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  「貴様があれほどの大群を退けたのか?」


背後に音もなく現れたトビの目の前に立つ男は静かに問いかける。


トビを見るその目は冷たく蔑むような目をしていたと同時にどこか期待の眼差しにも見えた。


人と何ら変わらない容姿に金色の肩まで伸びた長い髪も清潔に整えて服を綺麗に着こなして話し方も人と同じ言葉で話しだした。


そう、左右の頭部から生える魔族の象徴たる禍々しいツノさえなければ……。



「そうだけど、アンタはただの魔族では……ないな」


「ほぅ、中々鋭い観察眼ではないか?」



丁寧でかつ冷静に話しだすその魔族の男はとても不気味で恐怖すらも抱いた。


だが今トビが冷静を保っていられるのは男の顔がイケメンで助かったということだった。


もし顔まで化け物みたいな顔であればチビるところだった。


トビは恐る恐る質問してみると男は不気味な笑みを浮かべて答えてくれた。



「明らかに他の魔族とは違う、別格というべきだ」


「ふっ、別格…か。中々面白いな、人間!」



そう言ってニヤリと笑った瞬間に男の体全体を覆うように漆黒の覇気(オーラ)が一気に溢れ出してトビをさらに威圧する。


その威圧のせいか、トビ自身もアーマーによって顔は隠されているものの手や足は恐怖で震えていた。



「トビ様、急激ニ心拍数ガ上昇シテオリマス。今スグ心ヲ落チ着カセテクダサイ」


「んなことはわかっている……!」



わかってるが自分でも止められないのだ。


今まで感じたことない恐怖に背筋から汗をかいているのが感覚でわかる。


震えている手が収まらなくてこんなにも臆病だった自分が鬱陶しくて腹立たしい。


この男はおそらく、魔王軍の幹部クラスの一人だ。


それなら俺は最初にヴェルサスと戦っているのにこんな恐怖心を抱いたことはなかった。


そうだ、あの時は恐怖心は抱いたことがなかったがなんで抱いてなかったんだ?


あの時はタキア村のみんなが一緒に戦ってくれていたから……。


だけど今回は一人で戦うから、怖いのか?


トビは自分の中に抱いた恐怖心の答えがわかった気がした。



「トビ様、怖イデスカ?」


「ああ、怖い……かもしれない」



モニカから諭されるように問いかけられたトビはそう答えた。



「ソウデスカ。デハ、大丈夫デスネ」


「は? 怖いから大丈夫ってどういうことだよ…」



トビはモニカの言葉に何言ってんだと呆れてたがモニカは続けて話した。



「恐怖トイウノハ警戒シテイル証拠デス。ソレ二貴方様ハ一人デハアリマセン」


「一人じゃ…ないか。そうだな、なんかスッキリしたわ! ありがとな、モニカ」


「イエ、トンデモゴザイマセン」



モニカと会話しているうちに抱いていた恐怖が薄くなっていることに気づいた。


…そうだ。俺には今、モニカという貴重な存在がいる。


それに守りたい人がいるからこんなとこでビビっているようじゃ何にも守れねぇ!


トビは心の中でハルの顔を思い浮かべたあと目の前の魔族の男をまっすぐ見据える。



「どうした? 死ぬ覚悟でもできたのか?」


「逆だな、吹っ切れたんだよ」


「ほう、それは面白い。…では存分と楽しめそうだな、人間!」



魔族はそう言ってトビを見て笑っていた。


その表情は笑っているというよりもまるで遊びでいたぶるための獲物が手に入ったという悍ましい表情だった。


それに感化されたのかトビも両拳を勢いよく突き合わせて炎を焚きつける。



「まあいい。私が行かなくとも使いの者がやってくれるだろう」


「今のどういう意味だ…?」


「そのままの意味だ。今、村に私の部下が潜り込んでいる。村が崩れるのも時間の問題だな」



トビはその言葉を聞いて村のほうに目を向ける。


村の方角から未だ小さいが煙が所々からモクモクと出ている。


…なるほど、こいつは足止めのために来たということか。


トビはこの魔族の男が来た目的が一つだけ納得した。



###



一方、ライラはアルケミア村を襲ってきた魔族の大群を退けていた。



「これで、終わりか…?」



一人で、しかも他勢に無勢だが時間もかかりながらも魔族を退けるのは容易ではない。


だからこそ、体力や精神も削られてしまい、息も上がってしまっている。



「へぇ、すごいね〜。これだけの魔族を一人で倒すなんて、さすが」


「っ!? だ、だれだ?」



突然、後ろから誰かが話しながら近づいてくる気配を感じた。


その者の正体を確かめようと、振り向くと相手の顔が徐々に現れた。


その正体を見てライラは少し混乱して冷静さを失いそうになったのだ。



「…なんで君が、ここにいるんだ? 逃げたはずじゃ」


「あれぇ、びっくりしちゃいました? みこ様」



ニコニコと不敵な笑みを浮かべながら、ライラの驚く顔を楽しんでいるように言う相手はシャルルだった。



「…一体、どういうことだ?」


「ああ、そうでしたね。この姿で話すのもなんなので、私の本当の姿をお見せしますね」



そう言った瞬間、シャルルの身体がみるみるうちに獣人の姿から別の姿へと変わっていった。


シャルルの真の姿、それは魔族だったのだ。

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