エピローグ おかえり、そしてよろしく
「ふみゅ……ふにゅふにゅ……ふかぁ度が高い。これは……ミディのお部屋違う……確認。(きょろきょろ)ふにゃ⁉︎エルグにぃから貰ったと思わしき、縫いぐるみを発見!これは……ミディのお部屋?……でも……違うと思うの。ベッドのふかぁ度が全然違う。とってもふかぁ……ふにゃ⁉︎ゼノン発見!ここは……ゼノンのお部屋と推測」
ミディリシェルは、目を覚ますと、ここがどこなのか確認するために、きょろきょろと辺りを見回した。
この部屋には、ミディリシェルがいた部屋よりも、高価な家具。広さも、一回りは広い。
ミディリシェルの隣には、ゼノンが眠っている。ここは、ゼノンの部屋と推測したが、確定はしていない。
ミディリシェルは、かけられていた布団を手に持ち、顔に近づけた。
「(くんくん)……ふみゃ⁉︎こ、これは……フォルの匂いなの⁉︎という事は、ここは、フォルのお部屋なの⁉︎」
そこからしたのは、出会った時から何度か嗅いでいるフォルの匂い。ミディリシェルは、匂いを嗅いで、フォルの部屋で確定した。
「うん。あってるよ。あってはいるけど……その方法で当てられると、嬉しくない」
「フォルらぶーー」
ミディリシェルは、ベッドの上で座って、身体を左右に振った。
「うん。ありがと。危ないから、そこで、暴れないで大人しくして」
フォルにそう言われて、ミディリシェルは、ぴたりと動きを止めた。
「本当に、フォル相手だと従順だな」
「この子は僕の言う事は聞いてくれるから」
フォルが、自慢げにそう言った。
「ふにゅ……ねぇ、あの神獣さんって……リブイン王国を、リブス王国を、救ったという神獣さんは、フォル、なの?」
「うん。そうだよ。かつて、あの国の大地に実る、全ての命を枯らす雪が降ったんだ。原因特定は、僕の力というより、一緒にいた子のだけど、直接それを止めたのは、僕だった」
それを聞いて、ミディリシェルは、寝ているゼノンを起こさないように、静かに、ベッドから降りた。
ベッドから降りると、フォルの元へ向かい、ぎゅっと抱きしめた。
「ごめんね。ミディのせいで……フォルは、一度救った国を、自分で、終わらせないといけなくなって。ごめん、なさい。ミディが、あそこにいれば……ごめっ」
ミディリシェルは、泣きながら言っていると、フォルに、口を塞がれた。
「ふにゅ⁉︎……これって……き、ちゅぅなの⁉︎しかも、親密な関係の人がやる、ちゅぅなの⁉︎」
ミディリシェルは、「あわわわ」と言いながら、挙動不審になる。
「謝らなくて良い。あの国が道を違える事となった時、僕の手で終わらせて欲しい。友人からの頼みだ。それを、果たさせてくれて感謝してる」
「……でも……みゅみゅ……フォルが、そう言うなら、なにも言わないの……ミディ、物分かり良い子なの。だから、何も聞かないの。ミディを救ってくれて、ありがと」
ミディリシェルは、笑顔で、そう言った。その笑顔の中には、褒めて欲しいという期待を込めている。
「うん。えらいえらい。やっぱ、こうして笑ってると安心する」
「……フォル、ピュオから、歓迎会の準備が終わったと」
「みゅ?寒気異界?ミディを、さむさむな別の世界に連れてくの?ぴぃーってなるの?」
ミディリシェルは、きょとんと、首を傾げた。
「何その、ゼノンが喜びそうなの。違うから。さむさむじゃなくて、君が、ここにいるって決めてくれた祝福みたいなものかな」
「……ゼノン、起こすの。起こしてから、一緒に行くの」
「うん」
ミディリシェルは、ゼノンの方へ向かう。
「ぷにゅぷにゅ。ゼノン、起きてー。もう、朝だよー。起きないとー、ミディがー……みゃぁーってしちゃうよー。良いのー?」
ミディリシェルは、そう言って、ゼノンの身体を揺らした。
「……ん?……みゃん?……?……あっ……ごめん。ミディの面倒見ておこうとしてたら、寝てた」
ゼノンが、目を覚ました。
「それは良いの。それより、寒気異界するの。早く行くの」
「俺は行ってみたいが……意味違うだろ。歓迎会だ。けど、行く前に」
