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星月の蝶  作者: 碧猫
1章 星の選ぶ始まりの未来
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14話 婚約発表


 豪華な部屋に、華やかな衣装を纏った人々。

 今までのミディリシェルには、縁の無い、住む世界が違うかのような場所だ。


 その会場の中央に、この豪華な会場で、一際目立っている。まるで、今日、この会場の主役のような、派手な衣装を纏った、男女が一組。


 その男女が、会場に入ったミディリシェルを、鋭い目つきで睨んでいる。


「ミディリシェル・エレノーズ・エンシェルト。貴様との婚約を破棄する!」


 男性の方は、ミディリシェルが、一度も会った事のない、婚約者だろう。


 婚約者が、女性に寄り添って、ミディリシェルに向かって、怒って、そう宣言する。


 ――これ、どっかで見た事ある気が……ふにゅ……ミディが読んだ、恋愛小説だ。恋愛小説いっぱい読んだのかな?


「貴様の悪事は知っているぞ!自分より成績の良い彼女に嫉妬し、卑劣な嫌がらせをし、しまいには、暗殺者まで送った!」


 婚約者と、一緒にいる女性は、学生のようだ。ミディリシェルは、婚約者の言葉を聞いて、呆気に取られていた。


 ミディリシェルは、フォルと出会う前まで、ずっと監禁されていた。学生になった記憶など無い。


「それに飽き足らず、機密文書を、敵国に売る。それ以外にも、色々とやってたそうだな。全て、証拠もある。しかも、婚約発表の場に、別の男にエスコートしてもらうとは、あり得んだろ!貴様のような、男好きの性悪女には、処刑を命じる!」


 婚約者の声が、会場に響き渡る。会場内の人々が、その言葉を聞いて、ヒソヒソと何かを話している。

 

「ふふふ」


「……婚約破棄は、喜んで受け入れます。ですが」


「貴様、何をしたか分かっているのか!そんな、悪びれもない顔で、嘘をつくなど、処刑だけでは物足りん!貴様には、泣き叫んで、罪を自覚させる苦しみを味合わせてやる!」


「ふふふふ、あははははは。久々にこれ見よがしに付けてきてやったのに、気づかないなんて。ほんと、君らのような人間って、無知で傲慢すぎ」


 フォルが、笑って、そう言った。管理者については、この国でも、かなり噂になっていた。証を知る人は多いだろう。


「いや、仕事中は普段からつけろよ」


 人に紛れているゼノンのツッコミが聞こえた。


 ――ふにゅ。ミディの代弁されたの。


 ミディリシェルは、ゼノンのツッコミに、心の中で、同意した。


 会場内が騒めく。ミディリシェルと婚約者に集められていた視線が、一気に、フォルに向かった。みんな、青ざめた顔で、フォルを見ている。中央の二人を除いて。


「何を訳の分からない事を言っている。その性悪女の援護をするつもりか!だとしたら、貴様も同罪にしてやる!」


「周りは気づいてるみたいだけど。あぁ、でも、誰が来たなんて気づいてないか。普段は、分からないように顔を隠しているから」


 フォルが、そう言って、左手を胸に当てて、お辞儀をした。


「僕は、管理者……神獣の王たる一族の末子、フォル・リアス・ヴァリジェーシル。この国にいれば、その名くらいは聞いた事があるだろう」


「管理者だと。それにその名は……嘘を吐くな!管理者が、あの黄金蝶様が、貴様のようなガキな訳はないだろう!」


 フォルが、笑顔で黙った。


「ふにゅ⁉︎そ、それより、証拠なんて、本当にあるの?って事ミディ気になる」


「彼女が証拠だ!彼女が、貴様の仕打ちを、泣いて話してくれたぞ!」


「……元リブス国王が聞けば、どう思うだろうか。信仰のある、神獣に、御巫に、こんな無礼を働く、者達がいるなんて。管理者の証は、偽物だとすぐに分かる仕組みになっていると有名なはずだ」


 リブス王国。それは、かつて、この地に栄えた王国の名。


 その王国の歴史書は、ミディリシェルが、復元した中に入っていた。


 リブス手記、第十章。王国滅亡の危機と、救世主。


 【それは、雪降る日だった。突然、やってきた、この国の危機。

 この季節のリブス王国は、雪が良く降る。その雪が、突然、異質なものとなった。その雪は、人体に、植物に、動物に。生きとし生けるもの全てに害を与えた。まさに毒の雪と言ったところだろう。


 それは、何日も止まなかった。皆、外へ出る事ができなくなっていた。家にも、雪の影響は出ている。このまま止まなければ、この国から、人が、自然が、消えていくだろう。この国は、回避不能の滅亡の道へと向かっているのだろう。


 そんな危機的状況で、救世主は突如としてやってきた。ある、一人の神獣が、この地へ降り立った。その神獣と共にいた御巫が、雪で蝕まれる、全てのものを浄化した。その神獣が、我々を襲う、その雪の中に混じる厄災を払った。


