13話 偽の愛姫の正体
「愛姫様、星の姫を連れてきました」
イールグが、エンジェリアを連れてきた。偽の愛姫の相手をしていて、会いたいと思っていた中で来たエンジェリアに、表には出さずに喜んだ。
「ありがとうございます。王達が守ってくださるので、お下がりください」
「失礼します」
エンジェリアを残して、イールグが部屋を出る。
部屋を出る前、エンジェリアに何か言っていたようだが、それは聞き取れなかった。
「ずっと、お話してみたいと思っておりました。エレシェフィール姫」
「やっぱりそういう事。ルーにぃに調べてもらって、おかしいって思っていたけど、あなたの狙いは、愛姫と成り替わるんじゃない。愛姫として愛される事なんかじゃない。そう見せているだけ。そうでしょ?」
「ええ。あなたなら気づいてくれると思っておりました。お話の後愛姫はお返しいたします。星の姫として公開処刑されるのは、愛姫を偽ったわたしです」
エンジェリアがイールグに何を調べさせていたか。フォルは、その詳しい内容を知らない。偽の愛姫が、初めからエンジェリアと成り替わり、その身分を手にしようとしていたわけではないとは思っていなかった。
――どういう事?
――あの子が何を知ったかなんて、分かるわけないでしょ。あの子は、占い術や直勘とかで、見つけられるはずないものばかり見つけられるんだから。
「そんな事させないよ。エレは感謝してるの。あの嘘のメッセージでエレ達に伝えてくれた事。フォル、ゼム、潜入先変えるよ。ここにいるのは、そのおねぇさんが、愛姫の名を使って助けた神獣さん達。それに、フォルとゼムの前でしたのは、本当に偽っている人が、そんな感じだったからそれを誰にも気づかれずに伝えるため」
「ええ。申し訳ありません。こんな回りくどい事ばかりして。ですが、それしかなかったんです。わたしは、昔エレシェフィール姫に救われた孤児です。エレシェフィール姫がわたしにしてくれたように、わたしも救いたかった。こんな方法でしか、救えませんでしたが」
二人の話で、ゼムレーグはまだ理解できていないようだが、フォルはある程度理解した。
だが、疑問も残る。
「どうして、愛姫の、エレの事を知ってるの?あの子は、今の世界でエレシェフィールと名乗る事なんてない」
「わたしが助けていただいたのは、昔の話です。孤児で、実験施設の人に騙されたのを覚えておりませんか?えっと、エレシェフィール姫に仕えていた、リュゼーアです」
「みゅ。エレもその名前が載ってたってルーにぃに聞いて、そうだと思ったの。ここでこんなお話できるのもルーにぃのおかげ。防音魔法はかけておいたって言ってくれた」
イールグが部屋を出る前にエンジェリアに話していたのが、それだったのだろう。
エンジェリアが、フォルの側へ来て、「ぎゅぅ」と言いながら抱きついた。
「ていうか、演技し損じゃない?これって」
「ふみゅ。練習だと思えば良いの。この後、潜入もう一度やらないといけなくなるだろうから。そのための練習だと思えば良いの。でも、寂しいから今度はエレも一緒に行くの。今度はエレとゼロがフォルと一緒に行くの。ゼムはフィル達と一緒に、こっちの事お願いなの」
エンジェリアが、顔を擦り寄せている。数時間だけだが、かなり寂しかったのだろう。
「ちなみにですが、エレシェフィール姫の真似をしようとも考えてはおりましたが、できそうになく断念しました」
エンジェリアが、話を聞かず、フォルの匂いを嗅いでいる。
「……うん。だろうね」
「フォル、エレとゼロが一緒だから、安心するの。エレとゼロは、立派に潜入任務をこなせるの。だから、なでてなでて」
エンジェリアが、要求するため、笑いながらエンジェリアの頭を撫でた。
エンジェリアが、嬉しそうにしているところを見て、抱き寄せた。
