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姉想いな妹

——セシティアさんは婚約のことを話し始めた。



「実は、婚約の話なんてなかったのです……」


「あ、そうなんだ。……って、ええっ!?」



セシティアさんの開口一番の言葉にオレは度肝を抜かれたような感じだった。


オレは自分の耳を疑うことしかできなかった。



「…ええと、セシティアさん? 今、なんと?」


「あ、すいません! だから、その、婚約の話は最初からなかったんです!」


「……なかった? 最初から、なかった……?」



オレのその姿はまるでどこか不具合を起こしたロボットが一定の言葉を繰り返しながら故障したような感じだっただろうな。


まさに『青天の霹靂』とはこのことを言うのだろうか。



「本当にごめんなさい! トビさんに大変ご迷惑な嘘をついてしまって深くお詫びします!」



深々と頭を下げて何度も謝るセシティアさんを見てオレはなぜか怒る気力は湧かなかった。


それよりもなぜかホッとしている自分がいたり、なぜかショボンとしている自分がいた。


…これは感情が正常に機能していないのか?



「まあ、いいですよ! 多分オレには無理な話だったんですし! 嘘だったらなおさら……」



そう言いながら笑顔を装ってセシティアさんに許しているよと伝える。


そうしないといつまでも頭を下げてきそうだから……。


だが内心メキメキと心の中で何か割れるような音がしていた。


それでもオレはセシティアさんの前ではそれを隠していたかった。



「本当に、ごめんなさい……」


「それよりもなんでライラさんの婚約者をオレに選んだんだ?」



ずっと疑問に思っていたことをオレはセシティアさんに問いかけてみた。



「それは……」



と、そこまで言いかけてまたセシティアさんは黙ろうとしていた。


オレはため息をついてセシティアさんに言った。



「もう、ここまできたら包み隠さず全部話しちゃいましょうよ! そのほうがスッキリしますよ!」


「そ、そうですね…!」



セシティアさんは意を決して静かに深呼吸すると続きを話し始めた。


「実は婚約相手は誰でも良かったんです!」


「あぁん? なんだそりゃ?」


「ひぃ! ごめんなさい!」



オレはその返答を聞いて少し眉間に皺を寄せながらセシティアさんを睨むと彼女は小動物のように身体をブルブル震わせていた。



「ハハハ! 冗談ですよ! そんなことで怒るわけないじゃないですか?」


「うぅ、本当ですか……?」


「はい。それより話の続きを」


「ああ、そうでしたね。それと実はトビさんは候補に入ってなかったのです」


「え!?」



…さらに衝撃的な事実が判明した!


一体何度驚かせれば気が済むんだ、この子は……。



「候補に入ってなかったのなら、なおさらなんで?」


「ううん……。なんというか安心した未来が見えたような気がしたんです」


「安心した未来?」



その時ふと隣りにいるセシティアさんを見ると心なしか微笑んでるようにみえた。


セシティアさんはそのまま話しを続けてくれた。



「トビさんはユリアーナ様と親しくされていますよね?」


「ああ、確かに…」


「私はユリアーナ様のあんな喜怒哀楽な表情は見たことがありませんでした」


「ああ、確かにそうだったかもしれない……」



実際、オレもユリアーナさんと知り合ってからそんなに時間は経ってないからあまりよくわからないが彼も以前は冷たい目をしていたかな…。



「私はユリアーナ様を遠くから見ることしか出来なかったのですが、あの方の表情はいつも同じ表情をしていました。けど、あなたと出会って少し変わられたのです!」



そう語るセシティアさんがとても生き生きとしているように見えた。


それほどまでにユリアーナさんを慕っていることがオレにまで伝わってくる。



「そんな人が変われたのなら、もしかしたらと思ったんです!」


「そうだったのか…。じゃあ、それでオレを選んだのか?」


「…そう……ですね。まあ、それも無駄になっちゃいましたけど…。姉は最後まで婚約の話に全く興味を示しませんでした…」



自虐的にそう言いながらクスッと微笑む彼女にオレは少し同情する。



「大変でしたからね! トビさんの店を見つけるの! でも根気強く待っていたらこうやって会えましたから私は後悔なんてしていません!」



執念がすごいというか、セシティアさんは話し方や見た目とは裏腹に行動力が結構あるんだな……。


オレは少し感心していた。


なぜオレの店がわかったのかは聞かないでおこう。



「あ! では、私はもう帰りますね! すいません、長々とでは、お休みなさい!」


「ああ、お休み……」



セシティアさんはそう言うと村の宿のほうへと走っていった。


彼女が去ったあとオレは力が抜けるように地面にへたりこんだ。



「…ああ、なんか疲れたなぁ……。婚約、破棄……」



そんな言葉を無意識につぶやいていた。


婚約の話はなくなった。


なくなったのになんでオレの心はポッカリと穴が空いたような感じになってんだ…?


別にいいじゃねぇか! そもそもオレにはハルさんという美少女の男の娘がいるじゃねぇか!


なにを肩を落とす必要がある?


これでハルさん一筋に戻るだけだ!



「あれ…?」



オレは目からなぜか涙が溢れてきたことに気づいた。



「な…なんで、こぼれくるんだよ! お…おか……おかし、だろ……」



必死に溢れてくる涙をなんとか拭おうとしたがそれでもオレの意に反してさらに涙が出てきた。


本当はわかってた。


女の子に片想いで振られる感覚に似ているんだと。



「いや、そんなものよりも……。ずっとオモイな……。婚約破棄って、結構心にずっしりとくるんだな……」




その夜、オレは誰にも知られることなくひっそり泣いていた。



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