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星月の蝶  作者: 碧猫
2章 奇跡の魔法
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プロローグ 計画


 ミディリシェル達と別れた後、  達は、下層のルーツエングの部屋を訪れていた。


 三人は、椅子に座って、向き合った。


「話というのは?」


「あの仕事を引き受けた目的。そろそろ話しても良いと思ったから。それに、奇跡の魔法の話とかも」


   は、そう言って、一冊の本を取り出した。分厚く、重みのある、その本を、ルーツエング達にも見えるように、机に置いた。


「これは」


「魔原書リプセグ。あの子の持つものと同等のもの。エレ専用に作られたのが、リプセグだとすれば、これは、僕専用に作られた魔原書」


「ここに、その仕事をする事が載っていたのか?それで、あんな内容なのに、引き受けた?」


 ルーツエングが、そう問うと、  は、ふるふると首を横に振った。


「ううん。これに書かれてはいたけど、引き受けたのは、個人的な理由。それに、これは、魔原書の複製。あの子のあれほど、便利なものじゃないから」


「魔原書を複製?何の目的で」


「それを話すために出したんだ。魔原書は、他の魔法媒体と違い、自然の魔力で、魔法を使える。僕は、自分の魔力を使えない状態だから。今の僕は、これが無いと、魔法を使えない。それと、もう一つ」


   は、そう言って、右手で、魔原書に触れた。


「御巫は本来、僕らと縁結ぶ相手。御巫の素質は、僕らを愛せる者というだけ。けど、今は違う。御巫は、神獣が利用するための存在となっている。本来は、対等で無くてはいけなかったのに、御巫を選べる立場であるという事から、それをしない神獣が増えた。それを変えられる可能性。その一つが、僕ら持つ紋章。前々回と前回、あの子は、紋章の力をかなりの深度まで引き出した。それが、きっかけになった」


   が、そう言うと、魔原書が、光出した。

 魔原書が、光の文字を、宙に描く。


 それは、ミディリシェルとゼノンが聞き取れない、あの会話で使われていた言語の文字。その内容は


「これは……まさか、奇跡の魔法の、使用方法か?」


「うん。この魔法を使用する前に、僕の持つ紋章の力を一時的に借りた。それで、成功はしたけど、エレとゼロには、その記憶は残っていない。けど、記憶が残ってなくても、その可能性を作る事だけはできている」


「……貴様は……今の貴様は、この本の通りに動いているだけ、なのか?何も知らずに」


「……そうだよ。今の僕には、これが全てだから。エレとゼロの記憶に関しては、普通の方法で戻る事は無いだろうから、リプセグに頼んでおいた。って、そんなに気にされていると、こっちも話づらいんだけど」


   の話に、ルーツエングとイールグが、視線を落としている。


   は、二人を交互に見て、そっと、ミディリシェルとゼノンの写った写真を、机に置いた。


「悪いと思っているんなら、僕のコレクション集めに協力してくれない?……そうだね。今度は、エレとゼロが、ぎゅぅって抱き合っている写真が欲しいかな。もちろん、普通のと猫の姿になっているの、両方で」


「……それ、どうしているんだ?」


「飾ってる。言っとくけど、趣味とかじゃ無いからね……ただ、成長記録を残したくて。記憶が消えても、この写真達は消えないから。これで、エレとゼロが、どれだけ成長したのか、いつでも見られる」


   は、そう言って、ささっと、机に置いた写真をしまった。


「しまうの早いな。本当にただコレクションしてるだけじゃ無いのか?」


「……そんな事してない」


「何だ。その、怪しげな間は」


「……話戻すけど、奇跡の魔法を使った理由と、今の僕に関する事はこれで良いとして、あの仕事を引き受けた理由は、個人的理由は、話したくないから、本に載っていたのだけど」


「話逸らしたのは自分だろ」


「貴様が話を逸らしたんだろう」



   は、自然と話を戻そうとしたが、ルーツエングとイールグに、同時にツッコまれた。


   は、それを無視して、話を戻す。


「この仕事で作れる、あの状況こそが、奇跡の魔法を使うのに打ってつけだった。使用方法に載っていた通り、状況作りが大事だから。それと、ナティージェって覚えてる?僕とイールグは、同期で関わりがあったけど、主様は、そんなに関わっていないかな」


