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星月の蝶  作者: 碧猫
2章 奇跡の魔法
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9話 記憶を戻すには


 フォルは、ミディリシェルを、見つけられやすいように、移動させた。

 人通りの多い場所にあるベンチ。そこなら、見つけられやすいだろうと、ミディリシェルを座らせた。


 フォルは、その隣に座った。


「……」


「……けーきしゃん……ふみゅん……この匂い……しゅき」


「……ごめん。ずっと一緒にいてやれなくて。ゼロに見つけられるまでの間、君を守れるように、加護を与えるよ。それと、その服、とても似合ってる。僕とまた会う時も、着ていて欲しいくらいだ」


 フォルは、そう言って、ミディリシェルの額に、口付けをした。そして、ミディリシェルの元を去った。


      **********

 

 ミディリシェルが目を覚ますと、人通りの多い場所のベンチで座っていた。


 隣には、誰もいない。


 ――あれは……夢?……フォルが、いて、くれた。そんな気がしたんだけど。


「ミディ!」


 ゼノンが、走って、ミディリシェルの元へ来る。かなり、焦っているようだ。


「良かった。無事で」


「……ゼノン」


 ミディリシェルは、迎えに来たゼノンを見て、泣いて抱きついた。


「どうしたんだ?初めての買い物だからな。もしかして、迷子になって、こわかったのか?」


 ミディリシェルは、必死にふるふると首を横に振る。


「違う。違うの……ミディは……エレは……」


「と、とりあえず、落ち着け。ここは、その、人が多いから、な?」


「……うん」


「後でみんなに連絡する。部屋の方が落ち着くだろ?とりあえず、帰るか」


 ミディリシェルは、こくりと頷いた。


 ゼノンが、転移魔法を使い、エクリシェへ帰った。


      **********


 エクリシェの下層。ゼノンの部屋。


「……」


 部屋に来た後から、ミディリシェルは、ベッドの上に座って、ずっと泣いている。


『可能性を見つけて。僕が。その可能性を作る道に導くから。それと、未来の君に頼がある。下層の、僕の部屋へ来て。机の上に置いてある手紙を読んで』


 前回のミディリシェルでは、見る事ができなかった言葉。未来の、今のミディリシェルに向けた、フォルからの言葉。その言葉の意味は、未だ理解できていない。


 ミディリシェルは、泣きながら、ふと、その言葉が、頭に浮かんだ。


「……フォルのお部屋に行かないと」

 

 泣いている暇がない事は、理解している。ミディリシェルは、ゆらりと立ち上がり、下層の、フォルの部屋へ向かった。


      **********


 フォルの部屋は、ミディリシェルの記憶とは違う。家具があり、私物らしきものもある。普通とは言い難いが、人が暮らしている部屋だ。


 この部屋の中だけでも、フォルが、どれだけミディリシェルとゼノンが好きなのか理解できる。


「……」


 ミディリシェルは、フォルの残した言葉の通り、机の上に置いてある手紙を、手に取った。


 ミディリシェルは、恐る恐る、手紙の封を開く。


【ありがと、僕の可愛いエレ。僕の言葉を聞いてくれて。それだけで嬉しいよ。

 それと、ごめん。ずっと、傷つけてきて。きっと、これからも。

 そのお詫びというわけではないんだけど、そこの棚の上に、エレとゼロの縫いぐるみがあるだろ?なかなか可愛くできていると思う縫いぐるみ。そこの間に置いてある髪飾り。それを、エレにあげる。できれば、受け取って欲しいかな。

