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星月の蝶  作者: 碧猫
2章 奇跡の魔法
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6話 前回の記憶 いなくなったフォル


 ここは、エクリシェ中層。


 早朝だというのに、テンションの高いミディリシェル。

 ミディリシェルは、足取り軽く、ゼノンの部屋を訪れた。


「ふっふっふ。これを見るが良いの。これは、なんと、エレが頑張って描いた、特製魔法具設計図なのー」


 ミディリシェルは、そう言って、魔法具の設計図を、ゼノンに見せびらかした。


 ソファで、本を読んで寛いでいたゼノンが、面倒くさそうに、ミディリシェルの魔法具の設計図を見た。


「へぇ」


 面倒なのか、反応が薄い。その反応に、ミディリシェルは、頬をぷぅっと膨らませる。


「……もっと反応するのー」


「スゴイナー」


「……ゼロきらい」


「はぁ……それは、どんな魔法具の設計図なんだ?」


「良くぞ聞いてくれましたの」


 ミディリシェルは、ゼノンに相手してもらえて、喜んで自分が描いた魔法具の設計図の説明を、長々とした。


「って事なの。すごい?すごい?」


 ミディリシェルは、褒めてモードを発動する。だが、ゼノンが、それに応じる事はなかった。


「それ、何に使うために描いたんだ?」


「フォルに頼まれたの」


「……なぁ、それをわざわざ俺に説明する意味ってなんなんだ?」


「自慢」


 ミディリシェルは、胸を張って、そう言った。


「……はぁ」


「反応が悪いの。いつもの事だけど、いつもの事だけどむぅなの」


「そう言うなら、頼んできたフォルに自慢すれば良いだろ。わざわざ、俺にしなくても」


「フォルがいなかったの。だから、仕方がなく、ゼロで我慢する事にしたの」


「またか。仕事で……そういえば、ここ最近見てねぇな」


「そうなの。フォルを探しに行くの。ゼロも一緒に行くの」


 ミディリシェルは、机の上に、設計図を置いた。


「おい、それ自分の部屋に持ってけよ」


「みゅ?ここは自分のお部屋なの。ゼロのお部屋はエレのお部屋でもあるの。エレのお部屋はゼロのお部屋でもあるの」


 ミディリシェルは、何言ってるのという表情で、ゼノンを見て、そう言った。


「……そう、だな。いつも入り浸ってる以上、何も言えねぇ」


 ミディリシェルとゼノンは、一人でいる事が少なかった。どちらか片方の部屋で二人で過ごす事が多い。


 服や私物も、互いの部屋に置いてある。ミディリシェルは、ゼノンの部屋のクローゼットを遠慮なく開けて、服を手に取って、着替えをした。


「着やすいの」


「そうだな……なぁ、俺、基本一緒にいて、服とかも置いているが、着替える時は離れて着替えてるぞ?そんな間近で着替えてねぇよ」


「気にしないの。どうしてゼロは気にするの?ゼロなのに」


「本気で言ってんのがやばいな。俺ら一応兄妹ではあるが、血の繋がりなんてねぇからな?」


 ゼノンが、そう言うと、ミディリシェルは、こくりと頷いた。


「知ってるの。でも、エレとゼロは兄妹いじょぉなの。ゼロの前に羞恥心なんて忘れてきたの」


「忘れんな。あと、お前、何も考えずにとりあえず着替えみてぇな事やってるが、あいつがどこにいるのか知ってんのか?」


 ミディリシェルは、ふるふると首を横に振った。


「ゼロがきっと知ってるの」


「知らねぇよ。お前がそれ頼まれてたんだろ?そもそも、あいつが俺らに行き場所を教えるなんて事、殆どねぇんだ。知るわけねぇだろ」


「わぁ、ゼロ、エレには容赦ないの」


「お前が毎度毎度、ツッコまれるような事ばかりしているからだろ」


 ミディリシェルは、創造魔法を使って、抗議と書かれた、板を作った。


「……なぁ、何がしたいんだ?」


 ゼノンが、呆れた表情で、ミディリシェルを見る。


「……箱庭に行ってみるの。管理者の箱庭。あそこなら、いなくなったの分かるかもしれないの……みんな知らなくても、できるの」


「それできんの、お前だけだからな」


「でも、ゼロがいないと、エレは転移魔法を使えないの」


「お前が使うと、毎回どこ行くか分かんねぇからな」


「むぅ、さっきからなんなの!今日のゼロ、いつも以上に突っかかってくるの」


「朝っぱらから、どっかの誰かが突然押し寄せてきて、変な自慢をしてきたもんでな」


