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星月の蝶  作者: 碧猫
3章 呪いの聖女
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1話 ピュオとノヴェが見たもの


 呪いの聖女について。フォルは、ギュゼルとして、その情報を集めなければならない。


 気が進まないのには変わりがないが、ゼノンに、話すと言ってしまった以上、ピュオとノーヴェイズに、当時の事を聞く事にした。


 それを決めるまでに、二日間かかったが。


「あれ?リーミュナ達って、お酒飲めたんだ」


 ピュオとノーヴェイズの魔力を辿って着いた先は、バー。


「ミディが、ここ行ってみたいって言ったの。そうしたら、みんなが、お酒飲まないならって連れてきてくれた」


「俺も飲みたい」


「ミディが真似するから、君は飲まないで。飲むなら、ミディがいない前で」


「転生後年齢でアウトだ」


「……けち」


 ミディリシェルとゼノンの転生後年齢は、十六歳。


 ゼノンが、ジュースを飲みながら、酒の入ったコップをじっと見つめている。


「……ピュオとノヴェに話があったんだけど、酔ってて聞けそうにないから今度で良いか」


「酔ってないよ。まだ、口つけてすらないから」


「俺も、口つけてない」


「それなら……呪いの聖女の事、あの当時の事。知っている事を話して欲しい。話したくない事だろうけど。それで、君らが、彼女に何を望むか。その望みを叶えてあげる事ができるかは保証できない。でも、それを叶えられるように、善処はさせてもらうつもりだ」


 フォルは、真っ直ぐと、ピュオとノーヴェイズを見て、そう言った。


「……フォル、分かっているのか?神獣の意思は、呪いの聖女の処分。だが、きっと二人は」


「分かってる。だから、絶対にとは言えない。でも、話しずらい事を話してもらう、二人の望みは聞かない。仕事のためだけにしか動かない。なんてしたくない」


「そうか。それでこそ、俺の知っているフォルだ。黄金蝶としての在り方以上に大事なものを知っている。黄金蝶らしくない黄金蝶」


「これでも、かなり悩んだけどね。望みを聞けないかもしれない。危険に巻き込むだけかもしれない。思い出したくない事を思い出させて、いやな思いをさせるかもしれない。でも、どっかの王子様のおかげで決心をつけられた」


 フォルは、そう言って、ゼノンを見た。


「あっちが本音だったのかよ。本当に紛らわしいな。俺らに心配かけないようにやってたんだろうけど」


「ふみゅ?……ふみゃ⁉︎ミディ、なんにもしてない」


「君は……いるだけで癒しだから」


「みゅ。じゃあ、お話中側にいるの」


 ミディリシェルが、そう言って、フォルにくっついた。


「……フォル、話す前に、ちゃんと謝りたい。ミディとゼノンとフォルに」


「みゅ?」


「なにを?」


「……あれは、君らには」


「うん。わたし達にはどうしようもなくて、仕方がないって言ってくれるよね?でも、謝らせて。ずっと、謝ろうって、言っていたから。いつか、会えたら、謝って、それで、三人を教えて欲しいって言おうって決めていたから」


 ピュオとノーヴェイズが、頭を下げる。


「ごめんなさい。三人の居場所を奪って」


「ごめんなさい」


 ピュオとノーヴェイズが、御巫候補となったきっかけ。その時の事だ。ピュオとノーヴェイズが、本物の御巫と、その地に住む人々から、崇められていた。だが、それは、元はミディリシェルとゼノンの居場所。


 ミディリシェルとゼノンは、ピュオとノーヴェイズが来た事により、居場所を追い出された。だが、それを恨んでなどいない。むしろ、罪悪感を抱いているだろう。


「気にしてないの。ミディはゼノンとフォルといれたから気にしてないの。それに、謝るのはミディなの。呪いが効かないっていうのは、ミディの体質からの噂だから。その噂のせいで、ピュオねぇは、あんな事になっていたの。だから、謝るのはミディの方なの」