ゼノンとフォルが、互いに顔を見合わせる。こくりと頷くと、ゼノンが立ち上がった。
ゼノンが、フォルの方へ向かい、振り返る。
二人は、ミディリシェルの方を見て、笑顔で、手を差し伸べた。
「おかえり、ミディ」
「おかえり、僕のお姫様」
ゼノンとフォルが、同時に、そう言った。
「そっか……ここが、今日から、ミディの……うん。ただいま。それと、これから、ずぅっと、よろしくね。ゼノン、フォル」
ミディリシェルは、溢れてきた涙を拭って、笑顔で、そう言った。
「うん」
「ミディ、歓迎会、早く行こうぜ。今日は、アゼグにぃとノヴェにぃが、料理作ってくれてんだ。リミュねぇとピュオねぇは、装飾担当。ピュオねぇは、料理上手で良いんだが、リミュねぇは……独特なんだ」
「ふみゅ?……ゼノン、楽しそう。なんだか、ミディも楽しい……ゼノン楽しいは、ミディ楽しいなの?……なの!」
ミディリシェルは、ゼノンと手を繋いだ。
「僕は、用があるから。終わったら行くよ」
「みゅ。ゼノン、行くの」
「ああ……ミディ、行くの」
「ふにゅ」
ミディリシェルは、ゼノンと一緒に、部屋を出た。
**********
「ミディ、エクリシェの事説明する。エクリシェは、最下層、下層、中層、上層、最上層と、おおまかに、五層に分かれてるんだ。ミディが、前にいた場所は、最下層。ここは、下層だ。個室、リビング、大浴場とか、必要な部屋は、各階層にあるんだ。それに、趣味部屋も。どの層にもあるが、その部屋の広さは、上の階層に行くほど、広くなるんだ。あそこも、前にいた部屋よりは広いだろ?」
「みゅ……お広いリビング?お広いの⁉︎お広いリビングで、寒気異界ー」
「だから、歓迎会だ。俺らロストくらいしか喜ばねぇ企画じゃねぇよ」
ゼノンが、呆れた表情で、ツッコンだ。
ミディリシェルとゼノンは、下層のリビングまで向かった。
**********
リビングの扉の前、ミディリシェルとゼノンは、立ち止まった。
「扉から分かる豪華さなの」
「今日は、いつも以上に豪華だな」
豪華に彩られた扉。歓迎会のために準備したのだろう。
「ちなみに、中層から上って」
「現在改装中デス」
ゼノンが、機械音声の真似をして、そう言った。
「ふみゅ。早く中見たいの。見たいの。でも、ゆっくりなの」
「ここの扉、お前からすれば重いからな」
ミディリシェルは、早る気持ちを抑えて、取手へ手を伸ばした。
「ふみゃぁ」
扉を開けると、歓迎会のために準備された、装飾で彩られた壁。それが、広く豪華そうなリビングを、より一層豪華にしている。
大きな机の上には、大量の料理が置かれている。デザートまで。
「ミディちゃん、おかえりなさい」
「おかえりなさい、ミディ」
リーミュナとピュオが、出迎えた。
「ふみゅ。ただいまなの。リミュねぇ、ピュオねぇ」
「ミディ、視線。せめて、話す間くらい」
「みゅ?」
ミディリシェルの視線は、リーミュナとピュオの胸元。
「分かってるもん……ミディには、そんなの存在しないって。でも、でも、ミディも、お胸さんぼんってなりたいの」
「まだ言ってる。リミュねぇ、ピュオねぇ、もっと話してたいだろうけど、悪い。今のミディに、気にするなとか言っても聞かねぇだろうから。気にならなくなった時に。ほら、ミディ、こっち行くぞ」
「ぷみゅぅ」
ミディリシェルは、ゼノンに、腕を引っ張られて、リーミュナとピュオから、強制的に引き離された。
「相変わらず、そこへの執着が……えっと、おかえり」
「おかえり。その姿も素敵だよ」
ゼノンに、リーミュナとピュオから引き離されていると、アゼグとノーヴェイズが、挨拶に来た。
「ふにゃ⁉︎ただいま。アゼグにぃ、ノヴェにぃ。今日こそ、魔法具のお話を」
「そうしたい気持ちは山々だけど……俺とミディでとなると、時間が足りない」
「……それもそうなの。一日くらいは無いと、満足いくお話できないの」
ミディリシェルもノーヴェイズも、魔法具オタク。二人で話すとなれば、一、二時間では満足しない。ミディリシェルは、ノーヴェイズの言葉に、こくりと頷いて、納得した。
