モテ期、きた
——ガルムラ街にて。
オレはアイシャさんの二時間の説教タイムを乗り越えて疲弊しきっていた。
「ああ、疲れた……。まさか、あんなに怒っていたとは…」
オレは自分の店に向かう途中でぼやいていた。
あれから二時間ずっと正座で聞かされていたから足が痺れて最後には立てなくなっていた。
メッセージを無視したことや王都に行くことについては言及されなかったが問題は武器屋を開く時になぜ声をかけなかったのかという
まるで子供みたいな理由だった。
「……ああ、二度といきたくねぇ」
若干疲れ気味で店に着いて扉を開ける。
「やあ、トビ! お疲れさま!」
扉をあけたのと同時にエプロン姿のユリアーナさんが笑顔で迎えてくれた。
…ああ、癒される……。
白く長い綺麗な髪をサラッと揺らしながらオレの元へと駆け寄ってくる。
「大丈夫か? なんか顔色悪いけど?」
ユリアーナは二時の説教タイムに少し疲れたオレを心配して顔を近づけてくる。
「…ああ、大丈夫大丈夫!」
顔の距離が近すぎてオレは慌てて距離をとる。
「ほんとうに…?」
「本当に大丈夫だから…」
…ああ、びっくりした。あんな綺麗な顔を近づけられたらこっちの心臓がもたねぇ…。
オレは一旦深呼吸してから店内の奥へと向かうと今度はハルさんが声をかけてきた。
「あ、トビくん! おかえり! どうだった、武器の製造は?」
ハルさんは装備の手入れをしていた。
「ああ、もう全然余裕ですよ! 武器を造るのは得意分野ですから!」
オレはドヤ顔で胸を張って答える。
「うふ! そうだったね!」
…ああ、今日も可愛い……!
オレは相変わらず、ハルさんの魅力に癒されていた。
「あんまり二人の世界に入らないでもらえますか?」
一瞬、二人の空間に入りそうになったがユリアーナに少し妬みがこもった感じで言われて現実世界へと戻ってくる。
「もう、ユリアーナさんのいじわる……」
ハルさんはからかわれたことが恥ずかしかったのか顔を赤らめてモジモジしていた。
なっ!? か、か、可愛いすぎる!?
この時、ユリアーナとトビはハルの可愛すぎる仕草にキュンとしていた。
そんな緩いやりとりもしながらオレたち三人は楽しくやっていた。
オレは店の地下でちょっとしたアーマーの整備をしていた。
アーマーは現状、何の問題はないが改良すべきだろうか。
改良した部分はいくつかある。
腕輪の装着音指示とアーマーに剣を仕込んだぐらいだった。
「よし、こんなもんかな……」
「何してるんだ?」
ユリアーナが地下に入ってくる。
「ああ、ちょっと、ね……」
「ああ、これが黄金の鎧か……」
ユリアーナは間近で見るのは初めてだから興味深々で物珍しそうに眺める。
「こんなものを造れるなんてほんとうにすごいな、君は……」
「そうか、結構普通だと思ったけど……」
「これを普通だと言うなんて少しは自分をしっかり評価するのも悪くないぞ…」
ユリアーナはアーマーに助けられた恩があるからか愛おしそうに眺める。
オレはそう言われて少し照れ臭くなった。
「ああ、そりゃどうも……」
「そうだ! 何かお礼をしたいから魔法石に私の魔力を注ごうか?」
「え!? いいの?」
唐突にそんなことを言い出したのでオレは驚いてしまった。
いや、むしろありがたいと思っていた。
…そういえばユリアーナさんは精霊の生まれ変わりと言っていたから、一体どんな能力をもらえるのか楽しみで仕方ない…!
こんな機会はないのですぐに魔法石にユリアーナの魔力を注いでもらった。
「これでいいのか……?」
「ああ、これでハルさん一人に任せなくて済む! ありがとな!」
魔力を注いでもらってる間特に何も起こらなかったけど、まあ大丈夫だろ……。
ひと仕事終えた気分でいると店の扉を開けて誰かが入ってくる。
「あ、誰か来たみたいだな…。私が行こう」
「あ、じゃあ、よろしく」
ユリアーナが地下から上がって店へと出ていく。
「……どうしてここに?」
ユリアーナの知り合いが来たようだ。
オレも少し片付けてから店の方に上がっていくと店に来ていたのは一人の女の子だった。
ユリアーナとその女の子は対面したように立っているがその雰囲気は悪そうに見えるのはなぜだろう。
緑がかった髪に黄色い瞳、やや小柄で表情が弱々しく見えてしまう。だが、結構可愛い……、この一言に尽きる。
「何かあったのか?」
ユリアーナに何かあったのか尋ねると少し重々しく口を開いた。
「ああ、彼女はセルフォード男爵の娘、セシティア・セルフォードだ。彼女も魔法学校の生徒だ」
…へぇ、男爵令嬢か。…珍しい子が来るもんだな……。
「それでその男爵令嬢さんがどのようなご用件で?」
「あ、あの……」
そう尋ねるとセシティアは少し言いにくそうな表情をしていた。
彼女は蚊の鳴くような声で喋り始め、オレは
耳を傾ける。
…言うべきかどうか迷っている感じだな…。
「セシティア、ちゃんと申してみろ。この男はしっかりと聞いてくれるから」
「は、はい! 実は、その、わ、私と婚約をしてくれませんか!」
彼女は力強くハッキリと言った。
「あ、はい。いいです———今、なんて?」
オレは耳を疑った。彼女の言葉を疑った。
婚約…? 婚約って、あの婚約?
隣りにいるユリアーナを見ると驚きの表情がハッキリとわかる。
それになぜか眉間にシワをよせて怒りにも近い顔が伺える。
…それはともかく、
モテ期、来たあああああ!!!!!




