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星月の蝶  作者: 碧猫
1章 星の選ぶ始まりの未来
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13話 準備


 とうとう婚約発表当日となった。


   は、まだ、外が暗い時間、自室で、本を読んでいた。


「急に呼び出してどうしたの?」


「今日は変わって……僕はあの子のエスコート役にはなれない」


「……良いよ。でも、今回が最後だ。他の仕事が入って、明日からは、連絡もできそうにない」


「分かった。ありがとう」


「うん。行くならそろそろ行かないとだ。また、次会える日は分からないけど、そのうち」


      **********

 

 ミディリシェルは、まだ眠い中起きて、フォルに、リブイン王国の、ミディリシェルが使っていた狭い部屋へ、転移魔法で連れてきてもらった。


 部屋の中は、ミディリシェルが出て行った時のまま。何も変わっていない。相変わらず、本だらけ。ソファにまで、本を散らかしている。人が入った痕跡はない。


「ここがミディが使ってた部屋」


「みゅ。ゼノン、じっと見過ぎなの。フォル、これが、復元した本なの。読んで?」


 ミディリシェルは、そう言って、フォルに復元した方の本を渡した。

 フォルが、本を開くと、一緒に来ていたゼノンが、覗き見た。


「……」


「読めない……ミディ、文字書く練習……って、こんだけ書いてて、お手本のようなのあって、なんでこんなに下手なんだ?」


 ミディリシェルの文字は、かなり独特で、読むものを選ぶ。自分でも読めない時がある。ゼノンも、読みづらかったのだろう。


「知らないもん。フォル、これで、本がちゃんと復元できるの?」


「うん。ありがと。君のおかげで仕事が減ったよ」


「……ミディ、フォルのお手伝いになるんだったら、これ、続けたいの。続けても良い?」


 ミディリシェルは、目を輝かせて、そう問いた。


「うん。むしろ、こっちからお願いしたいくらい。あー、でも、この文字だと、どこまで魔法機械が認識してくれるか……文字とすら認識されないかもしれない」


「確か、魔法機械でやってるんだよな?」

 

「うん。魔法機械でやらないと、原本のままずっと保管するのが難しいんだ」


 読めなくなった本の復元。フォル達は原本を大事にしている。できるだけ、原本を維持するため、特殊な魔法機械を使い、原本を読める状態にしている。


 ミディリシェルは、魔法具と魔法機械の両方を扱える。


「できなかったら、ミディの頑張りで、認識できるようにするだけなの。魔法機械改造して」


 ミディリシェルは、胸を張って、そう言った。


「……ミディ、そろそろドレスを着ないと間に合わなくなるよ。髪も可愛くしてあげたいから、楽しみにしてて」


「ふみゅ。お任せするの。二人は、まだお支度しなくて良いの?」


「俺はもう少し後からで大丈夫だ。お前ほど時間はかからねぇよ」


「僕も、かな。こういう場には不相応な服だけど、ミディ、ほんとに良いの?僕がエスコートしても?」


「フォルじゃないとやなの。時間あるなら、ミディがフォルのお隣いて、らぶらぶってなるように、とびっきり可愛くして」


 ミディリシェルは、そう言った後、着ている服を脱いだ。


「お前、恥じらいっつぅもんを」


「この子に何言っても無駄だよ。それで治ってたら、もう治ってる」


「……今日、いつにも増して気遣いねぇな」


「普段と変わらないけど?」


「みゅ。変わんないの。ミディの大好きなフォルなの。匂いも好きなの」


 ミディリシェルは、そう言って、フォルの匂いを嗅いだ。

 

