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星月の蝶  作者: 碧猫
2章 奇跡の魔法
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エピローグ 御巫になるには


 目を覚ますと、ゼノンとフォルがいる。それを見て、ミディリシェルは、二度寝しようとした。


「これは、夢か幻覚なの。ゼロがいるはずないの。ゼロは帰ってきていないの。おやしゅみなしゃーい」


 ミディリシェルは、目の前にいるゼノンを見て、そう言った。


「待て待て、夢でも幻覚でもねぇよ。つぅかお前、昨日俺が散々救援信号を共有で出してたの無視しただろ!虫いっぱいで、助けてーって何度も送ってたのに」


「……夢でも、幻覚でもないかもなの。そうじゃない気がするの。エレの夢でも幻覚でも、ゼロは優しいの。でも、このゼロは優しい違う」


「悪かったな、優しくなくて」


 ゼノンがそう言うと、ミディリシェルは、むくっと起き上がった。


「うん。優しくないの。でも、それがエレのゼロなの。おかえり、ゼロ。この前とは逆なの」


 ミディリシェルは、そう言って、笑顔を見せた。


「そうだな。ただいま、エレ。エレが俺の声を聞いてくれていれば、もっと早く帰って来れたんだろうけど」


「それはないの。エレは知らないの」


 ミディリシェルは、そう言って、ぷぃっとゼノンから顔を逸らした。


「……ゼロ、エレの言いたい事分かるの」


「ああ。そうだったな。そう決めていたから。エレ」


「みゅ。エレから言ったの」


 ミディリシェルとゼノンは、互いの顔を見合わせた後、フォルに向き合った。


「フォル、エレ達の元へおかえりなさい。エレ、今までずっと満足にできなかったから、これからは、毎日、フォルとらぶらぶするの。らぶらぶ生活、なの」


「フォル、ゼロ達……ゼロ達の元へおかえりなさい……これ恥ずかしい。けど、エレに合わせないと……ゼロ達、いっぱい、いっぱい、フォルが逃げられないように頑張るからね。外堀埋めて、既成事実作って、エレに色仕掛けさせて、頑張るからね」


 ミディリシェルとゼノンは、笑顔で、そう言った。ゼノンは、頬をほんのり赤らめている。


「……ゼロ、いやならやらなくて良いよ。わざわざ、あの子に合わせなくても。それと、エレは可愛いだけで良いんだけど、ゼロは、エレの真似して可愛いふうに言っているだけで、内容は全然可愛くないんだよ」


「可愛い生き物のエレは可愛くできるけど、可愛い生き物じゃないゼロには、この可愛さは出せないの。ゼロは、可愛い生き物じゃありませんから」


「……エレばかりずるい。可愛い生き物ずるい」


「エレは可愛い生き物でしゅから」


 ミディリシェルは、胸を張って、そう言った。ゼノンは、拗ねている。


「そうやって拗ねてる姿は可愛いよ。ありがと、エレ、ゼロ。そうやって、いつものように笑ってくれる。その姿が嬉しいよ」


 フォルがそう言うと、ミディリシェルは、立ち上がって、ゼノンの隣へ向かった。ミディリシェルは、ゼノンの隣に着くと、ゼノンの方を向く。ゼノンが、その後、ミディリシェルの方を向いた。


「……」


「……」


「……ふみゅ?」


「……ふにゅ?」


「ぷみゅぅ」


「ぷにゅぅ」


 ミディリシェルとゼノンは、両手を繋いで、笑顔で、ぴょんぴょんと跳ねた。


「聞いた聞いた?」


「聞いた聞いた?」


「聞いた聞いた」


「聞いた聞いた」


「エレとゼロの笑ってるところが好きなんだって」


「エレとゼロの事が好きなんだって」


「これって」


「これって」


「プロポーズなのー」


「プロポーズなのー」


 ミディリシェルとゼノンは、そう言って、じっとフォルを見つめた。


「君らの耳ってどうなってんの?ていうか、こっちの方が恥ずかしいでしょ。恥ずかしそうにしてないけど」


「いつものフォルなの」


「いつものフォルなの」


「……エレ、そんな事言ってる暇あるなら、着替えしたら?ルーが、今日くらいリビングに来いってお怒りだよ?」


「みゅぅ。こういうところも好きなの」


「はいはい。分かったから、服着替えましょうねー。僕が着替え手伝ってあげますからー」


「……エレの扱い慣れも変わってない……俺もエレの世話するんだー」


 ミディリシェルは、ゼノンとフォルに手伝ってもらいながら、着替えをした。


      **********


 ミディリシェル達は、朝食の後、リーミュナ達への事情説明をした。ギュリエンの事、ミディリシェルとゼノンの本名に関する事などは伏せて。


「……そう、だったんだね。その、ローシェジェラちゃん?は、今ここにいないの?」


「うん。多分もういない。クロ……ロシェは僕との契約でここへいただけだから。もう、あの子は自分の目的のために動いているだろう」


「目的ってなんなんだ?」


「分からない。そこまで話してない。僕もあの子も、互いの目的を知らないまま協力してたから」


「ふみゅぅ。そんな事は今は良いのー。気になるけど良いのー。今は、それより、御巫になる方法なの。それ大事なの。フォルなら知ってるんでしょ?」


 ミディリシェルは、着替えている最中、フォルから、御巫になる方法を教えると言われていた。どうすれば御巫として認めてもらえるのか。ミディリシェルは、その話を楽しみに、リビングへ来ていた。


