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1 序 始 戦場

いろいろ変わったのでどう変わったのかを見る感じで。


1


呪魔の足が大きく持ち上がり、日差しを遮った。

伸びた巨大な影に黒斑に汚れた子猿たちが散り散りに逃げていく。

とっさに身を翻した私のそれまでいた場所を焼け焦げた丸太のような足が通過した。

なんの障害もなく地面に突き刺さった蹄が周りを砕き、陥没させ、呪いに塗れた土砂を巻きあげる。


大規模な呪魔の群れが王都へ向かってヴスゥトネス平原を南下中という凶報がもたらされたのが五日前。

そこから、急行した救世人形第一軍が戦端を開いておよそ三日たつ。


私は飛沫を浴びながら、横なぎに剣を振りぬいた。

半ばまで切り裂いた一本角の呪魔の大足から呪いを纏った黒々とした血が私に降り注ぐ。

人類の作り上げた最高度の防御魔法を突き抜ける。

強力無比な呪いが私の体を汚染していく。

染み込んだ呪が見る見るうち体を黒く染め、広がる。

命が消えていく感覚に体が悲鳴を上げる。


人間は呪に近づくだけで腐食して死んだ。建物は上から重いものにでも圧し掛かられたように潰れた。草木は赤黒く変色して枯れ落ちた。


瞬く間に世界が呪いで塗り潰されていく中、呪いに対処するために人類の手で生み出されたのが私たち人造魔導体--救世人形だ。

大本の素体がホムンクルスであるため短い期間で大量生産が可能で、一の呪いを浄化するのに百の人形を使う。

それが強すぎる呪いに対する私たち人形の、犠牲ありきのタクティクス。


(私たちが大量に産み出されるようになった時点で、もう人類にはまともに戦える戦力が残されていなかったという事情もあるんだけどね)


丸太のような足を切断されて倒れてくる巨体に手をつき、私はそこを起点にして飛び上がった。

巨獣の背中へ。

呪いに汚染されきるまでまだ猶予があることを察した私は、巨獣の体躯に登りきると世界最高峰の魔法使いや聖職者たちによって編み出された神聖魔法を編み上げる。

物も人も何一つ傷つけられない、ただ、この世界呪のみを標的とした、世界呪を解呪するためだけに生み出された極限定大魔法。


私は剣を掲げた。

魔法は確かに発動し、私の体の数倍になる聖光が太陽へと吹き上がる。

魔法圧でふらつく体を私は必死に制御する。


巨大呪獣の背中から広い戦場が見えた。


目の端々に広い荒野に散らばっている仲間たちがいる。横なぎに呪魔を薙ぎ払うあの子も私と同じように呪いに汚染され、同様の魔法を発動しているようだった。

皆、連戦に次ぐ連戦でボロボロなのに、よく戦ってくれている。


私は皆の奮戦に笑みを浮かべ、巨大呪獣の体に膨大な聖光を放つ長剣を振り下ろした。

呪魔の体に吸い込まれた剣が呪魔を分断する。

地響きと共に崩れ落ちた巨獣から穢れた血とともにため込んでいた呪いが吹き上がる。


体から解放されていく魔力。全身の皮膚が急速に黒ずんでいく。

呪いが体の芯まで浸透していく。

ここまで呪われてはもう助からないと覚悟を決める。

だが、この戦場で一番の大物は完全解呪した。

これでここでの戦いは私たちが勝ったはずだ。


動かなくなった巨獣の上で剣を振り下ろしたまま立ち尽くす私に、横から子猿のような呪魔が体当たりしてきた。

私はかわすことはおろか抵抗することもできず、地面に倒れ込む。

視界に私に大きな石を振り上げる別の呪魔の姿が見えた。

心は避けなければと思うもの、もう体に力が入らず避けることもかなわない。

呪魔の歪んだ笑顔がやけにかんに障った。


――私は塔で生産された直後からずっと最前線で戦い続けてきた。


――熟成器から出されるや否や、錬金液が乾くか乾かないかほどの短い時間で戦場に放り込まれ、同じ能力を持った大勢の私たちと共に戦場を駆け、大勢の私が死んでいく中で生き残り続けた。


――気づけば人形たちで一番の長生きとなっていて、戦闘知識しかすり込まれていないのに救世人形総軍団長という肩書がつけられ、皆をまとめる役目まで押し付けられることになった。


役割自体は上からくる指示を皆に伝える簡単なものだったが、このころからはじめて皆に意識を向けるようになった気がする。

体調、疲労、感覚、怪我。

どれも戦いには大切なものだから自分だけでなく仲間たちの状態にも気を配るようになっていた。


怪我をして、廃棄され。

病めば、処分され。

欠けては、補充される。


私たちが呪魔との戦いを人類から肩代わりするようになってから情勢はどう変わっていったのだろうか。私たちにはなにも知らされない。


私たちは人類のために必死に戦い、生き抜き、だけどそれは生きたと言えたのか。


……どうでもいいことか。


皆、あとはよろしくね。


プロットもなんも考えず書きはじめたやつ。


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