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星月の蝶  作者: 碧猫
2章 奇跡の魔法
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5話 選択が起こす偶然


 ミディリシェルは、最後に、フォルが選んだ服を着た。ついでに採点も。


 第一印象、二十点。これなの。


「……これ、すごく良いの。着やすいの。それに、ミディの好みもちょっと考えてくれている」


 着心地、二十点。とっても良いの。お肌に優しい。

 着やすさ、十点。着やすくて、ミディも簡単に着れちゃった。

 好み度、十点。ミディの好みも考えてくれる。フォルらぶーなの。

 欲しい度、二十点。これなの。

 大好き度、百点。大好き、らぶらぶ、とっても大好き。お洋服もだけど、フォルが大好きなの。


 合計百八十点。これは、ダントツで優勝なの。


「ふっふっふ」


 ミディリシェルは、待っていたゼノンに、優勝服を見せるために、試着室のカーテンを開けた。そして、上機嫌に、ゼノンを見る。


「ミディ、さっき服渡して触れただろ?そん時に、採点気になって共有したんだが」


「みゅ?」


「俺、あの採点でマイナスから勝てたのか?フォルだからつぅのはあるんだろうが、他にも」


「ルーにぃとか、マイナスなの」


「……なんで?」


「ふみゅ。共有で実際に見るのが早いの。ついでに採点も教えるの。ミディの相談も乗れなの」


 ミディリシェルは、服屋に来てからの記憶を、共有でゼノンに伝えた。ミディリシェルが、考えて、密かにメモしていた、採点表の事まで。


 共有でゼノンに伝えると、ゼノンが、右手で口を押さえて、笑いを必死に堪えている。


「これ、伝えても良いと思う?」


 ミディリシェルの問いに、ゼノンが、ふるふると、首を横に振った。そして、短く

 

「やめてやれ」


 と、今にも笑いそうに、答えた。


「ふみゅ。これは、ミディとゼノンの秘密にするの。秘密なの」


「ちなみに、全部見てた、おねぇさん的には、誰が、どの順位?」


「そっちも気づいていたとはねぇ。アタシ的には、フォル殿、姫……ゼノン殿、ピュオ嬢、リミュ嬢、ノヴェ殿、アゼグ殿……アタシも、淫魔だけれども、主様の部下である身。他三名については、ノーコメントで、お願いできるかねぇ」


「ふみゅ。とりあえず、不服だけど、ゼノン優勝で、最下位は黙っておけば良いの」


 服選び常備が終わり、ミディリシェルは、全員集めた。そして、優勝者だけを発表した。チームについても、優勝者だけを発表した。両方、点数は、黙って。

 最下位を知りたい。その声は、多かったが、ミディリシェルは、ゼノンの背に隠れて、やり過ごした。


「採点基準って?」


「ふみゅ。それは話して良いの。見た目ときやすさと着心地と好み度と欲しい度とおまけ」


「そのおまけで負けたって事は?」


「それはないの。アゼグにぃとノヴェにぃだけは順位が変わるけど、優勝は変わらないの」


 と、全員に聞こえる声で言った後に、


「というか、むしろ、あのおまけのおかげで、ちょっぴり点数良くなって人多いの」


 と、小声で言った。

 それが聞こえていたのは、近くにいたゼノンだけだった。ゼノンが、「笑わすな」と、小声で言って、ミディリシェルの手を握った。


「ちょうど良い時間だし、みんなで、昼食にでもしない?」


「そうだね。何にする?」


「ミディ、ゼノン、ケーキは無しだからな?ちゃんと、甘いもの以外にしろ」


「ルーにぃのけちー」


「けち」


 ミディリシェルとゼノンは、イールグに向かって、ぷぅっと頬を膨らませた。


「アハハ、本当に、甘いものが好きなんだね」


「……」


「ルー、ここにも、不服そうなのがいる」


「アゼグ、貴様もか」


「ロストは、甘いもの大好き国家なんだよ!」


 アゼグが、そう言うと、ゼノンが、こくこくと頷いていた。


「みゅ、どこか行きたい場所あるの?」


 ミディリシェルは、ローシェジェラに、そう問いた。

 ローシェジェラが、ふるふると首を横に振る。


「どこでも。好きなところを選んで良いよ」


 ローシェジェラが、そう答える。


 ――昼飯の間は指示がねぇのか?