 ミディリシェルは、立ち上がり、フォルをじっと見つめた。


「話すから。話すから、帰らないで。君一人で帰ると、迷子になりそう」


「ふみゅ。それならかえ……みゅ?なんかむにゅぅって言うべきかもしれない」


「気にしなくて良いよ」


「みゅ」


 ミディリシェルが、椅子に座り直すと、フォルが、御巫になる方法について、話始めた。


「まず、御巫についてからだ。それを知っていないとだから。御巫は、聖星と聖月から選ばれる。黄金蝶、一人につき、聖星と聖月から一人ずつ。黄金蝶の番として。黄金蝶は、御巫以外は娶れないから」


「そこに、純血かどうかは関係ない。現在存在しているほとんどの種族が、聖星か聖月に連なる種族。だが、血の濃さは重要だ。それを見分けるのに必要なのが、素質の有無だ。星は月との親密度と世界との親和性と破壊の魔力。月は星との親密度と聖月の証と魔力との親和性」


「聖月の証?」


「ロストの秘術と言えば二人にも分かるだろう。確か……十だったか?」


 イールグが、フォルを見て、そう言った。フォルが、こくりと頷いて、続きを話す。


「そう。十以上。その素質だけで言えば、ゼムが、高いと言えるかな。あの子、全部使える素質だけはあったから。ゼムは、聖月としては、天才だったからね」


 ロストの秘術。聖月の、それも、ロストの血縁者だけが使う事のできる魔法。ロストの王族だけが今もなお受け継いでいる五十の氷系統魔法。


 ロスト王国では五十だが、それは表の話。裏の、聖月が知る、五十。計百の魔法。


「聖月から生まれた種でも、氷魔法を使えるのは、ロストだけ。僕ら神獣は、全ての魔法を扱えるから別だけど、聖星にも、扱う事ができない。アゼグとノヴェは、今はいくつ使える?」


 フォルが、アゼグとノーヴェイズに問う。ミディリシェルは、隣にいたゼノンの手を握った。


「十五くらい?前に試した時は。今は分からない」


「オレも前に試した時だけど、二十八くらいだった。今は……なんとなくもっと扱える気がしている」


「アゼグはロストの血が濃いからそのくらいは使えるのか。ノヴェは、ロストに多少の縁がある程度でそこまで使えれば大したものだよ」


「ゼノンくんってどれくらい使えるの?ロスト出身らしいから、かなり使える?」


 リーミュナは、純粋に気になって聞いているのだろう。


 リーミュナの問いに、ミディリシェルが代わりに答えた。


「ゼノンはなにも使えないよ」


「ああ。一つの使えない」


「えっ⁉︎でも、ゼノンって氷魔法得意なんじゃ」


「嘘じゃないよ。本来ならゼムが選ばれるとこを、当人達の希望とかあって、こうなったんだ。嘘だと思うなら、にぃ様とルーにも聞いてみると良い」


「そこまで、疑ってないよ。ごめんね。ゼノン」


「気にしてない。俺が、できない事は、ずっと変わらねぇんだ」


 ゼノンが、ミディリシェルの手を握って、そう言った。


「まぁ、問題はそこなんだけどね。ミディとゼノンに、御巫の素質がない事。それさえあれば、二人ともここまで妨害されてないんだよね」


「みゅぅ。ミディ達が難しくしているのかもしれないの。でも、ミディ達は」


「妨害はされるけど、それが難しくしてるわけじゃない。ゼノンは、本人の努力で本来持つ素質を引き出したんだ。ミディはそもそも隠しているだけ。今は、二人とも素質があるんだ。それでも、やらせたくはないけど……」


