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星月の蝶  作者: 碧猫
2章 奇跡の魔法
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10話 不可能を可能にした魔法具技師


「匂いは別だが、その話なら、エレがいれば、なんとかできるかもしれねぇな。エレをどう使うかの作戦を考えるで」


「そうだね。エレだけじゃなく、ゼロも鍵になっているだろうから。エレとゼロ、両方をで考えよう」


 ミディリシェルは、「ふみゅふみゅ」と言って、ケープを着た。


「おっきぃのが、ふみゅふみゅって感じなの。それに、この匂いを間近で……ふみゅ。ゼロ、エルグにぃ達に、あの森への行き方を聞くの」


「ゼロ、エレは覚えていないだろうけど、昔、あの子に助けてもらった事がある。それに、フォルは僕の存在をこの場所へ繋いでくれている。だから……」


「ああ。分かってる。俺にとっても、二人は大切な存在なんだ。絶対に取り戻す。エレも、絶対に失わない。もう、絶対に……だから、クロはここで待っててくれ。ここで、俺らが帰ってくるまで、当番の肩代わりして?迷うといつになるか分かんねぇから」


 ゼノンが、笑顔でそう言った。


「……うん」


「……エレのお当番もついでに」


「お前は入ってねぇだろ」


「……エレの技術を甘く見るななの」


 ミディリシェルは、机に置いてあった、ゼノンの連絡魔法具を手に取った。

 それを勝手に使い、エクリシェの当番表を、勝手に開く。編集画面にして、ゼノンの名前を消して、ミディリシェルの名前を入れる。

 そして、それを、ゼノンでは編集できないようにしておいた。


「ふっふっふ、これで、エレとおにぃちゃん以外は、編集不可能なの」


 ミディリシェルは、連絡魔法具の画面を見て、満足しながら、そう言った。


「今すぐ戻せ」


「やなの……ぷぃ」


「……俺の当番の時で良いなら、手伝わせてやるから」


「……エレはお料理できるの。お掃除できるの」


「でき……エレは、お料理できます。お掃除できます」


「みゅ」


 ミディリシェルは、当番表を元に戻した。


「クロ、エルグにぃとルーにぃってもう帰ってる?」


「多分。部屋の場所は、ゼロが知ってると思う」


「ふみゅ。ゼロ、いこいこ」


「引っ張んな」


 ミディリシェルは、ゼノンの腕を引っ張って、部屋から出た。


 部屋を出る寸前、ミディリシェルが、振り向くと、ローシェジェラが、笑顔で手を振っていた。


「ありがとう。それと、ごめん。二人がどれだけ気にしてくれていようとも……僕は……」


      **********


 ミディリシェルとゼノンは、ルーツエングの部屋を訪れた。部屋の中では、ルーツエングが、買い物から帰り、本を片手に、書類の整理をしていた。


「どうした?先に帰ったと聞いたが、大丈夫なのか?」


「ふみゅ。聞きたい事があったんだけど」


「忙しそうだな」


「これは暇の分類だ」


 ルーツエングが、手を止めずに、そう言った。ミディリシェルは、それを聞いて、驚きのポーズを取った。

 

「ふにゃ⁉︎これって暇なの⁉︎エレの目には、とっても忙しいご様子にしか見えません。ゼロさん?ゼロさんは、どう思われますか?」


「俺もそうにしか見えねぇよ」


 話があって、ルーツエングの部屋を訪れたミディリシェルとゼノンだが、扉の前で、立ち尽くしている。


「ソファにでも座れ。気が散る」


「ふにゅ。ゼロ」


「ああ」


 ミディリシェルとゼノンは、ベッドの上に座った。


「ふかふかぁ」


「相変わらず、そこが好きか。本当に昔から、変わりがない」


「ふみゅ?」


 本で隠れていて、ルーツエングの表情は見えない。


 ――なんだか、普段と違うの。なんだろう……どことなく、悲しそうな雰囲気なの。


 ――ああ。何かあったのか、聞ければ良いが、聞きにくいよな。


 ――ふみゅ。聞きにくいの。


 ミディリシェルとゼノンは、共有を使って、会話をした。


「……」


「エルグにぃ、あれ……えっと、エレ、致命的なミス発覚。地名を知らない。エレは知ってるか?」


「ふにゅ。知らないの。地名だけに致命なの」


「そういうつもりで言ってねぇよ。分かってる事は魔の森ってくらいか」


 何も調べずにここに来ている弊害が生まれていた。だが、今更、それを調べる時間がない。ミディリシェルとゼノンは、どうにかして、伝える方法を考える。


「ふみゅ。分かんないの。知ってる事、魔の森以外に、結界魔法と隠蔽魔法で隠されているって事くらいなの」


「……エルグにぃ、そこってどこか知らねぇか?できれば行き方も」


「……知ってる。だが、それを知って、どうするつもりなんだ?理由によっては、教える事はできない」


「フォルを迎えにいくの。というか、むりやりでも連れ帰るって想いで行くの。それで、いっぱいいっぱい恩をたんまり押し付けてー、エレはフォルとぎゅむぎゅむらぶらぶ生活を送るの」