 ――ミディに聞かれても分かんないの。でも、甘いものはだめそうなのー。でもでも、どこでも良いって事は、そうなんじゃないの?


 ――……ここが最後つってたから、何かありそうな気がするんだが。


 ミディリシェルとゼノンは、誰にも聞かれないよう、共有を使って、声に出さずに会話をする。


「歩きながら考えない?わたしもだけど、リミュやアゼグ達もここに来るのって初めてなんでしょ?少しはみて回ったけど、昼食の事考えてなかったから。それに、空いているところに行っても良いかなって」


「それ賛成」


「……先に外出てて。僕は、少し仕事の話があるから」


「みゅ?」


 リーミュナ達が、服屋から出るが、ミディリシェルとゼノンは、残った。


「ゼノンもみんなのところへ行っていて良いよ。ミディは、少しだけ話があるから、残って欲しいかな」


「……」


「ゼノン、行って良いの」


「……ああ」


 ゼノンが、服屋から出た。


「金額、これで足りてる?」


「ええ。姫様、その服を着て行きますか?」


「ふにゅ。気に入ったの」


「ミディ、こっち来て」


「みゅ?」


 ミディリシェルは、ローシェジェラについて行く。ついて行った先は、服屋の裏口だった。


「じゃあ、検討を祈るよ」


「ふぇ?」


 ミディリシェルは、ローシェジェラに、裏口から、外へ出された。中に入ろうとするが、扉を閉めて、鍵をかけられる。


「……ふぇ?これって、どういう事なの?……みゅぅ……じゃあこっち行くの」


 偶然だろうか。ミディリシェルは、この後起こり得る未来を視た。

 この後、ミディリシェルは、道に迷い、ゼノン達と合流できず、人攫いに攫われる。


 それが、ローシェジェラの、フォルの、計画なのだろう。だが、ミディリシェルは、人攫いなどには会いたくない。それを避けるように、表通りへ出た。


「みゅ……迷子……変わんないの。変えられない運命なの」


 迷子になったミディリシェルは、適当に街を歩く。すると、ミディリシェルは、声をかけられた。


「お嬢さん、お昼はお済みですか?」


「まだなの」


「でしたら、わたくしの店などは如何でしょう?」


「……ふみゅ」


 ゼノン達とは、いつ合流できるのか分からない。先に、昼食を食べているかもしれない。ミディリシェルは、先に昼食を済ませてから、ゼノン達の捜索を再開する事にした。


      **********


 広く、豪華な内装。見るからに高そうな店だ。


「高そうなの。ミディ、あんまりお金持ってないよ?」


「大丈夫ですよ。お金は貰いませんから」


「……ふみゅ?」


 人通りの多い場所に店はあり、時間的にも、混んでいてもおかしくはない。だが、店の中には、ミディリシェルと、もう一人、フードをかぶっている客だけだ。


「最近始めたばかりで、まだお客様がいないんですよ。なので、こうして、近くにいる人に声をかけて、無料で提供しているんです。将来的に、その人達がお客様になっていただけるかもしれないので」


