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星月の蝶  作者: 碧猫
1章 星の選ぶ始まりの未来
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10話 ミディが選ぶ未来


 翌朝、いつものように、フォルが、部屋を訪れる。


 ミディリシェルは、昨日、ゼノンに言った事を、フォルにも話した。


「それで、君は後悔しない?ここにいれば、君が不用意に傷つく必要なんてないのに」


「……そうかもしれない。でも、ちゃんと、最後まで自分の目で見たいの。それが、大事な事だと思うから。それにね、フォルのお仕事の見学ができるの」


 ミディリシェルは、目を輝かせて、フォルにそう言った。


「……それだけの事で、どうして、それを決意できるの」


 フォルが、ミディリシェルに、そう問う。


 その問いに答えるミディリシェルの、左目に、星と花と蝶の紋章が浮かんだ。


「……私は、フォルが、あなたが、悩んでいる事なんて、分かんないの。でも、知っているよ。あなたが、とっても優しい人だって。悩むくらい、優しい人なんだって。私、ここに来て、一つの可能性の未来を見たんだ。そこでは、フォルと出会うのが遅かった。婚約発表の日が終わって、しばらくして、ようやく会えたの。フォルは、そこで、私と一緒にいる事を望んでくれたの。御巫とか、良く分からなかったけど、そうならなくて良いって言ってくれた。それは、多分、最悪の結果。あなたにとっても。でも、視ないふりはできない、一つの結末」


 ミディリシェルは、そう言いながら流れた涙を、左手で、拭った。


「……その未来は、君にとって、幸せだった?」


「うん。幸せだった。何も知らないけど、ゼノンと、フォルと、一緒にいれた。それが幸せだった。あのね、わがままって分かってる。でも、その未来を選ばないで欲しいの。ミディにわがまま、聞いてくれる?」


「……それは、聞けない。これは、君のためでもあるよ。君のそのわがままを聞けば、君は、これまで以上に傷つく事になる。いやと言っても、それを聞いてしまえば、後戻りはできない。それでも、君は、その選択をする?」


 フォルが、今にも泣きそうな表情で、そう言った。この選択は、ミディリシェルの運命を、大きく変えるだろう。


 制御はできないが、ミディリシェルは、未来視を使う事ができる。だからこそ、記憶が無くとも、それを理解する事ができた。


 一つは、そのわがままを聞いてもらわない。何も知らずに、何もなく暮らせる。その可能性を残す未来。


 一つは、わがままを聞いてもらい、その代償として、神獣達と御巫を巡る運命に巻き込まれる未来。


 ミディリシェルが選んだのは


「そんなの、当たり前なの。きっと、全部記憶があっても、ミディはそう答えるの。その選択をするの。ミディは、何も知らないけど、みんなと一緒にいたいって想いは、きっと、転生前からのものだから。絶対に、そうだから」


