9話 世界と愛姫
魔力との対話が終わり、エンジェリア達に報告する。エンジェリア達は、魔法機械の設定に取り掛かる。
「ふみゅ。ふにゅふみゅ。できそうなの。うまくいきそうなの。褒めてほしいの」
エンジェリアが、フォルの元へ来て、目を輝かしている。
これは、褒めなければ何もしないという意思表示だろう。
「うん。すごいすごい」
「ふみゅぅ。がんばる。次は何をするの?これで、みんなどこかにいると思うの。探す?エレをなでする?エレをらぶする?エレすきって言う?」
これだけでは満足していないのだろう。フォルは、エンジェリアを抱きしめた。
「フィル、どうする?ここにいる?探し行く?部屋戻る?」
「部屋戻ればそのうちくる気がする。だから、部屋戻るで」
「うん。エレ、一緒に部屋に戻ろうか。抱っこして戻りたい?それとも手を繋いで戻りたい?触れ合えるなら、なんでも良いよ?」
フォルは、そう言ってエンジェリアに笑顔を見せた。エンジェリアが、頬をほんのり赤らめ、フォルをじっと見つめている。
「優しいの。甘やかしてくれるの。あまあまなの。らぶなの」
「魔法具のお礼。それに、甘やかしたい」
「ぷみゃ⁉︎それは大歓迎なの。存分に甘やかすと良いの。エレは、フィルに甘やかされるのだいすきだから」
フォルは、エンジェリアを抱っこして、部屋へ戻った。
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部屋に戻ってしばらく待っていると、創造者が部屋を訪れた。
「このような形で、ここへいる事ができる事を、感謝しております。エレシェフィール姫」
「ぷみゅ?ふみゅにゃん?フォルで隠れるの……フォルに隠れるの?」
いくら原初の樹で会った事があるとはいえ、エンジェリアにとっては、初対面の相手。エンジェリアは、初対面の相手に対して、たまに人見知りを発動する。
「貴方方の時間を奪うつもりはございません。早速本題へ入らせていただきましょう。エレシェフィール姫……は無理そうなので、代わりに、フォーリレアシェルス様。何を知りたいのですか」
「(ぱくぱくぱく)……ふぇ……ぷみゅ……ぴぇ」
エンジェリアが、何か知りたい事があるのだろう。だが、その内容を、聞き取れない。
エンジェリアが、一生懸命口を動かしてはいるが、声は聞こえてこない。至近距離にいるのに聞こえない小声というより、声に出してすらいないのだろう。
「……ゼロ」
「フォルも分かるだろ」
「そうじゃなくて、ぱくぱくエレが可愛い」
「それは分かる」
エンジェリアが、伝わっていないと思っているのか、一生懸命ぱくぱくと口を動かし続けている。
「エレが、自分の事で知っている事があれば教えて欲しいって」
フォルが代わりに伝えると、エンジェリアが、こくこくと頷いている。
「……初めて会ったのは、大雪の日。エレシェフィール姫は、多くの加護により守られてました。それが、特別だと思ったのです。エレシェフィール姫と同日、他の王達を発見しました。そして手分けして育てる事といたしました」
「(ぱくぱく)」
「エレは、どうしてエクシェフィーの血があるのって。それ昨日……覚えてないのか」
「我が妹、先代の愛姫アーティティアルが、エレシェフィール姫を、育てる事になりました。存在を隠して育てようとしておりましたが、エクシェフィー家の者にバレてしまい、妹共々、エレシェフィール姫が攫われ、その時にエクシェフィーの血を入れられたのです」
エンジェリアが、きょとんと首を傾げている。昨晩であれば、この程度の話は理解していたのだが、今のエンジェリアには難しいようだ。
魔法機械の件もあり、頭を使いたくなくなっているのだろう。
「エレは無視した方が良いかも。後で説明するって事で。僕が知りたいのは……エレの何を知ったのか教えて欲しい。この子も、それは気になっていると思うから」
