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星月の蝶  作者: 碧猫
2章 奇跡の魔法
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13話 取り戻したもの


「ふみゅ……みゅ?……ゼロ?ゼロどこ?」


 ミディリシェルは、爆発が収まると、きょろきょろと辺りを見回した。煙で視界が悪い中、ゼノンを探そうとする。


「ナティージェと一緒に森の外へ避難させた。君に使うと、発作を起こすかもしれないから」


「ふみゅ……フォルが、エレを守ってくれたの……ぎゅぅってして……ふんみゅぅってして」


 爆発の直前、フォルが、ミディリシェルを抱きしめた。それがミディリシェルを守るための事だと気づき、ミディリシェルは、頬をほんのり赤らめた。


 赤らんだ頬を、両手で触れる。


「……良くこの状況でこんな事ができるよ」


「フォルが好きなの」


「うん。ありがと。ところで、君って状況見えてる?」


 フォルが、呆れた表情で、そう言った。


 あの爆発音を聞きつけたのだろう。大量の魔物が押し寄せてきている。


「ここの魔物、かなり面倒なんだ。魔法に耐性があるみたいで。浄化魔法すら効かなくて」


 魔の森特有の現象なのだろう。普通の場所では、魔法に耐性のある魔物など聞かない。


「ふみゅ。エレも戦えるの。守られてるだけじゃないの。魔法杖をぶんぶん振り回して戦うの。頑張るの」


「うん。君の腕力だと、気づかれもしないだろうね。強化魔法使えば良いには良いけど」


「使えるの」


「筋肉痛になって動けないって言うから使わなくて良い。それで頑張らなくて良いから、防御魔法をかけて。僕が守るから」


「……不服だけど……不服だけど……フォルのためなら頑張るのー」


 自分もフォルと一緒に戦いたい。その想いを押し込める。


 ミディリシェルは、フォルの頬に口付けをした。


「みゅ。良く考えてみたら、フォルの帰りを待つのがエレの役目な気がするの。旦那様の帰りを待つ奥さんって感じで。エレは、フォルのお嫁さんなんだから」


「まだ言ってる。大人しく待っててくれるならそれで良いけど。待ってて、すぐ終わらすから」


「ふみゅ。いってらっしゃいなの……ふにゅみゅ。これ、なんだか、むじゅむじゅするの」


 ミディリシェルは、両手で口を隠して、そう言った。


「ふみゅ」


 ミディリシェルは、収納魔法から、魔法杖を取り出した。魔法杖を、胸の前で、両手で握る。


 フォルが、剣を握り、押し寄せる魔物達を、その剣で次々と斬り倒す。魔物の一体が、炎のブレスを吐いた。だが、そのブレスはフォルには届かない。ミディリシェルの防御魔法が、ブレスを防いだ。


「ふっふっふ、エレの防御まほぉはてっぺきなのー」


 ミディリシェルは、調子に乗って、更に強力な防御魔法をフォルにかけた。


 魔物の一体が、巨大な脚を上げて、フォルを踏み潰そうとするが、それすら、ミディリシェルの防御魔法を破壊する事ができない。


「殲滅完了。ありがと。君のおかげで、魔法を使わずに済んだ。それに、君が絶対に守ってくれるんだって思って、魔物の攻撃を何も気にせずにできたよ」


 フォルが、襲ってきた魔物を全て倒した。


「ふみゅふみゅ。お疲れ様なの」


「うん。君もお疲れ様。怪我はない?」


「ふみゅ。真っ先にエレの心配するフォル好き。フォルが守ってくれたから、エレに怪我はないの」


「君の魔法のおかげだよ」


 魔物がいなくなり、ほのぼのとした空気が、二人を包み込む。ミディリシェルは、このままいられたらと思っていると、そのほのぼのとした空気を、身内の手により壊された。


「また抜け駆けだー‼︎」


 空気を壊すためなのかと疑いたくなる叫び声。


 ゼノンが、そう叫んで、ルーツエング達と一緒に、ここへ戻ってきた。


 ゼノンが、走って、ミディリシェルとフォルの間まで来る。


「抜け駆け禁止」


「知らないの」


「禁止だ」


「知らないの」


「き・ん・し」


「し・ら・な・い・の」


 ミディリシェルとゼノンが、睨み合っている。その隣で、気まずい空気が漂っていた。


「……」


「……」


「……」


 睨み合っていたミディリシェルとゼノンでさえ、黙って、手を繋いで見る。


 フォルとルーツエングとイールグ。三人の間に、気まずい空気が漂っている。


「……」


「……全て聞いていた」


「……ごめん」


「今日の貴様の夕飯は、エレに手料理だ。早く帰るぞ」


 イールグが、フォルを見て、そう言った。イールグの反応に、フォルが、目を見開く。


「怒って、ないの?」


「怒ってる。そんなの当然だ。言いたい事も山程ある。だが、エレが代弁してくれた。なら、俺は、貴様の友として、貴様がどれだけ、気まずくとも、いつも通り接する。それが、友として、俺ができる事だと思うからな。それに……奇跡の恩返しでもあるだろうからな。だが、もしまた、こんな事を考えれば、その時は俺が正してやる。覚えとけ」