 ゼノンが、ミディリシェルから、顔を逸らして、そういった。


「……ふしゃぁ」


「誰かとは言ってねぇだろ。それより、行くぞ」


「みゅ」


 ゼノンが、転移魔法を使い、現在の管理者の拠点まで、転移した。


      **********


 管理者の箱庭。そこは、入ると、廊下が続いている。部屋の扉らしきものは見当たらない。


 ここは、特殊な空間で、部屋の扉は全て、見えないように隠されている。


「どこに行けば良いんだっけ?というか、ここはどこだっけ?」


「お前の方向音痴っぷりは、呆れを通り越して、感心するわ」


「ゼロ、意地悪なの。今日は、いつにも増して、意地悪なの……ご機嫌斜めと推測……原因は……不明なの」


「何度も言うようだが、どっかの誰かが、いつも起きんの遅いくせに、今日に限って早く起きてきて、俺の貴重な寛ぎの時間を邪魔してきたもんでな」


「……ゼロって、かなり、根に持つよね。そのうち、エレにきらわれるの」


「ゼムが言ってたぞ。お前は、性格の悪い奴が好きなんじゃないかって」


 ミディリシェルは、ぷぅっと頬を膨らませて、隣にいるゼノンに、ポンポンと、威力の無い猫パンチを繰り出した。


「なんで俺なんだよ。言ったのはゼムだぞ」


「いないから」


「……いないからって」


「ついたの。珍しく誰もいないの」


 ここまで来るまでの間、誰とも会わなかった。それは、ここでは珍しい事だ。


「エレがめんどくさいからじゃねぇか?」


「ゼロがめんどくさいからなの」


 地下へと続く階段。ミディリシェルとゼノンは、長い階段を降りる。


「階段じゃなくて、こんな感じの坂だったら、とても楽だと思うの」


 ミディリシェルは、そう言って、腕を曲げて、直角にした。


「……お前はそれをどうやって移動するつもりなんだ?あと、それは、坂じゃなくて、落とし穴だ」


「ころころ転がるのー」


 ゼノンの、ツッコミからの問いに、ミディリシェルは、笑顔で答えた。


「落ちるだろ」


「みゅぅ?フォルに前に言ったら、笑顔で良いねって言ってたの……いつだっけ?でも、言ってたの」


「あいつの言う事は信用するな。その手の話に優しさなんて、見せた事無かっただろ」


 ミディリシェルは、こくりと頷いた。


「……エレが考えた事だから、そうした。かもしれないけど……」


「ん?」


「ふみゅ?なんでもないの。そういうところも、好き、なの」


「否定はしねぇが、またゼムに、性格悪い奴が好きなんじゃとか言われても知らねぇからな」


「知らないの」


 二人で歩きながら会話をしていると、ようやく、階段の終わりが見えてきた。


「やっとなのぉー」


「お疲れ。泣きつかなかったなんて珍しいな」


「労いの言葉よりも、なでなでなの。よぉきゅぅなの」


「まだ終わってねぇぞ。むしろ、本番はここからだろ」


「……エレ、言葉通じなくなっちゃった」


 この頃も、公用語は、ホヴィウ語だ。ミディリシェルは、チティグ語を使って、そう言った。


「お前の言語能力って都合が良いな」


「エレだから。都合良いの」


「……そうだな。あっ、着いた」


「これで」


「だから、本番はこっからだって」


 階段を降りると、そこには、巨大な扉が待っていた。開閉できるものはなく、ミディリシェルが、力一杯押しても、びくともしない。


「……可愛いし、もう少しだけ言わずに見とくか」


「……ふんみゅぅぅぅぅん」


「……」


 ミディリシェルは、一人で、一生懸命、扉を開けようと押している。


「……ゼロも手伝えなのー」


「それ、普通の方法で開かねぇよ。管理者の証明である、これを使わねぇと」


「……ふみゃ……し、知ってたの。わざとなの」


 ミディリシェルは、そう言って、ネックレスを扉にかざした。


 ネックレスに反応して、扉が、鈍い音を奏でて、開いた。


「エレ様、ゼロ様⁉︎」


「ちゃんと仕事やってる……やって、ます」


 桃色の髪の少女と、空色の髪の少年。二人は、ミディリシェルとゼノンが、訪れると、慌てて何かを隠した。


「ずっと働いていなくて良いの。休む事も大切なんだから。ちゃんと休んで」


「……今って休憩時間だろ?」


 ここは、外界から隔離された空間。外の時間を知る術は存在しない。


 ゼノンが、そう言うと、少女と少年が、ほっと胸を撫で下ろした。


「エレとゼロは、もしお仕事をさぼっていたとしても、なにも言わないの。見て見ぬふりをするの。でも、なにしてたかは気になるの。教えてくれる?」