 この国の危機は、神獣によって救われた。


 その歴史と、神獣の温情を忘れる事なく、後世に残すため、王国民は、神獣を崇拝する事となった。その神獣の名は、黄金ーーーーーー】


 この本は、ミディリシェルの中でも、かなり印象深い。ここへ連れて来られて、初めて復元した本。

 まだ、幼かったからか。その最後の部分は読めなかった。それは、その地に降り立ったという神獣の名。


「ミディ、仕事できているから、始めるよ。君は、僕の証人になって」


 フォルが、そう言って、ミディリシェルの、ブレスレットを外した。


「みゅ。ミディは、証人になるの。この国では、不要な方法でお金を稼いでいたの。ミディは、ここで監禁されていたの。ぴぇぇなの」


「貴様、そんな嘘を吐いて、この国を愚弄する気か!」


「嘘じゃないもん。大体、ミディは学園なんて言ってないから。成績なんて知らないから。その人とも会った事ないし、ずっと、一人でせっせこお金を稼いでたから。というか、ミディは、最終確認で、その証拠とかはもう確認済みなの。そっちの証拠は、証拠じゃないの」


「その妄言が本当だとしよう。そうしたら、貴様が、全て悪いだろう!貴様が稼いだ金なら、責任は全て貴様にある!」


「何言ってんの?この子は、自分の意思とは関係なく、それをやらされていた側だ。それを無理矢理やらして、その金で贅沢な暮らしをしていた君らは罰せられようと、この子は証人になるだけで、罰せられる事はない」


 フォルが、ミディリシェルの手を握る。


「これについて、何を言っても無駄だ。この子が言ったように、すでに、調べもついている」


「……でよ。なんで、管理者なんて出てくんのよ!しかも、こんなブスで貧乳娘になんで味方すんのよ!」


 今まで黙っていた婚約者の隣で女性が、そう叫んだ。


 女性は、憎悪の目をミディリシェルに向ける。


「アタシは、この世界のヒロインなのよ!前世の記憶と使命を与えられて、この世界に転生した、ヒロインよ!それを、こんなブスで貧乳娘なんかに、邪魔されて、絶対に許さない!」


 女性が、そう言うと、ドス黒い霧が、女性の身体から溢れ出した。


 その霧が、会場内を埋め尽くす。


「……むにゅぅ……にゃの」


「魔力を吸収しすぎてる……ごめん」


「ふきゃ⁉︎」


 突然、ミディリシェルの身体が浮いた。ミディリシェルは、驚いて声を出した。


「ふにゃ⁉︎お姫様抱っこなの……むぎゅぅ」


「……そんなに嬉しいなら、普段から、これをするか」


 ミディリシェルは、「ふにゅふにゅ」と言いながら、喜んでいた。


「ほんと、何の因果なんだろうか。かつて、あの子が命懸けで救おうとした国。その国であったはずの場所を、僕が、直接手を下す事になるとは」


「みゅ?」


「最後まで見届けさせたかったけど、少し寝ていて。ここからは、君には見せたくない」


 フォルが、そう言うと、ミディリシェルは、深い眠りについた。


      **********


 ドス黒い霧は、会場の人々を操った。


 その霧で操られた人々が、ミディリシェルを、襲おうと、一斉に近づいてくる。だが、フォルが、結界魔法を使い、ミディリシェルに近づく事はできない。


「ゼノン、ミディの側にいてあげな」


「ああ」


 ゼノンが、側に来る。フォルは、ミディリシェルをゼノンに渡した。


「ミディ、ごめん。君が起きたら、全て、終わっているから。だから、安心してあそこにいて。僕の大好きなお姫様」


 フォルは、そう言って、愛おしいものを見る眼差しで、ミディリシェルを見つめた。ミディリシェルの額に、口付けをする。


「さて、まずは、禁止魔法に指定されている魔法使用からか」


 フォルが、女性に向き直り、そう言うと、表情が消えた。


「ホウリ令嬢、弁明があるなら聞こう。禁呪を使うだけのものがあれば」


「ヒロインを邪魔した罰よ!アタシはヒロインなんだから、正当な理由よ!」


「……転生前の記憶を持つ事は珍しくもない。それで、正当だとなるはず無いだろう。他の件もそうだが、これ以上、弁明を聞く意味はないな」


「何を言ってるのよ!前世の記憶を持って転生するのは、特別な証拠よ!アタシがヒロインだから、持っているのよ!」


 フォルは、淡々と、そう言った。


「ま、待ってくれ!わ、私は、何も関わっていない!」


「私もですわ!」


「か、管理者は、関わりの無いものは、裁かないんじゃないのか!」


「国から、貰っていた金を使っただけで」


 会場にいる人々が、次々と声を上げる。

 

「でどころは知ってただろう。それなのに、手をつけていた。その時点で同罪だ」


「金くらいで」


「金くらい?それ以前に、監禁の疑いがあるんだけど?この子を長年に渡って監禁していた。ただ、自分達が贅沢したいと言うだけで。知っていながらも放っておいた。それだけでも同罪だ。それに、この国の事と、リブス王国の国王夫婦。ルアン・ジェス・リブスにリゼシーナ・ウィッグ・ディディゼブ。その二人の事を含めて」


 二十年程前になるだろう。この国が、リブス王国と呼ばれていた頃。突然姿を消した。未だ、見つかっていない。


 ――エレの件といい、想像はつく……確認のしようのない事。僕は……主様の命じた仕事を全うするだけ。

 何も考えず、仕事に集中すればいい……


「何故……その事を、あの方達が、証拠を消したはずなのに」


「あの方達?」


 フォルは、国王が言った言葉を、聞き逃さなかった。


「……」


 国王が黙る。


「言うわけないか……そっちの事は、後で、主様がどうするか……とりあえず、今回の件に関する処罰の言い渡しだ」


 フォルは、そう言って、瞼を閉じた。


「それじゃあ、始めようか。今日の、主催を」


 そう言って、ゆっくりと瞼を開ける。翠色の瞳が、黄金へ変わっていた。

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