「……うん。ありがと」


 フォルが、そう言って、どこか悲しそうな笑顔を見せた。


「……フォル、俺も、兄様達も、お前に神獣としてあるべき姿なんて望んでいない。ただ、不器用なだけで、兄弟として、兄として、お前を想っている。だから、神獣だから、御巫だからと、諦めないで欲しい。彼らの事も、全部、理由をつけて諦めないで欲しい。俺達が、そうできるように、いくらでも協力するから」


「……うん。ごめん。もう、諦めないよ。ちゃんと、受け入れるよ」


 ルーツエングもイールグも、もっと他に言いたい事があっただろう。自分の願いだけ諦めようとしたフォルを怒りたかっただろう。力になれなかった事を謝りたかっただろう。


 二人とも、それを全て飲み込んで、その言葉を紡ぎ出したのだろう。


「……エレができるのは」


 ミディリシェルは、そう呟いて、ゼノンを見た。


「共有で色々と伝わってる。俺の事はどう使っても良い。だから、お前の特技をしてくれ」


「みゅ」


 ミディリシェルは、ゼノンと小声で話した。そして、フォル達の方を見る。


「みんな早く帰るの。エレのお料理のために帰るの」


 ミディリシェルは、そう言って、ゼノンの腕を抱きしめた。


「エレ?」


「ふっふっふ、みんなが帰らないなら、ゼロ人質に取られろなの。人質とってやるの。帰らないと、ゼロがむぎゅむぎゅされちゃうの。良いの?ちゃむちゃむもふみゅふみゅもされちゃうの。なんなら、もみゅもみゅだって」


 ミディリシェルは、得意げな表情で、そう言った。ゼノンが、呆れた表情でミディリシェルを見ながら、「タスケテー」と、繰り返し言っていた。


 それを見た、ルーツエング達が、笑った。だが、フォルだけは、不機嫌そうな表情で、ミディリシェルとゼノンを見ている。


「ふみゅ?失敗?」


「……今すぐ帰る」


「は?」


「急に何が」


 ゼノンとルーツエングが、目を見開く。

 イールグとナティージェは、察しているようだ。


「ヴァリジェーシル様にも、そんな一面が……いえ、何度か、相談されてましたから、あり得ない事では」


「エレが調子に乗りそうだな」


 やり始めたミディリシェルでさえ、理解できず、ゼノンの腕から離れて、フォルを見ていた。


 フォルが、ミディリシェルの右腕を掴んだ。


「……ふぇ?もしかして……いつものエレの変な行動が、効果てきめんなの?」


「じゃあ、僕帰るから。出口まで道標なしで、頑張りな」


 フォルが、そう言って、転移魔法を使った。


      **********


 ミディリシェルだけは、転移魔法で帰して貰えた。


 転移先は、エクリシェ中層、フォルの部屋。


「服用意したから、お風呂入る?」


「入るー」


「一人で?」


 フォルが、意地悪な笑みを浮かべて、そう言った。

 ミディリシェルは、ぷぅっと頬を膨らませて


「むぅ、フォルの意地悪」


 と、答えた。


「そうだね。君は、一人じゃ、風呂にすら入れない子だから」


「みゅ。そうなの。だから、フォルが一緒に入るの。入らないとだめなの」


「分かりました。僕のお姫様」


 フォルが、そう言って、ミディリシェルを抱きしめた。


「……この匂いが落ち着くの」


「それは良いけど、料理、本気でやるつもり?」


「みゅ。安全に、食べられるものを作るから、頑張るから。とりあえず、お風呂ー」


 ミディリシェルは、そう言って、浴室へ向かった。


      **********


 入浴後、ミディリシェルは、厨房に向かい、フォルの夕食を作った。レシピ通りに作れば作れると、レシピを見ながら作ったが、原型を留めてはいない謎料理が生まれた。ミディリシェルは、瞳に涙を溜めて、フォルにそれを渡すと、フォルが、美味しく食べていた。


 夕食後、ミディリシェルとフォルは、二人で、部屋に戻り、ベッドの上に座った。


「ふみゅぅ、まだみんな来てないのかな」


「そんな早く来れないでしょ。あそこは、一度迷えば帰れなくなるから」


「……ねぇ、あれって、本当にフォルが導いてくれたの?フォルもだと思うけど、もう一つ、別の意思があったの。どちらにしても、理由は分かんないけど」


 ミディリシェルが視た光。あれは、半分はフォルの意思だった。だが、もう半分は、別の誰かの意思だ。その人物は、ミディリシェルが良く知る人物。


 その人物の助太刀があったからこそ、ミディリシェルは、あそこへ辿り着けた。


「……ほんと、どうしてなんだろ。君を歩き疲れさせれば、簡単に目的を達成できる。でも、それをすればって迷ってはいた。だから、無意識に導いていたんだろう。でも、それは不完全だ。あれがなかったら、今頃、君は辿り着いてない」