 ミディリシェルは、笑顔でそう言った。その時、左目の紋章は消えていた。


「……そう。君がそう言うなら、考えてはみるよ。その結果が、君の意にそうものであるとは、言い切れないけど。それでも良いかな?」


「ふにゅ。それでも良いの。考えてくれるだけで良いの」


「それと、話は変わるけど、婚約発表の日まで、こっちにいてくれないかな?今は安定しているけど、いつまた発作が起こるか分からない状態だし」


「でも、もしかしたら、礼儀として、ドレスとか送られてくるかもしれない。そうしたら、どうしよう。いないのバレちゃう」


 ミディリシェルは、そう言って、両手で拳を作り、口元に当てた。そして、意味も無く、その場でぐるぐると回転する。


「送られてこないと思うよ。というか、あの部屋にはもう誰も入ってこない。この前、ちょっと警告しておいたから」


「みゅ?」


 ミディリシェルは、理解できず、きょとんと首を傾げた。


「君は気にしなくて良いよ」


 フォルが、笑顔で、そう言った。


 ミディリシェルは、落ち着きを取り戻したかのように、ピタッと立ち止まり、フォルを、じっと見つめた。


「なんだか、むにゅぅって感じがするの。ふにゃぁって感じもするの」


「それは、目が回っただけでしょ」


「……(じぃー)」


 ゼノンが、扉を開けて、扉の隙間から、ミディリシェルの事をじっと見つめている。


「ふにゃ⁉︎ゼノン来たの!これは……きっと、ミディのまねまねさんなの!ミディの仲間なの⁉︎」


 ミディリシェルは、弾んだ声で、そう言った。両手で口を隠して、ゼノンをじっと見つめ返す。


 一分程、互いに見つめる時間が続くと、ゼノンが、口を開いた。


「ミディ、婚約発表が終わっても、行く場所無いなら、ずっとここにいて欲しい。いなきゃやだ」


 普段のゼノンよりも、今日は子供っぽさを感じる。ミディリシェルは、親近感が湧いて、側にそっと近づいた。


「ふにゃ?」


「俺……ミディの事、好き、だから……こんなにも、誰かを、愛する事ができそうって思えたの、ミディが初めてだから……一緒にいて欲しい……できれば、ずっと。俺が、ミディを愛してやるから」


「ふみゃ⁉︎ふみゃみゃみゃ⁉︎」


 ゼノンが、もごもごと、ミディリシェルへの想いを告げる。


 ミディリシェルは、顔を真っ赤に染めて、ベッドに走った。

 ベッドに着くと、上に上がって、布団の中に潜る。


「ずるいの……ゼノンもフォルも……ミディ、そういうのは、慣れてないのに」


「慣れてないのは、こっちも同じ……」


「ふみゃ⁉︎ふみゃ……ふみゃふみゃ⁉︎」


 目の前で、突然倒れたゼノンに、ミディリシェルは、慌てふためく。

 ベッドの上に立ち、その場でぐるぐると回った。


「ミディ、落ち着いて。ゼノンなら、大丈夫だから」


「大丈夫じゃないのーーー!」


 フォルが、落ち着かせようとする。だが、目の前で起きた事に、ミディリシェルは落ち着いてなどいられなかった。


「……でも、おかしい。まだ、人工血液は、残っていたはずなのに。なんで……ミディ、少しだけゼノンの様子を見ていて。すぐ戻るから」


「みゅぅ」


 ゼノンを見ていないとと、ミディリシェルは、落ち着きを取り戻した。


 フォルが、ゼノンをベッドまで運んで寝かせる。


 ミディリシェルは、泣きそうな表情で、ゼノンの右手を握った。


      **********


 フォルは、ミディリシェルの部屋を出て、ゼノンの部屋へ向かった。


 ゼノンの部屋を訪れると、保冷魔法具を探した。


 ――あった。確か……この中に入っているはず。


 フォルは、部屋にある、小型の保冷魔法具を見つけて、扉を開けて中を見る。


 そこには、真っ赤な液体の入った、瓶が幾つも並べられてある。


 ――……ちゃんと飲んでいれば……残りは五本?だったと思うけど……


 フォルが、保冷魔法具に入っている瓶の数を数えると、全部で十本入っている。

 この瓶の中身は、ゼノンに必要な、人工血液。一日一本、ゼノンはこれを飲んでいるはずだ。


 だが、残っている数は、一日一本飲んだと仮定した数よりも多い。


 ――確か、あの子がここへ来てから、五日くらい経っている……残っているのは、十本……まさか


 フォルは、瓶を一本持って、部屋から出た。


      **********


 ミディリシェルは、フォルが戻ってくるまで、ずっと、ゼノンの様子を見ていた。


 早く戻ってきて欲しい。そう思いながら、待っていると、時間の進みが遅く感じた。


「ふにゃ⁉︎フォルが戻ってきたの」


「うん。お待たせ。これを取ってきていたんだ」


「ふにゃぁ?それ、なぁに?」


 ミディリシェルは、真っ赤な液体の入った瓶を、興味津々に、見ている。


「これは、人工血液。ゼノンは、種族柄と、体質もあるのかな。貧血になりやすくてね。一日一瓶。これを飲むようにって言っているんだけど、ミディが来た後辺りからかな。何故か飲んでいなくてね」


