけでも収穫だ。それ以外にも、呪いの聖女の動機に、出現場所。大体だが、出現時間も。それに、その時の周囲の状況とかも貴重な情報だ。


 呪いの聖女と関わりがないだろうとピュオが思う、その情報は全て、関わっている。


「……ありがと。ミディ、ゼノン。僕は二日間くらいここを離れる。少し、調べたい事がある」


「ふみゅ。分かったの。待ってるの」


「どこで調べるんだ?」


「本家の記録庫。少し、気になる事がある……僕の思い過ごし……だと良いけど」


「みゅ。なら、ミディ達は、呪いの聖女さんの、呪いについて調べておくの。少しでもフォルのお手伝いするの」


「うん。ありがと。何かあれば連絡して」


 フォルは、そう言って、転移魔法を使った。


      **********


 薄暗く、肌寒い地下。ここは、全ての神獣の記録を保管する書庫。表では消された裏切り者も、既に存在していないものも全ての神獣の記録がここに残っている。


 そう、フォルは聞かされていた。


 ここに入れるのは、本家の子息だけ。


「久しぶりだな。こうして、会って話すのは」


「セイにぃ様。お久しぶりです」


「調べ物か?ついでに手伝ってやれるがどうする?」


「……呪いの聖女についての記述が欲しい。どこにあるか知らない?できれば、内密に、それとすぐに欲しいんだけど」


 フォルの義兄、セイリション。セイリションは、ここの書庫を管理している。ここで用事を言わなくとも、入った記録を閲覧できるため、知られるだろう。


 それなら、調べる時間短縮のためにも、話さない理由はない。


「呪いの聖女についての記述は、ここより下にある。行けば、オルベアには知られる事になるが、どうする?」


「それなら良いよ。別の手段を使う」


「呪いも聖女は、特殊世界の扉の先にいる。記述を見つけられない代わりの情報として受け取っておくと良い。それ以上は、現時点で話す事はない」


「弟サービスとかは?」


「奇跡の魔法の代償で手を打とう」


「……その情報と同等の価値があるのは、どれだけの話なのか次第」


「呪いの聖女のかつての役割について。そのあたりでどうだろうか?」


 呪いの聖女と呼ばれる前の役割。それを知る事ができれば、何か分かるかもしれない。聞いておいて、損はないだろう。


「分かった。対価としては、多すぎるくらいだけど。それで良いなら」


 フォルは、セイリションに、奇跡の魔法の代償を説明した。


      **********


 フォルが出かけた後、ミディリシェルとゼノンは、二人で一緒に呪いについて調べるため、エクリシェ内にある書館へ赴いた。


「……迷子なの。ここ広いの」


 呪いについての本がある棚にミディリシェルは着いたが、いつまで待とうとゼノンが来ない。


 ミディリシェルは、ゼノンが来るのを待たずに、呪いについて、調べ始めた。


「ふにゅ……呪いはいっぱいなの。どれか分かんないの。ゼロ……いない」


 ミディリシェルでは、呪いの聖女の呪いが分からない。だが、ゼノンがいない。


「ふみゃ……にゃみゃ……ぷにゃぁ」


 ミディリシェルは、ゼノンを呼ぶ鳴き声を出した。


 理屈は、不明だが、この鳴き声は、ゼノンを呼ぶ鳴き声。この部屋の中くらいの距離であれば、ゼノンが聞きつけて、ミディリシェルのところまで来るだろう。


 ミディリシェルは、ゼノンが来る事を信じて、近くの椅子に座った。


「これも、ふかぁなの」


「やっと見つけた。お前、勝手に行くなよ」


「だからちゃんと鳴いてやったの」


 ミディリシェルの鳴き声を聞きつけたゼノンが来た。ミディリシェルは、得意げに、そう言って、ゼノンに頭を向けた。


「ゼノン、なでするの」


「そんな暇あんなら、何かねぇか探す」


「……みゅぅ。不満しかないけど、探すの。呪いの事、良く分かんないから、そこからなの。ピュオねぇ達は、エルグにぃ達のお手伝いで忙しそうだから、エレとゼロだけで頑張るの」