「……ミディ、あっちで、ケーキ」
ゼノンが、物欲しそうな目で、ミディリシェルの服の袖を、掴んで、ケーキを見ている。
「……ミディは、ゼノンと一緒にケーキを食べるの」
ミディリシェルは、アゼグとノーヴェイズにそう言って、ケーキを食べに向かった。
互いに、別のケーキを選んで、椅子に座る。
「ふみゅふみゅ。ぱくぱくいけちゃうの」
「ああ。ミディ、こっちも食べるか?」
「みゅ。ミディのもあげるの」
ミディリシェルとゼノンは、互いに、取ってきたケーキを食べさせあった。
「ふみゅ。こっちも美味しいの」
「こっちも美味いな」
「ふみゅ」
「二人とも、邪魔するのが悪いと思える程、堪能してるね」
ミディリシェルとゼノンが、ケーキを食べ終えた頃、フォルが声をかけた。
「みゅ。堪能中なの。フォルも一緒にどぉ?」
「遠慮しとくよ。祝いの場でこんな事を聞くのは悪いと思うんだけど、主様が、確認したい事があるんだって」
「ゼノンも良い?」
「うん」
「みゅ。ちょっと待って」
ミディリシェルは、そう言って、立ち上がった。
「ねむねむの前に、お話聞くの」
「ねむいの?」
「ちょっと」
「じゃあ、部屋に戻って話をしよう」
「みゅ。ゼノンも行くの」
ミディリシェルとゼノンは、フォルと一緒に、目を覚ました時にいた部屋へ戻った。
**********
部屋に着くと、ルーツエングとイールグが待っていた。
「こんな日に呼び出して済まない。それと、おかえり」
「おかえり。帰るのが遅すぎて、待ちくたびれていた」
「みゅ。ただいま。エルグにぃ、ルーにぃ」
ミディリシェルは、ベッドの上に座り、何故か置いてあった、ルーツエングから貰った縫いぐるみを、ぎゅっと抱きしめた。
「早速本題に入らせてもらう。リブイン王国で見たものについてだ。あの禁呪を使われた時、何を見た?」
「ふにゅ?真っ黒いもやもや?なんかやな感じだったの」
「ゼノンは?」
「……妬みや嫉妬が生み出す色。黒く、悲しい。それと……獣?こっちは、良く見えてないが」
ミディリシェルとゼノンが、そう答えると、フォル達が、ミディリシェル達は知らない言語で、神妙な表情で会話している。
「ゼノン、なんて言ってるか分かる?ミディ、分かんない」
「俺も、分かんない」
「これはどう見える?」
フォルが、そう問うと、ルーツエングが、魔法を使った。
「これは……きらきらなの」
「……安らぎの色」
ミディリシェルとゼノンは、それぞれ見えたものを、率直に言った。
「これってなんなの?」
「一応、禁呪指定されている魔法。精神を安定させる魔法だけど、使い方によっては、人を操る事も可能だから」
「みゅ?なんで、そんな魔法を使うの?」
「君らが、現時点でどれだけ視る事ができるかの確認。視え方もついでに。前との変化がないか」
「そうなの?ミディ達は、フォル達の期待に応えられたの?」
ミディリシェルは、左手で拳を作り、口を隠して、そう問いた。
フォルが、こくりと頷く。
「期待以上。でも、視る事ができても、それにばかりたよては駄目だよ。視る事ができても、知識が無ければ、それに対処できない。そんな状況が、いつ起きても不思議じゃない。特に、ゼノン。君は、もっと知識をつけておいた方が良い」
「ふぇ⁉︎」
フォルの言葉に、ミディリシェルは、目を見開いた。
「ミディじゃねぇのか?」
ゼノンが、そう問うと、ミディリシェルは、こくこく
頷いた。
「ゼノンだよ。ミディには必要無い。その意味は、いずれ分かるんじゃないかな。ミディの事を知ろうとしていけば」
「ふにゅ?ミディも意味分かってないよ?ミディ、禁呪とか詳しくないよ?魔法学は得意だけど」
「得意不得意の問題じゃないよ。それを知る事ができるかできないか。もう遅いし、眠いみたいだから、おやすみ。また明日」
「ふみゅ?ふにゅ」
フォル達が、部屋を出た。
残されたミディリシェルとゼノンは、言葉の意味を理解できず、互いに顔を見合わせて、きょとんと首を傾げた。