「えっと、その、一人暮らしの本を読んでおりました」


「私は、料理本を読んでました」


 ミディリシェルが、問うと、少女と少年が、そう答えた。


「そっか。料理本、気になるの。んっと、ひきちゅぢゅき?読んでいて良いよ。これだけ貸して欲しいの。それで、フォルを探したいから」


 ミディリシェルは、そう言って、部屋の中央にある、巨大な魔法機械の前に立った。


「フォル様?そういえば、最近は見かけていない気が……ディシェ、知ってっか?」


「貴方とずっとここにいるのに、私が知ってるわけないでしょう」


「ディシェアとディグジェは……ジュリアとジュリンは、この魔法機械を通しても見ていないの?」


「見ていないわ……見て、おりません」


「良いよ。いつも通りで」


 少女、ディシェアと、少年、ディグジェ。現在は、ジュリアとジュリンという名を使っている。


 ディシェアが、ミディリシェルに、書類を渡す。ミディリシェルは、その書類を受け取って、見てみる。


「ここ最近は見かけていないわ」


「ふみゅ……この辺にもいないとなると……ふみゅ……ゼロ、どこだと思う?」


「聞くなら先に、その資料よこせ」


「……はい」


 ミディリシェルは、ディシェアから受け取った書類を、ゼノンに渡した。


「……こぉりつ悪いから、そっちはゼロに任せて、エレはこっちで調べていよっと。その方がこぉりつ良いって気がするの」


「効率なんて言葉、知ってたんだな」


「ゼロの意地悪。そのくらい、エレも知ってるの」


「起動コードを」


 この魔法機械を使うためには、起動コードを、入れなければならない。ディシェアが、それを教えようとするが、ミディリシェルは、止めた。


「分かんなくてもできるから良いの。それより、その起動コードは、機密事項なんだから、簡単に言っちゃだめなの」


「機密情報を何食わぬ顔で見ていた奴が言う事か?」


「ゼロも見てたから、人の事は言えないと思うの」


 ディシェアが渡した書類。あれも、機密情報の一つだ。それを知っていながら、ミディリシェルとゼノンは、見ていた。


 ミディリシェルは、魔法機械を起動しながら、そう言った。


「ふみゅ……ついでに、ゼロの隠れ家も特定してやるの。きっと、お胸さんがおっきぃ、きれいな女に人のうふふなお写真がいっぱいの本が隠されてるの。そうに違いないの」


「んっなもん持ってねぇよ」


「ゼロ様は、興味無いんか?」


「……最低ね。兄とは思いたくないわ」


「……しゃぁ、敵なの」


 ミディリシェルの生態的に、ディグジェの発言は、敵と見做される。ミディリシェルは、魔法機械を見ながら、ディグジェに、威嚇をした。


「……見つかんないの。これは……街とかには行ってないみたいなの」


「人がいないような場所はどうなんだ?」


「今から見るから、黙れって思います」


「……エレ様って、こんな子だった?もっと、可愛らしい事しか言わない子だと」


「俺の前だと割とこうだな。警戒心の問題かと思ってたんだが、フォルの前だと可愛いだけなんだよな。隠さねぇのは、変わんねぇが」


「言いづらいけど、それ、ゼロ様が嫌われてるんじゃない?」


「それが、不思議な事に、きらわれてねぇんだ」


 ゼノンが、「不思議事に」と、もう一度言っていた。


「いないの……でも、どこかには絶対いるはずなの。エレのきゅんきゅん確認。きっと見つけられるはずなの。エレのきゅんきゅんさえあれば、見つけられるの」


 世界各地の映像をリアルタイムで映し出す、管理者の使う、特殊なシステム。それで、フォルを探すが、どこにもいない。


「……ふみゅ?これって……おかしなところ発見⁉︎解析開始なの……ゼロ召喚なの」


 ミディリシェル一人では、解析できないかもしれない。ゼノンに手伝いを頼んだ。


「……」


「……召喚」


「……」


「……しょぉかん」


「……」


「……しゃぁ」


 ミディリシェルが、ゼノンを呼んでいるが、返事すら返ってこない。ミディリシェルは、ゼノンが、反応するまで、「きらい」と、言い続けながら、一人で解析する。


「すいませんでした。俺が悪かったです」


 ゼノンが、そう言って、ミディリシェルの隣に来た。


「……来たから良いにするの。お手伝いするの」


「ああ」


 ミディリシェルは、ゼノンに手伝ってもらい、解析を進めた。

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