「そもそも、俺らが、あそこで、本物の御巫と崇められていれば、それを受け入れていれば、そんな目には遭わなかったんだ。だから、謝るのはこっちだ」


「みゅ。だから、お互いに謝りっこでこのお話終わりなの。終わらないと、ゼノンを人質にとるの。ふみゅふみゅとみゅむにゅむだけじゃなくてぷにゅぷにゅまでしてやるの」


 ミディリシェルが、得意げな表情で、そう言った。ゼノンの腕に抱きついて、みんなを見ている。


「ゼノンがどぉなってもいぃのかー」


「……ピュオ、ノヴェ、呪いの聖女の話を聞かせてくれる?できるだけ詳しく知りたい。その日の状況とかも」


「うん。良いよ。でも、分からない事ばかりだから、フォルの役に立つ情報かどうかは分からないけど」


「それでも良いよ。というか、こっちでなにも情報無いから、ちょっとした情報でも役に立つと思う」


「ふみゃ⁉︎み、ミディのお話、聞く、聞けなの」


「できれば、外見的特徴とか知りたいけど、その辺は分かる?」


「うん。この目ではっきりと見ているから分かるよ」


「ミディの……ふぇ……ふぇぇぇん」


 ミディリシェルが、相手にされなさすぎて、泣き出した。


「ミディ、こっちおいで」


「みゅ。お話聞くの」


「うん」


      **********


 わたしとノヴェが、呪いの聖女と呼ばれている女の子と会ったのは、まだ、呪いが蔓延する前の事なんだ。呪いが蔓延したのは、その後。今思えば、あれは、あの女の子は、呪いを蔓延させるためにここに来たんじゃなくて、何かが見つからずに、呪いを蔓延させたんだと思う。


 わたしの考えで、違うかもしれないけど。


「今日は、浄化の仕事。ピュオ、浄化魔法の使い方は覚えた?使える?」


「使える、と思う。やってみないと」


 わたしとノヴェが、ここの人達の好意で住まわせてもらっているお屋敷。元は、ミディちゃん達が暮らしていた場所。そこで、今日、ここの人達に頼まれた事。それの話をしていた。


 地名とかは覚えていないけど、岩が多い場所だったと思う。そこが、魔物の出現場所となっているから、浄化して、魔物が出現しないようにして欲しいと頼まれていた。


 魔物がそれで、出現しなくなるなんていう事は知らないけど、ここの人達は長年この世界で暮らしているんだから、その人達が言うならそうなんじゃ無いかなという感じで、浄化する準備をしていた。魔物が出現するかもしれないから。出会った時に対処できるようにと、最大限の準備をして望まないと。


「これで準備は終わったぁ。ノヴェは?」


「俺も終わったよ。道も覚えたから、大丈夫」


 ここへ来て、半年くらいなのかな。魔法とか、この世界の事とか覚えるのに忙しくて、地図とか覚えていなかったんだ。ノヴェは、研究者の息子だからか、物覚えが良くて、地形とか地図とかまで覚えているみたいで、こういうのはノヴェ頼り。


      **********


 転移魔法を使えば良いって思うと思うけど、わたしも思うから。この時、わたしもノヴェも、転移魔法なんて覚えていなかった。

 だから、こうして頑張って徒歩。あそこまでは、だいたい二時間くらい。休憩しながらゆっくり移動する。


 ここへ来てから、目的地に移動するだけで、三日とかかかる事もあって、住居のありがたさを知ったよ。ミディとゼノンって良く野宿とかしていたとルーから聞いているけど、本当にすごいと思う。嫌味とかじゃなくて、ってミディとゼノンは、そんなふうに取らないよね。


「ノヴェ、お弁当作ってきたから、食べようよ」


「うん。ありがとう。いつも早くから作ってくれて、助かってる」


 ちょうど良い感じの時間帯だから、浄化の前に、ランチタイムにしたんだ。外で食べるから、食べやすさを重視している。ミディにも今度作ってあげるよ。わたしのお弁当、ノヴェに好評だから。


「静かだね。いつも、もっと、小さい動物がいっぱいで癒されるのに、今日はいない」


 ここがそういう場所なのか、それが異常事態だったのか。わたしには分からない。ただ、今まで行っていた場所は、ここのような静かな場所じゃなかった。小動物や虫の鳴き声が心地良くて、ランチタイムの音楽のようだった。


「うん。近くに魔物が出現しやすい場所があるから、小動物とかもいないのかもしれない」


「それなら、浄化して早く戻ってきて欲しいね。そうしたら、また来ようよ?」


「良いね。また来よう。そのためにも、浄化を成功させないと」


「うん」


 わたしとノヴェは、ランチタイム中に、長く歩いて疲れた足も休ませた。半年前は、この距離だと、昔いた世界よりも道が悪くて、五回くらいは休憩していた。半年くらい経ったこの頃は、体力がついたからなのかな。このランチタイム休憩だけでいけるようになったんだ。

 今は、どうなんだろう。一度も休憩無しでいける気がする。


「ここからは、岩道が続くみたい。危ないから気をつけて行かないと」


「そうだね。ここの人達はみんな、こんなに道が悪い場所を歩いていると思うと、あそこが便利に思える。道がちゃんと整備されていたから」


「うん。興味深い。ここは、道がちゃんと整備すらされていない。あそこよりも発展していないのに、ルーの話だと、あそこよりも発展している場所があるなんて。それ自体は、不思議じゃなくても、その発展に、魔法具が関わっているという、あそこでは考えられない事が。一体、魔法具というのは……魔力というのは」