 ルーツエングの問いに、ミディリシェルは、着ているケープに、顔を近づけて、そう答えた。


「……ここへ帰ってきたら、これを見つけた」


 ルーツエングが、そう言って、ミディリシェルとゼノンに、手紙を見せた。

 

【主様、僕が閲覧できなかった資料について。きっとずっと、見れないでしょう。

 最後まで、優柔不断でごめんなさい。主様の弟になりきれなくてごめんなさい。責任は取ります。許されなくて構いません。

 あの二人だけは、笑っていてほしいです】


 それは、ミディリシェルとゼノンには理解できない内容。もっと、転生前の記憶があれば、その理由も理解できたのだろう。


「みゅ?」


「二人は……記憶がないんだったな。ギュリエン。かつて、俺達の拠点であった地。その地の最後の資料だ。あれは、後悔しかない結末だった」


「……本で読んだの。ギュリエンは、内部崩壊っていうのをしたんだって書いてあった。でも、違ったんだね」


「ああ。ギュリエンに所属しない、神獣達が攻めてきた。俺達は、それに応戦したんだが……逃げれば良かったのかもしれないな。そうすれば、あんな悲劇を生む事はなかった。神獣が攻めてきた証拠すら残らない。死の大地となる事なんてなかっただろうな。何も残らない、後悔の場所には、ならなかったんだろうな」


 ルーツエングが、今にも泣きそうな表情で、そう言った。

 ミディリシェルは、死の大地という言葉を聞いて、青ざめた。震える両手を、胸の前で握る。


「……それって……生命……魔法」


「……そうだ。生命魔法には、危険な一面もある。それは、身を持って実感している事だろう」


「……うん」


 ミディリシェルは、こくりと頷いた。


「生命魔法を使えるのは、現在確認されている中では二人だけ。エレとフォルだけだ」


「……」


「……この話は終わりにしよう。あの森への行き方を知りたいんだったな。それなら、近くまで、転移魔法で送ろう。一緒に行くが、転移魔法はそれ以上使えないんだ。それに、森の中は、ある程度は知っているが、俺でも辿り着く事ができるか分からない」


 ルーツエングが、そう言って、本を机に置いた。


「……」


「……エレ」


「フォルは、あの時の事が知られて、外界から閉ざされた。それでも、二人を守りたかったんだろう。外に出る事ができないまま、二人の事を守って。自分からは、外に出ようとしなかった。ずっと、二人を待っていた。それが、何故自分から外へ出ようとしたのか。考えてみて欲しい」


「ふぇ?……分かんないの」


「気づいたんだろう。なんの相談もなしに、一人で勝手に」


 イールグが、ルーツエングの部屋を訪れた。


「ルー」


「主様、俺も、同行させて頂く。あの、優しい愚か者に、文句の一つや二つ、その場で言ってやります」


「良いだろう。というか、お前がいないと、もし、戦闘になれば確実に全滅だ」


「安心しろ。俺がいても変わらない」


 イールグが、そう言って、ミディリシェルの頭を撫でた。


 ミディリシェルは、頭を撫でられて「ふみゅふみゅ」と、両手を顎に当てて、笑顔で言っていた。


「フォルがその気になれば、間違いなく、全滅する。そうならないようにどうにかしないとだろう。何か策はあるのか?」


 ミディリシェルは、ふるふると首を横に振った。


「ないの。でも、なんとなく、そうはならないって思うの」


「未来視か?それとも、直感か?」


「ふみゅみゅ。エレの嗅覚。エレ、フォルが大好きすぎて、匂いが分かっちゃうの。いくら、おんなじ匂いに近づけようとも、違うって」


 ミディリシェルは、そう言って、ケープの匂いを嗅いだ。


「これなの。初めて会った時……ふぇ⁉︎今回のだよ。リブイン王国で会った時、エレが、頑張って挑戦していた時、婚約発表の時、それに……ふみゅ。エレが、偶然選んだ道で、ふにゅにゅな感じだったの。このお洋服も、フォルが選んでくれた。エルグにぃ達よ、ふみゅ⁉︎」