「あの鈍臭い子か」


「……ナティージェ……確か、彼女の従弟があの連中と、一緒にいるところを目撃されたとか。何度か報告を受けている」


   は、こくりと頷いた後、話を続けた。


「うん。今、僕は、その子と一緒に仕事をしてる。どうやら、本人があそこに協力する事を望んでいたわけじゃないみたいで。従弟が人質に取られてるんだと思う。一応同期だし、女の子の扱いを分からずに、何度か相談に乗ってもらっているし、できれば、あそこから抜け出す手助けをしてあげたい。ここまで話を聞いたんだから、当然、協力してくれるよね?」


   は、笑顔で、そう問いた。


「……協力はして良いが、それは、脅しだろう」


「そんなつもりは、十ミリくらいしかないけど。あっ、そういえば、この前話していた、経費申請の事ってどうなった?」


「……済まない」


「やっぱり駄目だった?やる前から、分かりきっていた事ではあったから、別に良いんだけど」


「だ、だが、全てではない。三分の一は通った。それ以上は、高いから駄目だと言われたが」


 ルーツエングが、もう一度「済まない」と謝罪の言葉を言い、頭を下げた。


「謝らなくて良いよ。三分の一は、許可が降りたんでしょ。それだけでも、十分だよ」


「だが、全額じゃ無くて、三分の一だ」


「それなら、良い方じゃないかな。僕が買う魔法具って、基本、ぼったくりのような値段のものだから。それで、あまりの高さに、申請が降りないんだけど」


「だが、高いのには、それ相応の理由があるだろう。それに……」


 ルーツエングが、そこまで言って、黙った。


「他にも理由があるの?」


「ああ……向こうにも、色々とあって」


「……想像はつくけどね。ほんと、面倒な時期に面倒な事ばかりやってくれるよね。経費はこれ以上は無理だろうから、もうそれで良いよ。それと、この前の更新の手続きの事なんだけど、用意できたから、いつものように送っといてくれる?エレの分もついでに用意しておいたから」


   は、そう言って、更新手続きの書類を、机に置いた。


「届けておこう」


「なら、ついでに俺も頼もう」


「……」


「転送魔法を使うくらい良いだろう」


「そうじゃなくて、期限、昨日まで」


「……」


「主様なら、期限くらい何とかしてあげられないの?僕は、もうそろそろ、エレを起こすために行かないと。僕がここでゆっくりし過ぎてると、あの子は自分から起きないだろうから」