「ドレス着せるから、大人しくしてくれない?」


 ミディリシェルは、匂いを嗅ぐのを止める。ぴたりと大人しくなった。


 フォルに、ドレスを着せてもらう。


「ふびゅ……」


 下に行くに連れて薄くなる、青のグラデーション。目立ちはしないが、花柄模様。ミディリシェルが嫌がると知ってか、露出は少なく、胸の上が少しだけ見える程度だ。


「みゅ……きれいなの。ミディもきれいになった気分」


 ミディリシェルは、そう言って、ソファに座った。ソファは、来た時よりも、座れる面積が広くなっている。


「……これ、僕が選んだんだ」


 フォルが、ミディリシェルの耳元で、そう囁いた。


「……みゅ。嬉しいの」


「綺麗だよ。僕の、可愛いお姫様」


 フォルの、愛おしそうに、甘い声で、囁くその声が、ミディリシェルの耳に、いつまでも残った。


 ミディリシェルは、ほんのり赤らめた頬を、両手で触れた。


「……」


「……君は、肌が弱くて、化粧ができないから、次は髪だ。どんなふうにしたいとか、希望はあるかな?」


 フォルが、そう言って、ミディリシェルの髪を、一束手に取った。


「ふみゅ……フォルが、ミディに似合うって思うのがいいの。お任せ」


「了解。なら、少しだけ、大人しくしてて。気になる事があっても、動かないように気をつけて」


「ふみゅ。さっきから、視界にゼノンがちらちら入るの。気になる。気になるけど、我慢するの」


 ミディリシェルが、フォルに、ドレスを着せてもらっている間、その頃から、ゼノンが、一人で、黙々と、散らかっていた本を片付けていた。

 その光景が、ちらちらと、ミディリシェルの視界に入る。


 ソファの座れる面積が増えていたのも、その片付けのおかげだ。


「お前が躓いて転ばねぇようにって、片付けてやってるんだ」


「なんで、ミディがいつも転んでいる事を知ってるの⁉︎言ってないのに」


「……」


 ミディリシェルは、驚いて顔を動かしそうになった。だが、フォルに動かさないように言われている。ミディリシェルは、顔を動かすのを我慢した。


「ちゃんと動かさなかったね。えらいえらい。今回は、少し、大人っぽくしてみようか」


「大人だと、フォルが、ふにゅふにゅしてくれる?大人の方が好き?」


「僕は、君がどんな姿だろうと、変わらず好きだ。でも、普段は、可愛さ重視にしてるから、新鮮さはあるかな」


 ミディリシェルは、顔を真っ赤に染めた。


「髪飾りを持ってきているけど、つけても良いかな?」


「みゅ。つけるの。いっぱいつけるの。可愛くつけるの」


「いっぱいは無いかな。というか、そんなに付けたら違和感しかないよ」


「……フォルが選んでくれたって思うと。嬉しかったの」


 ミディリシェルは、そう言って、頬を膨らませた。

 フォルが、ミディリシェルの髪に、小さな星の髪飾りをつけてくれた。


「これで、君の支度はこれである程度終わりかな。ほんとは、ネックレスもあげたかったんだけど、残念ながら、君のその魔力を好きなだけ使った時に、耐えられそうなものを見繕えなくてね。ほんと、残念だよ」


「みゅ……なんか、魔法具前提なの」


 実用性重視なのだろう。ミディリシェルは、きょとんと首を傾げた。


「見栄えを良くするためだけというなら、一応、持ってきてはいるんだけど、君は、そっちでも良いの?」


「ふみゅ。フォルが選んでくれたものなら、そっちでも良いの」


「そっか。じゃあ、付けさせてもらうよ。じっとしてて」


 フォルが、そう言って、ミディリシェルの首に、ネックレスを付けてくれた。

 そのネックレスは、空色の三日月型に加工されて魔法石があしらわれている。


「……高そうなの。というか、ちゃっかり、魔法石なの」


「高いというか、そもそもこの質だと、市販で買えるようなものじゃないかな。これは……裏ルートで手に入れたんだ」


 フォルが、悪戯な笑みを浮かべて、そう言った。


「みゅ⁉︎……なんか、怪しげな、雰囲気してる言葉なの」


「冗談だよ。市販で売っている魔法石の質とは比べ物にならないって事は、ほんとだけど。これは、主様の仕事を手伝ったお礼に貰ったんだ。怪しげな取引とかはしていないよ」


「……みゅ。ありがとなの。それと……お疲れ様?」


 ネックレスを付けてもらい、ミディリシェルは、ソファから立ち上がった。


「ミディ、もう少しだけ座ってて」


「みゅ」


 フォルに、そう言われて、ミディリシェルは、再びソファに座った。


 ミディリシェルが座ると、フォルが、ミディリシェルの右足を手に取った。


「……みゅ?」


「……」


 フォルが、片足ずつ、ミディリシェルの靴を、ヒールに変える。


「少し高くて、歩きづらいかも。大丈夫?歩く時は、転ばないように気をつけて」


「みゅ」


 フォルに、手を差し出される。ミディリシェルは、その手を取って、ゆっくりと、立ち上がった。


「……目線が違うの。ちょっと高い……フォルと近くなった気分で、嬉しい。好き」


「今までの身長差の方が、僕的には良いと思うけど……これもこれで、悪くはないのかな?」


「みゅ?フォルは、ちっちゃい方が好きなの?ミディ、ちっちゃい好き?」


「そういうわけじゃないんだけど……神獣……黄金蝶の平均身長って百七十五くらいなんだ。にぃ様達も背が高いのに……僕は、伸びなかったから。身長が低い君といると安心するというか……ミディが、身長高いと、自分の身長の低さが露見して、気にするというか……」