 それと、できれば、着けても欲しい。きっと、君に似合うと思うんだ


 それと、せめて、君の願いだけは、叶えられるように】


 ミディリシェルは、手紙を置き、棚に置かれている、ミディリシェルとゼノンの縫いぐるみを見つける。その間にある、羽の髪飾りを手に取った。


 二つセットになっているようで、ミディリシェルは左右に片方ずつ、髪につけた。


「……この縫いぐるみ……エレも欲しいの。エレの場合は、ゼロとフォルのだけど」


 棚に置かれている縫いぐるみを、じっと見つめると、精巧に作られているのが分かる。


「ふみゅ。やる事いっぱいなの。まずは、ゼロとお話しするの。それから……なにするんだろう?ゼロにお話すれば分かる気がするの。ゼロが知ってる気がするから」


 ミディリシェルは、涙を拭いて、一人でそう言って、ゼノンの部屋へ戻った。


      **********


 ミディリシェルは、ゼノンの部屋へ戻ると、前回の記憶を、共有を使って、ゼノンに視せた。

 ミディリシェル一人の時の記憶は、なるべく視せないようにする。二人でいる時だけを、視せている。


「それで、これが置いてあったのか?」


「みゅ。可愛いの」


「ちゃんとつけてればな。少しこっち向いて大人しくしてろ」


「みゅ」


 ゼノンが、ミディリシェルの髪から、髪飾りを取る。そして、ミディリシェルの髪を整えてから、髪飾りをつけた。


「可愛いの。今度こそ可愛いの」


「ああ。可愛い。フォルの事は、エルグにぃ……いや、ここはクロが良いか。クロに後で聞いてみようぜ」


「ふみゅ。エルグにぃとルーにぃにもお手伝いさせるの。前回いなくて、お仕事のお手伝いエレ達してたんだから、手伝わせるの」


「そうだな」


「ふみゅ。その前に、クロなの。クロ探し行くのー」


 ミディリシェルは、左手で拳を作って、上に挙げてそう言った。そして、部屋から出ようとすると、ゼノンに、腕を掴まれて止められた。


「……お前ってさ、記憶、どうなってんだ?大丈夫か?前回の記憶を思い出して、今の記憶は忘れたのか?」


 ゼノンが、本気で心配しているような表情で、そう言った。


「みゅ?なんの事?」


 ミディリシェルは、きょとんと首を傾げる。


「……確認なんだが、お前って、今日なにしてたか覚えてるか?」


 ミディリシェルは、こくりと頷いてから、答えた。


「ふみゅ。お買い物に行っていたの。みんなでお洋服勝負して、ゼノンが優勝に不服だったけど、このフォルが選んだお洋服が一番でふにゅぅって感じだったの。それから……先に帰ったの」


「ちゃんと覚えてるんだよな?なら、その後の事も分かるだろ?なんで理解できてねぇんだ?」


「みゅ?」


「ミディ、俺らは先に帰ったんだ。エルグにぃ達はまだ」


「……みゅ⁉︎」


 ミディリシェルは、ポンっと、手を叩いた。


「分かったの!エルグにぃ達は、今ここにはいないの」


「ああ。良くできたな。だから、先に他になにかねぇか探してこよう」


「……疲れたの」


「……じゃあ、持ってる手紙貸して。俺一人で探す」


「や……ふみゅ⁉︎そ、そんな事を⁉︎ふみゅみゅ⁉︎……エレ、もう一回、フォルのお部屋に行ってくるのー」


 ミディリシェルは、手紙の裏に、ミディリシェルが喜ぶ内容の事が書かれていたのに気がついた。それを見て、走って、フォルの部屋へ向かった。


「ふみゅみゅみゅみゅみゅぅー」


「あっ、待て」


 ゼノンが、ミディリシェルの後を追って、部屋を出た。


      **********


 ミディリシェルは、フォルの部屋を訪れると、ベッドへ向かった。布団を捲ると、そこには、フォルが仕事で着ているケープが置かれていた。


「ふんみゅぅ」


「……」


 ゼノンが、ガチ引きしている中、ミディリシェルは、フォルのケープを抱きしめて、にこにこと笑顔で、頬擦りをしている。


 その匂いは、間違いない。あの時、ミディリシェルが、完全に眠ってしまう前に、嗅いだ匂い。それが、何よりも嬉しかった。


「間違いでも、夢でもなかったの。あれは、フォルだった。また、助けてくれたんだね。ふにゅにゅなの」


「……エレ、言いたい事とか聞きたい事はあるが、とりあえず、その変態行為やめろ」


「しゃぁー!」


「……」


「しゃぁー!」


 ミディリシェルは、ゼノンを威嚇した後、ケープを持ったまま、走って、ゼノンの部屋に戻った。


      **********


 ミディリシェルは、ゼノンの部屋に着くと、ベッドに飛び込んだ。


 ミディリシェルは、横になって、今回転生してから、一度も見せた事がないような笑顔で、フォルのケープを抱きしめた。


「……」


「そろそろ帰って来ているだろうなと思って、来てみたけど、何?この状況」


「……フォルの服を貰ったエレの図」


 ローシェジェラが、ゼノンの部屋を訪れた。呆れた表情で、ミディリシェルを見ている。

 ミディリシェルは、ゼノンとローシェジェラに見向きもしない。


「ふんみゅ。ふんみゅ」


「……クロ、話を聞きたい」


「僕もそのつもりで来たよ。だから、良いんだけど。良くこの状況で平然と話せるよ」


「フォルにどこまで言われているか知りたい。できれば、指示内容を見せて欲しい」


 ゼノンが、平然とそう問う。


「良いんだけど。良いんだけど。先に、あれどうにかしてよ。あれが気になって、話にならない」


「あれは……そういうものだと思ってくれ」


「それができないから言ってるんだよ」


「……ミディ、俺の服もやるから」


 ゼノンが、そう言うと、ミディリシェルは、「みゅ」と言って、ベッドの上に座った。その手には、フォルのケープが抱きしめられている。


「お話するの」


「……指示内容の紙だ。これを見れば、大体分かると思う」


「ありがと」


「なの」


 ミディリシェルとゼノンは、ローシェジェラから、渡された、指示内容が書かれた、紙を見た。


「ゼノン、任せたの」


「……色々と大変だったんだな。これは、本に書いてあるのの写しなのか?」


「そう。良く分かったね。リプセグと同じようなものだからかな。それと、一番大変だったのは、君ら二人の世話だよ。予想外の行動ばかり。フォルのこれが役に立たない事もしばしば」


