偶然の再会と衝撃的な事実
——偶然の再会、それはふとした瞬間に訪れる。
オレは今その瞬間に出会っていた。
オレが地下のオレ帝国で作業中に感知センサーが反応したので警戒して家の扉を開けると
男女四人組の冒険者パーティーがいた。
剣を持った男、魔法使いの女の子、修道服を着た女の子、そしてそのパーティーには初恋で失恋した思い人、ハルさんがいた。
ハルさんを見た瞬間にそれまで警戒マックスで出ていったのが一瞬で消えた。
「あの、トビさん、ですよね?」
剣を持った爽やかイケメンの男がオレのことをなぜ知っているのか。
「はい、そうですが……」
オレが睨みながらちょっとぶっきらぼうに答える。
「…ああ、よかった。実はお願いがあるんです!」
…え、面倒くさいヤツだったら断ろう…。
「…なんでしょうか?」
「僕らの装備を直していただけませんか?」
…ああ、それなら簡単な作業だけど、作業場を見られると困るしなぁ…。
…まあ、錬成で壁を作って何もないような感じはできるし、いいか…。
…だか、その前に……。
「どうしてオレが装備を直せると…?」
オレがそう聞くと、ハルさんが前に出てきた。
「ボクが言ったんです!お兄さんなら直せると……、ご迷惑でしたか?」
ハルさんはつぶらな瞳を潤ませてオレに聞いてくる。
…その顔は反則だろ…。
「いえ、迷惑ではありませんよ。むしろ嬉しいです」
オレがそう言うとハルさんはパッと明るく笑顔になる。
「ほんと!…よかったぁ」
「それで、どうしてオレがここにいると?」
「あ、それはね、ギルドでお兄さんがここにいると聞いたから……」
うわぁ、めっちゃ可愛い。フラれたけどやっぱり心に残るもんだなぁ……。
アイシャさん、余計なことをと言いたいがここは感謝しとこう。
「そうですか、どうぞこちらへ。作業場があるのでそちらでお待ちください」
「ありがとうございます!」
爽やか男はよほど嬉しかったのか勢いよく頭を下げてきた。
冒険者たちを作業場に案内してからオレは男から装備を受け取り直せるかどうか確認する。
「……これくらいでしたら、そんなに時間もかからないですよ」
「ホントですか!?よっしゃ、ありがとうございます!」
オレがそう言うと男は子どものように喜んでいる。
…はぁ、なんでこんなことやってんだか、オレには魔物を倒さなきゃいけない仕事があるのに…、まあでもハルさんに会えたし、別にいいか…。
「しかし、なんでこんなところに住んでるんですか?」
女の魔法使いがオレに聞いてくる。
オレはふと手を止めてしまった。それを見た冒険者たちはあたふたしだした。
「…あ、すいません!……つい、気になって、その、本当にすいません!」
「…い、いや、いいんですよ」
…ホントは聞かれたくなかったけど…。
「実は、ここに来たのは己を知るためなんです」
「……己を知るため…?」
魔法使いはキョトンとして首を傾げる。
…まあ、嘘なんだけどね!
「はい、ここに来る前、オレは皆さんと違う国で生活をしてました。そこはたくさんの人々で溢れており、魔物なんていない、とても豊かな国でした」
「…そんな平和な国に、いらしたのにどうしてこんなところに?」
爽やか男が不思議そうに聞いてくる。
…まあ、異世界の話だけど、間違いではないよな……。
「だから己を知るため、オレは今まで自分が何者なのか、一体どうして生まれてきたのか、そんなことを毎日考えてきました。オレの人生、ホントにこれでいいのか…?」
我ながらとても恥ずかしいセリフだし、どっかで何回も聞いたことがあるセリフだ。
「そこでオレはいざ自分の能力を高めるため、危険なことは承知の上で命など捨てる覚悟で冒険者になりました。そしてその訓練場としてこの山に家を建て、日々自分との戦いに勤しむ毎日を送っています。ですがオレは後悔などしていません。むしろ感謝してるくらいです!」
オレはキリっとした表情で自分語りをして
自己満足に浸っていた。
四人ともオレを讃えるように拍手をして感激の声を上げていた。
…全部ウソなんだ、ホントはそこにいるハルさんに恋をして、振られて、失恋したからこの山にきて、引きこもりの帝国創りを満喫してるんだ、だからその尊敬の眼差しをするのやめてぇぇぇぇ……。
…ハルさん、お願いだからこっちを見ないで
その純粋な眼差しでオレを見ないで……。
「素晴らしいです……」
「……………へっ?」
オレは耳を疑った。今、なんて言った?
「素晴らしいですよ!トビさん!あなたはなんて素晴らしい人なんですか!」
爽やか男がオレの手をギュッと握りしめて涙を浮かべて言う。
「……そ、そうですか。あ、装備直りましたよ」
「…ありがとうございます!」
爽やか男は目をキラキラさせて喜んだ。
「そう言えば、皆さんもどうして冒険者に?」
オレが聞くと四人とも顔を見合わせて頷いたあとにオレの方を向いた。
「僕たちは村の人たちを守ろうと思って冒険者になりました」
と冒険者らしい理由だった。
自分語りをしたオレをしばきたくなってきた。
「僕たちはみんなエスカルテ村の出身なんです。だからこそ生まれ育った村を僕らの手で守り抜こうって、みんなで話し合ったんです」
「へぇ、それはすごいですね。でも、男一人と女三人では大変ではありませんか?」
オレがそう言うとなぜか四人ともポカンとした表情をしていた。
…あ、やばい。変なこと言ったか…。
そう思ってるとハルさんが申し訳なさそうに手を上げた。
…ああ、これは怒られるパターンだな。
そう覚悟を決めたとき、ハルさんはそっと呟いた。
「…あの、ボク、男だよ?」
「………………………、は?」
オレは思考停止、頭の中がふわふわの状態になった。
……男?……オトコ?…今、ハルさんはなんと言ったんだ?
「…すいません、今なんと?」
「……だから、ボク、男だよ」
「ええええええええええええっっっっ!?」
オレは大声を上げて驚いた。
ハルさんが男、ハルさんがオトコ、ハルさんは男の娘、ということか。
「やっぱり、女の子だと間違われてたんだね……」
ハルさんは顔を赤らめて照れ臭そうに下を俯く。
…えっ、てことは、オレ、男の娘にときめいていたのか………?
衝撃の事実をオレは目の当たりにした。
オレは男の娘のハルさんに一目惚れをして、恋をしたということか?
オレは異世界で全く想像もつかないことになってしまった。