 フォルが、複雑そうな表情で、遠い場所を見て、そう答えた。

 今までは、十センチは差があったが、五センチのヒールで、差は半分となった。


「そんな事関係無く気にするだろ。ミディの身長差が安心するのは分かるが。丁度良いよな。ミディの身長差って」


「あっ、ゼノンが帰ってきた」


 ミディリシェルが、髪を綺麗に整えている間に、ゼノンが、視界から消えていた。どこに行ったのかは、知らなかったが、扉を開けて戻ってきた。


「ミディのお悩みと似てるの。だから、分かる気がするの」


「うん。そうだね。無いものねだりなんて無駄だって分かってはいるんだけど。思わずにはいられないんだよね。周りに高身長がいると。この前、仕事終わりに、イールグが、一緒に風呂でもって誘ったから入ってみれば、前に見た時よりも、筋肉ついてたのも含めて」


「なんでってなるよな。身長は伸びないし、どれだけ鍛えても、全然見た目が変わんねぇし」


 残念そうな表情で話す二人を見て、ミディリシェルは視線を下げて、自分の胸を見た。


「……むぅ」


「それで得した事もあるにはあるんだけどね。素直に喜べる事でもないんだけど。このままの状態で女装しても、違和感なんてないのか、バレないから。僕の場合、女体化の方は、メリット無いから、こっちで気づかれないのは、その点は助かってるんだ」


「みゅ?」


「どっかの本に載ってなかった?僕らの事。僕らは、性別が無いだけじゃなくて、どちらの身体にもなれはするんだ。男の場合は、力が強い。女の場合は、魔力が強い。個人差はあるんだけど、そういう違いがあるんだ。元が、他の種以上のものを持っているから、あまり深く考える人はいないんだけど。僕の場合、女の場合は、使える魔力もかなり減るんだ」


「ミディが知ってる本には載ってなかったの。知らない本なのかも。ふにゃ⁉︎そろそろ時間」


 会場に行く時間が迫っている。


「ゼノン、ミディを見てて。僕は、急いで支度するから」


「そこで?」


「風呂入ってる以上、そこ気にする必要無いと思うけど」


 フォルが、そう言って、支度をし始めた。


「なんか、久々に制服着る気がするなぁ」


「普段から着とけよ。仕事中は」

 

「ふみゅふみゅ。普段と違う雰囲気があって、普段も好きだけど、これもこれで好きなの。大好きなの」


「ふふっ、ありがと」


「……ケープの方……普通じゃあり得ないような魔法が使われてる」


 フォルが、制服の上に、ケープを着ると、ミディリシェルは、じっと、そのケープを見つめた。


「うん。これは、特別性だから。オルベア様とセイリション様が、用意してくれたんだくれたんだ。僕のためにって。巨大蜘蛛と有名な魔物の糸と、超貴重な布花を使ってるらしくて、かなり頑丈なんだ」


「ふみゅ……そのリボンも気になるけど……それって」


「リボンは、昔、君に似合うって言われたから。これは……何だと思う?」


 世界と蝶が描かれたバッジ。ミディリシェルが気になっていると、フォルが、それを手に持って、見せてくれた。


「……んっと……本で見たのだと思うの。管理者の証。証明書と、そのバッジが、管理者の身分を証明するって、その本に書いてあったの」


「正解。流石だね。って、そろそろほんとに時間やばいかも。ゼノン、君は先に行ってて良いよ。何かあれば、頼りかもしれないけど、基本は、目立たないように、人混みに紛れていれば良いから」


「ああ。ミディ、近くにはいられねぇが、お前が、迷いながらも決めた選択。その結末を、最後まで見せてもらう」


 ゼノンが、そう言って、部屋を出た。


「ミディ、慣れてないだろうから、ゆっくりで良いよ。転ばないように、気をつけて」


「みゅ。頑張るの」


 ミディリシェルは、フォルと手を繋ぎ、会場まで、慣れないヒールで、ゆっくりと歩いた。

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