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星月の蝶  作者: 碧猫
2章 奇跡の魔法
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3話 もう一つの物語を見て


 魔原書リプセグに綴られた、ミディリシェルとゼノンの、もう一つの物語。ミディリシェルは、最後のメッセージまで、読めないところはゼノンに手伝ってもらいつつ読んだ。


「……」


「……」


 沈黙が続く。何を言えば良いのか分からない。何も言う事ができない。そんな空気が、二人の間に流れる。


 ――……愛なんて、どれだけ言われても、なんとも思ってなかったのに。呪いだと思っていたのに。でも、違ったんだ。呪いなんかじゃない。愛は、とてもきらきらしたものだったんだ。

 ずっと、そのきらきらは目の前にあったのに。どうして、今まで見ようともしていなかったんだろう。


 フォルから贈られていた愛情。それだけではない。原初の樹。その樹から、ミディリシェルは、多大な愛情を受けていた。その証拠の一つとなるものが、リブイン王国だろう。


 ミディリシェル専用の散歩道。あそに咲く花々は、誰も手入れをしていない。にも関わらず、特殊な環境でしか咲かない花も、手入れをしていなければ枯れてしまう花も、枯れる事無く、咲き続けていた。


 それこそが、原初の樹に愛されているという証拠だろう。


「……」


「……」


「……ゼノン」


「……ミディ」


 ミディリシェルとゼノンが、同時に声をかけた。


「これ読んでも、なんにも思い出せないの。でも、ここに書かれていた事。これは、全部本当の事なんだって、分かるの。ミディ、いっぱいいっぱい伝えたい事あるの。フォルにも、いっぱい伝えたいの。でも、今は会えないから、伝える事できないの」


 ミディリシェルは、ぽたぽたと、瞳から涙を溢して、そう言った。


「そういう事だったんだね。ゲームは……これが終わってから。でも、もう、演技の必要はないようだね」


「だぁれ?」


 フォルにどこかにた女性。雰囲気が、ミディリシェルがここに来てから、多くの時間を過ごしたフォルとそっくりだ。


「……そう言えば、この姿では、初めて会うんだったね。初めまして、ではないけど。僕は、ローシェジェラ。彼の眷属のクロと言えば、君らには分かってもらえるのかな?」


 ローシェジェラが、右手を胸に当てて、腰を下げた。


 クロ。ミディリシェル達には、転生前の記憶は無いが、魔原書リプセグに載っていた。フォルの事を手助けする眷属。記憶が無いためか、それ以上の関係は知らない。


「今回が、最後の強力になる。前回の記憶を取り戻す事。それが、彼を見つける手段に繋がっている。他の記憶を、取り戻す手段に関しては、彼に直接聞いてみれば良い」


「みゅ」


「それにしても、僕の、今回の演技、どうだった?中々のものだったと思うよ」


 ローシェジェラが、自慢げな表情で、そう言った。


「それ自分で言うか?」


「……匂いが違うの。ミディの匂いセンサーは……ふにゅ?にお、い?」


「ミディ?」


「……なんでもないの。負けたのー」


 ミディリシェルは、ぷくぅと頬を膨らませて、両手足をぶんぶんと、上下に振った。


「もしかして、それ言うためだけに来たのか?」


「う……じゃ無くて、忘れるところだった。明日、服屋に行かないかい?ミディの服、まだ無いからね。そろそろ、買わないと」


 ミディリシェルは、ここにいると決めた。だが、いまだに、ゼノンの服を借りている。そろそろ、自分の服を持っても良いだろう。


「みゅ。ミディも行くの」


「どこ行くんだ?あと、一緒に行ってくれるのか?」


「この話に関しては、他でも無い、フォルの頼みなんだ。着いて行かせてもらうよ。場所は、確か……ノーキェットの城下街」


 国名など殆ど知らないミディリシェルは、きょとんと首を傾げた。


「……あそこって、確か、管理者の」


「そう。フォルからの最後の連絡。そこで、必要な事は全て教えてもらった。定期的に連絡をしていて、未来の可能性で一番高い内容と演技指導まで全て、その連絡手段で書いてくれていた。その最後。これ以上は無い。それが、どう言う意味なのか分かるかい?この生活を続けたいと思うなら、ここから先へ進むべきでは無いかもしれない。君らは、最愛の人に全てを奪われるかもしれない。それでも、進むかい?」