「ふにゃ⁉︎ま、まさか、ミディがゼノンを忙しくさせちゃっているから」


 ミディリシェルは、責任を感じて、瞳に涙を溜めて、そう問いた。


 その答えは、フォルからではなく


「……だって、不味いから」


 と、ゼノンが、答えた。


「今までだって、我慢して飲んでいたんじゃないの?我慢して飲んだら?」


「……フォル、突然、とんでもなく美味いものが目の前にある事が日常になったら、わざわざ不味いの飲むなんてしねぇだろ?」


「ふにゃ?」


「……ミディの魔力美味しい」


「……これ、ミディの責任?」


 ミディリシェルは、きょとんと首を傾げた。


 ゼノンの主張に、ミディリシェルは、自分の責任であると思わなくなってきている。それを、完全に思わなくする一言が、フォルから飛んできた。


「そうじゃないよ。どうせ、ゼノンが、勝手にミディの魔力を食べたんでしょ。それで、血も美味しいって思って、不味いのは嫌とでも思ったんじゃない?」


 図星のようで、ゼノンが、顔を逸らす。


 魔力を食べた。ミディリシェルは、それを聞いて、ここへ来た時のゼノンが浮かんだ。


「ふにゃ⁉︎あの時、ミディのおててを美味しそうに、ぺろぺろと舐めていたのは⁉︎」


 ミディリシェルは、そう言って、驚きのポーズをとった。


「……ぺろぺろとは……さっき、ミディを愛せそうとか、愛したいとか言っていたけど……あれって、もしかして……ミディを食糧として逃さないように……」


 フォルが、面白そうに、そう言った。


 ミディリシェルは、その言葉を、すぐにすぐ理解できず、考えている。


「ミディの前で、変な事言うな!」


「分かってて言っているけど、そう言われても仕方のない事を、君が自分で言っていたんじゃないの?」


「……だって、本当の事だから」


「みゅ?」


 ミディリシェルは、不思議な表情で、ゼノンとフォルの会話を聞く。


「だからって、よりにもよって、こんな、嘘でも何でも信じそうな、ミディの前で言わなくても」


「ミディの前じゃないとつまんないじゃん」


「面白さなんて要らねぇんだよ!」


「みゅ?んっと……ゼノンはミディの……ふみゃ⁉︎ゼノンは、ミディの身体が目当てだったんだ⁉︎」


 ミディリシェルは、言葉の意味を、変に理解して、フォルの背に隠れた。


 ひょこっと、顔を覗かせて、瞳に涙をいっぱい溜めて、ゼノンをじっと見つめる。


「みゅぅ」


 裏切られた。そんな想いを込めて、ミディリシェルは、そう言った。


「だから、誤解だ!」


「ミディ、君ってどこであんな言葉を覚えてきたの?」


「みゅぅ?」


 ミディリシェルは、きょとんと首を傾げた。


「惚けてるのか?」


「本気で分かってないと思う」


「みゅぅ。良く分かんないの」


 ミディリシェルは、そう言って、ソファの上に座った。


「そういえば、今更なんだが、婚約発表っていつなんだ?」


「……知らないの」


「知らないって、自分の事だろ」


「知らないの」


「三日後だよ。ミディ、一応、自分の晴れ舞台になるかもしれない日だったんだよ?そのくらい覚えておかないと」


「違うの。覚えているいないじゃなくて、読めなかったの。だから、知らないなの」


 ミディリシェルは、胸を張ってそう言った。


「読めなかったなら翻訳魔法使えば良かっただろ?」


「文字を読むのは、ここ最近覚えたの。その時はできなかったの」


「は?前から使えてたんじゃねぇのか?」


「ぷぃ」


 ミディリシェルは、ゼノンから、顔を逸らした。


 縫いぐるみを抱きしめて、フォルを見た。


「最近なの。具体的に言うと、ここへ来た後。急にできるようになったの」


「急に?何か無かったの?」


「ふにゅ。()()()()()()()()()


 ミディリシェルは、ゼノンをじっと見つめて、そう答えた。

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