 ノヴェは、前にわたし達がいた世界で、休日は毎日、変な研究をしていたんだ。研究脳というか……こういうところがあるんだ。興味があるととことん調べ尽くす。


 ミディの魔法具に詳しいのも、それが理由だと思う。


「そろそろ休憩終わりにしない?」


 始めると、いつまで経っても終わらない時があるから、そうやって、思考を中断させる。暇な時間はいくらでもと思うけど、学園に行く時間とか、こういう時とかは。


「うん。そうだね。早く終わらせて、帰ってから考えよう。その方が、外よりも集中できる」


 わたしの中では、ノヴェは、どこでも関係なく、興味がある事を見つければ、納得できる答えを導き出すまで思考する。調べ尽くす。そんなイメージだったから、この時初めて知ったんだ。ノヴェが、場所を気にするって。


 ごめん、関係ない話……そういうのも知りたい?分かった。ありがとう、聞いてくれて。


 お弁当を片付けて、ランチタイム休憩は終了。また長い道のりを歩き出す。残り半分くらいだから、一時間くらいなのかな。ランチタイム休憩後に歩いた時間は。


 岩がゴツゴツとしていて、歩きにくかった。バランス取れなくて、何度も転びそうになったから、ミディには向かない場所なのかも。行く時は、気をつけて。


      **********


 岩道を抜けた先、ようやく目的地が見えてきた。岩道は抜けたけど、まだ岩がいっぱいある。あの岩道を歩いた後だと、岩が見たく無かった。岩に好きも嫌いも無かったのに、嫌いになりそうって思ったよ。


「やっと着きそう。帰りもこれとか嫌だから、別の道ない?」


「ここが、岩道に囲まれているから、別の道は遠回りになるだけで岩回避はできない。残念ながら」


 と、帰りもこの道を達のが確定したところで、目的地の場所らしき場所に、人影が見えた。


 こんな、人が住んでは勿論、いる事自体無さそうな場所で、人影なんて、怪しさ満点だったけど、行かないなんて事はできなかったから、行く事にした。


 そういえば、おかしな点というところで、魔物が出現しやすい場所になっているって言われて来ていたんだけど、実際に行ってみたら、近くには魔物がいなかった。それどころか、普段なら、一、二匹は見かける魔物すらいなかった。


 小動物も、虫も、魔物もいない。大きい動物も。それに、乾いた土と岩石ばかりで、植物も見かけなかった。この世界の他の場所では、普通に見かけていたんだけど。


 これも、役に立つ情報なのかな?呪いの聖女とは、関係無さそうだけど。


「ノヴェ、そろそろ浄化魔法を使う?」


「そうだね。わざわざ、近づく必要もないから」


 もし、人影に見えていたものが魔物だった時。そんな事を考えて、離れた場所で浄化魔法を使うことにした。魔物だったら、浄化魔法で浄化して消える。わたし達はここで、そう教わっていたから。


「せーので行こう」


「うん」


 ミディだったら、一人で浄化しきれると思うけど、この頃のわたしとノヴェは、二人でやらないとできなかったんだ。まだ、まともに魔法を使う事ができなくて。


「せーの!」


「せーの!」


 二人で同時にそう言って、浄化魔法を使った。それで、浄化できて、魔物が出現しなくなったかどうかなんて、この頃は分からなかった。多分、なっているんだろうって感じで。そもそも、本当に、魔物が出現しやすくなっていたかも、今思うと怪しいよね。魔物を一匹も見かけなかったという事は。


 浄化魔法を使っても、人影は消えなかった。だから、わたし達はそれを人だと判断した。


 ここへ来てから、何も知らないわたし達に友好的に接してくれる人にしか会ってなかった。それに、昔いた世界では、治安が良くて、悪い人なんてそうそう見かけない。


 だから、警戒心が低かったんだと思う。人であると分かって、その場所へ近づいた。


「……」


 初めに見たのは、その人の後ろ姿。腰より少し上くらいの、真っ赤な夕日のような赤髪。


 息を呑むほど美しい。こんなにも美しい人を見た事がない。後ろ姿だけだというのに、そう思わせる雰囲気を漂わせていた。


「……」


 ふわりと、わたし達の方へ振り向く。その仕草の一つ一つに、魅了してしまう。でも、魅了なんて魔法を使っていない。なんの魔法も使わずに、それを成し得ていた。それは多分、普通の人とは思えない、その美しくも異様な雰囲気から来ているものだと思う。


「……の……ゔぃ……?」


 その言葉は、聞き取る事はできなかった。それは、誰かの名前だと思う。聞き取れた情報からだけど、のから始まる人と、ゔぃから始まる人。


 それと、とても美しく澄んだ声だった。この世界に来る前に、歌手の歌声とか、昔好きで聞いていた。特に、星月の伝説を歌った歌なんかは、お気に入りだったかな。今思うと、自分がそれに巻き込まれる運命だったからかもしれないけど。


 確かに、その人達の声は、とても綺麗だった。何度も聞いていたいと思った。


 でも、その人の声は、そんなものじゃ無かった。

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