「フォル様もだいぶ寂しかったんですね。わたしと話してる間、ずっとエレシェフィール姫の事を考えていたの知ってますから」
「そういえば、君って、人が誰の事を考えているか程度だけど読めるんだっけ。防音魔法がなかったから、どちらにせよああするしかなかったけど、なんかなぁ」
「面白かったの」
「えっ?」
「面白かったの。とっても面白かったの。ゼロと一緒に笑ってたの」
エンジェリアが、そう言ったので、フォルは、自分の服を調べた。
「エレ」
「エレのタイミングがあるからだけなの。ゼロと一緒に笑うためにやってたわけじゃないの。決して、ゼロと一緒に笑ってたわけじゃないから誤解だめなの」
エンジェリアが、真顔でそう言っている。
エンジェリアは、フォルの服に盗聴用の魔法具を仕込んでいた。それで、ずっと話を聞いていたようだ。
恐らく、ここへ来る前に触れ合っていた時に仕掛けたのだろう。あまりに小型で軽量すぎて気づく事ができなかった。
「ほんとさ、なんでこんな悪用ばかりするかなぁ?エレ?」
「ふぇ⁉︎ひ、必殺、ゼムの後ろに隠れるのー!」
エンジェリアが、怒られると気づいて、ゼムレーグの背に隠れた。
「あの、話をしたいのですが。わたしが知っている事を教えたくて、ここまで呼んだのですが」
「ふみゅ。エレはおとなしくしてるの。フォルがおとなしくしてないの」
「どっちもどっちじゃ」
「ゼム、何か言った?」
「余計な事言うのだめなの」
エンジェリアが、フォルの側に戻ってきた。フォルは、エンジェリアを捕まえておく。
「わたしが愛姫を名乗る前、愛姫に見捨てられたと言う神獣達がいたんです。その神獣達は、顔を知らない愛姫を心酔していたので、愛姫を名乗る以外、救い方法が思いつかなかったんです。本当に申し訳ないとは思いましたが」
「ふみゅ。悪用してたわけじゃないなら良いの。それに、愛姫という名にある重さを理解してるから。ありがと。こんな危険を冒してまで、その人達を助けようとしてくれたんだね」
「あの、エレシェフィール姫も一緒に潜入するとおっしゃておりましたが、バレるのではないでしょうか?そんな事になれば、エレシェフィール姫が……」
「大丈夫だよ。エレは、フォルの使用人とかそんな感じで言うから。エレは、変装魔法でも使っておくの。それで、騙せれば騙せるの」
「問題は、エレシェフィールを知る相手がいるかもしれないって事だよね。そうすれば、すぐにバレる。エレシェフィールを知る相手がいない事を祈るしかない」
「ふみゅ。そうなの。だから、反対されたけど、エレが直接見た方が良いと思ったから。フォルと一緒にいられないのが寂しいって言うのもあるんだけど。ゼロも、自分が一緒なら良いって許可してくれたの」
エンジェリアが、そう言って、フォルの手を自分の頭に置いた。
「フォル、お休みなしなのは、悪いって思うの。でも、できれば早くに解決しておきたいの。これ以上悪用なんてされたくないから。ゼロも近くに来ているから、お願いできる?」
「任せて。他でもない愛姫の頼みなんだ。それに、このくらいの事で疲れてなんてないよ……君が来てくれたから、疲れなんて消えたよ」
「あれ?今本音出た後に変えた?」
「なんの事?僕は、エレがいてくれるから、疲れが消えただけだよ?エレ、この後ってどこ行くの?場所も君は調べてあるんじゃない?」
エンジェリアが、地図を出す。読めないのだろう。そのままフォルに渡された。
「……ここなら、転移魔法で行けなくはないけど、怪しまれるから少し手前に転移してその後は歩いていくよ。エレ、それで良い?」
「ふみゅ。それで良いの。リュゼーア、ゼムと協力してこっちの事をやってて。エレ達は潜入するから」
「お気をつけてください」
「みゅ」
フォルとエンジェリアは、部屋を出て、ゼーシェリオンと合流した。
合流後、転移魔法で目的地付近へ転移した。