飢え
テレビの向こうには裸の子供がいた。
その子は飢えでお腹が妊婦さんの様に膨らんでしまっている。
ぼんやりとした目でこちらを見ていた。
この子は何を思っているのだろう?
僕は何となしにそのことが気になった。
カメラが珍しいのだろうか。
『彼女は泣かない。なぜなら泣いたところで誰も助けてくれはしないのだと知っているから』とナレーションの人が語った。
だったら、きっとこの子は助けて欲しいなんて思っていないのかなと思った。
「可哀そうねぇ」
一緒にテレビを見ていた母が感想を漏らす。
僕は母の方を見る。
その同情を少しでも僕に分けてくれていたらいいのにと思った。
母は僕の視線に気づかない。
けれど、この歳まで育ててくれたことを思えば、僕は十分に愛されていると思うべきなのだろうか。
ただ僕が強欲なだけ。
そう思うことにして、僕はまたテレビに視線を戻す。
テレビでは今度はさっきとは違う子供と鷲が写った写真が写っていた。
その写真を撮った写真家は、『何故、その子を助けずに写真を撮り続けたのか?人道的に間違っていないか?』と言うことを責められ自殺したらしいとテレビのナレーションが言っていた。
「自殺なんて、可哀そうに」
その同情を少しでも僕にくれていたら。
けれど、僕は知っている。
その子供も写真家も僕の過去も、今更どうしようもないってことを。
「そうだね」
僕は母に相槌を打ち、テレビをぼんやりとした目で見続ける。
そして、世界って奴はいろいろと大変なんだなと僕は思った。