 ゼノンが、右手で、ミディリシェルの口を塞いだ。


「エレ、あれは内緒だろ」


 ミディリシェルは、こくこくと頷く。


「俺達よりなんだ?」


「……知らない」


「知っている反応だろう」


「……そんな事より、エレ、その時は、クロじゃなかったって事だろ?」


 ミディリシェルは、こくりと頷いた。そして、早く離せという目で、ゼノンを見る。


「……」


 ゼノンが、ミディリシェルの口を開放する。


「ふみゅ。エレはいっぱい知っているの。だから、そんな事はないって思うの」


「そうか。なら、それを信じよう」


「ふみゅ。エルグにぃ、魔の森に行くのって、今すぐ行くの?」


「明日にしてくれ。色々と準備があるからな」


「ふみゅ。ゼロ、今日は、中層のエレのお部屋でねむねむしよ。あそこなら、魔法具とかもいっぱいだから」


「中層は改装中じゃ」


 エクリシェの中層から上は改装中。以前、ゼノンが言っていた事だ。


「さっき、連絡魔法具をぬす……借りた時に見たけど、もう終わってたの」


「そういえば、そうだったな。フォルとの戦闘にならないとしても、明日は何があるか分からない。しっかりと休息を取れ」


「ふみゅ。おやすみなの」


「ああ。おやすみ。明日はよろしく」


 ミディリシェルとゼノンは、立ち上がり、部屋を出た。


      **********


 エクリシェ中層、ミディリシェルの部屋。


 その部屋の中には、今まで溜めてきた魔法具が、棚に並べられている。これは全て、ミディリシェルが、共同で作った魔法具だ。


「エレ、お前連絡魔法具って持ってねぇのか?ここに、前回使っていたのがあるとか」


「……壊したの」


 ミディリシェルは、ゼノンから、顔を逸らして、そう言った。

 

「前回の記憶、まだ戻ってないのが」


「ゼロがいない時に、落としたら壊れちゃったの」


「……ねぇと不便だろ。さっきも、俺の魔法具を盗んでただろ」


「ふみゅ。壊れたショックで」


 ミディリシェルは、泣き真似をしながら、棚にあった、一つの魔法具を手に取った。


「代わりの連絡魔法具を作ったの。しかも、今ゼロが使ってる、この時代の、最新性能をも超えるのを、おにぃちゃんと一緒に」


「壊れたら、最新の魔法具を買うとかは聞いた事があるが……それは、どんな機能なんだ?」


 ミディリシェルの記憶にあるゼノンは、ミディリシェルが魔法具の自慢をすると、めんどくさそうに聞く。だが、今回は、自分から興味を示したようだ。


「従来の機能に加えて、ノヴェにぃ設計の世界管理システム以上の処理機能。盗聴不可。常に最新の地図などなど」


 ミディリシェルは、顔を逸らして、そう答えた。


 世界管理システム。それは、現在にまで超える事ができないと多くの人々が言う、最高峰の魔法機械。その役割は、その名の通り、世界を管理して守る事だ。


 連絡魔法具は、魔法具の中でも、小型で携帯が便利な部類。世界管理システムは、一般庶民の建物一軒分以上はあろうかという巨大な魔法機械。巨大だからこそ成せる処理能力を、その小型な連絡魔法具で超える。そのような事は、その当時は勿論、現在ですら不可能の領域とされている。


「なぁ、お前って魔法具と魔法機械の違いを知ってるか?」


「ふみゅ。蓄積量と処理能力が主な違いなの。構造が違うのも」


「ああ。お前さ、少しは常識を考えろ」


「常識を簡単に捨てるとか思わないで。エレだって苦労したの。おっこちらだけで壊れる魔法具なんて、脆すぎるからって頑丈にしようと思って。ちょっと性能もって考えたら、時間かかったんだよ。百倍以上」


 約三年半。ミディリシェルが、この魔法具を完成させるまでに費やした年月だ。


 一般的に、一つの魔法具を設計から開発するまでにかかる時間は、早くとも三年。遅ければ、十年以上かかるものもある。


「一般平均より十分早いだろ」


「エレ的平気は三日なの。三年半は十分長いの」


「……俺、風呂入ってくるー」


「エレも一緒に入るの」


「その魔法具おいてけ」


 普通の連絡魔法具は、落ちただけで壊れたのだ。当然、水に沈めば壊れる。だが、ミディリシェル特製の魔法具は


「熱々のお湯も冷や冷やのお水も大丈夫なの。どこで活動していても使えるが売りなの」


 壊すと想定した要因は全て排除してある。ミディリシェルは、「売れないけど」と付け加えて、胸を張ってそう言った。


「その理解があるだけまだマシか。けど、お前、泳げねぇんだし、水濡れ対策なんて必要ねぇだろ」


「フォルへのお貢ぎ品なの。これは、初期型で、フォルの方は、更に倍の時間をかけたの」


「倍つぅことは、七年か。それは長いな。ルシアに見放されたのか?」


「違うの。処理能力あげて、どんな文字でも翻訳可能な機能をつけて、絶対に誰にも見られない予定表機能とメモ機能つけて、魔法妨害を防ぐ機能つけてとかやってたら」


 ミディリシェルは、ケープを脱いで、ベッドの上に置きながら、そう言った。


「……どうやって、その小型魔法具の中に詰め込んだんだ?」


「頑張ったの。明日のために、疲れがないないする入浴剤にするの」


 ミディリシェルは、そう言って、入浴剤を選んだ。


 ミディリシェルとゼノンは、明日のために、でき得る限りの準備をして、朝を迎えた。

 

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