 ミディリシェルとゼノンは、互いに顔を見合わせた。


「ミディは決まってるの」


「俺も、決めてる」


「みゅ。あんなの見て、これ以外の選択なんてないよ」


 ミディリシェルとゼノンは、ローシェジェラを見る。


「ミディは、フォルがいてくれないと、何もできないの」


「フォルがいないと、こいつの世話を全部俺がやる羽目になるだろ」


「……フォルがいないと、ゼノンのお世話をミディがやらないといけなくなるの」


「やってねぇだろ。いつやってるっつぅだ」


「してるもん。ミディは、ゼノンに媚を売るっていうお世話をしてるもん」


「そんなしてねぇだろ。それと、世話じゃねぇだろ」


 ミディリシェルは、一度ゼノンを見てから、「ぷぃ」っと言って、ぷぃっと顔を逸らした。


「ゼノンきらい」


「ミディきらい」


「……本当に訳わからない。これを、毎度……本当に尊敬する……二人とも、喧嘩やめて」


「喧嘩じゃないもん!ゼノンが意地悪ばかり言うからなの!」


「ミディが変な事ばかり言うんだろ!」


 ミディリシェルとゼノンは、互いに顔を見た合わせたあと、ぷぃっと顔を逸らした。


「……イールグに連絡しよう」


 ローシェジェラが、そう言って、喧嘩の仲裁をせずに、部屋を出た。


      **********


 部屋を出たローシェジェラは、最下層のフォルの部屋で、一人、ソファに座っていた。フォルから事前に渡されていた魔原書の複製を読んでいる。


 ――イールグに連絡はしたし、あとはなんとかしてくれると信じよう。それにしても、聡明姫を警戒して正解だった。

 まさか、匂いで気づかれるとは思っていなかったけど。


 魔原書には、フォルからの連絡事項が綴られている。


「それにしても、これは予言書としか言いようがない。可能性と言うけど、ここに書かれている殆どは、この通りに動いている。聡明姫の事は……残りは、あの子の前回の記憶を呼び起こす事。そのために、事前に準備もした。あとは、攫ってもらうだけ。それが終われば、ようやく、僕の目的を果たせる……ようやく」


 ローシェジェラは、そう言ったあと、高笑いをした。


 ぶるる


 連絡魔法具から、着信音が聞こえた。ローシェジェラは、連絡魔法具を取り、着信に出た。


 通話の相手は、オルベア。ルーツエングの兄だ。


『この前の件、協力感謝する』


「この前?フォルの後始末の事かな?礼なんていらない。僕は、僕の目的のために動いているだけだからね」


『本当にそうか?この件だけではない。嬢がした契約の件。フォルは……義弟はきっと止めるだろう。復讐を望むような性格ではない。目的のためというなら、邪魔な存在になり得るだろう』


「……」


『今回協力してもらう条件で、契約とその目的に関する事は関わらないという条件だ。これ以上は、何も言うまい。ただ、嬢も、この血を引く一人。俺も、その一人として、己の悔い無いよう、最後まで悩み続けろ、とだけは、言わせてもらおう』


 オルベアが、そう言って、通話を切った。


「……迷えか」


      **********


 ミディリシェルとゼノンの喧嘩は、中々終わらない。仲直りする事無く、喧嘩して、互いの口を聞かない。その段階へ達していた。


 そこに、ローシェジェラからの連絡を受けたイールグが、部屋を訪れた。

 

「……状況を」


「ゼノンが意地悪なの!」


「ミディが変な事ばかり言うんだ!」


 イールグの問いに、ミディリシェルとゼノンは、互いを指さして、そう答えた。そして、互いの顔を見合わす。


「……ぷぃ」


「……ぷぃ」


 互いに顔が合った途端、ぷぃっと顔を逸らした。


「……毎度の事ながら、理解できないところで喧嘩をするな」


「違うもん!喧嘩じゃないもん!」


「……それでは何か?意見の食い違いと言ったところか?」


「違うもん!ゼノンが、ミディのお世話をしてるとか言ってくるんだもん!」


「ミディが俺に媚び売ってるから世話してるとか訳わかんねぇ事言ってきたんだ!」


 ミディリシェルとゼノンは、互いに主張を、イールグに言った。


「……どっちが先に言ったんだ?」


 イールグの問いに、ミディリシェルとゼノンは、黙って、互いを指さした。


「ゼノンが言ったの!」


「ミディが言ったんだ!」


「ゼノンなの!」


「……ミディは、きっと、世話したい年頃なんだ。ゼノン、兄なら、妹のそういうところを分かってやれ。ミディ、ゼノンは、善意で進んで世話してくれているんだ。そこは、ちゃんと理解してやれ」