「そうなの。だから、不思議なの。どうして、()()()()()()()()エレ達にそこへ行かせるようにしたのかって」


「彼らしいと言えば彼らしいよ。長年、会ってなかったのに、切れてなかったんだ。僕の想いを、君らに届けてくれようとしてたんだろう……今度会ったら、たくさんお礼をしないと」


「お礼……ふみゅ⁉︎忘れてたの!」


 ミディリシェルは、七年かけて作った、最高傑作の連絡魔法具をフォルに渡した。


「……エレ、これなに?僕の知ってる連絡魔法具とは違うんだけど」


「連絡魔法具なの。前回、落として壊れた腹いせに、壊れないのを作ってやったの。こっちは七年かけたの。おにぃちゃん、とっても楽しそうだった。これをエレがフォルにあげたいって作っていたら。どんな反応をするか楽しみって言って、張り切って作ってくれたから、エレの設計図以上のものができたの」


 ミディリシェルは、自慢気に、そう言った。


「……うん。ありがと。嬉しいよ」


 フォルが、他にも何か言いたそうに、ミディリシェルの最高傑作の連絡魔法具を受け取った。


「……何年かけたの?」


「七年」


「長いね。君らにしては」


「ふみゅ。素材も自分達で頑張ったの。処理能力がすごいの。あつあつのお湯も、ひやひやのお水も大丈夫なのが売りなの」


 ミディリシェルは、胸を張って、そう言った。


「で、何時間コース?何時間コースが良いの?」


「何時間でも。今度気が済むだけ聞いてあげる。今日は、記憶を戻してあげないといけないから無理だけど」


「ふみゅ。分かったの。エレは……みゅ」


 ――虫やだー。エレー。虫いっぱいー。助けてー。エレー。俺にはエレ以外いないんだー。助けてー。


 共有で、ゼノンの心の声が聞こえてきた。


「……」


「どうしたの?」


「……ゼロ……フォル……ゼロ……フォル……ゼロ……フォル……フォルなの!」


 ミディリシェルは、悩んだ末、ゼノンを助けるのではなく、フォルとの時間を取る事にした。


「エレ?」


「なんでもないの。気にしなくて良いの。エレは、フォルとの時間を大事にするから」


 ミディリシェルは、笑顔でそう言って、ゼノンの心の声を聞かなかった事にした。


 ――エレー。愛してるからー。毎日そう言うからー。明日好きって言うからー。お願いー。助けてー。


「フォル、記憶ってどうやって戻すの?」


「君はなにもしなくて良い。眠って、朝になれば、事前と思いだしている」


「雑音がうるさくてねむねむできそうにないの」


 ミディリシェルは、ゼノンの心の声を雑音と言い切った。


「……エレ、もしかして、ゼロが何か伝えてきてる?」


「気のせいなの。ゼロは、元気に虫さんと戯れてるの。安全な虫さんと戯れて楽しんでるの」


 ミディリシェルは、満面の笑みでそう言った。


「にぃ様達がいるからほっといても良いか。今日は、エレと二人っきりが良いから」


「みゅ。そうなの。エレも二人っきりが良いの。だから、気にしない事にした」


「そうなんだね。そういえば、君は、どこまですれば満足してくれる?結婚?」


「エレは、そんなんじゃ満足しないです。エレは、フォルにいつも守られてばかりだから、エレがフォルを支えるのです。ゆくゆくは、管理者の一員としてまで考えているのです」


「それはやめて。ただでさえ読みづらい文字書く子が多いんだから。仕事増やさないで。その点だけで言えば、ゼロなら大歓迎だけど」


「むぅ、エレだってできるのー」


「考えてはおくよ。今すぐには無理でも、いつかは……なんて。管理者はギュゼルの仕事の一部を円滑に進めるための組織だから、ギュゼルの方で。前向きにとは言えないけど」


「それで良いの。ふぁぁぁ、疲れてねむねむになったの」


 ミディリシェルは、ベッドの上で寝転んだ。


「おやすみ」


「まだ寝ないの。フォルともっとお話しているの」


「明日もいるから、今日はもう寝な」


「……みゅ。おやすみ」


「うん。おやすみ。僕のお姫様」


 フォルが、そう言って、ミディリシェルの額に口付けをした。


 ミディリシェルは、フォルの手を握って、瞼を閉じた。


 ――エレー。寝れないよー。助けてー、ケーキ奢るからー。作るからー。頼むから、返事してくれー。


「寝れない」


「……睡眠魔法かけるよ。君が寝れる程度に」


 ミディリシェルが寝ようとすると、ゼノンの睡眠妨害が入る。フォルが、睡眠魔法を使い、ミディリシェルは、眠る事に成功した。

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