 リビングで話していた時、ミディリシェルとゼノンが、ここへ行くという話に、みんなで探すという事に一度はなった。だが、他にも知りたい事はあり、それにだけ時間を割く訳にはいかず、ここでの調べ物は、ミディリシェルとゼノンだけでやる事となった。


 その時に、ミディリシェルが、全く話を聞かずに来たため、呪いについて、ピュオとノーヴェイズから聞き逃していた。


 ミディリシェルとゼノンも、一応、その当時に起きた事を知っている。ここまで来て、戻るという手間をかけずに、二人で呪いについて検討をつける事にした。


「えっと、まずは、呪いの広まり方からなの。それも重要なの」


 呪いの種類に検討をつけるために必須なのは、広まり方、症状、呪われた人物、場所、呪いの範囲、終息時期は絶対必須だ。


「初めはどうか知らないが、人から人への感染したとか」


「エレも、初めは知らないの。でも、ピュオねぇの言っていた事から推測すると、恨み言を言っている時に、呪いを撒いていたの……多分、あそこで流行ったのは、ピュオねぇとノヴェにぃが原因」


 ミディリシェルの推測では、ピュオとノーヴェイズが呪いの聖女と出会った。そこで、二人は、呪いの聖女の恨み言を聞いた。呪いの聖女は、その恨み言に呪いの種を蒔いた。だが、御巫には、その呪いが効かなかった。


 そこの原因は不明。


 その後、呪いの聖女は、姿を消した。ピュオとノーヴェイズは、屋敷へ帰った。人同士で感染するとすれば、二人は帰ってきた時に、報告をしただろう。御巫である二人は、帰った時に、人々に囲まれていたかもしれない。


 その辺りの事は、聞いていないため知らないが、その時に、二人に付いていた種が移ったのだろう。そして、もう一つ、種は、増殖していたのだろう。


 それが、一つ目の、広まり方のミディリシェルの推測だ。


「……そう考えるのが妥当だろうな。だが、一つだけ分からねぇ事がある。ピュオねぇとノヴェにぃがあそこへ行った理由。それの矛盾。あれは、どうなんだ?」


「エレは、そんな事まで知らないの。でも、呪いの場所として、そこを選んだのが不思議なの。どうして、人が来そうにないそこに来たのか。呪いの聖女さんは、御巫が来るって知ってたのかな?呪いは、広範囲にできていたのかな?エレ達がそうじゃないって思っただけで。それとも、呪いのためにそこへ来たのかな?良く分かんないの」


 ミディリシェルは、広まり方の推測で、疑問に思った事を、ゼノンに投げかけた。


「……呪いの聖女は、誰かを待っていた。あの呪いを効かないのは、女か、御巫だけ……神獣も、恐らくは効かねぇだろう。検証はできねぇが、それを前提にしよう」


「ふみゅ。でも、だからって、女の子が、呪いを持って帰れるなんて思えないの。次の症状の方になるけど、呪いは、人を魔物さんのような姿にする。その時に、自我はなくて、多くの魔物さんのように、人を襲う存在になる。だから、もし、ノヴェにぃが呪いにかかったとすれば、ピュオねぇは、帰る事はできなかった。呪いは、広まらなかった」


「ああ。呪いの聖女の発言からして、それでも良いはねぇだろう。できるだけ多くに広めたかったはずだ。つぅか、良く分かんねぇっつってた割には、詳しいよな?」


「一人じゃまとまんないの。ゼロが効いてくれるから、考えてくれるから、こうして、絞る事ができるの。だから、呪われた人物と、はじめに呪われた二人。その事を考えろなの」


 呪いの症状は、男性を魔物の姿へ変える事。魔物にされたら最後、人としての意識と自我は消えてしまう。


 ピュオとノーヴェイズは、魔法に慣れていなかった。その当時であれば、ノーヴェイズが呪いを受けた時、ピュオは、魔物となったノーヴェイズに襲われていただろう。だが、そうはならなかった。


