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2. 関東惣無事令 -1

 天正14年12月4日。上洛から帰国後、徳川家康は本拠地を浜松城から駿府城に移す。

 

 駿府城の先の保有者は武田家だったが、織田・徳川両家による侵攻により滅亡。その後は徳川家が保有し、天正13年から改修のため築城し直されていた。



 この拠点変更に関しては、豊臣家には降伏したものの、その後の開戦に備えてより防衛に適した城に移ったという面がある。


 しかし、12月5日に秀吉は太政大臣に就任し、正式に豊臣政権が成立している。また家康も正三位の官位を貰っており、この時期に秀吉に逆らうのは無理がある。

 そのため、あくまで最悪の展開に備えた保険としての意味合いが強い。



 また、北条・徳川・上杉と揉めていた真田家が、家康の上洛直後に徳川家の傘下に降り、与力大名になっている。ただ、真田が素直に徳川を信頼するようなはずもなく、双方含め色々といざこざが発生している。


 関東の争いには徳川も関係しており、真田という爆弾を抱えたことで関東への関与を強化する必要があった。

 従って、駿府城への拠点変更は元々進めていた、関東への影響力拡大施策の一環としての面が強い。


 そして、駿府城へ移った後の家康の主な仕事は、北条からの嫌味を我慢しつつ豊臣北条間の和平交渉を進めながら、すぐに戦を始めようとする問題児が集まる関東の治安維持を進めることだった。






 駿府城の一室にて、徳川家康と本多正信が対北条の打ち合わせをしていた。



「北条をぶん殴りたい」


「急に何を言い出してるんですか、殿」


「先日、豊臣家が作成した関東惣無事令を北条に送っただろ」


「送りましたね」


「ブチギレて嫌味ったらしい手紙を送ってきた挙げ句、領内での軍備強化を進めてるらしい」


「手紙には何と書いてあったのですか?」


「あれだけ争った豊臣に全面降伏したのか?小牧・長久手では豊臣に勝利したというのに、あの時の気迫はどこへ消えたのか。官位欲しさに尻尾を振るつもりか。武家としての誇りはどうした。当家は豊臣との決戦に備えて準備を始めているぞ」


「煽られまくりですね。まあ、ついこの前まで徳川家も似たようなものでしたけど」


「あの時の家中を思い出して更に腹が立つわ!」




 関東惣無事令。

 

 大まかに言えば、「もう関東で戦を起こすな。仲良くやれ。言うこと聞かないなら討伐する。監視役は徳川家康に任せたので言う事聞け」というものである。

 それに加え、関東の大名は適宜上洛して豊臣家に頭を下げに来いといった指示も出ている。


 これに対して北条がキレた。そして、徳川に流れ弾が来た。



 元々、北条と徳川は対豊臣路線で協調していたが、流石にそんな話をしている場合ではなくなったことで徳川が豊臣に服従。


 その徳川が豊臣の代理人として北条に口を挟み始めたことで、梯子を外された分だけ北条の怒りに油を注いだ形となった。



 徳川からすれば北条の言いたいことは分かるが、関東と豊臣家を取り次ぐ関東奏者として監督責任がある以上、領土拡張を進める北条を放置するわけにもいかない。


 ただ、北条は豊臣と外交をする気がない。譲歩を求めようとするのではなく、交渉そのものを拒否している。

 加えて、北条は徳川傘下の真田と領土問題を起こしている。こういった状況により話がひたすら拗れ続けていた。



「ということは北条は戦をやる気ですか」


「やる気しかない。流石に北条側から攻め込むことはないだろうが、小田原で籠城するくらいはやるだろう」


「籠城と言われても、北条に援軍送れそうな同盟国はいますか?上杉は豊臣に臣従済み。伊達とは仲が良いようですが、規模や位置的にも微妙ですし。他は小粒な大名ばかり」


「いるだろ、........徳川が」


「.........泥舟に巻き込まれたくないですね」


「北条氏直殿には娘の督姫が嫁いでいるし、流石にそう簡単には見捨てられない。ただ、父親の氏政殿が秀吉嫌いで話がまとまらないのが厳しい」



 家康は頭を抱えながら身悶えする。

 座布団を殴って気持ちを落ち着かせようとするが気は休まらない。


 真田相手に負け続けている北条だが、関東全体で見れば勢力を拡大しているため、秀吉の武威の面から説得しても通用しない。


 困ったことに北条も既に240万石に達する領土を獲得していた。既に関東では相手になる者がおらず、最大版図を築き上げている最中だったのが災いとなった。


 調子に乗っている相手に譲歩を求めることの難しさは家康も理解しており、打つ手の無さが苛立ちに拍車をかけていた。




 家康が畳の上でジタバタしている間、北条関係者の一覧を眺めていた正信から質問が出る。


「北条氏規殿はどういった立場なのですか。今川時代からの殿の人質友達で、徳川と北条の窓口を担当してくれてきたでしょう。今回も助けて頂いてはどうですか」


「当主の氏直殿は一応話を聞いてくれるらしいが、大殿である氏政殿がどうにもならないらしい。粘り強く説得すると言っているが、家中の空気的にもすぐに上洛は無理とのことだ。最悪の場合、自分だけでも上洛する覚悟らしい」


「詰んでますね」


「完全に九州と同じ展開だな」


「とりあえず、豊臣の手が空くまで状況が悪化しないことを祈りましょう」


「真田のこともあるしな。あいつらも黙って従うはずがない」


「真田は北条と争ってますけど、大人しくしてくれますかね」


「今戦を起こせば秀吉殿の顔を完全に潰すことになるし、流石に戦を起こしたりはしないだろ...」


「でもあの北条と真田ですよ」


「.........我々にできるのは神仏に祈ることだけだな」


「殿は寺を潰した実績があるので望み薄ですね」



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