 イールグが、ミディリシェルとゼノンを諭すように、そう言った。


「……ゼノンが先に、フォルがいないと、ミディのお世話を全部自分がやる羽目になるとか言ってきたの。めんどくさそうに」


「……ゼノンが謝れば解決だな」


 喧嘩両成敗。そんな雰囲気を見せていたイールグが、手のひらを返して、呆れた表情で、ゼノンを見る。


 ミディリシェルは、イールグという見方を得て、こぅこくと勢い良く頷いた。


「……やだ」


「……ぷぃ」


「……ごめん」


「みゅ。ぎゅぅなの」


 ミディリシェルは、そう言って、ゼノンに抱きついた。


「ルーにぃ、明日、服買い行くって。ノキェットの城下街で」


「そうか」


「一緒に行くの。ミディ一人じゃ、お洋服選べないの。みんなで選ぶの」


「良かろう。なら、この俺が、貴様に一番似合う服を見繕ってやろう。期待して待っているんだな」


「みゅ。じゃあ、みんなで勝負、なの。ミディのお気にってなれるお洋服を選んでくれたら勝ちなの。優勝候補は……リミュねぇとピュオねぇ」


 ミディリシェルは、笑顔で、そう言った。


「ほう。リミュにピュオか。共に過ごした時間的には、あの御巫達よりも俺達の方が圧倒的に長い。共に過ごしてきた時間の強さを見せてやろう」


「それ言うなら、俺が優勝だな。記憶が無くてもきっと感覚で覚えてる。俺が、一番長いだろうから」


 ゼノンとイールグが、ドヤ顔でそう言った。


 ミディリシェルは、ドヤ顔のゼノンとイールグを、交互に見る。そして、「ふにゅ」と、鼻で笑った。


「二人とも、分かってないの。これは、ミディが審判なの。魔原書に、二人の事は載ってたの。だから、どんな趣味なのかは、ミディ把握してる。ミディの趣味と違うの確認してるの」


「貴様の趣味より可愛さだ」


「ミディの趣味って、なんて言うか、地味なんだよな。可愛くもねぇし。だから却下だ。やっぱ、ミディは、脚見せしねぇと」


「……ゼノンとルーにぃは、マイナスからなの。最下位決定なのー」


 ミディリシェルは、そう言って、立ち上がった。


「もっとお話してたいけど、ミディ、今日は用事があるの。ノヴェにぃとお約束なの。ついでに、今日はねむねむ、ノヴェにぃとするから」


 ミディリシェルが、そう言うと、ゼノンが、ガーンと効果音が付きそうな、大袈裟すぎる、驚きからのガッカリポーズをとった。


「……⁉︎やだー!ミディとねむねむは、俺とフォルの特権だー!」


 まるで、子供が、親に一人で寝ろと言われて駄々を捏ねるかの如く、ゼノンが、そう言った。


「ねむねむしに行くの」


「……ミディ、分かるのか?」


「みゅ?」


「ノヴェの部屋」


 ミディリシェルは、ふるふると、首を横に振った。

 最下層も下層も、ミディリシェルは、ゼノンとフォルの部屋くらいしか分かっていない。


「ノヴェの部屋まで案内する」


「……⁉︎俺が案内するー!」


「……一緒に行けば良いの。暇かもだけど。ついでに一緒にねむねむすれば良いの」


「ミディ好きー」


「……甘えモードだな」


 ゼノンが、ミディリシェルに抱きつく。抱きつかれたミディリシェルは、「ふみゅふみゅ」と笑顔で言っていた。


「ふみゅ⁉︎ノート持って行かないと!いっぱい、魔法具の設計図描くの」


「ノヴェが大量に持ってるだろう。ついでにペンも」


「みゅ。ノヴェにぃとの、初の共同設計。楽しみなの」


「夜遅くまで続けるなよ。日付が変わる前には寝るんだ。それと、後で、持っていくから、夕飯はちゃんと食べろ。魔力安定剤も飲んでおけ」


「ふみゅ⁉︎ルーにぃが、おにぃちゃんなの」


「ルーにぃ、ミディの面倒は、兄として俺がちゃんと見ておくから安心して」


 ゼノンが、胸を張ってそう言った。


「ミディ、面倒見られているから、安心して良いの」


「ゼノンが、面倒見るなら、安心……だな。頼んだ」


「ああ。ミディ、ちゃんと寝ろよ」


「みゅ。それより早く行くの」


「そうだな」


 ミディリシェルは、事前に約束していた、ノーヴェイズと魔法具の設計図を描くため、ゼノンとイールグと一緒に、ノーヴェイズの部屋へ向かった。

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