「世界はかつて、愛というものがなかったのです。人は争い続けるだけ。そこで世界は考えました。どうすれば、争いが終わるのかと。世界は、愛姫となれる、争いを好まない姫を見つけました。それがエレシェフィール姫です。世界は、エレシェフィール姫が一緒にいたいと思う相手と一緒にいるように命じました。一緒にいる相手には、世界の加護を与え、愛姫の様子を見て、必要であれば世界を滅ぼすよう命じました」
「……でも、愛姫は愛を理解できない。愛姫は、愛を与えるために選ばれたのだとすれば、どうして本人は愛を理解できないの?」
「それは、愛姫の素質というわけではありません。エレシェフィール姫が、それを理解できないような環境で育ったからでしょう。愛姫は、愛を理解しても良いのです」
エンジェリアが愛を理解できない。それはエンジェリア自身の問題であり、愛姫は関係ない。
つまりは、エンジェリアを守る事さえできれば、エンジェリアは、自由に誰かを愛する事が可能。エンジェリアは、愛を理解してはならないと気にする必要はない。
「……嬉しそうなの。エレとらぶ嬉しい?」
「当然だよ。本物の創造者が言ってるんだ。嘘でもない。エレは、自由に誰かを愛して良いんだ。それが嬉しくないわけないよ」
「エクシェフィーの血をどうにかできなければ、愛を知った時点で、エレシェフィール姫は、外に出るどころか、立つ事すらできなくなるでしょう」
「うん。分かってる。でも、それは昔、僕らがどうにかしてきたんでしょ?なら、できないわけないんだ」
「でも、その前に、エレ達は、神獣さん達をどうにかしないとなの。一応御巫候補なんだから。それをどうにかしない限り、むにゅふにゅするのはむりなの。フォルは、どうにかしてくれるって知ってるけど」
エンジェリアが、尻尾をふりふりと振っている。
――ん?尻尾?またか。相変わらず、感情で、出過ぎてる。
「エレ、尻尾しまって。歩くの邪魔になるでしょ」
「ぷみゃ?……ふみゃ⁉︎ほ、ほんとなの」
気づいてなかったのだろう。エンジェリアが、尻尾を見て驚いている。
「……神獣さん達どうにかしないとだから、早く帰らないとなの。でも、どうやって帰るのかも分からないの。ふみゅ。誰かに聞くの。フォル」
「うん。そうだね。目の前に分かってそうな相手いるから」
エンジェリアは、そんな気はないだろう。何も考えずに言っているのだろう。
フォルは、エンジェリアの頭を撫でる。
「ここから出る方法を教えてくれる?」
「この地図通りに行けば帰れます」
フォルは、創造者から地図を受け取った。
「ありがと。エレ、フュリーナ達と合流して帰ろうか。それとも、これ以上聞きたい事ある?」
「ないの。これ以上は、自分で知るの。今知っても、受け入れられないかもしれないの。だから、ちゃんと自分が受け入れられるようになってから、これ以上を聞く」
「うん。そうだね」
「俺らの意見聞けー」
ゼーシェリオンが、ベッドの上で寝転んで駄々をこねる。ゼムレーグがゼーシェリオンをあやしている。
「ゼロ、ご機嫌斜め。あまあまモードなの……フォル、ゼロは」
「分かってる。でも、それを決めるのは本人なんだ。エレを使って考えないようにしようとしてる間は、しない方が良いとは思うけど」
「……ゼロ、エレはいつでもふみゅしてあげるの。どんなゼロでも、きらいになんてならないの。側にいるの。エレは……エレだけは、絶対に側にいるから」
「……エレらぶ?」
「らぶ」
「……帰る。ぎゅぅする」
ゼーシェリオンが、ベッドから降りた。フォルの隣に来て、地図を見る。
「……覚えた」
「行ける?」
「ああ。地図がちゃんとあれば行ける」
「これ返すよ」
外に持ち出さない方が良いだろう。フォルは、創造者に、地図を返した。
「よろしいのですか?」
「うん。僕とゼロが覚えていれば迷子にはならないよ。どっちかがエレの面倒見てたとしてもね」
「ふにゅ。エレはめんど……それなら、エレはゼロと手を繋いでおくの。それなら迷子ならないの」
「そうだね。その方が良さそう。色々とありがと」
フォル達は、フュリーナ達と合流するため部屋を出た。