 ミディリシェルとゼノンは、その事に頭を悩ませた。


「……分かんないの。みゅみゅみゅなの」


「……みゅみゅみゅだな」


「呪いの聖女さんは、誰を探していたんだろう。どうして、二人を間違えたんだろう。分かんないの」


 ミディリシェルとゼノンの答えは、ここにあるだろう。だが、その答えを見つけるための情報は、まだ足りていない。


「……みゅぅ。分かんないの。フォルが足りないの。というか、フォルどこにいるんだろう。寂しい。早く会いたい……というか、今これを考える意味がないと思うの。エレ達は、呪いに付いて調べているんだから。そこは一旦忘れるの」


「そうだな。とりあえず、御巫だと知っていたという前提だけ立てておくか」


「みゅ」


 呪いの聖女が、ピュオとノーヴェイズに呪いをかけた事は謎のまま、ミディリシェル達は、話を進めた。


「次は、範囲だったな。あの国だけだったが、魔物になったら、行動範囲が狭いのかもしれねぇな」


「みゅ。それはあり得そうなの。終息時期は、人がいなくなった時。詳しく言うなら、男の人がいなくなった時なの。そういえば、あの時の噂。あれって、考えてみればおかしな気がするの。どうして、御巫がじゃなくて、星が呪いを受けついけないと噂だったの?」


「……誰かが故意的に、としか思えねぇな。だが、それも、今は考えなくて良いだろ。とりあえず、呪いの検討をつけた後だ」


「みゅ。候補はいくつかあるの。魔物になる前って何か変わった事あったのかな?突然、意識が遠のくとか、原因不明の難病みたいなのが流行ったとか。突然、なったのかな?最初に呪われたノヴェにぃは別として、他の人は、こういう症状がなかったのかな?」


 ミディリシェルの知る魔法の知識。その中にある、今回に話に該当する呪いと呼ばれるもの。それらの中から一つを絞るための疑問をゼノンに投げかけた。


「……全部、なかったと思う。ただ、突然、種が芽生えて、花が咲くかのような状態。ゼムの身代わりのおかげで、それを体感したからな」


「それを一番最初に言えなの。その事については、まだ怒ってるけど。でも、それで絞れたの。というか、一つに特定できた」


 当時、ミディリシェル達はそこへいた。当然、その呪いに巻き込まれている。人里離れた場所にいる事が多く、そこの状況には詳しくなかったというだけで。


 その時、ゼムレーグが、呪いにかかりかけた。それを、ゼノンが、代わりに引き受けた。ミディリシェルが、相手がゼノンとゼムレーグであった事により、呪いは解けたが、その時の感覚は残っていたようだ。


 その感覚が、ミディリシェルの知る中で、一つだけ一致した。恐らく、それが呪いの聖女の使う呪いのの正体だろう。


「禁呪……禁止魔法指定の一つにあったの。邪神化の呪い。いくつかある、不完全な魔法。邪獣が、それの一番最悪で、完全な魔法。邪神の由来にもなっている、神獣の悪い版を創る魔法。これは、邪の魔に変えるという意味で、邪魔変魔法。多分、取り返しのつけられない不完全な状態だったと思う」


「不完全なのは、その邪魔変魔法ならそうなんじゃねぇのか?」


「ちょっとややこしいの。はじめのは邪神化の呪いとしての不完全で、不完全って言ってたの。今のは、その邪魔変魔法としても不完全。あれは、姿を変えて、従える魔法だから。でも、呪いの聖女さんは、従えられていない」


「それがなんで最悪になるんだ?」


「もし、ちゃんとした邪魔変魔法だったら、元に戻せるの。その人はまだ生きている状態だから。完全な魔法であれば、不完全な状態ほど、その時間は短くなる。呪いの聖女さんが使ったのは、不完全すぎたの。それだと、呪いで変貌した時点で、もう……」


 ミディリシェルは、そう言って、俯いた。


「それなら、俺らも……あれ?御巫の素質なら、ゼムも」


「そうなの。多分、ゼムの方は……ゼムだけじゃなくて、ゼロもその種はあったんだと思う。なぜかゼムにだけ発芽しただけで。エレは、二人にその魔法の影響を感じ取ったから。どちらかが、何かの条件で発芽。他の誰かが、その呪いをかけたと思うの」

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