 フォルが言葉を詰まらせて、俯いた。


「……知らないといけない気がするの……聖星の祈りを捧げます。聖星と契約します。深き深淵に眠る、聖星に捧げます」


 ミディリシェルは、聖星の紋章を使う祈語を唱えた。


「ゼノン、まだ不安定だから、共有でなんとかして。エレをここに繋ぎ止めて。今のゼノンなら、それができるでしょ?」


「ああ。任せろ」


 ミディリシェルの瞳に、聖星の紋章が浮かぶ。それは、以前使ったものとは少し違う。ミディリシェルの中にいる彼女を呼ぶための手段。


「……こんな事のために、危険を冒すなんて」


「安心しろ。エレは俺が守ってる。記憶が戻って、使い方を思い出したんだ。あいつをまた長い事寝かせなんてしねぇよ。欠片だけの状態にもな」


「……この身体に……そういう事。ありがとう。これなら、あの子が眠る事はなさそう。御巫の話だよね。唯一、本物と認められているエクシェフィーの御巫。御巫には秘密がある。それは、聖月が存在しない事。御巫は、二人でなる事ができない。必ず、選ばれるのは一人だけ。離れた御巫は、二度と交わらない。会う事ができない。認識できない。思い出せない」


「……でも、可能性ならあるよ。僕らだけじゃどうにもできないけど。ミディとゼノンが、それを証明した。前々回も、その分岐点があった。そのおかげで、御巫の分岐点についても、予測を立てられた」


 ――……ゼロ、多分だけど、エレも分かったの。分岐点は、どちらか選ぶのは、あそこ。エレとゼロ……御巫同士の、殺し合い。それが、分岐点。なにかの事情で、そうなって、エクシェフィーの御巫は、聖星が残った。


 ミディリシェルは、共有でゼノンの中から、この話を聞いている。この声は、ゼノンにだけしか伝わらない。


「分岐点ってどこなの?」


「……御巫をどちらか決める儀式。そんなものは聞いた事がない」


「……殺し合い」


 ゼノンが、そう言うと、フォルが、こくりと頷いた。


「そうなの?あの子から聞いたの?」


「ああ。つぅか、お前も気づいてねぇのか?あいつ、なんでそんな事に」


「それは君も分かっているだろう。あの子は、あれでも聡明姫と言われる子だ。前々回の記憶と、僕らの発言からそれを察したんだろう。だからこそ、この場所と御巫の事情を知るみんな。それが必要なんだ。分岐点を作るのには、洗脳や精神破壊といった方法が用いられるだろうから」


 御巫の絆は強力だ。それが大前提。自らの意思で、その分岐点に立つ事はない。ミディリシェルとフォルの見解は、同じだろう。


「そろそろ返すよ。ゼノン」


「ああ」


 ミディリシェルの瞳から、聖星の紋章が消えた。


「みゅ。みんなで頑張るの。エレも頑張るの。付け入る隙のないくらい、フォルをいっぱいらぶらぶするの」


「うん」


 みんなで一緒に分岐点を乗り越える。そう決まったところで

 

「ずるい、あたし達も一緒に頑張るー」


「ティア、神殿の仕事も両立させて」


「これでも、ゼノンは弟のような子ですわ。わたくしも協力してさしあげましょう」


「ミディのためにだとか言ってなかった?」


「あたぃも協力する。今回は来れなかった王様達も、協力するって言うでしょう」


 ミディリシェルとゼノンは、前回会っている。御巫の関係者であり、ここの住人達だ。


「おにぃちゃん、エレいっぱい魔法具の設計図思いつくから作るのー」


「……ルノ、ルシア」


「話のは昨日ぶりか。元気そうで良かった。改めて、これからよろしく」


「土産だ。約束していただろ」


「……ほんとに持ってきてる……後で一緒に食べよ。ルノも」


「いやがらせ?」


「それ僕にいうなら、ルシアに言いなよ」


 ミディリシェルの兄代わりであり、フォルの兄、フィル。現在は、ミーティルシアという名を使っている。それに、フォルの従兄のルノ。


 フォルは、フィルとルノに、笑顔を見せた。


「ゼノン、また弟って言ってなかった?オレの事」


「……言ってねぇよ」


「……気のせい?そんな気がしたんだけど」


 ――流石はゼムなの。才能の持ち腐れなの。


 ――お前、その言葉いつ覚えた?


 ――むにゅ?


「……あれを……ゼム、君のその才能、少しは使えるようにしたら?」


「使い方知ってれば使ってるよ。いつも厳しくするだけで……まただ。また、あるはずのない記憶」


 ゼノンの兄、ゼムレーグ。ゼムレーグの言う、あるはずのない記憶は、奇跡の魔法の中での事だろう。


「……それも、使いこなすためにやってた事なんだけど?」


「……」


「ゼム、フォルとおにぃちゃんには聞いちゃだめなの。二人とも、分からない人の気持ち知らないから。ミディが教えてあげる。ついでに、ミディの絶対敵味方作る」


「えっと、ありがとう」


「じゃあ、早速教えるのー。おにぃちゃん、ゼムと三人で魔法具作るの」


「ゼムも一緒か。それは良い」


 ミディリシェルは、ゼムレーグの腕を引っ張って、リビングを出た。

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