   は、そう言って、立ち上がった。


「ゆっくりし過ぎて、日付が変わっていたとは。今日の当番を確認していないから、確認していかないか?」


「そうだね。確認するよ」


   は、連絡魔法具を取り、本日の当番表を開いた。


 【大浴場:ゼノン、ピュオ

 朝食:ノヴェ、アゼグ

 昼食:エルグ、ピュオ

 夕食:ルー、フォル

 洗濯:リミュ、ゼノン

 点検:ルー、アゼグ】


 本日の当番表には、こう書かれていた。


「今日は点検もあるのか」


「やった。僕一つー」


「ふぅ、ピュオとだったら、安心だな」


「主様、自分の選んだ相手にそれは無いんじゃない?自分の選んだ相手の手料理なら、喜んで食べないと。それに……僕は、美味しい、と思うよ」


「……味覚音痴」


 ルーツエングが、ボソッと、小声でそう言った。


   は、それを、聞き逃さなかった。


「あんな仕事してれば、こうもなるよ」


   は、そう言って、魔原書を、手に持った。そして、代わりに、机の上に一枚の紙を置いた。


「協力して欲しい内容については、ここに書かれている。よろしくね。主様、それに、イールグ」


   は、笑みを浮かべて、そう言い残して、部屋から出た。


      **********


 ルーツエングの部屋を出て、自室へ向かっていると、ミディリシェルが、走って来た。


「ぺとぺとぺとぺとぺと」


「ミディ?珍しいね。こんな時間に自分から起きるなんて。朝早くからどうしたの?」


 ミディリシェルは、混乱しているようだ。挙動不審になっている。


「あのね、あのね、ゼノンと一緒に起きたら、変なのいたの!ちっちゃくて、可愛くて、可愛いけど、ちょっと不思議な生き物!ミディ、こんなの知らない!」


「ミディ、ちょっと落ち着いて。ちゃんと、状況説明を……えっと、もしかしてだけど、その小さくて可愛い生き物って、君の頭の上に乗ってる、あれ?」


   は、ミディリシェルの、頭上を見て、そう言った。ミディリシェルは、頭上を、手で確認する。


「ふにゃ⁉︎ほんとなの⁉︎」


 碧色の小龍が、ミディリシェルの頭上に乗って、気持ち良さそうに眠っている。

 ミディリシェルが、それに気がつくと、「あわわ」と言いながら、手をぱたぱたと、上下に振って、ぐるぐると、その場で回った。


「目、回るよ」


「ふみゃ⁉︎だって、全然飛んで行かないの!危険かもなの!」


「大丈夫だよ。危険な存在では無いから。きっと、その子は、君の頭の上で過ごすのが好きなんじゃないかな。そこが、一番、安心できる場所なのかも」


「……ふにゅ?フォル、こういう子知ってるの?危険違うなら、飼えるの?」


 ミディリシェルが、落ち着いた。今までの動きを止める。


「うん。その子は、君の昔のペットって言えば良いのかな?それとも、友達?その子、名前つけてあげたら?君を認識してくれるよ」


 ミディリシェルが、「みゅ」と返事をして、両手で拳を作って、口を隠した。


 暫く、そのままでいると、突然「みゅぅ」と言って、小龍を、手の上に乗せた。


「ふにゅ。決めたの。あなたの名前は、りゅりゅなの!可愛い名前なの。よろしくね。りゅりゅ」


「……」


「みゅ?変だった?他が良い?」


   は、黙って、ミディリシェルとりゅりゅを見ている。ミディリシェルが、きょとんと、首を傾げた。


「……ああ、ごめん、変なんかじゃないよ。ただ、変わんないなって思って。昔の君も、この子に、今と同じ名前を付けてあげていたから」


「ふにゅ?そうなの?……だから、なんだか、りゅりゅって名前が、しっくりきたのかも⁉︎」


「そうなんだね……あれ?そういえば、ゼノンは?一緒じゃないの?」


 ミディリシェルがいるなら、ゼノンもいるはずだ。慣れていない状態で、ゼノンが、放っておくとはずがない。だが、ここには、ミディリシェルしかいない。


   の問いに、ミディリシェルが、顔を逸らした。


「知らないの。ミディが迷子になったんじゃなくて、ゼノンが迷子になったの。ミディは迷子違う。ゼノンが、迷子そう」


 ミディリシェルが、言い訳をする。


「……でも、ミディは、可哀想だと思うから、探しには行くの。という事で、迷子になったらりゅりゅ頼るから、ゼノンが迷子になってるの心配しなくて良いの」


 ミディリシェルが、そう言って、走ってゼノンを探しに向かった。


 ブルル


 連絡魔法具から、着信音が鳴った。


 ――メッセージ……オルベア様から。


   は、メッセージを開いた。


『この前、あの組織の集会に仕事で行った。その時の事を一応報告しておく。エンジェリルナレージェ・ミュニャ・エクシェフィーは、エクシェフィーの御巫の名を騙る、偽物である。エクシェフィーの名を騙る事を、許してはならない。あの娘は、罪深き、偽御巫だと。あんな嘘でも、騙される輩は多い。何かあってからでは遅い。今から、警戒はしておくに越した事はない』


 ――……また、あの子に……


   は、メッセージを読んで、連絡魔法具をしまった。


「あれ?ミディは?」


「さっき、君を探しに行ったけど?会わなかった?」


「……あいつ、また迷子に。ありがと。探してくる」


 ゼノンが、来るなり、ミディリシェルの事を聞いて、走って、探しに向かった。


 ――……探してるなら、部屋戻って待つのが良いのかな。


   は、ミディリシェルとゼノンを、心配はしつつも、一人で、自室へ戻った。

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