 ローシェジェラが、そう言うと、ミディリシェルとゼノンは、互いの顔を見合わせてから、ローシェジェラの方を見た。


「あー、ミディ……エレの奇行の数々か」


「ゼノン……ゼロのお世話だと思うの」


「久々だね。君らがそっちで呼び合うのは。大変だったのは、喧嘩だよ。毎度毎度、フォルは良く止められるよ」


 ローシェジェラが、そう答えると、ミディリシェルとゼノンは、再度顔を見合わせて、きょとんと首を傾げた。


「止めてた?エレにそんな記憶はないの」


「リプセグの事も大体思い出してきたが、むしろ、喧嘩の原因作ってたよな?事ある毎に、エレに、俺が、綺麗な女の人が好きなんだとか嘘ついて」


「ふみゅ。楽しそうだったの。エレ、多分だけど、あの坂のお話も、フォルに聞いた気がするの。めちゃくちゃ楽しそうにしてたの」


「あの、直角坂もとい落とし穴か」


「逆なの」


 ミディリシェルとゼノンが、ローシェジェラの方を見た。


「クロの方が、止めてくれてたの」


「……直角坂って。記憶が戻って、もし、僕がいたら、聞きたいよ。なんで、君らはフォルが好きなのかって。聞かせてもらえる?」


「覚えてたら」


「好きだから好きなの。甘いもの好きなのが甘いもの好きだからと一緒なの」


 ミディリシェルは、胸を張って、そう言った。


「……エレ、二枚目がやばい」


「みゅ?……ふみゅ」


「本当に大変だったよ」


【それと、これだけは覚えておいて。エレは、可愛い生き物って自分が思うように、教え込んだら、より一層可愛くなったんだ。それに、僕に懐いてくれるのも可愛い。


 以下略


 ゼロは、素直じゃないところも可愛いんだ。それに


 以下略


 という事だから、くれぐれも、あの二人に恋愛感情を持たせないようにしてね?あの二人は、僕のだから。もし、エレがそういう意味で本気で好きになる事があれば、それは、その時のお楽しみにしてあげるよ】


 指示内容の二枚目の紙。そこには、長々と、ミディリシェルとゼノンに対する想いが綴られていた。最後には、忠告も。


「好きになってもらわねぇと、その計画できねぇだろ。なのに、これって」


「フォル好き」


「あれは独占欲が強すぎるんだよ。僕は、エレとゼロだけにしか見た事がないけど」


「普通じゃねぇのか?俺も……恋愛的感情だったら」


「ふみゅ。ゼロは、エレにそういう感情抱いてると推測……エレも分かるの。フォルが、エレより可愛い人にとかやなの。普通じゃないの?」


 ミディリシェルとゼノンは、そう言って、きょとんと首を傾げた。


「人それぞれかな。後は、フォルの記憶に関する事なんだけど」


「それは大丈夫なの……きっと、エレの匂いを嗅がせれば、ふみゅ⁉︎ってなってくれるから。こんなの渡すからきっとそうなの」


 ミディリシェルは、そう言って、ゼノンに手紙を見せた。


【裏まで見る、僕の可愛いエレへ

 この事を知って、欲しくなったんじゃないかな?僕の匂いがついているなにかを

 そんなエレに、僕の仕事用のケープを貸してあげる。存分に味わってね

 君の大好きな匂いより】


「ほらね?」


「……」


「……」


「フォルはエレに匂いをくれたの。だから、エレがフォルに匂いをあげれば良いの」


「そんなのは」


「あるかもちれないでちゅ」


 碧色の小龍が、そう言って、現れた。


「りゅりゅ、起きてたんだね」


「みゅ。エレしゃまが望めば、フォルしゃまは考えてくれると思うんでしゅ」


「りゅりゅ、エレを甘やかすのは」


「エレしゃまを甘やかしている訳ではありましぇん。エレしゃまは、しゅこしじゅちゅしゅこしじゅちゅ、可能性をちゅくってきたでちゅ。でちゅから、大丈夫でちゅ。最後の決め手もちゅくりまちたから。エレしゃまが、偶然迷って、いきちゅいたちゃきで」


 りゅりゅが、偶然という部分を強調して、そう言った。


「……エレ、とりあえず謝っとけ」


「ごめんなさい?」


「良いんでしゅ。エレしゃまが、こういうものに引っかかるのはいつもの事でしゅ」

 

「悪かったよ。僕が直前まで見ていれば」

 

「良いんでしゅ。そのおかげで、可能性を掴んだでしゅから」


 りゅりゅは、ミディリシェルを見て、そう言った。


 ミディリシェルは、りゅりゅから、顔を逸らした。


 ――うぅ、かなりご立腹なの。

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