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   03   

  


 辺境クリュスタへは、アーヴィン様がお連れになった竜に乗せてもらい、到達することになった。

 高所用の魔石装具をお借りし、着込めるだけ着込めと勧められたので、もっこもこに防寒具を着せられたわたくしは、リエラの手を借りて竜の近くに寄る。


「こいつは賢いから、俺がいなくてもきちんとクリュスタまで飛んでくれる。アーヴィン様の竜の番だから、あっちの指示を受けて、こいつも大人しく言うことを聞くはずだ」

「わたくしとリエラだけで、この方に乗るのですか?」

「ああ。俺は馬車を先導するやつの竜を、制御しなきゃならねえからな」


 心配するなと笑う男は、アーヴィン様の直属の騎士の方だという。


「アーヴィン様が先頭で、そのすぐ後ろを飛ぶ。俺は更に、その後ろから……えっと」

「シャルロッテ・キュアノスですわ」

「ディランだ。……シャルロッテ様のすぐ後ろを、俺が飛ぶから……」


 詳しく説明を受けながら、竜に乗る手はずを整える。

 アーヴィン様ともう一匹の竜とは違い、わたくし達が乗るディラン様の竜には、木枠の籠がついていた。


「この籠の中に入ってもらって、ベルトでしっかり固定する。シャルロッテ様も侍女殿も、細っこくて助かった。2人で乗っても、大丈夫そうだな……俺はこの体だから、ここに来るまで窮屈だったんだ」

「まあ。わたくし達が乗るのに、わざわざ籠をつけてくださったのですね」

「多分、竜に初めて乗るであろう女性を、初っ端から鞍に乗っけて縛り付ける訳にはいかないからな」


 わははと笑って、ディラン様は頭を掻いた。その腕には、鈍色に光るガントレットがはまっている。


「……準備は良いか」


 わたくし達の方のキュアノスへ、指示をしていたアーヴィン様が帰ってきた。それに応じると、首肯が返ってくる。


「竜が地を蹴ったら、魔石装具のスイッチを押してくれ。風魔法が高所でも呼吸を楽にしてくれる」


 ご自分の顎下を示し、押す動作をしてくださる。恐らくボタンはそこにあるのだろう。


「……お二方は?」


 魔石装具を着けずにそれぞれの竜の元へ向かうアーヴィン様とディラン様に、慌てて問う。


「慣れた!」


 振り返ったディラン様が、にかりと破顔した。







 竜の背に乗り、空へ羽ばたいてから少し。最初こそ興奮してはしゃいでいたが、どこまでも続く単調な景色にだいぶ落ち着いてきた。

 高いところを飛んでいると、着込めと言われた理由も分かる。


「……お寒くありませんか、シャルロッテ様」


 ぼーっと行き先の青を見つめていると、リエラが体を寄せてくる。人の温もりに、自然と笑みが漏れた。


「大丈夫よ。リエラがあったかいから、ほっとしたわ」

「空の上って、結構寒いんですね。この魔石装具がなかったら、リエラは息もできずにあっという間に凍え死んでます」

「わたくしも」


 魔石装具に覆われている顔の周辺は、空気が調整されており辛うじて温かい。

 慣れた、と言っていたアーヴィン様もディラン様も、すごいなあと思った。


「それにしても、竜というのは随分と高いところを飛ぶのですね」

「山をびゅんっと越えたわ。雲の上も飛んだり……すごいわね」


 眼下には、普段は見上げている雲が広がっている。やわらかな白は、ふわふわした甘いお菓子のようだ。

 そこを突き抜けた時は、ふわふわとか感じるような余裕はなかったけれど。とにかく薄暗くて肌寒くて、魔石装具があるのに、何故か息が苦しくなった気がした。


「ねえ、リエラ。わたくし、クリュスタに着いたら、アーヴィン様に……きゃっ!?」

「ひゃあっ!」


 わたくし達を運んでいる竜が、急に唸り声をあげて上昇する。慌てて前に視線を向ければ、アーヴィン様の竜も急上昇し、わたくし達の元へ後退してきた。


「……ディラン!」


 アーヴィン様の、鋭い声が走る。


「ネイジュが、異常を感知した。おそらく魔獣だ」

「まじゅう」


 思わず繰り返した単語に、リエラが守るようにぎゅっと抱きしめてくれる。


「私はソルファと、ネイジュを落ち着かせる。ロマニの竜だが……行けるか?」

「任せろ!」


 勢い良く飛び出したディラン様と竜が、ふわりと舞った。同時に、ふわふわの雲から黒い影が飛び出す。

 いぐにす、と背後のリエラが呟いた。


「アーヴィン!」


 ディラン様が、大きな声で呼んだ。それに応えるように、アーヴィン様が宙に魔力を飛ばす。

 キィンと固い音が響き、ディラン様の横に巨大な氷の塊があらわれた。


「イグニス、火の魔獣だ。私の氷も、多少は威力が落ちる。ディランの魔法で補え」

「わかった! 効くか?」

「ああ。胸の核を狙え」


 空気の温度が変わった。チリチリと肌を焼く感覚に、わたくしの鼓動が跳ねる。

 生まれて初めて目の当たりにする危機に、少なからず興奮している自覚があった。


 浮かぶ氷の塊が、ぴかりと光に包まれる。一瞬で消えた中からは、ディラン様の身長よりも長い、氷の槍が出てきた。


「……シャルロッテ嬢」


 竜と共に寄ったアーヴィン様が、わたくしに声をかける。


「ネイジュが急に飛んですまない。怪我はないか?」

「はい。少し驚きましたが、わたくしも、リエラも無事ですわ」



  

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