「そうなの?」


「はい。空いている席に座って、お待ちください」


「ふみゅ」


 ミディリシェルは、空いている席に適当に座った。


 ――なんだか、不思議な人なの。


「こちら、当店の特製水でございます。当店は、水の一つにも、拘っております。ぜひ、一口飲んでみてください」


「とってもきれいなお水なの」


「ありがとうございます。メニューは、そちらにありますので、お決まりになりましたら、お呼びください」


「ふみゅ。ありがとなの」


 ミディリシェルは、早速、メニューを開いた。どれも、高そうな品だが、値段は書かれていない。


 ――お金いらないって言ってたけど、メニューにお金書いてないのは不思議なの。表記ミスなのかな。ふみゅ。良く分かんないの。おかしなのって事にしておくの。


 ミディリシェルは、メニューを見ながら、何にするのか、じっくりと悩んでいる。


 ――……お水、特製って言ってたの。飲んで欲しいって。悩みだから、一息するために飲んでみようかな。


 ミディリシェルは、コップを手に取り、中に入っている水を一口飲んだ。


「ふみゅ。美味しい」


 特製というだけあると言ったところだろう。普通の水とは、一味違う。普通の水とは違い、深い甘みがある。


「……ふぁぁ」


 服選びで疲れていたのだろうか。眠気が出てきた。


「……ふぁぁぁ」


 その眠気は、どんどん膨らみ、数秒のうちに、抗えない程まで達した。


 ――なんだか、おかしいの。もしかして、このお水って……未来視が偶然で、回避……した……はず……なのに。


 気づいた時にはもう遅い。美味しいと極々飲んでいた水に、睡眠薬が入っていたのだから。


「……なんで、ここに」


「……フォ、ル?」


 その理由は、ミディリシェル本人ですら、理解できない。ただ、意識が落ちる直前、ミディリシェルの元に来た客。顔は見えなかったが、その客が、そう見えた。


      **********


 偶然、というべきなのだろうか。それとも、彼女がそれを望んだから、奇跡というものが引き起こされたのだろうか。


 目の前にいる彼女、ミディリシェルは、彼の、大切な相手。そして、今回の仕事で、全てを奪う相手。


「……こんなのに騙されるなんて」


 彼は左手で、ぐっすりと眠っているミディリシェルの頬に、そっと触れる。


「……」


「おや?お客様、もしかして、眠ってしまいましたか?」


「……」


「そちらのお客様は、眠くはありませんか?何故か、こうして眠ってしまうお客様が多くて」


 彼は、黄金の瞳を、店主に向けた。


「……っ⁉︎その瞳は⁉︎」


「……嘘を吐くなら、もっと上手くつきな。じゃないと、こんなふうに、ギュゼルに処される」


 黄金の瞳には、何の感情もない。彼は、ただ、自らの役割を遂行する。そこに、感情など必要がない。


 血濡れた床を、浄化魔法で綺麗にする。後始末までが、彼に課せられた役割だ。


 仕事を終えて、彼は、眠っているミディリシェルを抱き上げた。


「……なんで、気づくの……気づかれないと思ったのに」


「……けーきしゃん……ふぇぇぇん」


「ケーキの夢。こんな状況で、良く見れるよ……ていうか、もしかして、まぁた、ケーキに襲われてるの?」


 彼は、眠っているミディリシェルに、そう問いた。だが、返事は返ってこない。


「ふしゃー」


 碧色の小龍。ミディリシェルの頭上に乗り、彼を威嚇する。


「この子よりは、威嚇っぽいかな」


「エレしゃまの……覚えてるんでしゅか?」


「……なんの事?」


「今更誤魔化しても無駄でしゅ」


「……覚えてたらなんなの?僕のやるべき事は変わらない……りゅりゅは、どうにか繋ぎ止めるから」


「フォルしゃまは……今を、捨てるんでしゅか?」


「……だとしたら、止めるの?」


「そう聞くという事は、相当迷っているんでしゅね」


「……」


「フォルしゃまは、エレしゃまに会えば割り切れると思っているようでしゅが、より一層迷いを産んでるでしゅ。今回の想定外の出来事による迷いは、きっとエレしゃまの望む未来へと導くものでしゅ」


「……りゅりゅ、もうすぐ、人が来るから出る。そこにいると危ないから移動」


「やっぱり、フォルしゃまは、昔と変わらずお優しいでしゅ」

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