とある貴族
ライラはとある過去について語り出した。
ー数年前、とある貴族がいたらしい。
貴族の名は伏せておくがそれなりに有名な一族だったそうだ。
その貴族は優しく皆平等という強く気高い志を持っており、村の民から信頼されていた。
もちろん彼らには財産と名誉もあり、権力も軍事力もあった。
土地は豊かで何不自由のないまさに理想の地でもあった。
だがとある想定外の事で全てを失うことになってしまった。
それはどこからともなく現れた魔族の侵攻によるものだった。
聞くところによると魔族との戦闘では手も足も出なかったらしい。
戦闘のレベルの差と軍勢の数は圧倒的に魔族が有利としか言いようがなかったのだ。
魔法ももちろん使える者もいたがそれでも抑えきれない数でそれはもう絶望するしかなかったのだ。
そして魔族との戦闘で敗れた一族たちは難民となってしまったがライラの両親が貴族で交流があったこともあり、ここアルケミア村の領地で住まわせてもらってるそうだ。
その難民がシャルルやシティーヌを含む獣人たちだった。
「ちょっと待て! その前に国からの応援は来なかったのか?」
オレはその話に疑問に思い、問いかけるとライラは顔を悲痛な表情に歪めながら重苦しく呟いた。
「……無理だったんだ」
「無理だった…?」
その言葉と共に発した声は震えていた。
「その時は王都でも魔族の奇襲に遭っていてとてもじゃないが援軍が来れる状況ではなかった……」
ライラの目や言葉、表情から見れば言わずともしみじみと伝わってくる。
その場にはいなかったオレだがその時の状況を考えるととても目もあてられないものだったのだろう。
オレも魔族との戦闘を交えたのは一回だけだがそれ以上の強さの魔族もいるのだろうか…?
心の中でタキア村でのヴェルサスと戦ったことを思い出していた。
そんな過去を聞いてからシャルルの態度を振り返ると思うところはある。
「…だが今はこうやってみんなで協力しながら笑顔で暮らせているんだ」
「そうだったのか……。というかライラさんは貴族だったのか!?」
「…そう、だけど……」
オレが唐突に聞くとライラはポカンとした表情で答えた。
…あれ? オレ今、変なこと聞いたか?
そんなことを思っているとライラはブッと吹いたあといきなり笑い始めた。
なぜか大笑いしているライラを見てオレは首を傾げるしかなかった。
「ハハハ! いやぁ、すまない。君の質問があまりにも新鮮で……、アッハハハ!」
「…いや、さっぱりわからん」
オレがさらに首を傾げて考え込んでいるとライラは少しずつ笑いを堪えながら話し始めた。
「君はボクをなんだと思っているんだ?」
「いや、てっきりなんちゃって領主かと…」
「アハハハ! なんだよ、なんちゃって領主って! アハハハハ!」
「どう見たって貴族の格好じゃねぇじゃん!」
オレはライラに笑われた恥ずかしさを隠すように少し強い口調で言った。
「まあ、確かにそう思われても仕方ないかな。ボクはあのきちんとした格好がなんか嫌いでね」
ライラの涼しげな表情で言われるとその後になんか言うのは野暮だなと思い、それ以上は突っ込まないことにした。
「いやぁ、トビのおかげで悲しみに暮れるのもバカらしくなってくるな! さぁ、まだまだ飲むぞ!」
「まだ飲むのかよ……」
オレは今夜はゆっくり休めねぇなと覚悟しているとシャルルがライラに近づいてきたことに気づいた。
「巫女様、村の入り口に馬車が……」
「…そうか、わかった」
そのやりとりを見ているとライラはオレのほうを向いて少し席を外すと言ってどこかへ行った。
しばらく酒を飲みながら待っていたが中々戻ってこないのでライラを探しに行くことしたオレは村の入り口のほうへと向かった。
歩いていくとそこにライラの後姿ともう一人の影が見えた。
どうやら誰かと話し込んでいるみたいだ。
オレはそこに段々と近づいていくとライラの声が聞こえてきた。
「だからもういいと言ってるだろ!」
「だけどそれでは……!」
「ボクには関係ない話だ!」
どうも話し方からしてあまりいい雰囲気ではないようだ。
それともう一人の話し相手は女の子のようだ。
あんまり他人の事情には口出ししないほうがいいような気がするがただ一つ確信を得たことがある。
それは……、ライラさんが女性だということだ!
まあ、それはさておきオレは二人の間に入ることにした。
それでさらにヒートアップしたらどうしようかと考えるがそのときはぬらりくらりとかわして去ればいい!
「あの、二人ともそれくらいに……」
「貴様は黙ってろ!」
声をかけた途端にズシリと重くのしかかるライラの言葉の圧と鋭い視線にオレの心は砕けそうだった。
…うぅ、これは、かなりキツイ……。
声をかけたのがオレだとわかるとライラは剣幕な表情からすぐに申し訳なさそうな表情をした。
「すまない……。トビだとは気づかず、つい……」
「…大丈夫、慣れてるから……」
そう言っておかないとオレの心が折れそうな気がしたから。
それに険悪な雰囲気のまま声をかけたオレにも責任はある。
「というか、さっきから誰と話して……、あれ?」
オレはふと話し相手のほうを見るとどこかで見たことがあるような気がした。
先ほどからライラと話している相手の口調や言葉遣いなどどこか聞き覚えがあったような気がしたのだ。
「なんだ、トビ? 知ってるのか?」
ライラはオレが首を傾げながら考えている様子に疑問を感じたようで問いかけてきた。
「トビ……? もしかしてトビさんですか!?」
相手のほうはどうやらオレのことを認識していた。
それと同時にその話し相手の声を聞いた途端オレの脳裏にもはっきりとした顔が浮かんできた。
「…セシティアさん?」
なんとライラの話し相手はいつぞやの男爵令嬢のセシティアさんだった。
さて、ここでオレは一つの疑問がある。
ライラさんとセシティアさんは一体どういう間柄なのだろうか。
「ええと、なぜセシティアさんがここに?」
「知らなかったのか? セシィはボクの妹だよ」
「なるほど! ライラさんの妹か! って、いもうと!?」
オレはそれと同時にある衝撃的な事実を知ったのだ。




