黒い魔物
オレはなぜかシティーヌのお姉さんに物凄い形相で睨まれていた。
別に何も悪いことはしてないんだけどな。
だが、ここで何も言わないわけにはいかない。
オレはなんとか弁明を図り、お姉さんを説得する。
「いや、オレは別に……」
「いや! 近づかないで!」
……ええっ!? …いや、なんで!? オレ、何かしました!?
弁明も虚しく、唐突になぜか嫌われてオレは動揺するしかなかった。
もしかして痴漢冤罪をかけられた男の諸君はこんな気持ちだったのかな…。
「お姉ちゃん! この人は悪い人じゃないよ!」
オレとお姉ちゃんの会話を聞いていたシティーヌが間に割って入ってくれた。
「シティーヌは黙ってて! この男は人族なのよ!」
「ちょっと待ってくれ、少し話を聞いてくれ!」
なんとかして落ち着いてもらうためにオレも再度弁明していく。
「オレは確かに人族だけど別に危害を加えたいわけじゃないし、現に君らには何もしてないじゃないか!」
「……それは、そうですが……」
オレの言い分もなんとか聞いてくれるくらいはしてくれる。
あからさまに敵意剥き出しではなさそうだ。
「そうだろ! だったらむやみに人を悪党呼ばわりするのやめてもらっていいですか!」
そう言うとお姉さんはまだ渋ってる様子だった。
…頑固な人だな。
オレとお姉さんの間には微妙な雰囲気が漂っていた。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん!」
「シティーヌ……」
姉の服を引っ張りながら呼びかけるシティーヌに目を落とすとその目はか弱く幼い少女ならではが放出できるあの潤んだ瞳で姉を見つめている。
「……わかったわよ」
…おっ! 折れた! さすがシティーヌ!
シティーヌの必殺の泣き落としで頑固なお姉ちゃんが折れてくれた。
どうやら頑固者のお姉ちゃんでも妹の涙には弱いみたいだな。
「その、疑ってごめんなさい……」
お姉ちゃんは改まって頭を下げてくれた。
意外とわかってくれれば素直な方なのかと思い、可愛く見えてしまう。
「お姉ちゃん、ごめんなさいできた! えらいえらい!」
シティーヌは自分に目線を合わせてくれてるお姉ちゃんの頭を撫でながら笑顔で言っている。
なんとも姉妹仲睦まじい光景で心が癒される……。
「そうだ、今からシティーヌに村を……」
ブー! ブー! ブー! ブー! ブー!
静寂で平和な癒しの時間を掻き消すように腕輪の警報音が森全体に鳴り響いた。
「何、さっきの音?」
「なんか耳に痛い音だったね……」
シティーヌと姉は不思議そうな顔をしていたが、その一方でトビの顔は険しくなっており、先ほどのあたふたした頼りない表情から一変していた。
……腕輪の光の色は赤、警報音は五回、低くずっしり重い音、……魔物!?
「逃げろ! 早くしろ!」
「えっ…?」
突然のトビの罵声にも近い声色で言われて二人とも戸惑い混乱していた。
二人はトビの聞き迫ったその表情で恐怖で怯え、足がすくみ動けなくなっていた。
「早くしろ! 逃げるんだ!」
二人を抱き抱えるように立ち上がらせて手を握り走り出す。
すると三人が走り出したタイミングを合わせたように地面から魔物が這い出てくる。
「きゃあ!?」
その魔物はとてつもなく黒い鱗が覆われた大きいトカゲ、サラマンダーが現れた。
突然の魔物の出現で二人はさらに恐怖心で顔が引き攣り涙目になりながら走る。
「なんでこんなところに魔物がいるのよ!?」
「喚く前に走れ! 食われたいか!」
緊急事態ということもあり、つい口調が無意識に強くなってしまう。
…くそっ、このままじゃやられるのは時間の問題だな。
…ていうかいつまでついてくるんだよ!
後ろを振り返れば空腹に飢えたサラマンダーが口から胃液をダラダラと下品に滴らせている。
さすがにサラマンダーの餌になるのは勘弁したいのでオレはどこかでこの二人を安全なところに逃して装備しないとそう思っているとシティーヌが突然大きな声で叫んだ。
「お姉ちゃん、村に着いちゃうよ!」
「えっ!? そんな!?」
…二人の村がこの先にあるのか! …もうウダウダしてる暇はねぇな!
オレは二人の背中を押し出して立ち止まりサラマンダーの方を振り返る。
「ちょっと、何してるの!」
「早く逃げろ! ここでこいつを倒す!」
「何言ってるの、早く……」
「さっさと行け! 死にたいのか!」
トビの凄む言い方に彼女は怯んでしまう。
彼女は後ろ髪を引かれる思いはあるが自分ではどうにもできないことを悟りシティーヌを連れて逃げる。
「さてと……」
オレは二人が逃げていくのを見届けたらサラマンダーの方に向き、腕輪に指示をする。
サラマンダーはオレが身を犠牲にして餌になろうとしてると思ってるのか舌なめずりをしている。
「かかってこい……」
サラマンダーは獣のように吠えるとオレを喰らおうと襲いかかってくる。
だが、魔物に負いそれと食われるオレではない。
森の奥の方から空気を高速で風を切る音が聞こえてくる。
目の前にはサラマンダーが大きな口を開けてこちらへ迫ってくる。
そして瞬きをする間もなくサラマンダーはトビを食らった。
しかしサラマンダーはある違和感を覚える。
食らったはずの獲物が自分の口の中に入った感覚がない。下を見るとトビの姿はない、サラマンダーはキョロキョロと辺りを見回すがやはりいない。
するとサラマンダーの頭上にいきなり痛く重たい何とかがのしかかる。
頭から押しつぶされるように殴られて地面とサンドイッチになり、長い舌を出しながらヘンテコな顔になっている。
その頭上から攻撃してきたのはゴールドアーマーを装着したトビだった。
サラマンダーに食われる直前にゴールドアーマーに装着して空中へと飛んでいたようだ。
突如現れたサラマンダーに対抗する黄金の鎧。
空中で浮遊してサラマンダーを見下ろすとこちらに威嚇するといきなり口から火を噴いてきた。
こちらも同じく火炎放射器で応戦すると同じ炎がぶつかり空気中爆発を起こした。
大気中に煙が舞い上がり、お互いに睨み合うような感じになっていた。
「これで存分に戦える。餌になるのは嫌だからな……」
そう言うと両拳を突き合わせると雷が現れる————




